教育課程部会事務局だより 第5号 平成15年12月24日

目次

  • 特集 「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」中央教育審議会答申の趣旨
     ~新学習指導要領のねらいの再確認とよりよい実現を目指して~(5)
  • 連載 答申に関連する各種調査結果や資料等の解説(第5回)
     ~国際比較調査の結果から見た我が国の学校の授業時間の状況について~

特集

 「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」中央教育審議会答申の趣旨~新学習指導要領のねらいの再確認とよりよい実現を目指して~(5)

 前回は中教審答申の第2章の2に当たる「教育課程を適切に実施するために必要な指導時間の確保」について、授業時数の「標準」の趣旨や各学校における年間総授業時数の現状と課題を中心にご説明しました。
 今回は前回に引き続き「教育課程を適切に実施するために必要な指導時間の確保」に関し、「必要な指導時間を確保するための工夫」についてご説明したいと思います。

 前回述べたように、教育課程を適切に実施するために必要な時間を確保するためには、学校での時間の使い方に工夫を行う必要が出てくる場合もあるでしょう。既に学校では、様々な教育課程編成上の取組がなされています。例えば、週時程・時間割や短縮授業の見直し、35週以上にわたる授業の計画など、また、長期休業期間中の家庭訪問や面談等、さらには授業日として学校行事を実施する例もあるようです。ここに挙げたのはいくつかの例に過ぎませんが、このような取組例を参考としながら、各学校がそれぞれの実態に応じて、創意工夫を生かした教育課程編成の取組を行うことが望まれます。
 また、長期休業日の増減や二学期制等の学期区分などに関する工夫を取り入れる教育委員会が増えてきています。長期休業日の設定を一定の範囲内で学校にゆだねる取組みもあるようです。これらの工夫については、そもそも公立学校の長期休業日や学期は学校を設置する教育委員会が決めるものであり、全国一律に実施するような性格のものではありません。したがって、それぞれの教育委員会がこれらの工夫について教育的な観点からのメリットとデメリットとをよく検討して、導入するか否かを決定することが必要です。

 以上のような指導時間の確保のための取組について「学校が創意工夫を生かし」とか、「教育委員会がよく検討して」と、それぞれが取り組むものであることを強調しているのには理由があります。それは、児童、生徒の特性、学校と地域の結びつきや保護者との関わりの程度、気候も含めた自然条件など、学校や地域を取り巻く条件はそれぞれ異なっているということです。ですから、一律に定められた取組を行うという考え方では、真に効果のある取組とはならないものと考えられます。各学校や教育委員会ががそれぞれの取組を生み出していくことが必要なのです。この考え方は、今回の中教審答申を貫く考え方の一つである「特色ある教育」の実現ということとも大きく関連しています。

連載

 答申に関連する各種調査結果や資料等の解説(第5回)
 ~国際比較調査の結果から見た我が国の学校の授業時間の状況について~

 前回は、必要な指導時間の確保の状況等について、文部科学省が実施した「教育課程編成・実施状況調査」の内容を中心に解説しました。
 第5回は、我が国の学校における授業時間が諸外国と比較してどのような状況にあるのかについて解説したいと思います。

 文部科学省では、国立教育政策研究所を中心とする研究グループ(代表;渡辺良国立教育政策研究所国際研究・協力部長)に委託して「学校の授業時間に関する国際比較調査」を実施しました。
 この調査結果の概要については、今回の答申を審議する過程においても、総則等作業部会において資料として提出されています。

  • 学校の授業時間に関する国際比較調査結果概要

 この調査では、平成14年7月~11月にかけて、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、フィンランド、ハンガリー、中国、韓国、香港、台湾、シンガポール、インド、オーストラリアの15カ国・地域を対象に実施し、質問紙と実地調査により行いました。(アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、オーストラリアは、一部の州・地方のデータが対象)
 具体的には、授業時間について、我が国の学習指導要領に相当する教育課程の基準上で、教科に関連した学習(道徳、宗教を含む。特別活動、課外活動などを除く。)を対象に比較しました。
 その結果、我が国は、必ずしも学校の授業時間が多いグループではなく、少ないグループに入っています。ただし、この授業時間の結果と、OECDが実施した生徒の学習到達度調査(PISA)2000年調査結果との関係で見ると、我が国と同様にPISA調査で上位であったフィンランドや韓国も授業時間数が少ないグループに入っていました。したがって、これらの結果からは、授業時間数の多い少ないということと、生徒の学力との間には単純な関連性は認められません。
 また、前述のPISA調査の質問紙調査で「授業中、騒がしく乱れている」、「授業開始から5分以上、むだに過ぎている」などの項目により、国語の授業の雰囲気について調べた結果では、日本や韓国の生徒が授業の雰囲気について良いと感じる頻度が平均より高い水準にあり、我が国の学校の授業が規律面でも国際的に見て良好な状態であることがわかっています。そして、授業の雰囲気が良いと感じている生徒ほど、読解力の得点が高い傾向が見られます。

 一方、国際教育到達度評価学会(IEA)では、7カ国の中学校2年生の数学の授業をビデオを基に分析し、国際比較しています。その調査結果によれば、我が国の数学の授業は、数学的アイデアが高まるような出題の割合が高い、新しい内容の導入に重点を置いている、授業のまとめを教師が行い学習したことのポイントを説明している、授業の目標を教師が生徒に明示している、一斉・個・小グループという形態を適宜変えるなどの特徴があり、質的な工夫がなされていると報告されています。

  • 我が国の数学授業の特徴 【TIMSS1999数学授業ビデオ研究結果報告より】

 このことから、日本や韓国など授業時間が少なく、かつ高い学習成果をあげている国では、教員やカリキュラムなど様々な要因により、効果的・効率的な授業が行われていると考えられます。
 そして、これらの国際比較調査からも、今回の答申で言われているように、各学校で必要な指導時間を確保する際には、形式的に「標準」時数を確保するのではなく、教育課程、指導方法や指導体制など、授業の質的な改善を行いつつ、指導に必要な時間を実質的に確保するという視点が重要であることがわかります。

編集後記

  • この「たより」も年内はこれで最後となります。また、来年以降もよろしくお願いします。
  • 諸外国の初等中等教育改革の詳しい状況については、平成14年度の文部科学白書でも取り上げられています。
  • 教育課程部会事務局だより」のバックナンバーは文部科学省のHPで見ることができます。ご覧下さい。
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文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室企画係

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(文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室企画係)

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