2.国民の学習活動を促進する具体的方策

(1)「学び」の機会を総合的に提供・支援するシステムの構築

  • 就業・起業やボランティア活動等社会参加等の新たなチャレンジをしようとする人に対し、地域や社会、産業界のニーズを具体的に把握・明確化し、キャリア形成支援を含めた学習相談を行うとともに、必要な知識・技術が修得できる学習機会を、大学・専修学校・企業・NPO等の民間団体等の協力を得つつ社会教育施設等において提供するなど、学習相談から社会参加までを一貫して支援する学習支援システム(ワンストップ・サービス)を構築する。その際には、産業界・大学・専修学校・行政・NPO等の民間団体等の連携を強化する必要がある。
  • あわせて、このような取組を進める民間団体等の自立的、継続的な活動を支援するため、民間の資金の活用も含めた財政的な基盤を確立する方策を検討することが重要である。
  • 社会教育施設・大学・専修学校・企業・NPO等の民間団体において、社会人のキャリアアップや地域活動の参加に役立つ実践的な教育プログラムを共同で開発し、このような教育プログラムの学習成果が広域的に通用し、活用されるようその普及を図る。
  • また、従来企業内で行われていた個人の能力開発について、近年「会社主導から、自助努力へ」という傾向が中小企業を中心に強くなっていることや、非正規社員の学習機会が少ないことを踏まえ、地域のニーズに応じて社会教育施設等において提供される学習プログラムや学習相談の機会については、情報通信技術を活用しつつ、広く提供するような学習支援に関する取組を支援することが重要である。
  • また、地域や社会が求める一定の能力を証明し、職業や社会活動に生かすため、大学等によって提供される比較的短期の教育プログラムを受講して得られた学習の成果に対し、学位以外の一定の「履修証明」を与える取組が考えられる。
  • 放送大学においては、生涯学習機関として広く国民に大学教育の機会を提供し、大学進学や大学院教育の機会の充実等により生涯を通じた学びの機会の拡大を図ってきたところであり、一定の科目群を学んだ学生に対して学位以外の履修証明を与える制度(「科目群履修認証制度」)の導入や、社会人等の再チャレンジ(「学び直し」の機会の充実)のため教員・看護師の関連免許取得等のキャリアアップの機会の充実を図っている。今後、このような制度や取り組みが社会的に活用されるよう支援することが必要である。
  • 今後、情報通信技術の発展により、学習機会の提供・支援方策についても、様々な形態が考えられることから、例えば、携帯電話、インターネット配信、地上デジタルテレビ放送などの複数の情報流通・配信手段に対応した社会のニーズが高い優れた教育用コンテンツの視聴・利活用など、新たな形態による教育用コンテンツの活用を促進するための方策について検討を行う必要がある。

(2)個人の「学び直し」に対する支援

  • 学習活動を行う上で、時間や場所などに起因する制約要因を解消するため、産業界・大学・専修学校・行政・NPO等の民間団体等が連携し、インターネット等情報通信技術を通じて、キャリアアップ等に資する学習コンテンツの提供や学習相談を行う「生涯学習プラットフォーム」(学習活動を推進する地域の基盤)の形成を支援する。
  • また、国立教育政策研究所「教育情報ナショナルセンター」においては、例えば、職業に関する学習情報を提供する場合、各職業に必要な知識・技術・経験など、学びたい人々が必要とする情報を分かりやすく提供するとともに、情報通信技術を活用した学習機会の拡大のため、「エル・ネット(教育情報衛星通信ネットワーク)」をインターネット化し、オンデマンド方式による学習情報の提供を行う全国的なシステムを構築する。
  • 「学び直し」やキャリアアップへの経済的支援策として、多様な財政支援の充実を図るとともに、海外の支援実態やその有効性等も検証した上で、個人のライフステージや経済状況に応じた支援の在り方について検討を行うことが重要である。

(3)学習成果が適切に生かされ評価される方策

  • 国民一人一人の学習活動を促進するためには、個々人の学習成果が社会全体で幅広く通用し、社会のそれぞれの場において活用できることが重要であり、そのためには、学習内容を相互に比較し、それを評価する制度の構築が必要である。
  • しかしながら、このような制度の必要性は従来も指摘されているものの、多種多様なあらゆる学習成果を客観的に定量化して評価できる適切な尺度や方法等はいまだ構築されていないため、学習成果の社会的通用性の確立に向けた具体的な施策はこれまで講じられて来なかった。
  • 特に、地方公共団体や民間においても、国民の学習の意欲に対応した各種の学習機会の提供が活発に行われているが、これらは、それぞれ実施主体が独自に設定した仕組に基づくものであり、全国的な制度的枠組は存在しないため、学習内容の開示状況や学習成果の信頼性は様々であり、学習者の利益が十分に保護されているとは言えない状況にある。
  • このため、学習成果の評価の社会的通用性を向上させるための方策の第一歩として、社会に存在する多様な学習機会の中から、個々の学習者が選択する際の判断材料を提供するとともに、学習成果の社会的な認知度を高めるために、全国レベルの生涯学習に係る登録制度の創設を検討する必要がある。
  • 具体的には、個々人の学習成果を検定により評価し、当該検定に合格したかどうかの判定を行うもの(資格)について、全国レベルでの一定の基準を満たすものを登録することにより、個々の検定の安定性、継続性及び情報の真正性を確保する仕組(「登録生涯学習検定制度(仮称)」)を検討することが考えられる。なお、個々の検定の内容評価については、あくまで広く社会ににおける評価に委ねることとし、国レベルの役割としては、社会における評価に資するべく、登録された検定に係る情報を学習者に利用しやすい形で提供することに留意すべきである。
  • 本制度の普及・定着状況を踏まえつつ、将来的には、学校の卒業認定とは別に、社会教育施設・大学・専修学校・企業・NPO等の民間団体等が提供する学習内容(学習成果)を評価し、全国的な通用性を保証するための制度を構築することが考えられる。
  • このため、例えば、ナショナルセンター機能を持つ第三者機関が学校の卒業認定以外の一定の学習成果を評価する仕組の構築について検討することが重要である。その際、同センターにおいては、学習成果の評価の仕組や客観的に定量化できるような適当な尺度・方法等の研究、学習成果の評価に関する情報の収集・提供等を行うことが考えられる。
  • その他、学習成果が就業やキャリアアップ、ボランティア活動等の社会参加等につながり、社会で活躍している者やこのような学習活動を支援する団体等に対する顕彰制度を創設し、国民にとって身近な事例を提示し、広報活動を充実するなどによって学習の意欲を喚起することが考えられる。

(4)若年者・女性・団塊世代・高齢者に対する支援

  • ニート・フリーターの予防策として、生涯学習の理念の観点から、自ら学び自ら考え行動する力を育成し、働くことや生きることの尊さを学ぶ機会として若年者に対する奉仕活動・体験活動及びキャリア教育・職業教育を充実するため、学校における奉仕活動・体験活動等に関する連絡・相談を行う連携窓口の設置促進や家庭・地域との橋渡し役となるコーディネーターの養成を行うことが重要である。
  • 高校生など若者層の自主的な進路選択及び職業教育の涵養に資するよう、実践的な職業教育機能を有する専修学校が高等学校と連携するなど職業教育を推進することが重要である。
  • また、専修学校を活用し、就職後早期に離職した者、定年退職を控えた中高年、子育て等により就業を中断した女性、ニート等を対象とし、それぞれの特性等に応じた職業能力の向上のための学習機会の充実を図る。
  • 出産・育児等により離職し、再就職を希望する女性の再チャレンジのため、身近な場所での再チャレンジ支援講座、成功事例(ロールモデル)の収集・提供、学習相談等を行う女性メンターの養成を実施する。
  • 高齢者や団塊世代が、知識・技術・経験等を生かし、学校や地域において活躍できるよう、研修を実施するとともに、高齢者や団塊世代が活躍する場である社会教育施設や学校等へ派遣する「教育サポーター制度」を創設する。

(5)「公共」の課題に取り組む社会教育の振興

  • 平成18年12月22日に公布・施行された改正教育基本法においても、「個人の要望や社会の要請にこたえ」る社会教育の国及び地方公共団体による奨励が規定された。さらに、教育の目標の一つに「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う」ことが掲げられており、この点は今後の社会教育の在り方を考える上で重要である。
  • 少子高齢化、男女共同参画、環境教育、法教育、消費者教育、防犯・防災教育、食育、科学技術理解増進、職業能力の向上に関する学習等、「社会の要請」が強い学習活動が促されるように、これらに関する講座を量的・質的に拡大し、その成果を地域における「公共」の形成に生かすための拠点づくりが求められる。このため、公民館等の社会教育施設の機能を充実することが必要である。
  • 例えば、子どもから大人まで、年齢を問わず主体的に社会の形成に参画することを促すため、趣味・教養を学ぶ場としてのみならず、奉仕活動を通じて社会に対する責任感、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与するための知識・技術や態度等を養う学習機会の提供を推進することが重要である。そのため、学校や公民館等の社会教育施設等において、奉仕活動の機会の提供、受け入れ先の開拓、参加希望者と活動機会のマッチングなどを行う機能を総合的に確保していく必要がある。このような総合的な機能を確保していく際は、中央教育審議会答申「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策について(平成14年7月29日)」で提言された、関係者による連携協力のための協議会や支援の拠点をいっそう活用することなどにより、社会教育関係者が学校等に積極的に働きかけたり、地域における奉仕活動のコーディネート機能を発揮していくことが必要である。また、体験活動について、必要に応じ、学校における単位や就職活動の際の考慮事項として用いられるように、国として企業等に促していくことが考えられる。
  • このような支援については、これまで国や地方公共団体において、青少年教育施設等における青少年の奉仕活動・体験活動の推進におけるセンター機能を整備するなど、重要な役割を果たしてきている。今後、このような国や地方公共団体の社会教育施設が専門的に果たすべき役割について一層明確化し、民間の関係者、学校、行政の更なる連携を強化し、官民双方において、より効果的な取組を行うことが必要である。
  • 生涯学習審議会答申「社会の変化に対応した今後の社会教育行政の在り方について(平成10年9月17日)」では、学習活動を総合的に支援していくためのネットワーク型行政の必要性や社会教育主事について地域づくりのための住民の社会参加の促進という観点を加味した新たな役割等を指摘している。
  • 後者については、特に、平成13年、社会教育に関係のある民間の人材を社会教育行政に積極的に登用できるよう、資格要件の見直しについて社会教育法の改正が行われた。しかし、力量のある民間の人材の社会教育主事への登用や、地域におけるニーズを踏まえた民間の関係者と社会教育行政との連携による学習活動の支援に関する企画・立案、地域社会全体の連携協力等は、いまだ十分とは言い難い。
  • 今後さらに、1.学習活動支援に関する企画・立案等地域における学習活動促進のシステムの構築、2.住民のニーズと地域社会の課題をマッチングさせた学習機会の企画・立案業務や学校支援活動のマネジメント、3.学習成果の積極的な社会における活用、4.教育以外の分野との橋渡し等において、より専門性の高い行政職員として、学習活動に関する相談から社会参加までを一貫して支援できるよう、望ましい社会教育主事の職務、配置、養成の在り方を検討する。また、地域と学校の橋渡し役として、社会教育主事の有資格者を活用する方策について検討する。
  • 図書館には、地域の活性化を目指す個人や団体が必要とする情報や資料、場所を提供し、地域を支える情報拠点としての役割が期待される。このため、住民の生活、仕事、自治体行政、学校、産業など、幅広い分野の課題解決を支援するための相談・情報提供の機能の強化や、図書館のハイブリッド化(印刷資料と電子資料とを組み合わせた資料提供や情報発信)、学校との連携による青少年の読書活動の推進、行政・各種団体等との連携等を進めることが必要である。
  • あわせて、これらの機能を十分に発揮し、図書館活動の質を向上するため、図書館の専門的職員である司書等の知識・技術を高めることが急務であり、望ましい司書等の資格や養成の在り方、研修や再教育の実効性を高める方策を検討する必要がある。
  • 住民が、地域の自然や人々の営み、歴史、文化を学ぶことによって地域の課題を理解し、課題を解決するための活動に積極的に参画していくことが望まれる。このような中で、各地域の博物館は、地域の活性化につながる地域づくりの核として重要な役割を果たすことが期待される。
  • 一方で、博物館は、設置主体、内容等の面で極めて多様化しており、社会教育施設としての博物館の機能、役割を捉え直すことが必要である。このため、現行の博物館登録制度や、多様化、高度化する学習ニーズに対応できるように学芸員制度の望ましい在り方を見直す必要がある。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課

-- 登録:平成21年以前 --