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資料3

学士課程教育に関する主な答申の経緯
(平成3年以降)

★ 大学審議会答申「大学教育の改善について」(平成3年2月)

 大学設置基準の大綱化・簡素化等
   各大学で,多様で特色あるカリキュラム設計が可能となるよう,授業科目,卒業要件,教員組織等に関する大学設置基準の規定を弾力化する。
 
  開設授業科目の科目区分(一般教育,専門教育,外国語,保健体育)を廃止
科目区分別の最低修得単位数を廃止し,卒業に必要な総単位数のみ規定
必要専任教員数に係る科目区分を廃止。教員の専兼比率の制限を廃止
単位の計算方法の合理化
学士を学位に位置付けるとともに,学士の種類を廃止
   大綱化に伴い、学会等が学部教育ハンドブック等を提供することが有益
 大学の自己点検・評価システムの導入
   各大学が,自らの責任において教育研究の不断の改善を図るよう促すため,自己点検・評価システムを導入
 生涯学習等に対応した履修形態の柔軟化
 
  科目登録制・コ−ス登録制の導入
昼夜開講制の制度化
大学以外の教育施設等における学習成果の単位認定
編入学定員の設定

   学校教育法,大学設置基準等を改正(平成3年7月施行)

★ 大学審議会答申「高等教育の一層の改善について」(平成9年12月)

  1大学の理念・目標の明確化,2教養教育の重要性の再確認,3学習効果を高める工夫,4教育活動の評価の在り方など,高等教育の質の一層の充実を図るための方策についてまとめるとともに,専門学校卒業者の大学編入学,科目等履修生の既修得単位の在学期間への通算,校地面積基準の緩和などの制度改正についても提言。
 高等教育全体の中での,各大学の理念・目標の明確化
 教養教育の重要性の再確認
 学習効果を高める工夫
 
 授業時間中の教育だけでなく,準備学習・復習についての指示
 評価を厳格に行うなど,成績評価に対する一層責任のある姿勢
 教育活動の評価の在り方
 
 評価項目例:週当たり授業時数,休講の状況,成績評価の結果,サークルの顧問等の経歴など
 専門学校卒業者の大学への編入学,学士の学位授与の基礎資格の付与
 校地面積基準の考え方

   大学設置基準等を改正(平成10年3月施行)
 学校教育法を改正(平成10年10月及び11年4月施行)

★ 大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」(平成10年10月)

 大学改革の4つの基本理念を示すとともに,これに沿った具体的な改革方策を提言。
1 課題探求能力の育成 −教育研究の質の向上−
 
 学部教育の再構築(教養教育、専門教育における基礎・基本の重視)
 責任ある授業運営と厳格な成績評価
 
 成績評価の適正化
 履修科目登録の上限設定
 教育内容や方法について教員の研修を実施
2 教育研究システムの柔構造化 −大学の自律性の確保−
 
 多様な学習需要に対応する柔軟化・弾力化
 
 4年未満で卒業できる例外措置の導入
 秋季(9月)入学や単位互換等の拡大
3 責任ある意思決定と実行 −組織運営体制の整備−
 
 責任ある運営体制の確立
 大学情報の積極的な提供(教育研究に関する情報提供の制度化など)
4 多元的な評価システムの確立 −大学の個性化と教育研究の不断の改善−
 
 自己点検・評価の実施と結果公表の義務化、学外者による検証の努力義務化
 第三者評価システムの導入等

   学校教育法施行規則を改正(平成11年3月施行)
 大学設置基準を改正(平成13年3月及び9月施行)
 学校教育法,国立学校設置法等を改正(平成12年4月施行)

★ 中央教育審議会答申「新しい時代における教養教育の在り方について」(平成14年2月)

 大学の学部では、教養教育と専門基礎教育を中心。統合された知の基盤を培うことを目指した教養教育の再構築が必要
1  カリキュラム改革や指導方法の改善(「感銘と感動を与え知的好奇心を喚起する授業」)
 
 教養教育の理念の明確な提示
 授業内容・方法の改善(学際的テーマ、実験・実習、「グレートブックス」の読破など)
 きめ細かな指導の推進(導入教育、科目履修ガイダンス、チューター制など)
2  大学や教員の積極的な取組みを促す仕組みの整備
 
 「教養教育重点大学」への重点的支援
 授業内容・指導方法改善を研究する教員への支援
 複数の大学の共同による教育プロジェクトへの支援
3  教養教育の責任ある実施体制の確立
 
 全学的な教養教育の実施・運営にあたるセンターの強化
 教養教育中心大学への改組転換の促進
4  社会・異文化との交流の促進
 
 社会貢献活動やボランティア活動のカリキュラム化、長期インターンシップの奨励、留学や海外派遣等の機会の充実
 休学等の柔軟化、「寄り道」を積極的に評価

★ 中央教育審議会「我が国の高等教育の将来像」(平成17年1月)

 高等教育機関の個性・特色の明確化
 
 各大学は自らの選択により緩やかに機能分化(「総合的教養教育」を含む7つの機能類型)
 高等教育の質の保証
 
 学協会等の協力を得た分野別評価の積極的導入
 
 分野別のコア・カリキュラムづくりと有機的に結びつけ
 高等教育機関の在り方
 
 教育の充実のため、学位を与える「課程」中心の考え方へ再整理
 
学士課程教育は教養教育と専門分野の基礎・基本を重視。「21世紀型市民」の育成・充実を共通目標としつつ、様々な個性・特色に分化(総合的教養教育型、専門教育完成型など)
 早急に取り組むべき重点施策(「12の提言」)
 
 入学者選抜・教育課程の改善、「出口管理」の強化
 大学等の設置認可や認証評価等における審査内容や視点の明確化
 
 教養教育の実施方針の明示など
 教養教育や専門教育等の総合的な充実
など

注) 答申の関係部分は別紙参照。



「我が国の高等教育の将来像(答申)」における学士課程教育に関する提言事項

第1章 新時代の高等教育と社会

3  高等教育と社会との双方向の関係:高等教育の危機は社会の危機
 
 学術研究の高度化,学習需要の多様化,社会の価値観の変化,国際化・情報化の進展等の中で高等教育が今後ともその役割を十分に果たすためには,各高等教育機関が競争的環境の中でそれぞれの個性・特色を明確にし,全体として多様な発展を遂げていくことが必要である。
 しかし,高等教育が近年の社会の変化に真に対応できているのか,また,十分に高い質を保っているのかといった点については,大いに問題があると考えられる。各高等教育機関の個性・特色の相対化,各機関ごとの人材養成目的の曖昧化,教育機能軽視の傾向,度重なる規制改革の中での「大学とは何か」という概念の希薄化,他の先進諸国に比べて必ずしも十分とは言えない高等教育の経済的基盤など,むしろ,我が国の高等教育は危機に瀕していると言っても過言ではない。
 このような現状を打破するため,大学における教養教育や大学院の充実,短期高等教育の多様化,国際化への積極的対応など,我が国の高等教育を時代の牽引車として社会の負託に十分にこたえるものへと変革していかなければならない。

第2章 新時代における高等教育の全体像

3  高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化
 
(1) 各高等教育機関の個性・特色の明確化
 
 近年,教育内容の改善や充実を図って様々な改革が続いている。この結果,多様化が進む中で大学とは何かといった本質や,高等教育機関間の個性・特色の違いが不明確になってきているとの指摘がある。ユニバーサル段階の高等教育にあっては,各学校種ごとの個性・特色を一層明確にしなければならない。
 大学・短期大学・高等専門学校・専門学校が,各学校種ごとに,それぞれの位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに,各学校種においては,個々の学校が個性・特色を明確化することが重要である。
 また,各機関が個性・特色の明確化を図り,全体として一層の多様性を確保すると同時に,学習者の立場に立って相互の接続や連携を改善することにより,言わば単線型でなく複線型の,誰もがアクセスしやすく柔軟な構造の高等教育システムを構築していくことが重要である。
 さらに,高等教育機関相互の連携協力による各機能の補完や充実強化も,必ずしも設置形態の枠組みにはとらわれずに促進されるものと考えられる。
 例えば,地域の国公私立大学間の連携によるコンソーシアム(共同事業体)方式での単位互換制度の充実や,学問分野を超えた融合領域形成のための大学院間の連携等が考えられる。

(2) 大学の機能別分化
 
 高等教育機関のうち,大学は,全体として
 
1  世界的研究・教育拠点
2  高度専門職業人養成
3  幅広い職業人養成
4  総合的教養教育
5  特定の専門的分野(芸術,体育等)の教育・研究
6  地域の生涯学習機会の拠点
7  社会貢献機能(地域貢献,産学官連携,国際交流等)
等の各種の機能を併有する。各々の大学は,自らの選択に基づき,これらの機能のすべてではなく一部分のみを保有するのが通例であり,複数の機能を併有する場合も比重の置き方は異なるし,時宜に応じて可変的でもある。その比重の置き方がすなわち各大学の個性・特色の表れとなる。各大学は,固定的な「種別化」ではなく,保有する幾つかの機能の間の比重の置き方の違い(イコール大学の選択に基づく個性・特色の表れ)に基づいて,緩やかに機能別に分化していくものと考えられる。
 例えば,12の機能に特化して大学院の博士課程や専門職学位課程に重点を置く大学もあれば,4の機能に特化してリベラル・アーツ・カレッジ型を目指す大学もある。こうした大学全体としての多様性の中で,個々の大学が限られた資源を集中的・効果的に投入することにより,各大学の個性・特色の明確化が図られるべきである。
 さらに,我が国の高等教育はユニバーサル段階を迎えつつあることから,特に346の機能に重点を置く大学にあっては,例えば,充実したリメディアル(補習)教育の実施や,就職や他大学の学士・修士・専門職学位課程等への円滑な進学・編入学を特色とすることも考えられる。
 このように,18歳人口が約120万人規模で推移する時期にあって,各大学は教育・研究組織としての経営戦略を明確化していく必要性がある。このとき,
 
各大学は,「機能別分化」を念頭に,他大学とは異なる個性・特色の明確化を目指すこと。
国や地方公共団体等は,各大学が重点を置く機能を自主的に選択できるように配慮しながら,財政面を含む幅広い支援を行うこと。
等の点に特に注意しなければならない。
 高等教育の中核を担う大学に関しては,教育・研究・社会貢献という使命・役割を踏まえて,それぞれに応じて具体的にどのような機能に重点を置き,個性・特色の明確化を図っていくか,各大学ごとの自律的な選択に基づく機能別の分化が必要となっている。そうした面からも,質の保証がますます重要な課題となってきている(本章4参照)。

(3) 学習機会全体の中での高等教育の位置付けと各高等教育機関の個性・特色
 
(ア) 高等教育と初等中等教育との接続
 高等教育は,国際的な標準での質の保証が重要な課題となっていることからも,一定の水準を確保することが強く要請される。特に,産業界をはじめ実社会の人材需要は「独創性」「即戦力」「基礎学力」等高度化・多様化の一途をたどっており,人生や職業に関する選択の機会が年齢的に高くなる傾向の中で,高等教育を受けることによる付加価値の程度がますます注目され,高等教育段階での教育機能の重要性が指摘されている。
 高等教育は,初等中等教育を基礎として成り立つものであると同時に,初等中等教育の在り方に大きな影響を及ぼすものである。また,両者の接点である大学入学者選抜を取り巻く環境も,急速な少子化の進行等を背景として大きく変化し,私立の4年制大学のうち約3割,短期大学では約4割が定員割れを起こしている。中には,入学者選抜が,本章4(1)で述べる「高等教育の質」の一環としての学生の質に関する選抜機能を十分に果たし得なくなってきている例も見られる。また,進学率の上昇に伴う高等教育の大衆化や高等学校段階までの履修内容の変化等によって,入学者について履修歴の多様化が一層進み,このことが学生の知識・能力の低下や多様化を招いているのではないかといった指摘もある。このような状況をも踏まえて,高等教育の質の確保・向上等に努める必要が出てきている。
 このような状況を踏まえ,高等教育と初等中等教育との接続に留意することは,今後ますます重要である。その際,入学者選抜の問題だけでなく,教育内容・方法等を含め,全体の接続を考えていくことが必要であり,初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて一貫した考え方で改革を進めていくという視点が重要である。
 初等中等教育との関連では,高等教育が初等中等教育の学校教員の養成機能を担っているという点も極めて重要である。教員養成を担当する大学教員の確保や資質向上を含め,より良い教員養成の在り方について,今後とも検討していく必要がある。
 今後の高等教育においては,初等中等教育を基礎として,「主体的に変化に対応し,自ら将来の課題を探求し,その課題に対して幅広い視野から柔軟かつ総合的な判断を下すことのできる力」(イコール課題探求能力)の育成が重視されよう。例えば,後述のように,学士課程教育では教養教育及び専門分野の基礎・基本を重視し専門的素養のある人材として活躍できる基礎的能力等を培うこと,修士・博士・専門職学位課程では専門性の一層の向上を目指した教育を行うことを基本として考えることが重要となろう。
 どのような学生を受け入れて,どのような教育を行い,どのような人材として社会に送り出すかは,その高等教育機関の個性・特色の根幹をなすものである。各機関は,入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし,入学志願者や社会に対して明示するとともに,選抜方法の多様化や評価尺度の多元化の観点を踏まえ,実際の選抜方法や出題内容等に適切に反映していく必要がある。また,大学は国内外の環境の変化や激しい競争にさらされることから,このような努力を通じて,次の世代を担う者に対し,各人が学んでおくべき内容を示すという機能を果たすことも期待される。
 入学者受入方針に加えて,教育の実施や卒業認定・学位授与に関する基本的な方針(カリキュラム・ポリシーやディプロマ・ポリシー)についても,各高等教育機関が(必要に応じて分野ごとに)明確にすることで,教育課程の改善やいわゆる「出口管理」の強化を図っていくことが求められる。

4  高等教育の質の保証
 
(1) 保証されるべき「高等教育の質」
 
 高等教育の質の保証を考える上では,教員個々人の教育・研究能力の向上や事務職員・技術職員等を含めた管理運営や教育・研究支援の充実を図ることも極めて重要である。評価とファカルティ・ディベロップメント(FD)やスタッフ・ディベロップメント(SD)等の自主的な取組との連携方策等も今後の重要な課題である。

(2) 設置認可の重要性と的確な運用
 
(イ) 設置認可の的確な運用
 設置認可制度の位置付けを明確化するに当たっては,審査の内容や視点等について,さらに具体化を図る必要がある。例えば,大学教員の質を審査することは極めて重要である。社会の需要に的確に対応した,大学に求められる学問的水準の教育・研究活動を担う個々の大学教員の資質及び教員組織全体の在り方が,「大学とは何か」という根本的な問題意識(第3章1(1)(ア)参照)との関連で十分に点検・確認される必要がある。実効性ある審査のためには,「専任教員」や「実務家教員」の意義や必要とされる資質・能力等について,さらに具体化・明確化する努力が必要である。また,大学としてふさわしい教育目的やそれを達成するための教育課程,またそれらと資格取得・技能習得との関係,大学としてふさわしい教育・研究環境,他の学校種との違い等について十分に審査することも重要である。
 現行の大学設置基準等の規定は定性的・抽象的なものが多く,設置審査の具体的な判断指針としては必ずしも有効に機能しにくい面がある。今後は,設置基準の性格を設置後の評価活動とも連携させたものとしてとらえ直していくとともに,時代の変化に常に対応した基準となるよう不断の見直しを行っていく必要がある。

(3) 認証評価制度の導入と充実
 
(ア) 機関別,専門職大学院評価及び分野別評価
 事後評価に関しては,社会的要請を踏まえれば,機関別評価と専門職大学院評価のみでなく分野別評価についても積極的に採り入れられることが期待される。その際,分野の特性に応じて学協会等関係団体の参画・協力を得ることが考えられる。また,教育に関する分野別評価に関連して,他の参考となるべき特色ある取組を促進する方策を講ずることも必要である。

(イ) 評価の質の向上
 高等教育行政の機能・役割の変化に際しては,多元的な評価機関が形成されることが不可欠の前提となる。機関別や専門職大学院の評価に加えて分野別評価が,分野の特性に応じて学協会等関係団体の協力を得ながら発展することが期待される。各種評価機関の形成のための国の支援も必要である。

第3章 新時代における高等教育機関の在り方

1  各高等教育機関の教育・研究の質の向上に関する考え方
 
(1) 大学
 
(ア) 大学の自律性と公共性
 大学とは,学術の中心として深く真理を探求し,専門の学芸を教授研究することを本質とするものであり,その活動を十全に保障するため,伝統的に一定の自主性・自律性が承認されていることが基本的な特質である。また,このような大学における教育の課程の修了に係る知識・能力の証明として授与されるものが学位である。
 社会が発展していくためには,その基盤として,新しい知識を創造するとともに高度に活用する高い専門性を持った人材を育成することが不可欠である。人類の長い経験と叡智の中で,これを最も良く担う社会的な存在として確立されてきたものが大学にほかならない。大学は,社会と関連性を保ちつつも一定の距離を置いた自主的・自律的な存在として,教育と学術研究を通じて社会全体の共通基盤の形成に寄与してきたのである。
 今後の知識基盤社会において,我が国が伝統的な文化を継承しつつ国際的な競争力を持って持続的に発展するためには,知的創造を担い社会全体の共通基盤を形成するという大学の公共的役割が極めて重要であり,大学は,その設置形態のいかんを問わず,大学としての社会的責任を深く自覚することが必要である。
 これからの知識基盤社会において求められる人材は,大学のみならず高等専門学校,専門学校,さらには企業内教育等の社会教育においても育成することが期待される。しかし,こうした多様な機関による人材育成は,社会全体の共通基盤の形成という大学の役割を土台としてこそ最も効果的に行われるものであり,社会にとっての大学の重要性を一層高めるものと考えられる。この意味でも,大学においては特に「出口管理」の強化が重要である。

(イ) 学位と課程
 国際的通用性のある大学教育または大学院教育の課程の修了に係る知識・能力の証明として,学術の中心として自律的に高度の教育・研究を行う大学が授与するという学位の本質は,国際的に共通理解となっている。
 このため,学位に関する検討を行うに当たっては,学位が国際的通用性のある大学教育等の修了者の能力証明として発展してきた経緯を踏まえ,課程を修了したことを表す適切な名称の在り方,他の学位との相互関係等を踏まえて審議していく必要がある。例えば,博士の学位は独立した研究者としての基礎的な能力証明を意味するものとして授与されるべきとの考え方もある。
 現在,大学は学部・学科や研究科といった組織に着目した整理がなされている。今後は,教育の充実の観点から,学部・大学院を通じて,学士・修士・博士・専門職学位といった学位を与える課程(プログラム)中心の考え方に再整理していく必要があると考えられる。

(エ) 学士課程
《学士課程の多様性》
 社会が複雑かつ急激な変化を遂げる中で,各大学には,幅広い視野から物事をとらえ,高い倫理性に裏打ちされた的確な判断を下すことができる人材の育成が一層強く期待されている。各大学には,大学における「教養教育」や「専門教育」等の在り方を総合的に見直して再構築することにより,現状よりさらに充実した学士課程教育を展開することが強く求められる。
 学士課程段階での教育には「教養教育」や「専門基礎教育」等の役割が期待される一方で,職業教育志向もかなり強い。したがって,今後の学士課程教育は,「21世紀型市民」の育成・充実を共通の目標として念頭に置きつつ,教育の具体的な方法論としては,様々な個性・特色を持つものに分化していくものと考えられる。例えば,学士課程段階では,教養教育と専門基礎教育を中心として主専攻・副専攻の組合せを基本としつつ,専門教育は修士・博士課程や専門職学位課程の段階で完成させるもの(言わば「総合的教養教育型」)や,学問分野の特性に応じて学士課程段階で専門教育を完成させるもの(言わば「専門教育完成型」)等,多様で質の高い教育を展開することが期待される。
 大学(学士課程段階)への進学率の上昇や高等学校教育の多様化等に伴い,入学者の能力・適性や志向も多様化してきていること,また,伝統的学生のみならず社会人学生や外国人留学生が増加していること等を踏まえ,学士課程・短期大学の課程等の大学教育は,全体として一層の多様性を確保し,誰もがアクセスしやすい高等教育システムを構築することが求められている。
《教養教育》
 新たに構築されるべき「教養教育」は,学生に,国際化や科学技術の進展等社会の激しい変化に対応し得る統合された知の基盤を与えるものでなければならない。各大学は,理系・文系,人文・社会・自然といった,かつての一般教育のような従来型の縦割りの学問分野による知識伝達型の教育や単なる入門教育ではなく,専門分野の枠を超えて共通に求められる知識や思考法等の知的な技法の獲得や,人間としての在り方や生き方に関する深い洞察,現実を正しく理解する力の涵養に努めることが期待される。
 このような観点から,教養教育に携わる教員には高い力量が求められる。加えて,教員は教育のプロとしての自覚を持ち,絶えず授業内容や教育方法の改善に努める必要がある。入門段階の学生にも高度な知識を分かりやすく興味深い形で提供したり,学問を追究する姿勢や生き方を語ったりするなど,学生の学ぶ意欲や目的意識を刺激することも求められる。
《専門教育》
 職業的素養にかかわる専門教育については,専門職大学院制度の発足を契機として,学士課程段階を中心に完成させるものと修士課程・専門職学位課程段階を中心に完成させるものを,学問分野の特性や各種職業資格との関連に応じて具体的に仕分けして考えていく必要がある。
《カリキュラム,単位,年限》
 学士課程は,基本的役割として,学生の人格形成機能や生涯にわたる学習の基礎を培う機能を担っており,内容の充実した教養教育や専門教育を行うことが不可欠である。そこで,学士課程教育の充実のため,分野ごとにコア・カリキュラムが作成されることが望ましい。また,このコア・カリキュラムの実施状況は,機関別・分野別の大学評価と有機的に結び付けられることが期待される。
 単位の考え方について,国は,基準上と実態上の違い,単位制度の実質化(単位制度の趣旨に沿った十分な学習量の確保)や学修時間の考え方と修業年限の問題等を改めて整理した上で,課程中心の制度設計をする必要がある。
 学士課程教育の修業年限については,国際的通用性の確保や単位制度の実質化等に十分留意しつつ,検討していく必要がある。従前どおり学士課程を4年かけて卒業する経路のほか,修士・博士・専門職学位課程との関係では,学習経路が多様化するものと考えられる。この場合,特に第2章3(2)で12の機能を重視する大学が学士課程教育を総合的教養教育型にする場合においては,学士課程3年修了による大学院進学を積極的に活用することが考えられる。
《就職活動》
 企業採用に向けた就職活動は,大学と産業界の連携の下,その早期化・長期化による学士課程教育への実質的な支障のないよう十分な配慮が必要である。さらに,修了・卒業直後の1年間での様々な活動体験や短期在外経験等を重視することも期待される。

第5章 「高等教育の将来像」に向けて取り組むべき施策

2  将来像に向けて具体的に取り組むべき施策
 
(1) 早急に取り組むべき重点施策(「12の提言」)
2 高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化についての関連施策
(入学者選抜・教育課程の改善,「出口管理」の強化)
 
 大学・短期大学への進学率が約50パーセントに達し,高等専門学校や専門学校を加えた進学率が約75パーセントに達している状況を踏まえ,各高等教育機関の個性・特色の明確化を通じた機能別分化を促進すべきである。特に,各機関ごとのアドミッション・ポリシー(入学者選抜の改善),カリキュラム・ポリシー(教育課程の改善),ディプロマ・ポリシー(「出口管理」の強化)の明確化を支援する必要がある。
3 高等教育の質の保証についての関連施策
(大学等の設置認可や認証評価等における審査内容や視点の明確化)
 
 事前・事後の評価の適切な役割分担と協調による質の保証に関し,大学等の設置認可や認証評価等における審査の内容や視点の明確化を図る必要がある。
 (例えば,学位授与機関たる大学にふさわしい教員組織,学問分野に応じた十分な学問的経歴等を有する教員(研究者教員)の配置,「専任教員」の教育・研究や管理運営上の責任,「実務家教員」の実績評価方法,教養教育の実施方針の明示,設置後の学校法人の経営状況など)
4 各高等教育機関の在り方についての関連施策
(教養教育や専門教育等の総合的な充実)
 
 教養教育や専門教育等の在り方の総合的な見直しを通じて,「21世紀型市民」の育成を目指し,多様で質の高い学士課程教育を実現する。このため,充実した教養教育の実施や分野ごとのコア・カリキュラムの策定等を支援する必要がある。

(2) 中期的に取り組むべき重要施策
2 高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化についての関連施策
 
 学習者の多様なニーズに対応した教育サービスの提供を支援するため,履修形態の弾力化を一層進める必要がある。
 社会人の学習意識の高まり等に対応して,学位以外の履修証明の方法の普及や社会的な定着を促進する必要がある。
 通学制・通信制の区分の在り方を含め,新時代のキャンパス像(教育・研究環境)の在り方について幅広く検討する必要がある。
 設置形態の枠組みを超えた高等教育機関間の連携協力による教育・研究・社会貢献機能の充実・強化を一層促進する必要がある。
 研究活動の中核を担う人材,教育活動の中核を担う人材,経営を支える人材それぞれの資質向上とそれにふさわしい処遇の確保を図る必要がある。
 高等教育機関の運営に関して,法務・財務,労務管理,病院経営,入学者選抜,学生生活支援,産学官連携・技術移転等の分野で活躍する専門的人材(教員や事務職員等の別を問わない。)の内部育成や外部登用を活用して,幅広く厚みのある人材層の形成を促進する必要がある。
4 各高等教育機関の在り方についての関連施策
 
 大学の選択に基づく機能別分化を促進する中で,各種の職能団体との連携など分野の特性に応じた設計の下での専門職大学院の創設・拡充等を図る必要がある。
 各学校種ごとの個性・特色の違いを明確にし,国際的通用性の確保に留意しつつ,相互の連携・接続の円滑化を図る必要がある。



大学教育改革の視点(PDF:63KB)


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