資料3 幼児教育部会とりまとめ(たたき台案)

【1.現行幼稚園教育要領等の成果と課題】
○ 幼稚園教育要領は、これまで「環境を通して行う教育」を基本とし、幼児の自発的な活動としての遊びを中心とした生活を通して、一人一人に応じた総合的な指導を行ってきたところであり、平成20年の改訂では、言葉による伝え合いや幼稚園教育と小学校教育の円滑な接続などについて充実を図り、その趣旨については、国立教育政策研究所の教育課程研究指定校の研究成果等から、おおむね理解されていると考えられる。

○ 一方で、社会状況の変化等による幼児の生活体験の不足等から、基本的な技能等が身に付いていなかったり、幼稚園教育と小学校教育との接続では、子供や教員の交流は進んできているものの、教育課程の接続が十分であるとはいえない状況であったりするなどの課題も見られる。

○ また、近年、動機付け、粘り強さ、自制心といったいわゆる非認知的能力を幼児期に身に付けることが、大人になってからの生活に大きな差を生じさせるといった研究成果をはじめ、幼児期における語彙数、多様な運動経験などがその後の学力、運動能力に大きな影響を与えるといった調査結果などから、幼児教育の重要性への認識が高まっている。

○ さらに、平成27年度から「子ども・子育て支援新制度」が実施されたことにより、幼稚園等を通じて全ての子供が健やかに成長するよう、質の高い幼児教育を提供することが一層求められてきている。

○ このため、上記のような研究成果や調査結果を踏まえつつ、幼稚園のみならず、保育所、認定こども園を含めた全ての施設全体の質の向上を図っていくことが必要となっている。



【2.幼児教育において育みたい資質・能力と幼児期にふさわしい評価の在り方について】

(1)幼児期の特性に応じて育まれる「見方や考え方」
○ 幼児期は、幼児一人一人が異なる家庭環境や生活経験の中で、自分が親しんだ具体的なものを手掛かりにして、自分自身のイメージを形成し、それに基づいて物事を受け止めている時期であることから、ものの見方や考え方も一人一人異なるものである。加えて、幼児教育では園生活の全てをその対象としていることから、小学校における教科に根ざしたある特定の視点や思考の枠組みを培うものではない。

○ 幼児教育における「見方や考え方」は、幼児が身の回りの環境に主体的に関わり、心動かされる中で、環境とのふさわしい関わり方に気付き、それらを身に付けたり、獲得しようとしたりして、試行錯誤や思い巡らすことであり、換言すれば、生活全体をどのように捉えるかということにほかならない。

○ このような「見方や考え方」は、遊びや生活の中で幼児理解に基づいた教師による意図的、計画的な環境の構成の下で、教師や友達と関わり、様々な体験をすることを通して広がったり、深まったりして、修正・変化し発展していくものである。

○ このような様々な体験等を通して培われた「見方や考え方」は、小学校教育の基礎をなすものであり、小学校教育においては、上記の幼児教育で培われた「見方や考え方」を、スタートカリキュラム等を通じて、各教科等の特質に応じた「見方や考え方」につなげていくことが必要である。


(2)幼児教育において育みたい資質・能力の整理と、小学校の各教科等との接続の在り方
○ 論点整理において示された育成すべき資質・能力の三つの柱は、「18歳の段階で身に付けておくべきことは何か」という観点や、「義務教育を終える段階で身に付けておくべき力は何か」という観点を共有しながら、各学校段階の各教科等において、系統的に示されなければならないこととされている。

○ 幼児教育においては、幼児期の特性から、この時期に育みたい資質・能力は、小学校以降のような、いわゆる教科指導で育むのではなく、幼児の自発的な活動である遊びや生活の中で、美しさを感じたり、不思議さに気付いたり、できるようなったことなどを使いながら、試したり、いろいろな方法を工夫したりすることを通じて育むことが重要である。このため、資質・能力の三つの柱を幼児教育の特質を踏まえ、より具体化すると、以下のように整理される。

(ア)個別の知識や技能の基礎(遊びや生活の中で、豊かな体験を通じて、何を感じたり、何に気付いたり、何がわかったり、何ができるようになるのか)

(イ)思考力・判断力・表現力等の基礎(遊びや生活の中で、気付いたこと、できるようになったことなども使いながら、どう考えたり、試したり、工夫したり、表現したりするか)

(ウ)学びに向かう力、人間性等(心情、意欲、態度が育つ中で、いかによりよい生活を営むか)

○ これらの資質・能力を育むため、幼稚園教育要領等の5領域は引き続き、維持することとする。なお、幼児教育の特質から、幼児教育において育みたい資質・能力は、個別に取り出して身に付けさせるものではなく、遊びを通しての総合的な指導を行う中で、「個別の知識や技能の基礎」、「思考力・判断力・表現力等の基礎」、「学びに向かう力、人間性等」を一体的に育んでいくことが重要である。【別紙1ページ】

○ また、5領域のねらい及び内容を通じて、5歳児修了時までに育ってほしい具体的な姿を平成22年に取りまとめられた「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)」を手掛かりに、資質・能力の三つの柱を踏まえつつ、明らかにしたものが、以下の「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」である。【別紙3ページ】


(ア)健康な心と体
幼稚園生活の中で満足感や充実感を持って自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせながら取り組み、見通しを持って自ら健康で安全な生活を作り出していけるようになる。

(イ)自立心
自分の力で行うために思いを巡らし、自分でしなければならないことを自覚して行い、諦めずにやり遂げることで満足感や達成感を味わいながら、自信を持って行動するようになる。

(ウ)協同性
友達との関わりを通じて、互いの思いや考えなどを共有し、実現に向けて、工夫したり、協力したりする充実感を味わいながらやり遂げるようになる。

(エ)道徳性・規範意識の芽生え
よいことや悪いことが分かり、相手の立場に立って行動するようになり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、決まりの大切さが分かり守るようになる。

(オ)社会生活との関わり
家族を大切にしようとする気持ちを持ちつつ、いろいろな人と関わりながら、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に一層の親しみを持つようになる。
情報を伝え合ったり、情報に基づき思い合わせたりするようになるとともに、公共の施設を大切にしたり、社会とのつながりの意識等が芽生えるようになる。

(カ)思考力の芽生え
身近な事象に好奇心や探究心を持って思いを巡らしながら積極的に関わり、物の性質や仕組み等に気付いたり、予想したり、工夫したりするなどして多様な関わりを楽しむようになるとともに、友達と考えを思い合わせるなどして、新しい考えを生み出す喜びを感じながら、よりよいものにするようになる。

(キ)自然との関わり・生命尊重
自然に触れて感動する体験を通して、自然の変化などを感じ取り、身近な事象への関心が高まりつつ、自然への愛情や畏敬の念を持つようになる。
身近な動植物を命あるものとして、いたわり大切にする気持ちを持つようになる。

(ク)数量・図形、文字等への関心・感覚
遊びや生活の中で、数量などに親しむ経験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりし、必要感に応じてこれらを活用するようになる。

(ケ)言葉による伝え合い
言葉を通して先生や友達と心を通わせ、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身に付けるとともに、言葉による表現を楽しむようになる。

(コ)豊かな感性と表現
生活の中で心動かす出来事に触れ、感じたことや考えたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりして、表現する意欲が高まるようになる。


○ このような「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の明確化は、5歳児後半の幼児の日常的な活動を指導する際の手掛かりや評価の手立てとなるものであり、また、幼稚園等と小学校の教師が持つ5歳児修了時の姿が共有化されることにより、幼児教育と小学校教育との接続の一層の強化が図られる。

○ 小学校の各教科等においても、上記の「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を踏まえ、スタートカリキュラム等を通じて、各教科等の特質に応じた資質・能力を育んで行くことが必要である。【別紙15ページ】


(3)資質・能力を育む学習過程の在り方
○ 幼児教育において、幼児の自発的な活動としての遊びは、心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習である。論点整理においては、習得・活用・探究という学習プロセスの重要性が提言されており、幼児教育においても、資質・能力を育む上で学習の過程を意識した指導が重要である。

○ 幼児教育における学習過程は、発達の段階によって異なり、一律に示されるものではないが、一例を示すとすれば、5歳児の後半では、遊具・素材・用具や場の選択等から遊びが創出され、やがて楽しさや面白さの追求、試行錯誤等を行う中で、遊びへ没頭し、遊びが終わる段階でそれまでの遊びを振り返るといった過程をたどる。【別紙16ページ】

○ 上記のような学習過程が実現するには、教師は、幼児期に育みたい資質・能力を念頭に置いて環境を構成し、このような学習過程の中で、総合的に指導していくことが前提となる。


(4)幼児期にふさわしい評価の在り方
○ 幼稚園における評価については、現行の幼稚園教育要領第2章「ねらい及び内容」に示された各領域のねらいを視点として、幼児の発達の実情から向上が著しいと思われるものを評価してきたところである。

○ 次期幼稚園教育要領等においては、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の明確化の方向性が示されることに伴い、幼児期の評価についても、その方向性を踏まえ、改善を図る必要がある。

○ 具体的には、幼児一人一人の良さや可能性を評価するこれまでの幼児教育における評価の考え方は維持しつつ、評価の視点として、幼稚園教育要領等に示す各領域のねらいのほか、5歳児については、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を踏まえた視点を新たに加えることとする。その際、他の幼児との比較や一定の基準に対する達成度についての評定によって捉えるものでないことに留意するようにする。

○ また、幼児の発達の状況を小学校の教員が指導上参考できるよう、指導要録の示し方の見直しを図る。

○ その他、写真や映像を活用した日々の記録やポートフォリオなどを通じて、幼児の発達の状況を保護者と共有できるような取組を進めていく。



【3.資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実】

(1)幼稚園教育要領等の構成の見直し
○ カリキュラム・マネジメントや学習・指導方法の改善など各学校種共通で示された学習指導要領等の総則の見直しのほか、幼稚園教育要領等固有の主な構成の見直しについては、以下のとおりである。

○ 預かり保育など教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動などについては、これまでも教育課程に係る教育活動を考慮して行われてきたところであるが、幼児の生活を見通しを持って把握し、幼稚園等におけるカリキュラム・マネジメントを充実する観点から、教育課程や預かり保育を含め、登園から降園までの幼児の生活全体を捉えた全体的な計画の作成を幼稚園教育要領等に位置付ける。

○ 幼児教育と小学校教育の円滑な接続を図る観点から、5歳児修了時までに育ってほしい具体的な姿について10項目に整理した「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を幼稚園教育要領等に新たに位置付ける。


(2)資質・能力の整理を踏まえた教育内容の見直し
○ 育成すべき資質・能力については、論点整理において幼児教育から高等学校教育までを通じて、見通しを持って系統的に示されるべきものであるとされたことから、現在の領域構成を引き継ぎつつ、資質・能力の三つの柱に沿って、内容の見直しを図る。【別紙2ページ】


(3)現代的な諸課題を踏まえた教育内容の見直し
○ 論点整理で示された方向性や近年の子供の育ちを巡る環境の変化等を踏まえた教育内容の見直しについては、以下のとおりである。

○ 安全な生活や社会づくりに必要な資質・能力を育む観点から、状況に応じて機敏に自分の体を動かすことができるようにするとともに、安全についての理解を深めるようにする。

○ 幼児期における多様な運動経験の重要性の指摘を踏まえ、幼児が遊ぶ中で体の諸部位を使った様々な体験を重視するとともに、食の大切さに気付いたり、食に対する態度を身に付けたりすることを通じて、幼児の心身の健やかな成長の増進を図る。

○ 幼児期におけるいわゆる非認知的能力を育むことの重要性の指摘等を踏まえ、例えば、様々な人と接したり、自分の気持ちを調整したり、くじけずに自分でやり抜くようにしたり、幼児が自分のよさや特徴に気付き、自信を持って行動したりするようにする。

○ 学習プロセス等の重要性を踏まえ、具体的な活動の中で、比べる、関連付ける、総合するといった、思考の過程を示すなど、思考力の芽生えを育むようにする。

○ 社会に開かれた教育課程の重要性を踏まえ、地域の様々な生活や文化などに触れる機会を設けたり、異なった文化を持つ人たちに親しみを持ったりするなどして、幼児に地域の社会生活とのつながりの意識等を育むようにする。

○ 幼児期における言語活動の重要性を踏まえ、幼児が言葉のリズムや響きを楽しんだり、知っている言葉を様々に使いながら、未知の言葉と出会ったりする中で、言葉の獲得の楽しさを感じたり、友達や教師と言葉でやり取りしながら自分の考えをまとめたりするようにする。

○ 身近な自然や生活の中にある、何気ない音や色に気付き楽しむことが、幼児の豊かな感性や自分なりの表現を培う上で大切であることから、自然や生活の中にある音や素材に触れる機会の充実を図る。


(4)幼稚園における預かり保育と子育ての支援の充実
○ 論点整理で示された、社会と教育課程のつながりを大切にする「社会に開かれた教育課程」としての役割は、預かり保育や子育ての支援を通じて、施設や機能を開放してきた幼稚園では、これまでも担われてきたものである。近年の社会環境の急速な変化に対応し、今後も、幼稚園における教育課程が「社会に開かれた教育課程」としての役割を更に果たしていくためには、以下のような改善を図っていく必要がある。

○ 預かり保育を実施する幼稚園が増加している状況を踏まえ、預かり保育の教育活動を計画する際には、教育課程に係る教育時間を含めた幼稚園の生活全体の中で計画するようにする。

○ 幼稚園が地域における幼児期の教育のセンターとしての役割を一層果たしていく観点から、心理士、小児保健の専門家、幼児教育アドバイザーなどの活用や地域の保護者との連携などチームとして子育ての支援に取り組むようにする。


【4.学習・指導の充実や教材の充実】

(1)特別支援教育の充実、幼児一人一人の特性に応じた指導の充実
(特別支援教育の充実)
○ 幼児期における特別支援教育については、特別支援教育部会の議論等を踏まえ、以下のような改善を図っていくことが必要である。

○ 個々の幼児の障害の状態や幼稚園等の生活の中で考えられる困難さに配慮した指導ができるよう、障害別の配慮のみならず、日々の幼稚園等の活動で考えられる困難さに対する配慮の例を示す。

○ 障害者の権利に関する条約や障害者差別解消法を踏まえ、障害のある幼児の個々の障害の状態などに応じた指導内容や指導方法の工夫を更に組織的、計画的に行うことができるよう、「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」の作成・活用の留意点を示す。

○ 特別支援教育に係る組織的な対応が一層充実されるよう、特別支援教育コーディネーターを中心とする体制等の在り方を示すとともに、共生社会の形成に向けた障害者理解の促進等の観点から、交流等の一層の充実を図る。

(幼児一人一人の特性に応じた指導の充実)
○ 海外から帰国した幼児や外国人の幼児への日本語指導・適応指導等についての配慮事項を示すなど、幼児一人一人の特性に応じた指導の充実を図る。


(2)「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」の充実
○ 幼児教育における重要な学習としての遊びは、様々な形態で行われることから、特に、5歳児後半の幼児への指導については、指導計画等のねらいに応じ、以下の学びの過程が実現できているかを意識した計画を作成していくことが必要である。その際、小学校の各教科等における教育の単純な前倒しにならないよう留意すべきことは言うまでもない。【別紙17ページ】


(ア)見方や考え方を働かせながら、直接的・具体的な体験の中で、対象と関わって心を動かし、幼児なりのやり方やペースで試行錯誤を繰り返し、楽しさや不思議さ等の追求や問題解決に向けた探究的な学びの過程が実現できているか(深い学びの過程)。

(イ)他者との関わりを深める中で、自分の思いや考えを表現し、伝え合ったり、考えを出し合ったり、協力したりして学ぶ過程が実現できているか(対話的な学びの過程)。

(ウ)幼児が積極的に環境に働き掛け、見通しを持って粘り強く取り組み、自らの遊びを振り返って次につなぐという、主体的な学びの過程が実現できているか(主体的な学びの過程)。


(3)教材の在り方
○ 幼児が主体的に活動を展開することができるかどうかは、教師による環境の構成に大きく左右されることから、教師が日常的に教材を研究することは極めて重要である。このため、幼児の経験に必要な遊具や用具、素材等の検討・選択及び環境の構成の仕方など、教師による日々の継続的な教材研究の必要性などについて、明確化を図る。



【5.必要な条件整備等について】

※ 幼児教育部会(第7回)の議論を踏まえ、記述。


お問合せ先

初等中等教育局幼児教育課

Get ADOBE READER

PDF形式のファイルを御覧いただく場合には、Adobe Acrobat Readerが必要な場合があります。
Adobe Acrobat Readerは開発元のWebページにて、無償でダウンロード可能です。