「教育は人なり」といわれるように、学校教育の成否は教員の資質能力に負うところが極めて大きい。教員の職務の本質は、学校における教育活動を通じて、幼児児童生徒の人格形成に直接携わることである。このような重要な職責を遂行するため、教員はその地位に安住することなく、常に研究と修養に努めてきた。また、教職は幼児児童生徒や保護者はもとより、広く社会から尊敬される存在として、高い評価を得てきた。
しかし現在、教員に対する尊敬や信頼が揺らぎつつあるなど、教員をめぐる状況は大きく変化している。これらの変化を整理すると、概ね以下のようになる。
「知識基盤社会」の到来や、グローバル化、情報化、少子・高齢化、社会全体の高学歴化など、我が国の社会構造は大きく変化しており、変化のスピードも速くなっている。本来、学校や教員には、社会の変化を踏まえつつ教育活動を行っていくことが求められているが、現状は、こうした変化がこれまでになく大規模、かつ急激に進んでいるため、教員には、これまで以上に迅速かつ適切に対応するための資質能力が求められている。
都市化や核家族化の進展等を背景として、家庭や地域社会の教育力が低下し、これに伴い、学校や教員に対する期待が高まっている。特に、保護者の中には、教員に対して日々の努力にとどまらず、一定の目に見える教育成果をあげることを求める傾向が強まっている。本来、子どもたちの教育は、学校、家庭、地域社会の三者が互いに連携し、適切に役割を分担しながら行われるべきものである。家庭や地域の教育力の向上を図るとともに、保護者や地域住民の学校運営への参画を進め、教育活動への理解と協力を求めるなど、社会全体が学校や子どもの教育を支える環境づくりを進めることは重要な課題であるが、現状においては、例えば、子どもの基本的な生活習慣の育成等の面で、学校や教員に過度の期待が寄せられている。
社会状況や子どもたちの変化等を背景として、学校教育が抱える課題も、例えば以下のように一層複雑・多様化してきている。
一方で、例えば、脳科学と教育との関係や、子どもの人間学など、子どもや教育に関する新たな研究も進んできている。
学校教育が困難な状況にあり、教員に対する要望や批判的意見が強まる中でも、大多数の教員は、使命感や誇り、教育的愛情を持って教育活動に当たるとともに、日々の自己研鑽に努めている。
しかし、その一方で、教員の中には、幼児児童生徒に関する理解が不足していたり、教職に対する情熱・使命感が低下している者が少なからずいることが指摘されている。また、いわゆる指導力不足教員は年々増加傾向にあり、一部の教員による不祥事も依然として後を絶たない状況にある。こうした問題は、たとえ一部の教員の問題であっても、保護者や国民の厳しい批判の対象となり、教員全体に対する社会の信頼を揺るがす要因となっている。
社会の変化への対応や保護者等からの期待の高まりを背景として、教員の中には多くの業務を抱え込み、本来の教育活動に専念できないような状況が一部に生じてきている。教科指導や生徒指導など、本来の職務についても多忙感を抱く教員が多く、その結果、教員間で支え合い、協働する力(同僚性)が希薄になっているという指摘もある。
現在の教員の年齢構成を見ると、40代から50代前半の層が多くなっており、今後、この世代が退職期を迎えることから、量及び質の両面から、優れた教員を養成・確保することが極めて重要な課題となっている。
初等中等教育局教職員課