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Q&A

【カビとは】

Q.カビとは、どこにでも生えるものなのですか?

A.生えます。このマニュアルで取り扱っている書籍や文化財(以後、広く「資料」という語を用います)、さらにそれらを収蔵する建築物等にも、カビが生育する環境が整えば必ず発生するものであることを認識してください。カビ発生に関する詳しい説明は[基礎編]1〜3を参照してください。

Q.カビが生えたら、対処すればよいのでは?特に被害が残ったりはしないのでしょう?

A.これまでの文化財保存では、カビが発生した後に行う処置中心の考え方でしたが、1990年代に入り、被害を未然に防ぐ予防中心の考え方に転換しつつあります。カビだけでなく、文化財を損なう恐れのある環境的要因を特定、改善し、整える総合的有害生物管理(IPM)の重要性が提唱されています。また、カビは一度発生すれば、必ず被害が残ります。カビ被害防止の考え方については、[基礎編]4を参照してください。また、カビが与える文化財への影響は、[基礎編]1−3、2−2・カビの色素産生に詳しく書かれています。

Q.収蔵庫は密閉されているので、カビ発生の恐れや清掃の必要もないのでは?

A.密閉され空気の流れが少ない環境では、収蔵庫の場所によっては高湿度環境となり、塵埃と結びついてカビが発生しやすくなります。何より、カビが発生するために必要な条件は、私たちが活動している環境下では、どこでも必要十分に整っていると考えてよいでしょう。そのため長期間収蔵庫を点検整備しないことは、カビ発生の危険性が高まります。収蔵施設の温湿度の記録と監視、施設や資料の目視点検、定期的な清掃は、保存環境維持のための基本的な作業と認識してください。具体的な管理の仕方については、[基礎編]4、[実践編]1に詳しく出ています。

【カビの発見】

Q.カビが発生したことが最も分かる特徴は何ですか?臭い?見た目?

A.カビ独特のいわゆるカビ臭さは、カビが発生していることを知らせる重要な手がかりの一つでしょう。日常的な管理の中で、臭いや見た目の異変などに気を配ることは大切です。詳しくは[基礎編]3、[実践編]2を参照してください。

Q.カビを発見するために、必要な器具はありますか?

A.懐中電灯(LED光源がベター)、虫眼鏡、マスク、デジタルカメラ(記録用)などがあると便利ではないでしょうか。詳しくは[基礎編]3−1〜4、[実践編]2を参照してください。

Q.資料に白っぽい斑点があります。カビなのか染みなのか区別できません。

A.まずは虫眼鏡で観察してみましょう。詳しくは[基礎編]3−1〜4、[実践編]2を参照してください。

Q.観察したところ、カビのようです。生きているのか、死んでいるのか区別できません。

A.詳しくは[基礎編]3−3を参照してください。

【カビ被害防止のための管理について】

Q.施設の把握とは、どのように進めていけばよいですか?

A.まずは施設の見取図に添って外周全体を回り、水回りの処理の悪そうな場所はないか検討します。資料や作品のある室内では、カビの生えそうな場所はないか目視点検するほか、温湿度の記録を取り始めることから始めてはいかがでしょうか?詳しくは[基礎編]4を参照してください。

Q.施設の把握のために、そろえておくべき資料はありますか?

A.建物の平面図や水系の配管図、各室扉の開閉状況(昼間・夜間)、空調の設定条件と稼働状況に関する情報など、建物全体の温度分布や水回り処理について検討するための基本的な情報が必要です。

Q.施設の問題を把握するために、必要な器具はありますか?

A.まずは温湿度を測ることができる器具が必要です。具体的には、自記温湿度記録計やデータロガー、やや遠い場所の表面温度を測定できる赤外線表面温度計などでしょうか。詳しくは[実践編]1を参照してください。

Q.施設内でカビが特に生えやすく、注意したほうがよい場所はありますか?

A.収蔵庫内では、隅のほうなど、風が通りにくい場所の湿度が高くなりがちです。窓がある場合には、その近傍では湿度が高くなることがあります。施設全体では、エントランスホールのガラス面の近くでは結露が起こり、カビが繁殖している場合もあります。詳しくは[基礎編]4、[実践編]1−4を参照してください。

Q.カビ被害を記録しておこうと思います。どのように記録すればよいでしょうか?

A.発生した日時、場所、状態の記述をしておくとよいでしょう。また、写真を撮って記録しておくことも重要です。

Q.自分の施設の問題が、どの程度深刻なものか見当がつきません。レベルチェックのようなものはありますか?

A.カビが生えやすい環境となっているかどうか判定する方法には、温度・湿度などの環境条件を測定してシミュレーションソフトで判定するシステムや、カビを封入したスライドグラスを環境中に置いて生育した菌糸長さで判定するシステムが、商業的に提案されています。

Q.どの程度の頻度で見回りをしたほうがよいでしょうか?

A.施設の状況によりますが、日常的に目を通すことができるのが理想的です。できれば半期から半年に一度の清掃の時にあわせて見回りをしてはいかがでしょう?詳しくは[実践編]1−6を参照してください。

【カビの発生しない環境づくり】

Q.カビが生えないようにするには、どうしたらよいですか?どのようなデータに気を配ればよいですか?

A.まずは相対湿度が65パーセントを恒常的に越えていないか監視してください。また、室内の温度分布も大きいほど湿度たまりができやすくなります。温度湿度は常時計測記録しましょう。詳しくは[実践編]1−3を参照してください。

Q.カビが生えないように、避けた方がよいことはありますか?

A.突発的な事故・天災も含めて、水がかかりやすい場所に資料や作品は置かないようにします。例えば、空調の吹き出し口も、結露水が落ちてくることもありますし、冷気が当たることで湿度が高くなりがちですから、吹き出し空気がどこにあたるか考えて、資料や作品は収納しましょう。ステンレス製の棚板は熱伝導が早く室内でもっとも早く冷えるため結露・高湿度に見舞われやすいため、資料や作品を置くときには板や中性紙段ボールなどの断熱性の高い多孔質素材を間に挟むとよいでしょう。

【定期的清掃】

Q.清掃が大切ということですが、どのくらいの頻度で行えばよいでしょうか?

A.

  • 施設外周・共通部分→被害を受けやすいので、毎日清掃します。
  • 収蔵庫→3年に1回を目安に、資料回りの清掃をします。
  • 展示ケース→3ヶ月に1回、展示替えに合わせて清掃します。

Q.収蔵庫の清掃作業としては、どのような作業がありますか?

A.床清掃は比較的容易かと思われますので、可能であれば3〜6ヶ月に1回、清掃できると良いでしょう。除湿器や空調機などのフィルターを定期的に清掃しないと、能力が下がり、思わぬ環境条件となりカビ被害に遭うこともあります。[実践編]1−1も参考にしてください。

Q.ケース内の清掃としては、どのような作業がありますか?

A.床および展示壁の掃除機による清掃が、カビ発生抑止には効果があります。

Q.効率のよい掃除の仕方と手順が分かりません。

A.基本的に上から下へ清掃します。塵埃の除去が目的ですので、埃等が著しく発生しない清掃方法を選んでください。詳しくは[実践編]1−1を参照してください。

Q.掃除機を購入することができそうです。どのような性能のものを選んだらよいでしょうか?

A.掃除機については、性能が良くても重いものは清掃頻度が下がりますので、使いやすい掃除機を使用して、頻繁に集塵袋を廃棄すると良いでしょう。排気の風が床にあたるような掃除機は、床からの発塵量が増えますので、本体を持ち上げる、あるいはチューブ等で室外へ排風を誘導するなどの工夫が必要です。詳しくは[実践編]1−1を参照してください。

Q.HEPAとは何でしょうか?

A.[実践編]1−1を参照してください。

Q.掃除機や掃除用具は収蔵庫用、前室用、展示ケース用など、使う場所によって分けたほうが良いでしょうか?

A.収蔵庫、展示ケース内、前室など共用部分用の掃除用具は分けたいところです。掃除用具が汚れていては汚染の原因になりかねません。詳しくは[実践編]1−1を参照してください。

Q.清掃の際、住宅用洗剤などは使ってもよいでしょうか?もしくは文化財用のものがありますか?

A.塩素系の住宅用洗剤は、アルカリ性に調整してあり、使える場所は限られます。また若干量ですが染料などを脱色するガスなどが発生することもあり、文化財の近傍で使う場合には、十分に換気して残留しないように注意することが必要です。詳しくは[実践編]1−1を参照してください。

Q.収蔵庫の床を掃除する場合、水拭きしてもよいのでしょうか?

A.水拭きできる床材の場合には、固く絞った雑巾等で塵埃を除去できます。その後は通風して十分に乾燥したことを確認するようにしましょう。詳しくは[実践編]1−1を参照してください。

Q.最近、空調機が汚れているような気がします。空調機からカビが発生することがありますか?

A.空調機の吹き出し口が汚れているために、カビが発生していることはあるようです。また空調機内の冷却ファンは結露させて除湿する機構であり、元来、カビが繁殖しやすい場所です。空気の採り入れ口また送風口にフィルターが設置されている構造の空調機を採用し、適切にフィルター清掃や取り替えなどの管理をしてください。詳しくは[実践編]1−2を参照してください。

Q.空調機をどうやって清掃したらいいか悩んでいます。収蔵庫内なので、業者に委託することができるでしょうか。

A.業者の出入りと作業の進め方については、職員が立ち会う必要があるでしょう。収蔵庫への入退室に関しては、記録簿などにつけておくとよいでしょう。詳しくは[基礎編]4を参照してください。

Q.まとまった清掃作業の時間がとれません。今日は収蔵庫の棚の清掃、今日は床掃除など、作業毎に小分けに行っても効果は変わりませんか?

A.清掃作業をある程度小分けに行なってもよいように思われます。詳しくは[実践編]1−1を参照してください。

【温湿度のモニタリング】

Q.収蔵庫と展示ケース内に温湿度計を設置しようと思います。何カ所くらい、どのあたりに設置するのが適当でしょうか?

A.収蔵庫内については中央の比較的空気の通りの良い場所に1台、重要な資料を収納している、あるいは庫内で空気だまりとなっていると推測される隅の低い位置などに2台目を設置して、温度差、湿度差について監視すると良いでしょう。詳しくは[実践編]1−3を参照してください。

Q.温湿度計を設置しました。どのくらいの頻度でチェックするのがよいですか?

A.週一回程度チェックできると理想的です。季節や天候による環境の変化、空調機の癖などもつかむことができるでしょう。詳しくは[実践編]1−4を参照してください。

Q.温湿度計として、毛髪式温湿度計を使用しています。最近、きちんとした値が出ていないようにみえます。どうしたらよいでしょう?また、正しい値を知るには、どうしたらよいでしょう?

A.毛髪式温湿度計の較正は3ヶ月に1回、塵埃が多い、あるいは化学物質の影響を受けた場合にはセンサーのクリーニングを行う必要があります。クリーニングについては設置・購入業者にご相談ください。詳しくは[実践編]1−3を参照してください。

Q.データロガーを使用しています。最近、きちんとした値が出ていないようにみえます。どうしたらよいでしょう?

A.データロガーの較正は、2〜3年に1回必要です。数台使用している場合は、同じ場所において、誤差以内に測定値が収まっているか確認すると良いでしょう。較正は、設置・購入業者にご相談ください。詳しくは[実践編]1−3を参照してください。

【気流のモニタリング】

Q.収蔵庫内の空調機からの吹き出しが、上手く回っているか心配です。空気のよどみをみるのに、効果的なことはありますか?

A.とても難しい技術です。資料や作品がある状態で、ドライアイスによる水粒を見る、あるいは煙を焚くなどの方法は採用できず、簡単に可視化できません。温暖化計数の高い特殊なガスを使っての計測もお勧めできません。薄くて軽い材料で吹き流しを作り可視化する方法もあります。詳しくは[実践編]1−5を参照してください。

【資料の点検】

Q.資料を取り扱う際、留意する点について教えてください。

A.資料を扱う前には必ず手を洗う、消毒アルコールで手を清める、資料の状態をみる(カビチェック)、問題があれば記録し報告する、などが考えられます。
詳しくは[実践編]1−6を参照してください。

Q.資料貸出の際、点検していてカビを見つけてしまいました。その場でどの程度処置するべきでしょうか?貸出作業中で時間もありませんが、他の資料への影響も心配です。

A.放置すれば空気の流れに沿って汚染が拡大する可能性があります。まず隔離しましょう。詳しくは[実践編]3−1を参照してください。

Q.資料の受入に際して留意することはありますか?

A.資料の保存状態のチェックの一環として、カビの有無は確認しておきたいところです。また、資料にカビが生育していることを想定して、受入に入る前に受入資料を収蔵品から隔離して保管しておく仮置きの場所を確保しておくことも大切です。詳しくは[基礎編]4、[実践編]3を参照してください。

Q.受け入れた資料にカビが生育しています。収蔵庫に入れる前にどうすれば良いでしょうか?

A.収蔵庫内に汚染が拡がらないように、資料を隔離することが必要です。詳しくは[実践編]3を参照してください。

Q.本体だけの資料を受け入れました。そのまま収蔵していてもよいでしょうか?

A.資料の大きさや材質にもよりますが、資料への塵埃の堆積を避けるために保存用の箱に入れて収蔵しておくことをおすすめします。

Q.資料を貸し出すときに、先方へ収蔵環境の資料など提出していただくべきでしょうか?

A.カビの発生しやすい資料については、その点について注意が必要であると申し添えると良いと思います。詳しくは[基礎編]4を参照してください。

【環境整備・湿度】

Q.収蔵庫、展示ケース内の温湿度は、どの程度に保つようにすれば良いでしょうか?

A.温度変化が少ないところでは、65パーセントを超えないように制御すれば、カビの大繁殖は起こりにくくなります。温度変化が大きいと湿気だまりができますので、より低い湿度に保つ必要があります。また、乾燥した条件でも育つカビもありますので、温度湿度の制御だけでカビが繁殖しないように制御するのは難しく、清掃と組み合わせて管理してください。詳しくは[基礎編]2、4、[実践編]1を参照してください。

Q.収蔵庫の湿度が高く、カビが出やすくなっています。湿度を下げるのに有効な方法はありますか?

A.絶対水分量のより少ない乾いた空気を室内に取り込めば徐々に乾燥しますが、取りこむ空気もHEPAフィルターを通し室内温度と大きな差がないように調整してから取りこむ必要があります。資料がたくさんある場合には、資料が吸った水分を空間に吐き出してくるので、除湿機などの増設をしないと、湿度を下げるのは難しいでしょう。詳しくは[実践編]3−4〜5を参照してください。

Q.収蔵庫に空調が無く、風通しが悪くてカビが出やすくなっています。どうしたらよいでしょうか?

A.除湿機を増設することが必要です。またすぐに購入できなくても、資料周りの清掃を進めてカビの栄養分を除去することで、カビの生育を遅くすることができます。こまめに清掃しましょう。詳しくは[実践編]1−1、[実践編]3−4〜5を参照してください。

Q.建物が古いためか、高湿度で安定した状態です。無理に湿度を下げる必要はありますか?

A.建物が古い場合には密閉度が低く、除湿機などを稼働させても効果がないこともあります。
結露や水分のよどみがなければ、カビは生育しにくいものです。除湿機などを導入することで、かえって局部的に温度があがり、乾燥することで塵埃が発生しやすくなる場合もあります。資料周りの清掃で対応しつつ、カビの発生について監視していかれたらどうでしょうか。

Q.漆器など、湿度が必要な資料を収蔵しています。高湿度の状態ではカビが発生しやすいといわれますが、どんなことに気をつけて管理をすれば、カビを防げるでしょうか?

A.制作直後の漆器は高湿度に保つ必要がありますが、70パーセントを超える状態で保管すれば、漆器の汚れやむき出しの木地があればカビが育つおそれがあります。栄養分の除去が必要ですので、器物の清潔を保つともともに、収納箱についても除菌・除塵して管理していきましょう。

Q.展示ケース内での基本的な調湿方法の考え方と仕組みを教えてください。

A.展示ケースの調湿方法には、大きく分けて、湿度変動を緩和する能力のある調湿剤を用いる方法、ケース内に空調空気を流す方法と展示ケースのある展示室内の湿度を調整する方法があります。調湿剤で調整する場合には、展示ケースの気密性が高いことが必要です。調湿剤の重量を定期的に測り、その重さが変化していれば元の重さになるように調整していく管理が必要です。[実践編]1−5も参考にしてください。

【環境整備・施設】

Q.壁面の近くは結露しやすく、カビが発生しやすいと聞きました。しかし、施設が狭く、壁際にも棚や物を置かざるを得ません。対処方法はありますか?

A.壁から10センチメートル離しておくと、自然対流による風が回り、環境を整える上で有利になります。壁際まで資料を配置した場合、3か月に1回くらいの割合で資料を点検することで資料周りの風が動き、カビが生えにくくなります。

Q.棚を新しく設置しようと思います。床付近には湿気が溜まりやすいようですが、一番下の棚は、床からどのくらいまで高さを上げたらよいでしょうか?

A.20〜30センチメートルは上げましょう。

Q.棚が床面近くまで設置されています。カビを防ぐにはどうしたらよいでしょうか?

A.最下段の資料にはカビの生えにくいものを配架する、あるいは3か月に1回程度資料点検をして資料を動かす、などの方法が考えられます。最下段は高さ75〜120センチメートルあたりの空間に比べて相対湿度が5パーセント以上高くなっていますので、相対湿度が高いほうが保管に適している資料を置くと良いでしょう。[実践編]1−4マイクロクライメートも参考にしてください。

Q.棚の間隔が狭く、上手く空気が動いていないようです。何か良い方法はありますか?

A.資料点検も兼ねて、見回りを定期的におこなうようにすると、人間と一緒に空気も動きます。監視体制を再検討されると良いでしょう。

Q.露出で収蔵されている資料があります。収納箱に入れたほうがよいでしょうか?

A.塵埃の堆積を防ぐことが、次の被害を避ける一歩となります。収納箱の誂えが無理でも、薄様紙をかけるようにしましょう。

Q.薄葉紙、綿布団など、梱包材の管理が心配です。どのように収納しておけばよいでしょうか?

A.これら資材は滅菌することが可能です。滅菌後はポリエチレン袋など清潔な環境で保管しましょう。

Q.収蔵庫の湿度を下げるため、シリカゲルを使っています。湿気を吸いきってしまったようなのですが、どうやって調整したらよいでしょうか?再度使えるようにできますか?

A.シリカゲルで吸った湿気は、乾燥した空気に当てたり、加温することで放出させることができます。一般的には恒温槽を使い再生します。フライパンで煎るとはぜてけがをすることがありますので止めましょう。

【滞留した空気の動かし方】

Q.空調機の吹き出しが少々強いように思います。資料に直接風が当たって傷むのが心配です。空気を動かすのに、必要充分な風速、風の向きなどはありますか?

A.風速が資料表面で0.03m/秒(メートル毎秒)より大きくなると、資料表面の保湿層を奪い資料が乾燥するとされています。直接風があたることのないように、ルーバーの向きを変えて吹き出し口の風の方向を変える、資料に薄様紙をかけるなど、何か対策を取りましょう。

Q.大きな資料は、収蔵庫の床にそのまま置いています。風通しのため、すのこなどを敷いたほうがよいでしょうか?

A.床上20センチメートルくらいまで湿気たまりとなっています。床置き資料の周りには塵埃もたまりやすく、清掃しづらいことも問題です。すのこなどを敷くことをお勧めします。

Q.収蔵庫内にカビが発生しました。菌をまき散らさないように、空調など空気を動かすことはやめた方がよいでしょうか?

A.空調していてもカビが生えたのならば、空調を停止すると、その他の場所でもカビが発生するおそれがあります。カビの生えた資料を他の空間から隔離することを考えましょう。詳しくは、[基礎編]5、[実践編]3を参照してください。

【カビ発生資料の処理】

Q.資料本体にカビが生えています。自分たちで対処することはできるでしょうか?それとも、修復の方にお願いしたほうがよいでしょうか?

A.資料表面の状態にもよりますが、一般的には専門の修復作業者に委託するのが安全です。しかし長期間放置すると被害が広がるおそれがありますので、局部的に取り除けるかどうか検討されるとよいでしょう。詳しくは[実践編]3−6を参照してください。

Q.発見したカビは生きているようです。どのように除去すればよいでしょうか?

A.生きているカビを処理するには、まず殺菌することが必要です。大規模被害であればガス燻蒸が必要な場合もあります。ぽつんぽつんと小さなコロニーがある程度であれば、化学薬剤も併用して、胞子などが飛散しないように注意して取り除きましょう。詳しくは[基礎編]5、[実践編]3を参照してください。

Q.カビは死んでいるようです。どのように除去すればよいでしょうか?

A.塵埃などの処理と同じ工程でおこなってください。詳しくは[実践編]3−6を参照してください。

Q.収蔵庫が多湿なので、収納箱にもカビが出ます。防ぐ方法はありますか?

A.収納箱は、オゾン消毒や紫外線を当てるなどの方法で表面を殺菌すれば再使用できます。カビの死骸が残らないように、殺菌後にはしっかり清掃除去してください。

Q.収納箱にカビが出ていました。中の資料までカビが影響している可能性はありますか?

A.収納箱の中の相対湿度は、収納箱の外の相対湿度に比べて変動は小さくなりますが、その平均値は同じですので、収納箱の外にカビが出た場合には中もカビが発生しやすい環境になっています。収納箱外のカビは見つけ次第すみやかに除菌し、内部を点検することをお勧めします。

Q.資料の包み布にカビが出ていました。古い布なので、洗濯もできませんし、どうしたらよいでしょうか?

A.古裂など文化財に準ずる資料は、文化財と同様の取扱いが必要でしょう。作品にカビが移らないように別に隔離して、処置できるまで保管します。専用の保管袋に脱酸素剤と一緒に封入してカビの生育を抑制することもできます。

Q.黒漆塗りの収納箱にカビが出ました。除去しましたが、カビの痕が残ってしまいました。消せませんか?

A.黒漆塗り収納箱のように光沢のある表面にできたカビ痕の除去は、かなり難しいとお考えください。すり漆をすることで目立たなくすることは可能かと思われます。

Q.資料に古いカビの痕があります。これ以上とれないのでしょうか?

A.カビ痕は、物理的に資料が破壊されて生じている場合が多く、目立たなくする処置はとても繊細な修復作業で、修復専門家とご相談ください。

Q.私たちでも使えるカビ除去のための道具があれば教えてください。

A.修復専門家ではない人が作業に用いるとしたら、汚染の拡大を防ぐための緊急処置にかぎられます。作業区画を作るための資材、区画内の空気を清浄にする清浄機等、穂先のやわらかな細筆、赤ちゃん用の細い綿棒で巻きのしっかりしたもの、ガーゼ、消毒用エタノール、ルーペ、先のとがっていないピンセット、記録用のデジタルカメラ、LED光源のペンライトなどがあると便利です。噴霧器は一見便利に見えますが、胞子があると噴霧の勢いで吹き飛ばして汚染を拡大する原因となり、また十分殺菌に必要な時間エタノール濃度を表面に保持することができないため、利用しないほうが良いでしょう。

Q.私たちでも使える、あるいは常備しておくと便利な薬剤があれば教えてください。

A.薬局で買えるものでお答えします。消毒用エタノールはそのまま薄めないで使います。塩化ベンザルコニウム(注1)(“オスバン”と呼ばれています)は、指定のとおり水で希釈して用いますが、棚など資料周りを拭く際に使用できます。いずれも透水性のない手袋で手を保護しましょう。

(注1)塩化ベンザルコニウム
p22図13に記載した塩化ベンジルジメチルドデシルアンモニウムがオスバンである。病院や家庭で汎用されている消毒剤。

Q.カビが発生している場所で作業をする場合の防護用品を教えて下さい。

A.カビは生きている場合にはカビ毒をもつものもあり、死んでいてもアレルゲンとして問題になりますので、呼吸用の保護具が必要です。薬剤を使用しない場合には防塵マスク、薬剤を使用する場合にはその薬剤に対して防護効果のあるものを使用します。消毒用エタノールによる消毒作業であっても、多量に用いる場合には有機溶剤用のガス吸着缶をつけた防護マスクの使用をお勧めします。化学物資安全性シートを取り寄せて、防護方法を確認してください。そのほか、耐溶剤性のある手袋、カビ汚染が激しい場合にはその作業専用の作業着があると良いでしょう。作業着等洗って再使用できるものは毎日洗って、十分な量の太陽光に当てて殺菌すると良いでしょう。

Q.施設が狭いので、資料の点検や貸出作業など、さまざまな作業をする場所の確保がままなりません。その中で特にカビ除去作業用のスペースを設ける必要がありますか?

A.机の上に簡易作業スペースを組んで厚手のポリエチレン袋などで区画すると十分作業スペースを作ることができます。汚染の拡大を防ぐことがもっとも重要ですので、移動式のベンチなどに作業区画を組んでいかれたらどうでしょうか。

Q.資料の点検やカビ除去作業終了後の作業スペースの清掃と用具の後始末の際、気をつける点はありますか?

A.作業スペースについては拭き掃除で十分にきれいになります。規定濃度に薄めた塩化ベンザルコニウムでふき取ると良いでしょう。用具については、十分に滅菌する必要がありますので、洗えるものはしっかり洗って紫外線にあてる、道具類は消毒用エタノールに10分以上浸して、しっかり乾かすと良いでしょう。

【保存体制の見直し】

Q.当館には保存担当者(専門・非専門)がいます。生物被害対策は彼らに一任すればいいのではないでしょうか?

A.カビ被害防止については、早期発見と早期処置が、被害拡大を防ぐ要です。保存担当者は保存計画を立てる責任者ですが、実行するためには館内のスタッフ全員が、それぞれのできる範囲で協力する必要があります。資料保存のために、組織全体で取り組むよう、情報交換を密にしてください。体制については[基礎編]4、[実践編]1−6を参照してください。

Q.当館には保存担当者がいません。どのような体制で生物被害対策に当たればよいでしょうか?

A.生物被害対策の第一歩は、現在の状況に疑問を持つことに始まります。ムシ・カビともに、本来は資料周辺では好ましくない存在です。何か問題がないか、過去の記録や館内の清掃担当、空調管理担当など、館内スタッフへの聞き取り調査から始め、組織全体で共通認識を持てるようにするのが良いでしょう。

Q.施設の点検と把握は、施設管理部に任せておけばよいのでは?

A.収蔵庫内の資料の保存については、管理部の担当だけに任せてよいとは思いません。皆が協力できる体制を作りましょう。

Q.清掃は、清掃の方が行うものなのでは?

A.資料周辺の清掃は、特別な訓練を受けた委託会社ではない限り、保存に責任のある部署が率先しておこなうべきかと思います。学芸員等の立ち会いのもと、収蔵庫の床清掃を外注しているところもありますが、責任者の立ち会いは必要です。

Q.施設の管理について、他部署との連携や仕事の切り分けは、どうしたらよいでしょう?

A.資料周りの責任者とそれ以外に分けてお考えになると良いでしょう。組織全体で係わる枠組みを作り、情報の連絡を密にして対応してください。

Q.職員の人数が少なすぎて、カビ対策まで手が回りません。

A.まずは温度湿度計測を行い、見回りの際に少し気をつけて監視し、気づいたら記録を取り、保存対策専門家に連絡するようにされたらどうでしょうか。

Q.職員の手が足りなくて、作業が思うように進みません。アルバイトの方やボランティアの方にお願いすることができるでしょうか。

A.きちんとトレーニングをしてボランティアの方にお手伝いいただいているところもあります。いずれも、責任者としての立ち会いは必要です。

Q.カビの除去には、すごくお金がかかるのでは?だとすれば当館では予算が少なすぎて、カビ対策まで対処できません。

A.少しカビが発生したところで対応していけば、わずかな出費で対応できます。早期検出のために温度湿度を計測監視し、カビの生えやすい資料を重点的に監視していけばよいでしょう。[実践編]1を参考にしてください。

Q.カビ対策など保存修復の経費としては、清掃や補修といった予防と被害が出てからの対処療法では、どちらがコスト的にみて安上がりなのでしょうか?

A.被害が出てからの処置は、資料の修復が含まれるために、一般的にたいそう高額になります。清掃や建物管理に力を入れて予防していくことをお勧めします。

Q.現状を把握するために学芸員でも抑えておくべき施設上のポイントは何でしょう?

A.外周周りの管理は定期的に歩き回って写真で記録しておくと、漏水などの発見に役立ちます。また、雨上がりにどこに水がたまるか、排水管の水はきちんと処理されているかなど、水回りは見回るようにしましょう。[実践編]3−5を参考にしてください。

Q.業務日誌に清掃やカビ対策のことの細々としたことも書いておいたほうがよいでしょうか?

A.記憶というのはあいまいになりがちです。記録しておくことはとても重要ですので、必ず書きこむようにしましょう。

Q.カビを防ぐために、皆が日常的に習慣にしておくとよいことはありますか?

A.湿気は低い位置にたまりますので、階段塔で各部屋がつながるような層状に積み重なった構造の場合には、各部屋の扉を開け放さないことをお勧めします。食事をした後には細かな栄養物が衣服などに付着していることもありますので、軽くはらうようにすると良いでしょう。

Q.保存担当者から、収蔵庫内ではスリッパを履くように言われました。動きが悪くなるので、苦手です。履かなくてはいけませんか?

A.スリッパを履く理由は、外部からの塵埃や栄養物等の持ち込みを防ぐために行います。収蔵庫内で重いものを動かすなどには不向きですので、そのような場合は館内専用の靴にはきかえるようにすると良いでしょう。

生物被害対策TODOリスト

<日常的に>

1)収蔵庫・書庫

  • 収蔵庫・書庫へ入室する際は、専用のスリッパや上履きに履き替える。
  • 収蔵庫・書庫への出入りは記録をとる。
  • 収蔵庫・書庫へ入室した際、カビ臭がしないか確認する。
  • 入室した際、温湿度に異常を感じないか気をつける。
  • 入室した際、塵埃が目につかないか気をつけ、気づいたら掃除する。
  • むやみに資料をハンドリングしない。
  • 資料に触れる際は、手洗いや消毒をするか、手袋をつける。
  • 取り扱いの際、資料にカビや虫が出ていないか確認する。
  • 用具、梱包材の整理整頓を心がける。
  • 掃除用具を清潔に保つ。

2)展示室・閲覧室

  • 展示室・閲覧室を見回り、作品や資料に異常がないか目視点検を行なう。
  • 露出展示されている作品で拭くことができる作品は、埃を拭う。
  • 床やケース、什器が汚れていないか確認すること。結露、水漏れなどにも気をつける。

<週に1回>

1)収蔵庫・書庫

  • 庫内に設置した温湿度計の記録をチェックする。

2)展示室・閲覧室

  • 展示室ケース内などに設置した温湿度計の記録をチェックする。

<月に1回>

1)収蔵庫・書庫

  • データロガーの記録をチェックする。

2)展示室・閲覧室

  • データロガーの記録をチェックする。

<3〜6ヶ月に1回>

1)収蔵庫・書庫

  • 定期清掃を行なう。
  • 梅雨前、秋頃に虫害トラップ検査、資料の目視点検、余裕があれば風通しを行なう。

<年に1回>

1)収蔵庫・書庫

  • 大規模清掃を行なう。

2)展示室・閲覧室

  • 大規模清掃を行なう。

3)その他

  • 施設点検。
  • 空調機メンテナンス。

<3〜5年に1回>

  • 空調機大規模メンテナンス。

<10〜15年に1回>

  • 空調機交換。