〔3-3〕高等教育の質の保証

(1)保証されるべき「高等教育の質」

  • 事前規制から事後チェックへという流れの中、大学設置に関する抑制方針の撤廃や準則主義化、特に一定の組織改編が届出で可能となったことを主な契機として、多様な大学等が設置されるにつれて、国際的通用性や学習者保護の観点から高等教育の質の保証が課題となる。
  • 競争的環境の中での各高等教育機関の個性・特色の明確化が一層進む中にあっては、学習者や社会の信頼を保持する上でも、高等教育の質の保証は重要であり、国としての基本的な責務である。
  • 本来、保証されるべき「高等教育の質」とは、教育課程の内容・水準、学生の質、大学教員の質、研究者の質、教育・研究環境の整備状況、管理運営方式等の総体を指すものと考えられる。したがって、高等教育の質の保証は、行政機関による設置審査や評価機関による大学評価のみならず、カリキュラムの策定、大学入学者選抜、大学教員や研究者の養成・処遇、各種の財政支援、教育・研究活動や組織運営の状況に関する情報開示等の全ての活動を通して実現されるべきものである。
  • 以下では、主に高等教育サービスの質に着目して質の保証を考えることとする。

(2)設置認可の重要性と的確な運用

(ア)事前・事後の評価の適切なバランスによる質の保証

  • 高等教育の質の保証は事後評価のみでは十分ではなく、事後評価までの情報の時間的懸隔に伴う大学選択のリスクを学習者の自己責任にのみ帰するのは適切でない。
  • サービスという観点から見た場合には、学校教育の機能には、一般性と特殊性がある。特殊性とは、情報の非対称性、利用者が「学生」であること、単なる知識・技能の取得とは異なる(師弟関係や友人関係を含めた)学習環境の必要性、サービス享受後の効果に永続性があること、サービスの提供とその効果の検証に一定期間を要すること等を指す。
    学校教育が一般的にはサービスとしての市場性を有することに留意しつつも、「高等教育の質」に関しては、市場万能主義に依拠するのでなく、教育サービスの質そのものを保証する観点を重視していく必要がある。
  • 高等教育の質の保証の一環としての事前・事後の評価の関係については、双方の適切なバランスを確保することが重要である。特に、一定程度の事前評価は必要であるとの観点から、設置認可制度について、我が国の高等教育の質の保証の仕組み全体の中での位置づけを一層明確化し、的確に運用すべきである。また、事後評価は、速やかにシステムを整え、十分効果的なものとなるよう発展させていくべきである。

(イ)設置認可制度及び設置基準の性格・役割

  • 大学等の設置認可制度の位置づけを明確化するに当たっては、審査の内容や視点等について、更に検討を深める必要がある。例えば、大学教員の質を審査することは極めて重要である。社会の需要に的確に対応した、大学に求められる学問的水準の教育・研究活動を担う個々の大学教員の資質及び教員組織全体のバランスが、「大学とは何か」という根本的な問題意識との関連で十分に点検・確認される必要がある。実効性ある審査のためには、「専任教員」や「実務家教員」の意義や必要とされる資質・能力等について、更に具体化・明確化する努力が必要である。また、大学が個々の教員の資質の確保・向上のために講ずる組織的な方策についても、引き続き、何らかの形で点検・確認されることが望ましい。
  • 現行の大学設置基準等の規定は定性的・抽象的なものが多く、設置審査の具体的な判断指針としては必ずしも有効に機能しにくい面がある。今後は、設置基準の性格を設置後の評価活動とも連携させたものとして捉え直していくとともに、時代の変化に常に対応した基準となるよう不断の見直しを行っていく必要がある。
  • なお、規制改革の一環として、設置認可については届出制の導入等の大幅な弾力化が逐次進められており、大学等の参入や組織改編は大きく促進されている。今後は、これらの制度改正の効果等を十分に見きわめつつ、教育の質の国際的通用性や学習者保護の観点から適切に対応する必要がある。

(3)自己点検・評価の充実

  • 高等教育の教育・研究水準の維持・向上を図るための評価としては、各高等教育機関が不断に教育・研究活動等の状況について自己点検・評価を行い、結果を公表するとともに改善に向けて努力することが基本である。

(4)認証評価制度の発展

(ア)機関別、専門職大学院評価及び分野別評価

  • 認証評価制度は、事後チェックの中核として極めて重要であり、高等教育の質の維持・向上のため、社会に早期に定着し活用されることが望ましい。
  • 事後チェックに関しては、機関別評価と専門職大学院評価のみでなく分野別評価についても積極的に採り入れられることが期待される。その際、分野の特性に応じて学協会等関係団体の参画・協力を得ることも考えられる。また、教育に関する分野別評価に関連して、他の参考となるべき特色ある取組を促進する方策について検討すべきである。
  • 評価結果に関する情報については、適時適切に社会や学習者に提供されるなど、高等教育の質の維持・向上のために活用されることが望ましい。

(イ)評価団体の評価方策

  • 認証評価制度をはじめとした大学評価の仕組みが社会に定着して活用されるに伴い、評価する側の適正さを担保するための仕組みを整えることがより重要となろう。今後、十分に検討する必要がある。

(5)評価と教職員個々人の資質・能力の向上

  • 高等教育の質の保証を考える上では、大学教員個々人の教育研究能力の向上や事務職員・技術職員等を含めた管理運営や教育研究支援の充実を図ることも極めて重要である。大学評価とファカルティ・ディベロップメント(FD)やスタッフ・ディベロップメント(SD)との連携方策等についても今後更に検討を深める必要がある。

(6)教育内容・方法、財務状況等に関する情報の開示

  • 教育内容・方法、財務状況等に関する情報や設置審査を通して明らかとなった課題や情報を当該機関が積極的に学習者に提供するなど、社会に対する説明責任を果たしていくことが期待される。
  • また、当該機関による情報開示だけでなく外部からの評価も併せて提供されることが学習者の便宜のために重要であり、認証評価機関による機関別評価に加え、分野別の評価が定期的に実施されることが望ましい。

(7)経営状況の悪化した高等教育機関への対応

  • 社会・経済情勢の変化に伴い、高等教育機関を取り巻く経営環境は厳しさを増しつつある。各機関は、長期的な18歳人口の減少を見据えつつ、自ら経営努力を行うことがますます求められる。
  • 各高等教育機関の経営改善を支援するため、国による指導・助言体制や関係機関による財務分析・経営診断体制の整備を一層図る必要がある。
  • 今後、少子化の影響やこれらの評価等の結果により、学生数が大幅に減少して経営が困難となる機関も生ずることが予想される。中には、様々な手立てを講じてもなお経営が好転せず、学校としての存続自体が不可能となることもあり得る。そのような際には、特に在学生の就学機会の確保を最優先に対応策が検討されるべきであり、そのために関係機関の協力体制を作っておくことが必要である。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

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