2.学校における実習

 教職大学院においては、学部段階における教育実習をさらに充実・発展し、実践的な指導力の強化を図る観点から、10単位以上、「学校における実習」を含めることとし、教職としての一定の実務経験を有する学生については、入学前の教職経験を考慮し、10単位の範囲内で教職経験をもって当該実習とみなすことができるようにすることが適当である。
 学部段階における教育実習の内容は、ともすれば授業実習に偏りがちであり、この点について、平成9年の教養審第一次答申においても指摘している。特に教職大学院における実習においては、附属学校や実習協力校等との連携を密にし、学校運営、学級経営、生徒指導、教育課程経営をはじめ学校の教育活動全体について総合的に体験し、考察する機会とする必要がある。
 このため、教職大学院における「学校における実習」は、学部段階における教育実習を通じて得た学校教育活動に関する基礎的な理解の上に、ある程度長期間にわたり、教科指導や生徒指導、学級経営等の状況を経験することにより、自ら学校における課題に主体的に取り組むことのできる資質能力を培うものとする。

1.学校における実習(教職専門実習)のねらい

 教職大学院における「学校における実習」は、単に学部段階における教育実習の延長ではなく、その教育実習を通じて得た学校教育活動に関する基礎的な理解の上に、一定程度長期間にわたり、教科指導や生徒指導、学級経営等の課題や問題に関し自ら企画・立案した解決策を実験的に体験・経験することにより、自ら学校における課題に主体的に取り組むことのできる資質能力を培うものである。つまり教職大学院における実習は、明確に高度に専門的な実務実習であることが必要である。
 担当教員(大学教員)の指導のもとで実習を行うことにより、学生は、理論と実践の架橋・往還・融合の意味と意義を実感し、いわば理論知を実践知に変換する資質能力を獲得する。
 特に現職教員学生については、実習は、自らの実践とは異なる教育実践を客観的に観察し、体験・参画することにより、自らの教育実践を相対化し、その上で教職大学院においてさらに伸ばすべき自らの資質能力の研究・育成を計画する機会となる。

2.基本的考え方・実習の設定に当たっての留意点

  1. 教職大学院における実習は、学部段階での教育実習とは質及び量の両面において明確に違ったものとなるよう、テーマ・目的、あるいは内容・方法が明確に計画された実習である必要がある。
  2. 学校現場の現代的課題と具体的に関わることのできる実践的資質能力を育成する観点から、教育理論との融合を視野に入れたものになる必要がある。このため、実習の内容は、「基本科目(共通科目)」部分及び「コース(分野)別選択科目」部分における履修・修得内容との連続性・体系性のあるものとする必要がある。
  3. 特に学部新卒学生等の実習については、現在行われている初任者研修の内容との整合性・関連性に留意したものとなる必要がある。また、学部段階における教育実習生の指導を担当させるなどの工夫により、自らの知識・技能の定着を図るとともに、他の教員に対する指導・助言に関する力量の育成を図る契機とし、これを通じて即戦力としての力量の形成を図ることも重要である。
  4. 学部段階における実習においては、観察が比較的大きな割合を占めているのが実情であるが、これがややもすると実習生の傍観的態度を生んできた。教職大学院における実習においては、指導教員の指導・助言のもと、特定の問題・課題の解決策を立てそれを実地に検証することを通じて、主体的に学校運営や学級運営に関わり、実習校の責任ある当事者の一員として参加できるようにする必要がある。このため、教職大学院と実習校との間で十分な実習計画が必要である。
  5. 実習は、学校種、規模、立地地域等タイプの異なる複数の学校で履修することも望ましい。
  6. 実習を行う学生個々の指導力の向上はもとより、広く学校教育を改革する方向性を目指すものである必要がある。このことから、実習の計画においては、学生個々の指導力の向上のみならず、実習校全体又は地域の学校全体の教育力の充実につながる視点が組み込まれていることが望ましい。
  7. 教職大学院における実習においては、実習校における学生の位置付け等が学部段階における実習と異なるため、実習校に過重な負担となることのないよう実習校に対する適切な配慮が必要である。教職大学院の側は、単に学校現場に委嘱することで事足れりとしたり、また教職大学院内部においても特定教員のみに過重な負担がかかるようなものにしてはならない。
  8. 実習が実習校における教育研究活動にとっても成果をもたらすものとなるよう、実習計画の立案に当たっては実習校との間で十分な計画の調整が図られる必要がある。

 なお、実習が学生の資質能力の向上に資するものになることは当然であるが、他方教職大学院における実習は、教職大学院と実習校との密接な連携のもと、学校現場における現状を前提として明確化されたテーマ・目的等に向けて計画され実施されるものであることから、その実施を通して、大学における教育・研究の展開にとっても意味のあるものになることが期待される。

3.実習の実施設定のタイプ

 教職大学院の実習の時期とタイプは、各大学のカリキュラムにおける位置づけ、地域的な条件、学生全体の構成上の特徴、学生個々の学習計画の特色等により様々なタイプが考えられる。
 タイプ別に分類すると、以下のようになる。

1.実施学年

  • (ア)第一年次
  • (イ)第二年次
  • (ウ)両学年にまたがる形式

 実習実施学年を1年次とするか2年次とする(あるいは両学年にまたがって行う)かについては、例えば特に学部新卒学生については、1学校における実務経験がないことから、早期(1年次)に実施し、コース(分野)別選択科目群の履修がより実務を前提にしたものとし易いようにするとする考え方がある一方、2共通科目(基本科目)群及びコース(分野)別選択科目群を一定程度履修した後とすることにより、一定のテーマを持って実習に臨ませることとする考え方があり得る。
 また現職教員である学生について、1実習を1年次に設定し、現勤務校において勤務しつつ教職大学院における学習テーマ準備や事例調査等を行い、その後それをもとにしつつ共通科目(基本科目)群及びコース(分野)別選択科目群を履修させる方法が考えられる一方、2共通科目(基本科目)群及びコース(分野)別選択科目群を一定程度履修した後とすることにより、一定のテーマを持って実習に臨ませることとする考え方があり得る。
 いずれの場合も、どのような方式をとるかは、実習と共通科目(基本科目)群及びコース(分野)別選択科目群との内容の体系性、連続性の在り方から検討される必要がある。

2.実施時期

  • (ア)通年型
  • (イ)半期型
  • (ウ)期間限定集中型

 実習期間は、10単位(300~450時間)以上となることから、例えば、

  • (1)週1日(8時間)、約38週~57週にわたり行う場合
  • (2)週2日(16時間)、約20週~29週にわたり行う場合
  • (3)週5日(40時間)、約8週~12週にわたり行う場合

 など、時間の組み方により様々な方法があり得る。この場合、実習校における行事計画や指導体制の状況、実習プログラムに対応した下記3の実習校の設定方法等の観点から検討される必要がある。

3.実習校の設定

  • (ア)特定実習校で長期間実習を行う方法
  • (イ)複数の実習校でリレー式に実施する方法

4.学部新卒学生と現職教員学生との関係

  • (ア)学部新卒学生と現職教員学生の実習校を同一校とする場合
  • (イ)学部新卒学生と現職教員学生の実習校を別の学校とする場合

 学部新卒学生と現職教員学生の実習校を同一校とするか否かについては、実習プログラムの内容、特に学部新卒学生にとっての実習の効果の面からの検討のほか、実習校の指導体制、教育上の影響等の観点から検討することが必要である。
 その際、現職教員学生の実習先を勤務校とした場合、現職教員学生が学部新卒学生の実習の指導・援助を行うことが可能となる点は長所として考え得る。(なおこの場合、現職教員学生の実習が、現勤務校であることにより日常の勤務に埋没するようなことがないよう工夫・配慮が必要である。)

4.実習校の設定

 実習校は多くの場合連携協力校となると考えられるが、実習を行う学生への指導体制、及び実習に関する教職大学院との連携体制など、十分な指導体制が取れる学校とすることが不可欠である。
 このため、具体的にどの学校を実習校とするかについて、

  1. 地域の実情等に応じて指導体制が整っている特定校に固定する場合
  2. その年次ごとに、実習の際の重点履修テーマ等の観点から適切な学校とする場合
  3. 特に現職教員学生がいる場合、当該現職教員の在籍校とし、学部新卒学生の指導教員的な役割を併せ持たせるなどの工夫を行う場合

 などが考えられる。
 特に、当該学校における実習が、学生の資質向上に資するものであることは当然として、それのみならず当該実習校の研修や研究開発にとっても有意なものとすることが望ましい。
 このため、例えば設置者の協力を得つつ、研究指定校やモデル校等に指定されている学校と組み合わせるなどの工夫も考えられる。
 いずれの場合であっても、実習校の設定に当たっては、当該学生に対する指導体制の在り方とともに、当該実習校に対する影響及びその対応等の観点から、設置者である教育委員会等との密接な連携のもとに行うことが必要不可欠である。なお、その際、実習が当該実習校における研修や研究開発にとっても有意義なものとなる観点から、実習計画の立案に当たっては、学校における受け入れ体制とともに、当該校の教員との関係(積極的役割等)への視点も重要である。

5.教職大学院における実習と研修・教職経験の関係

 教職大学院における教育は、学部段階において養成される教員としての基礎的・基本的な資質能力を基盤として、その上に、力量ある教員に必要な実践力・応用力を育成するものである。
 このため、特に学部新卒学生の場合、教職大学院での実習は、初任者研修に相当し得る内容と質を有したものであるべきである。この際、例えば、現在教員養成系大学・学部等を中心に教員採用試験合格者を対象として実施されている「応用実践実習」(授業補助、休み時間や放課後の遊び相手、学級経営補助、教室内・廊下の掲示、採点補助、授業参観見学、学年・学級懇談会見学、給食指導補助、授業記録作成補助等)の内容も参考になる。
 現職教員学生の実習について留意すべきことは、それが単なる研修とは異なることである。現職教員学生にとっての実習は、指導教員のもとで、現職経験から得た特定の課題や問題意識について、基本科目(共通科目)やコース(分野)別選択科目等の履修内容のもと、またその内容との関連のもとに、解決策や実施計画を立てそれを実地に検証していくという性格を有する、計画された実習であることが強調されるものであることが必要である。(例えば、教科教育に関する内容であれば、得意分野としての当該教科の学習指導に関して、基本科目(共通科目)やコース(分野)別選択科目の履修を通じて検討した、児童生徒の関心や学習の能力を飛躍的に高め得るように工夫・開発された教材・指導方法を、実地に試行するための実習とするなどの必要がある。)
 その意味からも、例えば現職教員学生の場合、一定の教職経験を持ってこの実習の一定単位を取得したものとみなすことが可能であるが、教職大学院における実習は単なる研修とは異なることから、単に教職経験を持って安易に置き換えられるべきものではない。その単位認定に当たっては、現職経験を通じた修得内容と、教職大学院における実習プログラムの内容との関係性等を踏まえつつ判断する必要があるとともに、レポートを課すこと等により現職教員学生が自発的・積極的に自己の教職経験の内容について課題意識を持ち整理や組み替えを図るようにするなどの工夫が重要である。

6.実習で扱われる項目の具体例

 実習の内容については、学生の履修課題、実習校の種類・規模・地域等の実態などにより様々であり、かつ、あらかじめ決定した個別のテーマ毎に実施するものでなく総合的・実践的なものであることが必要であるが、共通に扱われるべく考慮しておく必要のあるものは、以下のとおり。
 特に学部新卒学生については、学部段階において修得した教員としての基礎的・基本的な資質能力とともに、教職大学院において履修した理論・技術を、実務的な経験を通じて実践に融合する機会であることから、実習の計画においては、下記の各領域をある程度網羅することが望ましい。

1.教育課程の編成及び教科等指導領域

 この領域は、教育課程の編成の在り方とともに、教員の資質の要である授業力を養う部分である。なお、ここでは特殊学級及び通常の学級における軽度発達障害等の児童生徒等に関する指導の観点も採り入れることが望ましい。

2.学級経営・学校経営領域

 この領域は、児童生徒等の理解やコミュニケーション力の推進を図る観点から含まれる部分である。

3.生徒指導・進路指導領域

 この領域は、児童生徒等の理解に基づく生徒指導、進路指導等の資質の推進を図る観点から含まれる部分である。

4.その他

 このほか、複合的な内容として、特殊学級における教育など特別支援教育に関する内容等を含める必要がある。またその他、今日的な教育課題等に関する内容(キャリア教育、環境教育等)についても適宜含めることが望ましい。

(なお、実習により取り扱われる各領域における事項の例を別添として例示した。各教職大学院においては、これらの事項を参考に、学生の履修課題、実習校の種類・規模・地域等の実態などにより実習計画を策定することが期待される。)

 実習は、学部新卒学生については、履修した理論・技術を実務的な経験を通じて実践に融合する機会であるとともに、現職教員学生についても、科目の履修を通じて修得された理論・知識と、これにより整理された視点等をもとに計画された課題解決方法・能力を実践の場で検証すること等が目的であることから、実習は「学校教育に関する実習」である必要がある。このため、実習の場は学校であることが基本である。
 他方、近年の学校教育が社会に開かれ、関係機関など外部との関係の中で展開されることから考えれば、学校教育との関連性の中で関係機関等において実習を行うこともあり得よう。
 なお、社会的視野を広げることを目的として教育以外の機関等における実習等も教員の資質向上の観点から有効である。具体的には、現在、社会体験研修として行われているような、社会福祉施設、社会教育施設、民間企業等における体験・実習などが考えられる。この場合、教職大学院における実習の目的に鑑みれば、当該内容については大学が独自に設定する実習科目として設定されることとなる。

(別添)実習で扱われる項目の具体例

(1)教育課程の編成・実施及び各教科等指導領域

教育課程の編成・実施

  • 学習指導要領の趣旨を踏まえた教育課程の編成
  • 地域や学校の実態に応じた教育課程の編成
  • 授業時数など教育課程の管理
  • 教育課程の評価と改善

各教科等の指導

  • 授業設計の在り方(進め方等)
  • 学習指導案の作成
  • 年間指導計画の作成
  • 教材研究の方法と実際
  • 教科指導の基礎技術
  • 授業実践と指導技術
  • 体験的・問題解決的な学習
  • 評価問題の作成と評価の在り方
  • 授業と児童生徒等の理解
  • 様々な形式の授業実践(少人数、習熟度別、ティームティーチング等)
  • 授業参観、授業研究
  • 道徳教育(全体計画、年間指導計画、「道徳の時間」の指導等)
  • 「総合的な学習の時間」(全体指導計画と年間指導計画、学習指導上の工夫、地域資源の活用等)
  • 特別活動(全体計画、年間指導計画、学級活動の指導と評価、クラブ活動、学校行事の指導と評価、児童会・生徒会活動の意義)

(2)学級経営・学校経営領域

学級経営関係

  • 学級経営案の作成
  • 学級組織づくり(学級・生徒会、委員会編成、班づくり等)
  • 基本的学習習慣・生活習慣づくり
  • 学級環境整備(学級設営の工夫、清掃指導)
  • 学級活動の指導計画と指導(朝の会、帰りの会、ホームルーム、給食指導等)
  • 学校行事(儀式的行事、運動会、学習発表会、修学旅行、社会奉仕体験活動等)等を通じた学級経営
  • 家庭との連携(学級PTA・保護者会、学級通信、家庭教育学級)

学校経営関係(学年経営を含む。)

  • 学年経営目標と学級経営
  • 学校経営の計画
  • 学校の組織運営(校務分掌)の在り方
  • 学校評価
  • 学校の安全管理

(3)生徒指導・進路指導的領域

生徒指導関係

  • 生徒指導の意義
  • 児童生徒理解の内容と方法
  • 児童生徒理解に基づく誉め方・叱り方
  • 組織的な生徒指導体制の在り方
  • 教育相談の方法
  • カウンセリングマインドの意義と実際
  • 問題行動に関する事例研究

進路指導関係

  • 進路情報の収集と活用
  • 学校の進路指導体制の在り方

(4)その他(複合的な内容、今日的な課題等)

  • 特別支援教育の実際(校内体制の在り方、指導の実際等)
  • 学校安全・安全指導の在り方
  • その他今日的な教育課題等(キャリア教育、環境教育、情報教育、人権教育等)

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