(1)教員免許更新制についての基本的な考え方
1.更新制の基本的な在り方
教員免許更新制については、基本的にどのような制度として考えるかにより、その意義が異なることから、まず、更新制の基本的な在り方を検討することが必要ではないか。
案1
- 免許状の有効期限の満了時に、特段の問題(例えば、教員としての適格性に欠ける、専門性に欠ける、教職の信頼を損なう等)がなければ、免許状が更新されるような制度として、更新制を考える。
案2
- 更新毎に一定の具体的基準(例えば、専門性について一定のレベル向上を求める等)を設け、有効期限の満了時に、その基準(前回更新時より高い基準)に達していなければ、免許状が更新されないような制度として、更新制を考える。
【案1】について
教員として最低限必要な適格性や専門性を確実に保証することができる。また、大方の教員は免許状が更新されることとなるため、排除の性格が弱まり、教員の身分を不安定にしたり、負担感を与えることは避けられるという意義があるのではないか。
他方、免許状が更新されない者はごく少数と見込まれ、また、専門性向上の面では、更新制導入の政策効果が薄いことから、他の制度(例えば、上進制度や現職研修)と連動させるなど、専門性の向上を促す別途の方策を講ずる必要があるのではないか。
現在、教育公務員については、条件附採用期間や分限制度により、教員としての適格性を判定する仕組みがある中で、新たにこのような更新制を導入することの意義を整理する必要があるのではないか。
この点については、例えば、次のような点で意義が考えられる。
- 現行の分限制度は、法律又は条例の定める事由に該当する場合に限り適用されるため、何らかの問題が生じた後に、その適用が検討されることが一般的であるが、更新制を導入した場合、全ての免許状保有者について、一定期間ごとに一律に適格性を判定することが可能となることから、問題の早期発見と拡大防止につながることが期待できる。
他方、このような更新制を導入する場合、以下のような課題についても検討する必要がある。
- 適格性に問題があるという基準をどのように設定するのか。また、適格性の判定を公正中立に行うためには、どのような判定方法等とすることが必要か。
- 分限処分の対象である地方公務員法上の適格性を欠く場合等との関係をどのように整理するのか。
【案2】について
教員としての最低限必要な適格性や専門性の確保はもとより、教職生活を通じて、教員全体のレベルアップを確実に図ることができるという点で、意義があるのではないか。
他方、免許状が更新されない者も少なくないと見込まれることから、排除の性格が強まり、教員の身分を不安定にしたり、過剰な負担感を与え、教職の魅力を低下させることにつながる等の課題があるのではないか。
現在、上進制度や現職研修など、教職生活を通じて教員としての専門性が向上していくという仕組みがある中で、新たにこのような更新制を導入することの意義を整理する必要があるのではないか。
この点については、例えば、次のような点で意義が考えられる。
- 教員自身に常に緊張感を持たせ、日常的に自己研鑽に励むことを促すこととなり、更新を経るにしたがい、教員一人ひとりの専門性はもとより、教員全体の専門性が確実に向上することが期待できる。
- 研修機会(講習の受講機会)の拡充等により、上進制度を活用した上級免許状の取得が格段に進むとともに、更新制と連動させることにより、現職研修の活性化等の効果が期待できる。
他方、このような更新制を導入する場合、以下のような課題についても検討する必要がある。
- 学部卒業者が教員採用者の中心である現状において、大学4年間では教員として十分な資質能力を身に付けることは難しいとの前提に立つことは、児童生徒や保護者はもとより、広く社会に対して不安や不信感を与えないか。
- 一定期間内に到達することが期待される専門性のレベルについて、具体的な基準を設定することができるか。また、専門性の判定を公正中立に行うためには、どのような判定方法等とすることが必要か。
- 更新により再授与される免許状が同一免許状である場合、更新回数に応じて、免許状が保証する専門性が異なることとなるが、資格制度として妥当か。
2.更新制の位置づけ
更新制の基本的な在り方を検討するに当たっては、現行の上進制度や現職研修、評価、処遇等、教員に関する他の制度や施策との関係をどのように捉えるのかを、あわせて検討することが必要ではないか。
案1
- 更新制を教員免許制度上の制度として限定的に捉え、上進制度とは制度として連動させるものの、現職研修や評価、処遇等とは、制度として切り離したものとして考える。
案2
- 更新制を上進制度のほか、現職研修や評価、処遇等との関係でも積極的に捉え、例えば、免許状が更新された者に新たな資格を付与したり、処遇を改善するなど、更新制と現職研修や評価、処遇等を制度として完全に連動させたものとして考える。
案3
- 更新制を上進制度のほか、現職研修と制度として部分的に連動させたものとして考える。
【案1】について
教員免許状のみに着目した制度設計が可能となる。また、例えば有効期限内における講習の受講等を上級免許状の取得の際に評価すれば、更新制と上進制度の連動により、上級免許状の取得が促進されることが期待できる(この点は、【案2】、【案3】も同様)。
他方、更新制と現職研修を制度として完全に切り離した場合、更新制が専門性向上のためのインセンティブとして十分機能するのかどうかという点で課題があるのではないか。
【案2】について
教員の専門性向上のためのインセンティブとしての機能が十分期待できる。
他方、更新制と評価や処遇等を制度として完全に連動させた場合、教員の負担感を増大させるとともに、評価や処遇における任命権者等の判断や裁量を拘束することになるのではないか。また、更新時の評価に差異を設ける場合、同一の免許状であるにもかかわらず、免許状が保証する専門性が異なることとなるが、資格制度として妥当か。
【案3】について
例えば、現職研修の一部について、上進制度における講習と同様に評価した場合、全体として研修の機会(講習の受講機会)が拡充するとともに、現職研修の活性化の効果も期待できるなど、専門性向上のためのインセンティブとなるのではないか。
(2)教員免許更新制の制度設計
1.更新の要件(更新制の制度設計の基本)
案1
- 更新の要件は、有効期限内における一定以上の勤務実績、適格性の判定及び専門性向上の確認の3つとする。
- 適格性の判定は、有効期限内における勤務実績を評価することにより行う
- 専門性向上の確認は、有効期限内における一定の講習の受講状況や自己研鑽の状況を評価することにより行う。
案2
- 更新の要件は、有効期限内における一定以上の勤務実績及び適格性の判定の2つとする(内容は案1と同様)。
- 更新の要件とはしないものの、免許状保有者は有効期限内に一定の講習の受講に努めなければならないこととする。また、更新時に、有効期限内における一定の講習の受講状況や自己研鑽の状況を通して、専門性向上の確認を行う(その評価に応じて、所定の単位を付与する(後述の4参照))。
案3
- 免許状の種類や更新回数等に応じて、更新の要件に差異を設けることとする(例えば、専修免許状については、専門性向上の確認は行わない等)。
2.免許状の有効期限
案1
- 免許状の有効期限は、全ての免許状について、一律に5~10年程度とする。
案2
- 免許状の有効期限は、免許状の種類(専修免許状、一種免許状等)により差異を設ける(例えば、専修免許状は10年、一種免許状は5年等)。
案3
- 免許状の有効期限は、更新回数により、差異を設ける(例えば、最初の更新時までは5年、2回目以降は10年等)。
教員の資質能力は養成・採用・研修の各段階を通じて向上していくものであり、免許状の有効期限や更新制の在り方を考える場合も、教員のライフステージの区切りを考慮する必要があるのではないか。
現行では、専修、一種、二種免許状の保有者の間で、資質能力に大きな違いはなく、免許状の種類に応じて有効期限に差異を設けることは、教員の間に混乱をもたらすのではないか。
3.適格性や専門性向上等の判定基準・方法
- 適格性の判定は、免許状保有者に共通に求められる最小限必要な資質能力を有しているかどうかを基準として行うこととしてはどうか。
- 専門性向上の確認は、有効期限内における一定の講習の受講状況や自己研鑽の状況を基準として行うこととしてはどうか。
- この場合、適格性の判定及び専門性向上の確認のそれぞれについて、具体的な判定基準・方法を定めておくことが必要ではないか。
- 一定以上の勤務実績については、少なくとも有効期限の半分以上の期間についての勤務実績が必要ではないか。
4.更新制と上進制度等との関係
- 教員は教職経験を積むことで専門性が向上するという現行の上進制度の理念を踏襲し、例えば、有効期限内における一定の講習の受講や自己研鑽の状況の評価に応じて所定の単位を付与することとするなど、更新制と連動して上級免許状の取得が促進されるような仕組みを設けることとしてはどうか。
- この場合、一定の講習としては、大学等が開設する講習のほか、現職研修(初任者研修、10年経験者研修等)についても、免許制度上の評価において専門性向上が期待できるものは対象とすることにより、更新制と現職研修とが相まって、専門性の一層の向上(上級免許状の取得)が促進されることとしてはどうか。
- 同様に、教員の自己研鑽についても、免許制度上の評価において専門性向上が期待できるものについては、上級免許状の取得につながる単位付与の対象に含めてはどうか。
更新制と上進制度を連動させる場合、一定の講習については、都道府県の教育センター等が開設する講習のほか、大学や民間が開設する講習等も考えられるが、これらが上級免許状を授与する上で、適切かどうかのチェックが必要ではないか。
5.免許状の失効の効果
- 免許状が失効した場合、引き続き教職にとどまることはできなくなるが、その場合の教員の身分上の取り扱いについては、任命権者(私立学校の場合は雇用主)の判断によるものとして、免許状の失効とは切り離してはどうか
6.免許状の失効後の再授与の在り方
案1
- 免許状が失効した場合、どのような理由であっても、一定の要件(例えば講習の受講等)を満たすことで、免許状の再授与の申請を可能とする。
案2
- 一定以上の勤務実績がないため、免許状が失効した者等については、案1と同様とする。
- ただし、適格性の判定により失効した者については、一定期間(例えば、3~5年程度)を経過するまでは、再授与の申請は認めないこととする。
7.免許状の種類ごとの更新制の取扱い
案1
- 更新制は、全ての普通免許状について同等に適用する。
- 特別免許状も更新制の対象とし、有効期限等を見直す。
- 臨時免許状は、現行と同様の取扱いとする(有効期限3年)。
案2
- 更新制のうち、適格性の判定については、全ての普通免許状について、同等に適用する。
- 一方、専門性向上の確認は、免許状の種類に応じて差異を設ける(例えば専修免許状については、適用の対象外とする等)。
- 特別免許状及び臨時免許状の取扱いは案1と同様とする。
8.いわゆるペーパーティーチャーを含む一定以上の勤務実績がない者の取扱い(再掲)
- 有効期限内に、一定以上の勤務実績がない者については、免許状が失効することとする。
- ただし、一定の要件(例えば、講習の受講等)を満たすことで、免許状の再授与の申請を可能とする。
一定以上の勤務実績の評価にあたっては、長期間、非常勤講師として勤務した後、正規採用される者が少なくない現状を考慮する必要があるのではないか。
9.複数の免許状を保有する者の取扱い
- 複数の免許状を保有する者については、更新制の導入により、過重な負担が生じないよう、例えば、適格性の判定は同じ勤務実績を基に行うこととするなど、更新要件等において工夫を講じることとしてはどうか。
10.現に免許状を有する者(特に現職教員)の取扱い
案1
案2
- 更新制の適用の対象外とするが、現職教員について、一定期間ごとに適格性や専門性向上の確認を行うような仕組みを設けることについて検討する。