3.教員免許更新制の導入-恒常的に変化する教員として必要な資質能力の確実な保証-

(1)導入の基本的な考え方

 教員として必要な資質能力は、本来的に時代の進展に応じて更新が図られるべき性格を有しており、教員免許制度を恒常的に変化する教員として必要な資質能力を担保する制度として、再構築することが必要である。
 教員免許状に一定の有効期限を付し、その時々で求められる教員として必要な資質能力が確実に保持されるよう、必要な刷新(リニューアル)を行うことが必要であり、このため、教員免許更新制を導入することが必要である。
 更新制の導入により、我が国全体における公教育の改善・充実が期待でき、公教育に対する保護者や国民の信頼が確立する。
 更新制は、いわゆる不適格教員の排除を直接の目的とするものではなく、教員が、社会構造の急激な変化等に対応して、更新後の10年間を保証された状態で、自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ていくという前向きな制度である。
 更新制を導入し、専門性の向上や適格性の確保に関わる他の教員政策と一体的に推進することは、教員全体の資質能力の向上に寄与するとともに、教員に対する信頼を確立する上で、大きな意義を有する。

1.導入の必要性及び意義

○ 教員免許状が、教職生活の全体を通じて、教員として必要な資質能力を確実に保証するものとなるためには、免許状の授与の段階だけでなく、取得後も、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるようにすることが必要である。

○ 教員は、子どもが一生を幸福に、かつ有意義に生きることができる基礎を培うことを職務の本質としており、子どもの一生を左右しかねない重要な役割を担っている。このため、教員には、常に研究と修養に努めることが求められているが、特に近年、学校における教育内容の基準である学習指導要領の不断の見直しが行われており、教員には、新しい学習指導要領に対応した資質能力が不可避的に求められている。また、例えば、子どもの学ぶ意欲や学力・体力・気力の低下、様々な実体験の減少に伴う社会性やコミュニケーション能力の低下、いじめや不登校等の学校不適応の増加、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)や高機能自閉症等の子どもへの適切な支援といった新たな課題の発生等、学校教育をめぐる状況は大きく変化しており、教員免許状の取得後も、教員として必要な資質能力は常に変化している。

○ このような教員をめぐる社会状況の激しい変化や、教員の子どもの教育に果たす役割等を考慮すると、教員として必要な資質能力は、本来的に、時代の進展に応じて更新が図られるべき性格を有しているものと考える。

○ 一方、教員免許状は、学校教育法で規定される初等中等教育段階の学校における、いわゆる公教育を適切に実施する者に授与される資格である。また、教員免許制度は、このような免許状を有する者の資質能力を一定水準以上に確保することを目的とする制度であり、これらの点に鑑みれば、教員免許制度は、その本来的な在り方として、教員として必要な資質能力が更新されるものとして、制度設計が行われることが必要である。

○ これまで、教員として必要な資質能力の保持と向上は、教員の自己研鑽と現職研修に負うところが大きかった。今後とも、現職研修の充実等が重要であることは言うまでもないが、上述のような今日の公教育が直面している課題や急激な変化、教員の果たす役割等に鑑みれば、国民の期待に応える公教育を実現していくためには、教員免許制度を、恒常的に変化する教員として必要な資質能力を担保する制度として、再構築することが必要である。

○ 現在、教員免許状は、臨時免許状を除き、有効期限に制限は無く、一度取得すれば終身有効であるが、教員免許制度を上述の方向で再構築するためには、今後は、教員免許状に一定の有効期限を付することとすることが適当である。
 その上で、教員免許状の有効期限の到来時に合わせて、その時々で求められる教員として必要な資質能力が確実に保持されるよう、必要な刷新(リニューアル)とその確認を行うことが必要であり、このための具体的方策として、教員免許更新制(以下「更新制」という。)を導入することが必要である。

○ 更新制を、上述のような目的の制度として位置付けた場合、導入の意義としては、主に次の点が挙げられる。
 即ち、更新制の導入により、すべての教員が、社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの変化等に対応して、その時々で必要とされる最新の知識・技能等を確実に修得することが可能となる。特に、教員免許状は、国立・公立・私立学校を通じた教員資格であり、現職教員以外にも、多くの免許状保有者がいること、さらに、現在、民間企業経験者等、教員への多様な人材の登用が進んでいることを考慮すると、更新制を導入することにより、国立・公立・私立の設置者の別や地域のいかんに関わらず、およそ我が国全体における公教育の改善・充実が図られることが期待できる。また、教育の機会均等の保証にも、より適切に応えることができることから、公教育に対する保護者や国民の信頼を確立する上で、大きな意義を有するものである。

○ また、教員免許状の更新時に、その時々で必要とされる最新の知識・技能等の修得を求めることとした場合、これを契機とした教員の専門性向上が期待できる。また、向上意欲に富む教員の増加により、教員同士が互いに学び合ったり、自主的な研究活動が活発化するなど、教員全体としての専門性向上が促進されるなどの効果も期待できる。

2.更新制の基本的性格

○ 平成14年の本審議会の答申「今後の教員免許制度の在り方について」では、更新制の導入の可能性について、1)教員の適格性確保のための制度としての可能性、2)教員の専門性を向上させる制度としての可能性の2つの視点から検討を行った結果、「なお慎重にならざるを得ない」との結論に至っている。今回は、当時指摘した課題等を踏まえ、どのような制度が現在必要とされており、また制度としても導入が可能であるのかという観点から、更新制の在り方を検討した結果、「その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図るための制度」として、導入することが適当であるとの結論に至った。

○ 平成14年の答申においては、上述の2つの視点のそれぞれについて、具体的な課題を指摘したが、これらは大別すれば、1)分限制度との関係、2)専門性向上との関係、3)一般的な任期制を導入していない公務員制度との関係、4)我が国全体の資格制度との関係の4つに分類できる。これらの点についての考え方を詳述すれば、別添3のとおりである。

○ 今回提言する更新制は、その時々で必要な資質能力に刷新(リニューアル)することを目的とするものであり、平成14年の答申で検討した更新制とは、基本的性格が異なるものである。
 今回の更新制は、いわゆる不適格教員の排除を直接の目的とするものではなく、いわば、教員として日常の職務を支障なくこなし、自己研鑽に努めている者であれば、通常は更新されることが期待されるものである。したがって、今回の更新制は、教員が、社会構造の急激な変化や、学校や教員に対する期待等に対応して、今後も専門職としての教員であり続けるために、最新の知識・技能を身に付け、更新後の10年間を保証された状態で、自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ていくという前向きな制度であることを明確にする必要がある。

○ 今回の更新制と専門性の向上との関係については、(2)4で述べるように、免許更新講習が、およそ教員として共通に求められる内容を中心に、その時々で必要な資質能力に刷新(リニューアル)するものとして構成されるのであれば、当該講習の受講により、教員としての専門性の向上も期待できるものである。

○ 他方、(2)3で述べるように、更新の要件を免許更新講習の受講・修了とする場合、それが修了できない者は、その時点で教員として必要な資質能力を有していないこととなり、教員免許状は失効するため、更新制は、結果として、教員として問題のある者は教壇に立つことがないようにするという効果を有している。

○ このように、今回の更新制は、その効果に着目すれば、専門性の向上や適格性の確保に関わる他の教員政策と関連しており、したがって、これらの政策を含む教員政策全体の中に適切に位置付けることが、その必要性や意義を明確にする上で、重要である。この点について、今回の更新制は、基本的には教員としての専門性の向上に資する政策であるが、更新の要件を満たさない場合には、教員免許状が失効するという更新制の性格上、教員としての適格性の確保に関連する側面も有しているものである。

○ 既存の教員政策に加え、このような更新制を導入することにより、教員免許制度上、生涯にわたり教員として必要な資質能力を保証するという制度的基盤が確立されることとなる。また、こうした確かな資質能力を基盤として、個々の教員の能力、適性等に応じた多様な現職研修が行われることにより、教員全体について、専門性の一層の向上が期待できる。
 一方、教員としての適格性の確保は、基本的に分限制度等により対応すべき事柄であるが、更新の要件を満たさない場合には教員免許状が失効することから、更新制の導入により、教員として問題のある者は教壇に立つことがないようにするという対応が、これまで以上に確実に行われることが期待できる。

○ このように、今回、新たに更新制を導入し、専門性の向上や適格性の確保に関わる他の教員政策と一体的に推進することは、教員全体の資質能力の向上に寄与するとともに、教員に対する信頼を確立する上で、大きな意義を有するものである。

(2)具体的な制度設計

○ 教員免許状の有効期限:一律に10年間とすることが適当である。

○ 更新の要件と免許更新の実施主体:教員免許状の有効期限内に、免許更新講習を受講し、修了の認定を受けることとすることが適当である。免許更新の実施主体は、免許管理者である都道府県教育委員会とすることが適当である。

○ 講習の開設主体と国による認定:課程認定大学のほか、大学の関与や大学との連携協力のもとに都道府県教育委員会等も開設できるようにすることが適当である。一定水準が維持されるよう、あらかじめ、国が認定基準を定めて認定するとともに、認定後も定期的にチェックを行うなど、講習の質の確保に努めることが必要である。

○ 講習内容と修了の認定:講習内容については、「教職実践演習(仮称)」に含めることが必要な事項と同様の内容を含むものとすること、また、その時々で求められる教員として必要な資質能力に確実に刷新(リニューアル)する内容を含むものとすることが必要である。また、学校種や教科種に関わらず、およそ教員として共通に求められる内容を中心とすることが適当である。修了の認定は、あらかじめ修了目標を定め、受講者の資質能力を適切に判定した上で、修了の可否を決定することが適当である。

○ 受講時期と講習時間:有効期限の満了前の直近2年間程度の間に受講することとし、講習時間については、最低30時間程度とすることが適当である。

○ 受講の免除:教員としての研修実績や勤務実績等が講習に代替しうるものとして評価できる場合には、講習の受講の一部又は全部の免除を可能とすることが適当である。

○ 免許状の失効と再授与:更新の要件を満たさない場合、教員免許状は更新されず、失効することとなるが、その場合でも、免許更新講習と同様の講習(回復講習)を受講・修了すれば、再授与の申請を可能とすることが適当である。

○ 種類ごとの取扱い:更新制は、すべての普通免許状に、同等に適用することが適当である。

○ 複数免許状の保有者:複数免許状の保有者については、一の免許状について更新の要件を満たせば、他の免許状の更新も可能とすることが適当である。

○ 教員となる者及びペーパーティーチャーの取扱い:更新制は、教員となる者を主たる対象者として想定した制度である。ペーパーティーチャーについては、教員免許状の再取得が必要となった時点で、回復講習を受講・修了することが必要である。

1.基本的な考え方

○ 更新制の制度設計に当たっては、教員免許状は職業資格であるとともに、初等中等教育段階の学校の教員としての雇用(任用)資格でもあることから、教員の職業生活をいたずらに不安定なものとしない合理性のある制度とすることが必要である。こうした観点から、更新の要件については、教員免許制度や更新制の趣旨・目的を達成するために必要とされる最小限のものとし、客観性を担保するとともに、更新のための負担も合理的範囲内のものとなるようにすることが必要である。

2.教員免許状の有効期限

○ 教員免許状が、教職生活の全体を通じて、教員として必要な資質能力を確実に保証するものとなるためには、免許状の授与の段階だけでなく、取得後も、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう制度的な措置を講ずることが必要である。このため、一度取得した教員免許状を生涯有効とするのではなく、その効力に有効期限を付することが適当である。

○ 具体的な有効期限については、更新制の目的や更新の要件、教員のライフステージのほか、既卒者の採用が増えている(教員免許状の取得後、一定期間を経過した後に教員として採用される者が増えている)状況等を総合的に考慮すると、最初の有効期限を含め、一律に10年間とすることが適当である。

○ 育児休業期間中や海外の日本人学校に勤務中である等、後述する免許更新講習を受講できない特別の事情がある者については、有効期限等について適切な配慮を講じることが適当である。

3.更新の要件と免許更新の実施主体

○ 更新制については、教職生活の全体を通じて、社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの変化等に対応して、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図る制度とすることが適当である。更新制をこのような目的・性格の制度とする場合、更新の要件については、教員免許状の有効期限内に、一定の講習(以下「免許更新講習」という。)を受講し、修了の認定を受けること(以下「受講・修了」という。)とすることが適当である。

○ 免許更新の実施主体(免許更新の申請受付、免許更新講習の修了の確認、更新された免許状の発行等免許更新に係る業務を行う者)については、現行の教員免許制度との関係や具体的に想定される業務等を考慮すると、免許管理者である都道府県教育委員会(免許状を有する者が教員である場合には、勤務する学校の所在地の都道府県教育委員会、教員以外の場合には、その者の住所地の都道府県教育委員会)とすることが適当である。

4.免許更新講習の在り方

1)講習の開設主体と国による認定

○ 免許更新講習については、教員免許状が課程認定大学における所要の単位修得等により授与されるものであることを踏まえつつ、受講機会を幅広く確保する観点から、課程認定大学のほか、大学の関与や大学との連携協力のもとに都道府県・指定都市・中核市の教育委員会等も開設することができるようにすることが適当である。また、以下に述べるような免許更新講習の内容・方法等を考慮すると、課程認定大学が実施する場合でも、学校や教育委員会等の協力や参画を求めるなど、できる限り学校現場の実態に即した講習が行われるよう工夫することが必要である

○ 教員免許状が更新されるかどうかは、資格の得喪に関わる問題であり、また、更新されればすべての都道府県で公証力を有するものとなることを考慮すれば、更新に当たっては、教員免許状の授与時に相当するような基準を設定することが適当である。

○ このため、免許更新講習の内容・方法等については、全国的に一定の水準が維持されるよう、あらかじめ、国が免許更新講習の認定基準(例えば、講習内容、方法、修了目標等に係る基準)を定め、開設主体からの申請に基づき、国が認定を行うこととすることが適当である。また、認定後も定期的にチェックを行い、認定基準を満たしていないことが明らかになった場合には、認定の取消し等の措置を講ずるなど、免許更新講習の質の確保に努めることが必要である。

2)講習内容と修了の認定

○ 免許更新講習については、教員のライフステージや、その時々の学校教育が抱える課題等を考慮しつつ、多様な講習の機会が用意されることが望ましいが、あらかじめ上述の認定基準において、基本的な内容について定めておくことが適当である。具体的には、以下の2つの要請に応えるものとすることが適当である。

  • 1.(2)で述べた新設科目(「教職実践演習(仮称)」)に含めることが必要な事項(1.使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項、2.社会性や対人関係能力に関する事項、3.幼児児童生徒理解や学級経営等に関する事項、4.教科・保育内容等の指導力に関する事項)と同様の内容を含むものとすること
  • 社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの変化等に応じ、その時々で求められる教員として必要な資質能力に確実に刷新(リニューアル)する内容を含むものとすること

○ また、免許更新講習の内容については、更新制の趣旨に鑑みれば、基本的に学校種や教科種に関わらず、およそ教員として共通に求められる内容を中心とすることが適当である。具体的には、教職専門(例えば、教職の今日的役割、学校における同僚性の形成、家庭や地域社会との連携、子どもの発達や課題の理解、学級経営、生徒指導、教育相談、教育課程の動向と指導の在り方等)を中心に、講習内容を構成することが適当である。(具体的な講習内容のイメージについては、別添4参照。)

○ なお、上述の共通の内容は、あくまで免許更新講習としての認定基準上の内容であり、免許更新講習の開設主体が、認定基準で定める内容以外の内容や認定基準以上のレベルの内容を盛り込んで、講習を開設することは可能である。また、このような講習を受講することは、教員にとっても専門性の向上を図る上で有意義であることから、各課程認定大学や教育委員会等の特色を活かした多様な講習が開設されることが望ましい。

○ 免許更新講習の実施形態については、講義のみではなく、事例研究や場面指導、グループ討議のほか、指導案の作成や模擬授業等を取り入れたりするなどの工夫を図ることが必要である。また、教員免許状の保有者が職務に従事しながら受講したり、保有免許状により、受講機会に格差が生じないよう、例えば、夜間や週末における講習やサテライト教室の開設による講習の実施、インターネット等の多様なメディアを活用した遠隔講習の実施等、弾力的な履修形態を工夫することが必要である。

○ 免許更新講習の修了の認定については、免許更新講習の開設主体が、国が定める認定基準に基づき、あらかじめ各講習科目の修了目標を定め、受講者の資質能力を適切に判定した上で、修了の可否を決定することが適当である。

○ 免許更新講習の内容をいかに充実したものにするかは、更新制の成否を左右する重要な課題である。このため、今後、免許更新講習が、学校現場のニーズに即した、教員にとっても更新後の10年間を保証するものとなるよう、現職研修との関係にも留意しながら、課程認定大学や教育委員会、学校等関係者の協力を得て、速やかにモデルカリキュラムの検討を行うことが必要である。

3)受講時期と講習時間

○ 免許更新講習の受講に当たっては、受講者が自らの事情等を考慮して受講時期を決定したり、学校内に対象者が複数名いる場合でも、計画的に受講できるよう、受講時期にある程度の幅を持たせることが必要である。このため、免許更新講習の受講時期については、有効期限の満了前の直近2年間程度の間に受講することとすることが適当である。

○ 受講時期に一定の幅を持たせる一方で、免許更新講習を刷新(リニューアル)としての中身を伴った、教員にとってもその後の成長に意義のあるものにするためには、一定程度の講習時間を確保することが必要であることから、講習時間については最低30時間程度とすることが適当である。

4)講習の受講の免除等

○ 教員免許状の更新に際しては、免許更新講習のすべてを受講・修了することが原則であるが、日常の教育活動を適切に評価することは意義があることから、教員としての研修実績や勤務実績等が当該講習に代替しうるものとして評価できる場合には、講習の受講の一部又は全部を免除することを可能とすることが適当である。

○ 教員が、例えば基準時間以上に免許更新講習を受講・修了した場合や、より高度な内容の講習を受講・修了した場合には、各任命権者の判断により、その実績を教員評価の一環として評価し、処遇にも反映させるなどの措置を講じることを検討する必要がある。また、高度な内容の講習を受講・修了した場合には、その実績を上進制度(現職教員による上位の教員免許状の取得)において評価する方策について、検討する必要がある。

5.教員免許状の失効と再授与の在り方

○ 3に述べた更新の要件を満たさない場合、教員免許状は更新されず、当該免許状は失効することとなる。教員免許状を有することは、教育職員としての資格要件であり、この要件を欠くに至った場合、公立学校の教員であれば、地方公務員法上の失職に該当することになる。失職は、教員免許状の失効という事由が発生した時点で、公務員としての身分を自動的に失うものであり、分限免職のような処分行為を前提としたものではない。したがって、法律上、何らかの行政行為が必要になるものではないが、実際上は、当該者に、通知等により失職の事実や発生時期等を知らせることが適当である。
 また、国・私立学校の教員の場合については、更新制の導入に伴い、教員免許状が失効した場合の取扱い等について、雇用主と教員との間で、あらかじめ取り決めておくことが必要である。

○ 教員免許状が失効した場合でも、学士の学位等の基礎資格や大学等における所要単位の修得そのものまで否定する趣旨の制度ではないこと、また、民間企業等に就職した後に、再度、教員を志すような者に対して広く門戸を開いておくことは有益であること等から、制度上、教員免許状の再授与の途を設けておくことが適当である。その場合、免許更新講習と同様の講習(以下「回復講習」という。)を受講・修了すれば、失効してからの年数に関わらず、再授与の申請を可能とすることが適当である。

○ このような取扱いとする場合、更新制における教員免許状の「失効」とは、学士の学位等の基礎資格や大学等における単位修得という過去の実績そのものまで無効とされるわけではなく、これらは引き続き有効なものとして評価されるものである。
 今回の更新制では、多数のペーパーティーチャーも対象になることから、その制度化に当たっては、更新制による教員免許状の「失効」の意味が正しく理解されるよう、国において、十分な周知に努めることが必要である。

○ なお、現在、懲戒免職等の事由により教員免許状が失効又は取上げとなった者について、3年を経過すれば、特段の要件を課すことなく、再授与の申請を可能としているが、この点については、再授与の要件を有効期限経過による失効の場合よりも厳格化する方向で、見直すことが適当である。

6.教員免許状の種類ごとの更新制の取扱い

○ 更新制は、すべての普通免許状(学校の種類ごとの教諭の免許状、養護教諭の免許状及び栄養教諭の免許状で、それぞれ専修免許状、一種免許状及び二種免許状)に、同等に適用することが適当である。特別免許状については、普通免許状に準じた取扱いとすることが適当である。臨時免許状については、現行制度上、既に有効期限が付されていることから、引き続き、現行と同様の取扱いとすることが適当である。

7.複数の教員免許状を有する者の取扱い

○ 複数の教員免許状を有する者については、それぞれの免許状について更新制が適用されることとなるが、免許更新講習は、その時々で共通に求められる教員として必要な資質能力に刷新(リニューアル)するものであり、また、仮に各免許状について免許更新講習を課した場合、免許状保有者に過重な負担が掛かり、複数免許状の保有促進に逆行することになりかねない。このため、複数免許状の保有者については、一の免許状について更新の要件を満たせば、他の免許状の更新も可能とすることが適当である。

○ ただし、養護教諭、栄養教諭及び特殊教育諸学校(平成19年度からは特別支援学校)の教諭の免許状については、それぞれの職務の特性等を考慮し、当該免許状に対応した免許更新講習の受講・修了を課すことが適当である。

8.教員となる者及びペーパーティーチャーの取扱い

○ 以上のような制度として、更新制を導入する場合、更新制が、教員となる者(更新制の導入後に教員免許状を取得して、教員になる者。以下同じ。)や、いわゆるペーパーティーチャー(教員免許状を保有するものの、教職には就いていない者。以下同じ。)にどのように適用されるのか整理する必要がある。

○ この点について、教員免許状は教員としての雇用(任用)資格であることから、教員となる者については、将来的にも教員であり続けるためには、定期的に免許状を更新することが必要である。
 一方、ペーパーティーチャーについては、仮に更新しなかった場合でも、学士の学位等の基礎資格や大学等において修得した単位は終身有効であり、回復講習の受講・修了により、教員免許状の再授与の申請は可能であることから、定期的に免許状を更新する必要はなく、新たに教職を志望するなど免許状の再取得が必要となった時点で、回復講習を受講・修了することが必要である(回復講習は、制度上の位置付けは免許更新講習とは異なるものの、受講の趣旨は同じであることから、4.1)~3)と同様に考えることが適当である。)。
 なお、教職には就いていないものの、教職を志望している者や、免許状の保持を希望する者については、定期的に免許状を更新することが必要となる。

○ このように、今回の更新制は、教員となる者を主たる対象者として想定した制度であり、したがって、その制度化に当たっては、上述のようなペーパーティーチャーと更新制との関係や、ペーパーティーチャーが免許状を再取得する場合の取扱いについて、国において、十分な周知に努めることが必要である。

(3)現職教員を含む現に教員免許状を有する者への適用

 現に教員免許状を有する者についても、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図るため、一定期間(10年間)ごとに免許更新講習と同様の講習(定期講習)の受講・修了を法的に義務付け、当該講習を修了しない場合は、免許状が失効することとすることは、必要性と合理性があり、現に教員免許状を有する者に対しても、更新制の基本的な枠組みを適用することが適当である。
 現職教員は、定期講習を受講・修了しなければ、免許状が失効し、失職となることから、一定期間(10年間)ごとに定期講習を受講・修了することが必要である。
 ペーパーティーチャーは、教員免許状の再取得が必要となった時点で、回復講習を受講・修了することが必要である。

1.適用についての基本的な考え方

○ 現行制度においては、一旦授与された教員免許状は、懲戒免職等による失効又は取上げ処分の対象とならない限り、終身有効であることから、現に教員免許状を有する者、特に現職教員に対して、新たに更新制を適用する場合には、相当の必要性と合理性が求められる。

○ 現在、我が国の幼児児童生徒の数は、およそ1,600万人であり、また、現に教員免許状を有する者は、長い者で今後30年以上にわたり、教壇に立つこととなる。このように、現に教員免許状を有する者、特に現職教員が、当分の間、我が国の公教育の中核的な担い手として、多数の子どもの教育に当たることを考えると、今後新たに教員免許状を取得する者についてのみ更新制を適用することでは、公教育に対する保護者や国民の信頼に十分応えることができず、更新制の導入の目的そのものが実現し得なくなるものと考える。

○ また、既に授与された教員免許状が終身有効であることは、一つの既得権益でもあるが、このような権益は必ずしも絶対不可侵のものではなく、前述したような公共の要請により、合理的な範囲内で新たに制約を課すことは許容し得るものと考える。

○ 教員免許制度は、その本来的在り方として、時代の進展に応じて必要な資質能力を担保する制度として構築されるべきものである。したがって、今回の更新制が、前述のように合理性のある制度として導入されるのであれば、現に教員免許状を有する者についても、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図るため、一定期間(10年間)ごとに免許更新講習と同様の講習(以下「定期講習」という。)の受講・修了を法的に義務付け、当該講習を修了しない場合は、免許状が失効することとすることは、必要性と合理性があり、現に教員免許状を有する者に対しても、更新制の基本的な枠組みを適用することが適当である。

2.現職教員及びペーパーティーチャーの取扱い

○ このような対応をとることとする場合、現行制度により授与された教員免許状は、これまでどおり終身有効であり、新たに有効期限が付されるわけではない。しかしながら、現職教員については、定期講習を受講・修了しなければ、免許状が失効し、失職となることから、一定期間(10年間)ごとに定期講習を受講・修了することが必要である。
 一方、ペーパーティーチャーについては、(2)8の場合と同様、教員免許状の再取得が必要となった時点で、回復講習を受講・修了することが必要であり、教職には就いていないものの、教職を志望している者等については、定期講習の受講・修了が必要である。
 このように、定期講習の受講・修了を義務付けるという上述の対応は、現に教員免許状を有する者のうち、現職教員を主たる対象者として想定したものである。

○ なお、定期講習は、制度上の位置付けは、免許更新講習と異なるものの、受講の趣旨は同じであることから、講習の開設主体や講習内容、修了の認定、受講時期や講習時間、研修実績等による受講の免除の取扱い等については、(2)4と同様に考えることが適当である。

○ また、制度導入後、最初の定期講習の受講については、対象者が相当数に上ることから、例えば、制度導入後の一定期間内に個々の対象者の希望を踏まえて、受講時期を指定するなど、円滑かつ計画的に定期講習の受講が行われるような方策を検討することが必要である。

(4)更新制等の円滑な実施のために

 制度導入当初から、現職教員への対応を円滑に行うため、国においては、定期講習の受講の趣旨や制度の仕組み等について十分説明し、理解を得るとともに、現職教員が計画的に定期講習を受講できるよう諸準備を遺漏なく進めていく必要がある。
 都道府県教育委員会における免許管理体制の整備が重要であり、国が中心となって「免許管理システム」の整備を速やかに行うことが必要である。
 更新制の導入や現職教員への対応については、関係者の理解・協力を得るための取組や、導入に向けての諸準備を進める中で、十分な見通しを立てた上で、実施時期について判断することが適当である。

○ 以上に示した改革方策を実現するためには、教育職員免許法等の改正のほか、例えば、関係者への制度改正の周知や、免許更新講習等の開設のための準備、都道府県教育委員会における免許管理体制の整備、都道府県教育委員会等に対する支援等様々な準備が必要であり、今後、これらを計画的に進めていくことが必要である。

○ これらの取組はいずれも必要であるが、特に現に教員免許状を有する者についても、一定期間(10年間)ごとに定期講習の受講・修了を義務付け、修了しない場合には免許状が失効するという更新制の基本的な枠組みを適用する場合、相当数の対象者が見込まれるとともに、特に現職教員については、身分の得喪に関わる制度の変更となることから、制度導入当初から、現職教員への対応をいかに円滑に行うかが大きな課題となる。

○ このため、国においては、都道府県教育委員会や現職教員等に対して、定期講習の受講の趣旨や制度の仕組み等について十分説明し、理解を得るための取組を進めるとともに、現職教員が計画的に定期講習を受講できるようにするための諸準備を遺漏なく進めていく必要がある。
 具体的には、定期講習の対象見込み者数や必要となる講習数等の実施規模を的確に把握するとともに、それを踏まえて、定期講習の受講計画の策定や、モデルカリキュラムの開発と試行、大学や教育委員会等の定期講習の開設主体における準備やこれらの機関に対する支援方策等を検討することが必要である。

○ また、更新制の導入や現職教員への対応を円滑に行うためには、免許管理者である都道府県教育委員会における免許管理体制の整備が重要である。このため、今後、各都道府県教育委員会の実態も踏まえつつ、国が中心となって、免許管理や免許更新に必要なデータを全国規模でネットワーク化し、どの都道府県からでも必要なデータへのアクセスを可能とするような「免許管理システム」の整備を速やかに行うとともに、都道府県教育委員会に対する支援方策について検討することが必要である。

○ さらに、定期講習の受講に当たっては、今でも多忙感を抱いたり、ストレスを感じる者が少なくないと指摘される教員に対して、いたずらに負担を課さないよう配慮することが必要である。このため、定期講習の開設主体においては、講習の開設時期や期間、実施形態の工夫を図るとともに、各学校においても、対象教員については校務を軽減するなど、計画的な受講を可能とする校内の協力体制の確立や、学校の事務・事業の見直し、事後処理体制の整備等、できる限りの配慮をすることが必要である。

○ 更新制の導入については、速やかな実現が求められるが、特に現職教員に対して一定期間(10年間)ごとに定期講習の受講・修了を義務付けることとする場合、今後の行政当局の取組が極めて重要になる。このため、更新制の導入や現職教員への対応については、今後、国において、関係機関や関係者の理解と協力を得るための取組や、導入に向けての諸準備を進める中で、十分な見通しを立てた上で、その実施時期について判断することが適当である。

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