2.改革の方向性

○ 教員になる前の教育は大学、教員になった後の研修は教育委員会という、断 絶した役割分担から脱却し、教育委員会と大学との連携・協働により教職生活全体を通じた一体的な改革、学び続ける教員を支援する仕組みを構築する必要がある。

○ 教職生活全体を通じた一体的な改革、学び続ける教員を支援する仕組みづくりを進める際の視点は以下のとおりである。

  • 教員としての専門性の基盤となる資質能力を確実に身に付けさせるため、教育委員会と大学との連携・協働により、教員養成の高度化・実質化を推進する。
  • 学び続ける教員を支援するため、大学の知を活用した現職研修の充実を図るとともに、生涯にわたり教員の資質能力向上を可視化する仕組みを構築する。
  • 教員に多様な人材を求めるため、様々な分野から適性のある優秀な人材の参入を促進する仕組みを工夫する。
  • 教員免許状が真に教員を志望する者に授与されるような仕組みを検討する。
  • 教育委員会と大学との連携・協働を進めるに当たっては、地域の国公私立大学のコンソーシアムの活用などによる幅広い連携・協働体制の構築の視点にも留意する。

○ この場合、「大学における教員養成」及び「開放制の教員養成」の原則については、今回の改革でも基本的に尊重するものとし、国公私の設置形態を問わず、幅広い大学が参画することを前提とすることに留意する必要がある。しかし、これは、安易に教員養成の場を拡充したり、希望すれば誰もが教員免許状を容易に取得できるといった開放制に対する誤った認識を是認するものではない。

1.教員養成の改革の方向性

○ 教員養成を修士レベル化し、教員を高度専門職業人として明確に位置付ける。
○ 今後、詳細な制度設計に際し、支援措置、学校種、設置形態等に留意する。

○ 上記のような現状と課題がある中で、教職大学院は教育委員会・学校と大学との連携・協働の中で、今後の教員養成のモデルとなるべき実践例を示しつつある。
 学部から直接大学院に進む学生(以下「学部新卒学生」という。)の場合、学部4年間で基礎的な素養を学んだ者が、大学院において学校現場での実習を組み込みつつ、理論と実践の往還の中更に2年間の学びを行うことで、学校経営の視点を持ちつつ、自分の実践に自信を持つことができ、修了後不安なく学校現場に入っていけたという声が多い。
 現職のまま大学院で学ぶ教員(以下「現職教員学生」という。)の場合、教職大学院では、大学教員による実践を踏まえた、理論的な指導のもと、他校種の教員や社会人、学部新卒学生という様々な経歴を持つ者が集まり、従前の研修では得られない刺激を受けるという声が聞かれる。また、これまで経験と勘に基づきがちであった実践を理論的に省察する機会が得られ、改めてこれまでの実践を整理し、理論化して後進に引き継いでいける自信を持ち、修了後は校内研修の企画担当や指導主事として学校や教育委員会の中心的な役割を果たしているという評価が多く聞かれる。

○ また、一部の教職大学院については、学校を大学院の実習・学修の拠点とする方式により、校内研修と大学院での学びを高度に組み合わせて現場での課題の解決に当たる試みを行い、成果を上げている。これは、拠点となる学校での具体的課題の解決を題材として、当該校の現職教員が勤務を継続しながら、大学院での学びを行うことを基本としている。加えて、大学教員が拠点校を定期的に訪問し、拠点となる学校における学校全体、更には近隣の学校の教員も含めて、研修を一体的に行いながら、併せて学部新卒学生も拠点校において学校での授業研究や指導の改善のメカニズムを学ぶという方式が採られており、こうした取組も十分に参考とすべきである。

○ 教職大学院では、このように現職教員学生と学部新卒学生が共に学び、時には現職教員学生が学部新卒学生のメンターとしての役割を果たすなど、互いに刺激を受けるという効果も見られる。

○ 教職大学院における取組は、なお改革すべき点もあるものの、高度専門職としての教員の育成システムを確立する上でのモデルを提供していることは疑いのないところである。こうした状況を考えると、学部を中心とした教員養成の上に、学校での実践と任命権者による研修で実践的な指導力を身に付けるといった、従来の方法を超えて、大学院レベルで大学と教育委員会が連携・協働しながら理論と実践の往還により教員養成を行う方策を検討する必要がある。

○ 今後、こうした改革のモデルも参考としながら、以下のような観点から修士レベルでの学びを教職生活全体の中に組み込んでいくことが、時代の変化に対応した教員の資質能力向上において望ましいと考えられる。

○ いじめ・不登校等生徒指導上の諸課題への対応、特別支援教育の充実、外国人児童生徒への対応、ICTの活用の要請をはじめ学校現場における課題が高度化・複雑化しており、初任段階の教員がこれらの課題などに十分対応できず困難を抱えていることが指摘されている。このため、初任の段階で教科指導、生徒指導、学級経営等の職務を的確に実践できる力を育成することが求められている。

○ これまで教員の力を育んできた学校の機能が、教員の大量退職や学校の小規模化、学校現場の多忙化などにより弱まっているとの指摘もあり、上記の職務を的確に実践できる力の育成を学校現場だけに依存することが困難になってきている。教職大学院は、こうしたことへの一つの解決策としても有効性が示されている。

○ 社会の変化も激しく、変化に対応できる視野の広さと高度の専門性を持ち続けるため、大学における知見を活用した、学び続けるための新たな仕組みを構築する必要がある。

○ グローバル化や少子高齢化など社会の急激な変化に伴う、求められる人材像、学校教育に求められる役割や内容の変化を踏まえ、授業の実施方法を含む教育のスタイル自体を変えていくことが求められている。学習指導要領においてねらいとされている、「基礎的・基本的な知識・技能の習得」に加えてこれらを高度に活用して課題の解決を図る力等を育成するためには、1.「現状と課題」で述べたような新たな学びに対応した新たな授業スタイルや教育方法が開発され、学生や現職教員にしっかりと伝えられていくことが必要である。

○ また、こうした新たな学びは、子ども自身が自らの主体的な関心に基づいて課題を探究していく学習が核となって実現するものである。

○ そのような学習形態を前提とすると、学部における能動的な学修等により、基礎的・基本的な知識・技能や汎用的能力を身に付けた上で、大学院レベルで自ら課題を設定し、学校現場における実践とその省察を通じて、解決に向けた探究的活動を行うという学びを教員自身が経験した上で、新たな学びを支える指導法を身に付ける必要がある。

○ こうした学びを学部レベルで行えないかとの考えもあるが、学部においては、教養教育と専門分野の基礎・基本を重視した教育が展開されている。教科の専門的知識の不足や、学校現場での体験機会の充実、ICTの活用など新たな分野への対応が指摘される中で、こうした応用的な学びは、量的な面から考えても、また学びの質的な深まりから考えても学部段階で行うことは困難であり、むしろ、大学院レベルがふさわしいと考えられる。

○ さらに、これからの教育は、どのような教育活動の展開が学習成果に結びつくかという、学習科学等の実証的な教育学の成果に基づいて行われることが望まれるが、そうした実証的なアプローチについての教育研究を大学院レベルで進めることも必要である。

○ 上記のような大学院レベルの教育研究は、未だ十分に行われているとはいえない。今後、教育委員会・学校と大学との連携・協働の中で、こうした理論に裏打ちされた高度かつ効果的な教育実践に係る教育研究が、教職大学院を中心とした修士レベルの課程において深められ、現場における実践との往還の中で検証・刷新され、学生や現職教員に還元されるような仕組みの構築が必要である。

○ 我が国においては、大学進学率の上昇により、高等教育のユニバーサル化の時代となっているが、欧米諸国では、修士号以上の学位取得者が社会のマネジメント層の相当部分を占める状況となっていることに加え、フィンランドやフランスなどでは教員養成を修士レベルで行い、専門性の向上を図る例が見られるところである。今後、グローバル化が急激な勢いで更に進展し、国境を越えた人材の流動性が高まることが予想される中で、我が国の高学歴化も今後更に進展することが見込まれる。

○ 以上を踏まえ、教員の高度専門職業人としての位置付けを確立するため、教員養成を修士レベル化することが必要である。   

○ 今後、詳細な制度設計を行う際には、必要な支援措置について考慮するとともに、学校種、職種の特性、国公私の設置形態に留意する必要がある。

2.教員免許制度の改革の方向性

(「一般免許状(仮称)」、「基礎免許状(仮称)」の創設)
○ 探究力、学び続ける力、教科や教職に関する高度な専門的知識、新たな学びを展開できる実践的指導力、コミュニケーション力等を保証する、標準的な免許状である「一般免許状(仮称)」を創設する。また、当面は、教職への使命感と教育的愛情、教科に関する専門的な知識・技能、教職に関する基礎的な知識・技能を保証する「基礎免許状 (仮称)」も併せて創設する。
○ 「一般免許状(仮称)」は学部4年に加え、1年から2年程度の修士レベルの課程での学修を標準とし、「基礎免許状(仮称)」は、学士課程修了レベルとする。

(「専門免許状(仮称)」の創設)
○ 特定分野に関し、実践の積み重ねによる更なる探究により、高い専門性を身に付けたことを証明する「専門免許状(仮称)」を創設する(分野は、学校経営、生徒指導、進路指導、教科指導(教科ごと)、特別支援教育、外国人児童生徒教育、情報教育等)。
○ 多様な人材の登用を促進する。
○ 教員免許更新制は、詳細な制度設計の際に更に検討を行うことが必要である。
○ 今後、詳細な制度設計を行う際には、スクラップ・アンド・ビルドの観点に立ち、検討する。また、国公私の設置形態ごとに研修制度等が異なることを踏まえた取組の在り方や必要な支援措置についても考慮する必要がある。

(1)「一般免許状(仮称)」、「基礎免許状(仮称)」の創設と「専門免許状(仮称)」の創設

1.「一般免許状(仮称)」

○ 探究力、学び続ける力、教科や教職に関する高度な専門的知識、新たな学びを展開できる実践的指導力、同僚と協働して困難な課題に対応する力、地域との連携等を円滑に行えるコミュニケーション力を有し、教科指導、生徒指導、学級経営等を的確に実践できる力量を保証する、標準的な免許状である「一般免許状(仮称)」を創設する。

○ 「一般免許状(仮称)」は、学部4年に加え、1年から2年程度の修士レベルの課程(教職大学院、修士課程、又はこれらの内容に類する学修プログラム)での学修を標準とする。

○ 修士レベルの課程の修業年限については、大学制度との関係を見据えつつ詳細な制度設計の際に更に検討を行うことが必要である。

○ これらの内容に類する学修プログラムは、1.教育委員会と大学との連携・協働により運営するプログラム、2.教職特別課程(教職に関する科目の単位を修得させるために大学が設置する修業年限を1年とする課程)の活用、3.履修証明プログラムの活用等が考えられる。

○ 従って、修士レベル化を進めるに当たっては、教職大学院、修士課程、これらの内容に類する学修プログラムを含む複数の方策を組み合わせて行うことが考えられる。

○ カリキュラムは、学士課程における内容に加え、授業研究やケーススタディを中心とする実践力及び自己学習力育成プログラムを中心に展開し、具体的には、

  • 教職大学院における「学校における実習」を参考に、学校現場での実習をしながら、一定期間ごとに実習での取組を振り返る「理論と実践の往還を重視した探究的実践演習」により、新たな学びを展開できる実践的指導力、チームで課題に対応する力、地域と連携できるコミュニケーション力、教科指導、生徒指導、学級経営等を的確に実践できる力を身に付ける。
  • 「ICTの活用、特別支援教育、国際教育等新たな分野に関する知識・技能」、「児童生徒へのカウンセリング・相談技法」など近年の学校現場を取り巻く状況を踏まえた高度な専門性も併せて身に付ける。

○ 修士レベルの養成体制の整備は、教職大学院、教員養成系の修士課程、教員養成系以外の国公私立大学の一般の修士課程を対象に今後検討する必要がある。その際、教職大学院、国立教員養成系の修士課程の設置数や入学定員が毎年の教員採用数に比べ、圧倒的に少なく、量的な整備をどのように進めるのか留意する必要がある。また、国公私立大学の一般の修士課程についても、カリキュラムや指導体制等大幅な改善が早急に必要と考えられる。

○ なお、初任者研修は、教員養成を修士レベル化することに伴い、法律上の実施義務の在り方等について検討する。

2.「基礎免許状(仮称)」

○ 教職への使命感と教育的愛情を持ち、教科に関する専門的な知識・技能、教職に関する基礎的な知識・技能を保証する、「基礎免許状(仮称)」を創設する。

○ 「基礎免許状(仮称)」は、学士課程修了レベルとし、早期に「一般免許状(仮称)」を取得することが期待される。

○ カリキュラムについては、教科や教職に関する専門的知識の修得を中心に展開し、具体的には、

  • 「教職の意義等に関する理解」、学校ボランティアを含む「子どもと教育に関する幅広い体験」により、教員になることの魅力やすばらしさとともに厳しさを感じさせる体験を積む。
  • 「教科に関する専門的理解」を十分身に付ける。この際、教科の実際に即した内容とするため、「教科に関する科目」と「教職に関する科目」を架橋する内容を展開する。
  • 「教育の基礎理論に関する理解」に加え、「生徒指導、教育相談、進路指導」、「ICTの活用、特別支援教育等の現代的教育課題に関する基礎的素養」について学ぶ。
  • 「教育実習」を中心に、教員として実践的指導の基礎となる力を身に付けるとともに、「教職実践演習」で学部における学びを総括する。

3.「専門免許状(仮称)」

○ 学校経営、生徒指導、進路指導、教科指導(教科ごと)、特別支援教育、外国人児童生徒教育、情報教育等特定分野に関し、実践を積み重ね、更なる探究をすることにより、高い専門性を身に付けたことを証明する「専門免許状(仮称)」を創設する。複数分野の取得を可能にする。

○ 一定の経験年数を有する教員等で、大学院レベルでの教育や、国が実施する研修、教育委員会と大学との連携による研修等により取得する。学位取得とはつなげないこととする。

○ 校内研修や近隣の学校との合同研修会等についても、要件を満たせば、取得単位の一部として、認定を可能とすることが考えられる。

○ 学校経営の分野については、管理職への登用条件の一つとすることについて、今後更なる検討が必要である。

(2)「一般免許状(仮称)」と「基礎免許状(仮称)」との関係

○ 「基礎免許状(仮称)」取得者が、「一般免許状(仮称)」を取得する段階について、採用との関係から、3つの類型に整理した。

(1)「一般免許状(仮称)」取得後に教員として採用。

(2)「基礎免許状(仮称)」を取得し、教員採用直後に初任者研修と連携・融合した修士レベルの課程の修了により「一般免許状(仮称)」を取得。

(3)「基礎免許状(仮称)」を取得し、教員採用後一定期間のうちに修士レベルの課程等での学修により、「一般免許状(仮称)」を取得。

○ それぞれにメリット、デメリットがあり、地域の実情に応じた、様々な試行の積み重ねが必要である。

(3)多様な人材の登用

○ 様々な段階で社会人等がその専門性を生かしつつ、教員を志せるようにするため、「基礎免許状(仮称)」未取得者を対象とした修士レベルの課程を設け、「一般免許状(仮称)」取得を可能とする。

(4)教員免許更新制

○ 教員免許更新制については、10年経験者研修の法律上の実施義務の在り方との関係を含め、詳細な制度設計の際に更に検討を行うことが必要である。

(5)その他

○ 複数の学校種をまとめた教員免許状の創設は、例えば「義務教育免許状」について、要取得単位数の大幅な増加、小中連携の概念整理について検討段階にあることなどから、中長期的検討課題とする。しかしながら、教員免許状を複数取得することは重要であり、更なる隣接校種免許状の取得促進のため、例えば、複数免許状を取得する場合の最低修得単位数の設定の検討や、免許法認定講習を免許状更新講習としても開設するなどの取組が求められる。

○ 今後、詳細な制度設計を行う際には、学校種、職種の特性に配慮することや国公私の設置形態に留意することが必要である。例えば、幼稚園教諭については、現職教員の二種免許状保有者の割合が7割を超える現状、今後の幼保一体化に関する制度設計等の状況を踏まえ、新しい時代における質の担保・向上という観点から適切な制度設計を検討することが必要である。また、中・高等学校教諭については、その多くが教員養成を主たる目的としない学科等出身者で占められていることに留意する必要がある。

○ 優秀な人材が経済的理由により教員志望を諦めることのないよう、授業料減免や奨学金の活用等による学生の経済的負担の軽減についても留意する必要がある。

○ 教員免許状が教員としての資質能力を一定水準以上に担保するためには、医師、歯科医師、薬剤師等のように、国家試験の導入を検討すべきとの意見があった。しかしながら、国家試験の導入については、様々な課題があることから、中長期的検討課題とする。

○ 今後、詳細な制度設計を行う際には、スクラップ・アンド・ビルドの観点に立ち、思い切った業務の軽減などの措置を併せて検討する。また、国公私の設置形態ごとに研修制度や財政構造が異なっていることなどを踏まえた取組の在り方や必要な支援措置についても考慮する必要がある。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室義務教育改革係

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室義務教育改革係)

-- 登録:平成24年09月 --