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1.2030年の社会と子供たちの未来

 本「論点整理」は、2030年の社会と、そして更にその先の豊かな未来を築くために、教育課程を通じて初等中等教育が果たすべき役割を示すことを意図している。

 グローバル化は我々の社会に多様性をもたらし、また、急速な情報化や技術革新は人間生活を質的にも変化させつつある。こうした社会的変化の影響が、身近な生活も含め社会のあらゆる領域に及んでいる中で、教育の在り方も新たな事態に直面していることは明らかである。

 そこで本「論点整理」は、学校を、変化する社会の中に位置付け、教育課程全体を体系化することによって、学校段階間、教科等間の相互連携を促し、さらに初等中等教育の総体的な姿を描くことを目指すものである。

(1)新しい時代と社会に開かれた教育課程

  • 将来の変化を予測することが困難な時代(※1)を前に、子供たちには、現在と未来に向けて、自らの人生をどのように拓(ひら)いていくことが求められているのか。また、自らの生涯を生き抜く力を培っていくことが問われる中、新しい時代を生きる子供たちに、学校教育は何を準備しなければならないのか。

  • ※1  2030年には、少子高齢化が更に進行し、65歳以上の割合は総人口の3割に達する一方、生産年齢人口は総人口の約58%にまで減少すると見込まれている(補足資料7・8ページ参照)。同年には、世界のGDPに占める日本の割合は、現在の5.8%から3.4%にまで低下するとの予測もあり、日本の国際的な存在感の低下も懸念されている(補足資料9ページ参照)。
     また、グローバル化や情報化が進展する社会の中では、多様な主体が速いスピードで相互に影響し合い、一つの出来事が広範囲かつ複雑に伝播し、先を見通すことがますます難しくなってきている。子供たちが将来就くことになる職業の在り方についても、技術革新等の影響により大きく変化することになると予測されている。子供たちの65%は将来、今は存在していない職業に就く(キャシー・デビッドソン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授))との予測や、今後10年~20年程度で、半数近くの仕事が自動化される可能性が高い(マイケル・オズボーン氏(オックスフォード大学准教授))などの予測がある。また、2045年には人工知能が人類を越える「シンギュラリティ」に到達するという指摘もある。このような中で、グローバル化、情報化、技術革新等といった変化は、どのようなキャリアを選択するかにかかわらず、全ての子供たちの生き方に影響するものであるという認識に立った検討が必要である。

新たな学校文化の形成

  • 我が国の近代学校制度は、明治期に公布された学制に始まり、およそ70年を経て、昭和22年には現代学校制度の根幹を定める学校教育法が制定された(※2)。今また、それから更に70年が経(た)とうとしている。この140年間、我が国の教育は大きな成果を上げ、蓄積を積み上げてきた。この節目の時期に、これまでの蓄積を踏まえ評価しつつ、新しい時代にふさわしい学校の在り方を求め、新たな学校文化を形成していく必要がある。
  • 予測できない未来に対応するためには、社会の変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要である(※3)。
  • そのためには、教育を通じて、解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解ける力を育むだけでは不十分である。これからの子供たちには、社会の加速度的な変化の中でも、社会的・職業的に自立した人間として、伝統や文化に立脚し、高い志と意欲を持って、蓄積された知識を礎としながら、膨大な情報から何が重要かを主体的に判断し、自ら問いを立ててその解決を目指し、他者と協働(※4)しながら新たな価値を生み出していくことが求められる。学校の場においては、子供たち一人一人の可能性を伸ばし、新しい時代に求められる資質・能力を確実に育成していくことや、そのために求められる学校の在り方を不断に探究する文化を形成していくことが、より一層重要になる。

  • ※2 我が国の学校教育制度の変遷については、補足資料10・11ページ参照。
  • ※3 アラン・ケイ氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校准教授)は、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」と述べている。
  • ※4 本「論点整理」においては、従来「共同」又は「協同」を用いている固有の語を除き、よりよい地域社会づくり等の目的のために力を合わせる際などに使われる「協働」の語を用いることとしている。

「学校」の意義

  • 子供たちに必要な資質・能力を育成していくため、今後の学校教育にはどのような役割が期待されるのだろうか。それを考えるためには、社会的変化を視野に入れつつ、教育の姿を総体的に描きながら、「学校」の意義についても今一度捉え直していく必要がある。
  • 学校とは、社会への準備段階であると同時に、学校そのものが、子供たちや教職員、保護者、地域の人々などから構成される一つの社会でもある。子供たちは、学校も含めた社会の中で、生まれ育った環境に関わらず、また、障害の有無に関わらず、様々な人と関わりながら学び、その学びを通じて、自分の存在が認められることや、自分の活動によって何かを変えたり、社会をよりよくしたりできることなどの実感を持つことができる。
  • そうした実感は、子供たちにとって、人間一人一人の活動が身近な地域や社会生活に影響を与えるという認識につながり、これを積み重ねることにより、地球規模の問題にも関わり、持続可能な社会づくりを担っていこうとする意欲を持つようになることが期待できる。学校はこのようにして、社会的意識や積極性を持った子供たちを育成する場なのである。
  • 子供たちが、身近な地域を含めた社会とのつながりの中で学び、自らの人生や社会をよりよく変えていくことができるという実感を持つことは、貧困などの目の前にある生活上の困難を乗り越え、貧困が貧困を生むというような負の連鎖を断ち切り未来に向けて進む希望と力を与えることにつながるものである。
  • このように考えると、子供たちに、新しい時代を切り拓(ひら)いていくために必要な資質・能力を育むためには、学校が社会や世界と接点を持ちつつ、多様な人々とつながりを保ちながら学ぶことのできる、開かれた環境となることが不可欠である。
  • こうした社会とのつながりの中で学校教育を展開していくことは、我が国が社会的な課題を乗り越え、未来を切り拓(ひら)いていくための大きな原動力ともなる。未曾有(みぞう)の大災害となった東日本大震災における困難を克服する中でも、子供たちが現実の課題と向き合いながら学び、国内外の多様な人々と協力し、被災地や日本の未来を考えていく姿が、復興に向けての大きな希望となった。人口減少下での様々な地域課題の解決に向けても、社会に開かれた学校での学びが、子供たち自身の生き方や地域貢献につながっていくとともに、地域が総がかりで子供の成長を応援し、そこで生まれる絆(きずな)を地域活性化の基盤としていくという好循環をもたらすことになる(※5)。ユネスコが提唱する持続可能な開発のための教育(ESD)(※6)も、身近な課題について自分ができることを考え行動していくという学びが、地球規模の課題の解決の手掛かりとなるという理念に基づくものである。
  • このように、学校は、今を生きる子供たちにとって、現実の社会との関わりの中で、毎日の生活を築き上げていく場であるとともに、未来の社会に向けた準備段階としての場でもある。日々の豊かな生活を通して、未来の創造を目指す。そのための学校の在り方を探究し、新しい学校生活の姿と、求められる教育や授業の姿を描き、教科等の在り方を探究していく。この俯瞰(ふかん)的かつ総合的な視点を大切にしたいと考えている。

  • ※5 こうした具体的な取組例については、補足資料167ページ参照。
  • ※6 補足資料168ページ参照。

社会に開かれた教育課程

  • そのためには、子供たちの学校生活の核となる教育課程について、その役割を捉え直していくことが必要である。学校が社会や地域とのつながりを意識する中で、社会の中の学校であるためには、教育課程もまた社会とのつながりを大切にする必要がある。学校がその教育基盤を整えるにあたり、教育課程を介して社会や世界との接点を持つことが、これからの時代においてより一層重要となる。
  • これからの教育課程には、社会の変化に目を向け、教育が普遍的に目指す根幹を堅持しつつ、社会の変化を柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」としての役割が期待されている。
     このような「社会に開かれた教育課程」としては、次の点が重要になる。
    1. 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。
    2. これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓(ひら)いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいくこと。
    3. 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること。
  • このためには、教育課程の基準となる学習指導要領及び幼稚園教育要領(以下「学習指導要領等」という。)も、各学校が「社会に開かれた教育課程」を実現していくことに資するものでなければならない。
  • さらに、こうした教育課程の理念を具体化するためには、学習・指導方法や評価の在り方と一貫性を持って議論し改善していくことが必要である。本「論点整理」はこうした問題意識の下、学習指導要領等の在り方に留(とど)まらず、これからの教育の在り方全体を視野に入れて、教員の在り方や教育インフラ等についても取りまとめている。

世界をリードする役割

  • 本「論点整理」の姿勢は、上記のような総合的な視野からのカリキュラム改革を目指すものである。こうした改革は国際的な注目も集めているところであり、例えば、OECDとの間で実施された政策対話(※7)の中では、学力向上を着実に図りつつ、新しい時代に求められる資質・能力の向上という次の段階に進もうとしている日本の改革が高く評価されるとともに、その政策対話等の成果をもとに、2030年の教育の在り方を国際的に議論していくための新しいプロジェクトが立ち上げられたところである(※8)。こうした枠組みの中でも、日本の改革は、もはや諸外国へのキャッチアップではなく、世界をリードする役割を期待されている。

  • ※7 これまでに、平成27年3月3日(パリで開催)と6月29日(東京で開催)の2回実施。概要については補足資料28・29ページ参照。
  • ※8 補足資料204・205ページ参照。

日本の子供たちの学びを支え、世界の子供たちの学びを後押しする

  • 現在検討されている次期学習指導要領等は、過去のスケジュールを踏まえて実施されれば、例えば小学校では、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年から、その10年後の2030年頃までの間、子供たちの学びを支える重要な役割を担うことになる。
  • このように、教育の将来像を描くに当たって一つの目標となる2030年の社会の在り方を見据えながら、その先も見通した初等中等教育の在り方を示し、日本の子供たちの学びを支えるとともに、世界の子供たちの学びを後押しするものとすることが、今回の改訂に課せられた使命である。

(2)前回改訂の成果と次期改訂に向けた課題

前回改訂までの成果

  • 学習指導要領等については、これまでも、時代の変化や子供たちの実態、社会の要請等を踏まえ、数次にわたり改訂されてきた。例えば、我が国が工業化という共通の社会的目標に向けて、教育を含めた様々な社会システムを構想し構築していくことが求められる中で示された昭和33年の学習指導要領、また、高度経済成長が終焉(しゅうえん)を迎える中で個性重視のもと新しい学力観を打ち出した平成元年の学習指導要領等など、時代や社会の変化とともに、学習指導要領等も改訂を重ねてきた。改訂に当たっては、時代の変化や社会の要請などの読み取りを通して、将来への展望が問われてきた(※9)。
  • そこでは、学習指導要領等の成果と課題の検証を通じて、次の学習指導要領等を構築するという作業が重ねられてきており、そうした積み重ねの上に、学習指導要領等は築かれてきたのである。
  • 平成20年及び平成21年に行われた前回の改訂では、教育基本法の改正により明確になった教育の目的や目標を踏まえ、子供たちの「生きる力」の育成をより一層重視する観点から見直しが行われた。
  • 特に学力については、学校教育法第30条第2項に示された「基礎的な知識及び技能」、「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力」及び「主体的に学習に取り組む態度」の、いわゆる学力の三要素から構成される「確かな学力」をバランス良く育むことを目指し(※10)、教育目標や内容が見直されるとともに、習得・活用・探究という学習過程の中で、学級やグループで話し合い発表し合うなどの言語活動(※11)や、他者、社会、自然・環境と直接的に関わる体験活動等を重視することとされたところである。
  • これを踏まえて、各学校では真摯な取組が重ねられており、その成果の一端は、近年改善傾向にある国内外の学力調査の結果にも表れていると考えられる(※12)。
     また、幼児教育についても、教育基本法の改正によりその基本的な考え方が明確にされ、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして、子供の主体性を大事にしつつ、一人一人に向き合い、総合的な指導を通じて、学校教育の一翼を担ってきている。
  • このような成果を踏まえれば、前回改訂において重視された学力の三要素のバランスのとれた育成や、各教科等を貫く改善の視点であった言語活動や体験活動の重視等については、その成果を受け継ぎ、引き続き充実を図ることが重要であると考える。

  • ※9 学習指導要領の変遷については、補足資料12ページ参照。
  • ※10 「学力の三要素」については、補足資料13ページ参照。
  • ※11 言語活動の位置付け、成果や課題等については、補足資料14・15ページ参照。
  • ※12 補足資料16・17ページ参照。

次期改訂に向けての課題

  • こうした真摯な取組が着実に成果を上げつつある一方で、我が国の子供たちについては、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べたり、実験結果を分析して解釈・考察し説明したりすることなどについて課題が指摘されること(※13)や、自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度、社会参画の意識等が国際的に見て相対的に低いこと(※14)など、子供が自らの力を育み、自ら能力を引き出し、主体的に判断し行動するまでには必ずしも十分に達しているとは言えない状況にある。

  • ※13 補足資料18~20ページ参照。
  • ※14 補足資料22・23ページ参照。
  • それは、社会において自立的に生きるために必要な力として掲げられた「生きる力」を育むという理念について、各学校の教育課程への、さらには、各教科等の授業への浸透や具体化が、必ずしも十分でなかったところに原因の一つがあると考えられる。
  • 前回改訂時の答申に示されたように、21世紀は、新しい知識・情報・技術が社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代である。こうした社会像についての認識を継承しつつ、さらにこれからは、グローバル化や情報化をはじめとした社会の加速度的な変化にどのように向き合い関わっていくのかが問われなければならない。将来の予測が困難な複雑で変化の激しい社会の中で求められる力の育成を、各学校の教育課程や各教科等の授業まで浸透させ具体化していくことが、これまで以上に強く求められることになる。
  • そこで、「社会に開かれた教育課程」の視点に立ち、社会の変化に向き合い適切に対応していくため、学校教育を通じて育むべき資質・能力を教育課程全体の構造の中でより明確に示し、それらを子供たちが確実に身に付けることができるよう、教育課程の全体像を念頭に置きながら日々の教育活動を展開していくことが求められている。
  • そのためにはまず、各教科等の在り方を考える際に、教育課程の要素全体が相互に有機的に関係し合って機能しているかどうかが問われなければならない。改訂を重ねるごとに各教科等の独自性が増していく状況に対して、果たして教育課程が、学校全体の教育活動のバランスや調和といった観点から、その総体的な意義や存在感をどこまで示しているか、学校教育目標の達成にどのような役割を果たしているかを検討する必要がある。
  • 前回改訂においては、各教科等を貫く改善の視点として言語活動の充実を掲げ、教科等の枠を越えた具体的な展開を求めたことによって、一定の成果は得られつつある。そこでさらに、教育課程の全体像を念頭に置いた教育活動の展開という観点から、一層の浸透や具体化を図る必要があり、それには、学習指導要領等やそれを基に編成される教育課程の在り方について、更なる見直しが必要と考えられる。
  • つまり、これまでの学習指導要領は、知識や技能の内容に沿って教科等ごとには体系化されているが、今後はさらに、教育課程全体で子供にどういった力を育むのかという観点から、教科等を越えた視点を持ちつつ、それぞれの教科等を学ぶことによってどういった力が身に付き、それが教育課程全体の中でどのような意義を持つのかを整理し、教育課程の全体構造を明らかにしていくことが重要となってくる。
  • 目指す方向は、教科等を学ぶ本質的な意義を大切にしつつ、教科等間の相互の関連を図ることによって、それぞれ単独では生み出し得ない教育効果を得ようとする教育課程である。そのために、教科等の意義を再確認しつつ、互いの関連が図られた、全体としてバランスのとれた教育課程の編成が課題とされるのである。
  • こうした方向性に基づき、各学校が目指す教育目標を教育課程として具体化し、これまでの学力向上に向けた真摯な取組の成果をさらに伸ばしつつ、学校生活において子供たちが身に付ける資質・能力全体に目を向け、教育実践の工夫や改善を図っていくことができるよう、そのための手掛かりとなり得る学習指導要領等が求められている。
  • 以上のように、前回改訂の成果を受け継ぎながら、次期学習指導要領等が役割を担うこととなる2030年頃までの変化を見据えつつ、その先もさらに見通しながら、学習指導要領等の在り方について持続的な見直しを図り、学習指導要領等を構造化していくとともに、その構造を各学校が十分に理解した上で教育課程を編成できるようにすることが、次期改訂に向けた大きな課題である。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成27年11月 --