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米国連邦教育長官諮問委員会報告書『リーダーシップが試されるとき−高等教育の将来像を描く−』(仮訳)

 高等教育の将来に関する連邦教育長官諮問委員会かっこThe Secretary of Education's Commission on the Future of Higher Education)は,2006年9月19日,最終答申となる報告書『リーダーシップが試されるとき:高等教育の将来像を描く』かっこA Test of Leadership-Charting the Future of U.S. Higher Education)を公表した。以下は,同報告書の「要旨」の部分の翻訳(仮訳)である。
(訳文中,太字や斜体字は原文に沿って表記してある。また,必要と思われる箇所にはかっこに英語表記を付した)

要旨

高等教育の価値

 知的資本がますます価値を高めている時代において,中等後教育は,個人と国の双方にとってかつてないほど重要なものとなった。この新しい知識主導型経済の中で最も成長著しい職種の90パーセント近くが何らかの中等後教育レベルの教育を受けていることを求めている。すでに,米国の労働者のうちハイスクールの修了証までしか取得していない者の給与の中央値かっこmedian)は,学士号を取得している者に比べて37パーセント低い額となっている。大学は新しい世代の米国民が社会移動を可能とするための主たる経路であり続けなければならない。さらに,国全体からすると,将来の経済成長は,高等教育における優秀さ,革新そして指導力にかかっている。しかし,学位が持たらす経済的な恩恵も,学生が適切な技能を獲得しなければ縮小することになる。

アクセス

 本委員会は,米国における高等教育へのアクセスが,明らかに限定されていることを認識した。これは,不十分な大学教育への準備や,大学に関する情報の欠如,経済上の障壁が相互に絡み合った結果である。ハイスクールにおける大学準備教育の水準の低さは,ハイスクールと大学の間の整合性の弱さから引き起こされ,しばしば大学が求めるところのものとハイスクールが生み出すものとの間の「期待のずれかっこexpectations gap)」を生じている。ハイスクール修了者のうち大学に進学した者の比率は,最近数十年の間に実質的に増大したが,大学卒業者の比率を同様のペースで増大することには失敗した。ハイスクールにおける準備不足は,容認しがたい数の学生が費用のかかる治療教育の授業かっこremedial classes)をとらなければならないことを意味する。さらに,低所得層と富裕層の間には,在学率及び卒業率において解決が困難な格差が根強く残っている。同様の格差は,米国内で増大している人種的,民族的なマイノリティの大学在学率−もっと顕著に表れているのは大学卒業率−にも生じている。例えば,白人の場合,25〜29歳の年齢層の約3分の1は学士号を取得しているが,同一年齢層における学士号取得者の比率は,黒人の場合18パーセント,ラテン系の場合は10パーセントである。

  そこで,本委員会は,高等教育機関,初等中等教育システム及び州の政策立案者が協力して,ハイスクールから大学への間断のない一貫した進路を確立するための方法を示すことで,大学への進学と成功を劇的に拡大することを提案する。まず,州のハイスクール修了基準かっこK-12 graduation standard)を大学や企業の期待に添うように調整しなければならないし,州政府は,教育上恵まれない条件の下にある児童・生徒の大学進学準備と継続的な在学を支援するために,高等教育機関が初等中等学校と積極的かつ協力的に活動するようなインセンティブを提供しなければならない。ハイスクールにおける進学準備は緊急課題であるが,入学を認められた学生と大学自身も,共に学問上の成功に責任をとらなければならない。また,学生が入手可能な大学に関する情報の提供を改善すること−かつ,経済的障壁を除去することも必要であるが,この点については次の学費負担かっこaffordability)の項目で扱う−もまた,アクセスを改善するために重要である。

経費と学費負担

 本委員会は,ほとんど変わりなく増大し続けている大学の学費に危機感を抱いている。学費の上昇は過去20年間においてインフレ率を上回り,学費負担(affordability)に対する学生やその家族,政策立案者の懸念を高めた。あまりにも多くの学生が高騰する学費のために大学での勉強をあきらめたり,学業を継続するための負債を憂慮しなければならなくなっている。授業料の引き上げ分は直接学生の負担となっているが,学費負担の問題は高等教育の経費負担を担う人々,とりわけ連邦税と州税を支払う納税者にとっても重要な政策上の問題である。各機関の経費が上昇しても,近年は,州が各機関に交付する公財政は学生1人当たりで見ると減少している。また,学費負担に対する一般の懸念は高等教育への信頼の低下につながるかもしれない。学費負担の問題は,機関運営の効率性や生産性の向上に向けた意欲的な取組を各大学がとるようにするためのインセンティブを提供する財政システムによって直接的な影響を受けるものと,本委員会は考える。

  学費負担の問題を解決するために,本委員会は米国の中等後教育における経費削減と生産性向上に焦点を当てたプログラムを提案する。高等教育機関は,新たな業績評価指標かっこperformance benchmark)の開発を通じて運営経費の管理を改善するとともに,転学生に対する障壁を取り除くことで1人当たりの経費を削減しなければならない。また,連邦及び州の政策立案者は,経費削減を可能とする技術の普及を支援するとともに,ハイスクールにおける大学の科目履修を奨励し,さらに各大学における規則制定の負担を軽減するための努力を行うことで,自らの役割を果たさなければならない。

奨学金

 本委員会は,我が国の奨学金制度が混乱するほど複雑で,非効率的で,重複があり,しばしば本当に必要としている学生に対する直接の援助となっていないことを認識した。連邦の奨学金事業は少なくとも20種類に分かれ,中等後教育機関で学んでいる個人に対する奨学金や税制上の優遇措置を提供している。しかしながら,典型的な家庭にとって,連邦奨学金無償申請制度かっこFree Application for Federal Student Aid: FAFSA)は,連邦税の還付手続きに比べると冗長で複雑である。さらに,現行の制度はハイスクール最終学年の春まで待たなければ,大学初年度の奨学金に関する確実な情報が提供されず,このことは学生の家庭にとって,大学に進学するか否かの決定を困難にしている。満たされない経済的ニーズは,最も援助が必要な低所得家庭出身学生にとってますます大きな問題となっている。

  本委員会は,現行の混乱した奨学金プログラム及び関連法令を,学生のニーズと国の優先順位に即したシステムに置き換えることを提案する。この取組には,学生の必要度に応じた奨学金の大幅増大と,現行の連邦奨学金制度の根本的な再編が必要となるであろう。本委員会の提言は,整理統合したプログラム,合理的な援助プロセス,そして連邦奨学金無償申請制度の簡便な申請方法への変更を求めるものである。

学習

 諸外国が急速にその高等教育制度を改善させる一方で,米国の大学における学生の学習の質が不十分で,場合によっては,低下しているという証拠から,我々は困惑させられる状況に置かれている。近年の調査研究の多くは,卒業率や学位取得にかかるまでの期間,学習の成果,更には基本的な識字能力にいたるまで,すべての分野において中等後教育機関の不十分さを明らかにしている。例えば,最新の全米成人識字調査かっこNational Assessment of Adult Literacy)によると,大学卒業者のうち散文の理解に関する能力が熟達レベルにある者の比率は過去10年間で40パーセントから31パーセントに低下した。こうした不足は現実世界に結果となって現れる。雇用者は,自分たちで雇った新卒者の多くが,今日の職場において求められる批判的思考や,書類作成,問題解決能力などを身につけておらず,働くための準備ができていないと,繰り返し報告している。さらに,産業界や政府の指導的立場にある人々も,労働者が人生のすべての段階において,学問的あるいは実践的技能を継続的に更新することを,緊急の事項として繰り返し要請している。しかし,連邦や州の政策も,中等後教育機関における実践も,必ずしも,こうした事態を緩和してこなかった。それは,生涯学習に対する財政的及びその他の総合的な支援を失敗してきたからであり,異なる種類の機関間の移動を容易にする柔軟な単位互換制度を創り出すことに失敗してきたことによる。

  本委員会の見解では,教育の質における不足を是正し,革新を促すには,次に要約されている,また本報告の後半で詳細に論じているアカウンタビリティのメカニズムの一部であって,相互に関連する一連のステップが必要である。さらに,本委員会は,中等後教育機関に対して,学生の学習を改善するための新しい教育理論やカリキュラム,テクノロジーを導入するための取組を早急に実施することを要請する。

透明性とアカウンタビリティ

 本委員会は,奨学金から卒業率に至るまで米国の大学の重要な側面に関する明確で,アクセス可能な情報が明らかに不足しているということを認識した。データ・システムが限定的で,十分なものでないため,政策立案者にとっては,大学教育を修了した学生の伸びに関する信頼できる情報を得ることも困難な状況がある。こうした有用なデータやアカウンタビリティの欠落は,政策立案者や一般市民にとって情報に基づく決定の妨げとなり,高等教育にとっても公的目的への貢献を広く示すことを困難にしている。

  本委員会はアカウンタビリティを改善することこそ,我々の提案する他のすべての改革への取組を成功させるための要になると考える。大学は,経費や学費,学生に対する教育の成果について,より透明性を確保しなければならない。そして,学生やその家族と,こうした情報を積極的に共有することが必要である。学生の達成度は,各機関の成功と密接に関連しているものであり,評価を受ける際の基準線を考慮した「付加価値」重視の方法で測定されるべきである。そして,こうした情報は学生にとって入手可能な状態とし,消費者や政策立案者には全体が認識できるような形式で,個々の大学の有効性を評価する分かり易い方法により公開されなければならない。

革新

 最後に,本委員会は我が国の労働力のニーズに対応し,グローバル市場における競争に勝っていくために必要な中等後教育機関の機能を妨げる,革新へのリスクに対する投資に関して障壁があることを認識した。米国のあまりに多くの大学が,新しい教授方法や教育内容の提供方法に関する試行から増大する生涯学習の需要への対応に至るまで,企業家的に振る舞うべき機会に関心を示してこなかった。大学の立場からすると,連邦や州の政策立案者も,革新への支援に高い優先順位を与えることに失敗してきた。アクレディテーションも同様に,新しいアプローチの創造を,連邦や州の規則に則って,阻止する場合がある。

  本委員会は,米国の大学が,継続的な革新と質の向上を目指す文化を受け入れることを提言する。このため,各機関に対して,新しい教育理論や学習活動を改善するためのカリキュラムやテクノロジーを,特に理数分野において開発することを強く求める。同時に,国民及び我が国が知識の大変革の最前線に立ち続けることを可能とする生涯学習に向けた国家戦略の開発を提言する。


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