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カビ対策専門家会合(第13回)議事概要

1. 日時
  平成19年3月1日(木曜日)16時〜18時

2. 場所
  文部科学省M2会議室

3. 出席者
(委員)
宇田川主査、岡田委員、佐野委員、高鳥委員、細矢委員、堀江委員
(文科省)
田中大臣官房政策課長、その他関係官

4. 議事等
 
(1) 事務局から、配付資料について確認後、資料のうち報告書原案について説明があり、その後意見交換が行われた。主な内容は以下の通り。(○委員、●事務局)

委員  この会合としてはゴールに近づいたが、文化財のカビ対策としては、まさにスタートライン。まず、報告書案の中の「施設管理指針(試案)」のところにある収蔵庫内の清浄度を示す数値についてだが、これは食品関係の衛生規範をもとにしている。アメリカでは環境庁が、建物の室内空間についてカビのいろいろなガイドラインを設定してきており、こういう問題は一般的にも認識されている。文化財関係施設に関しては、この関連ではまだ何も設定基準がないので、空中浮遊菌などの調査を外部検査会社に委託すると、食品に関する検査結果を元にしている例もあるようだ。また、この「試案」では清潔区域や準清潔区域というのを区切っているが、それぞれに当たる数値はある程度提示しておいた方がいいだろう。実際の文化財関連施設ではいわゆる清潔地域と言うのはないだろうが、いつまでも食品の例を適用するのも適切ではない。

委員  確かに、文化財関係では施設の清浄度に関する数値や方向性といったものは設定されていないものの、ここでとりあえず何らかの区域分けをすべきというので、食品や医薬品の世界の考え方を踏まえてこの「試案」には示している。また、博物館などでは美術工芸品等が主にその対象になるものだが、文化財といった場合には、例えば民家丸ごと一軒が対象になることもある。防カビ・殺菌方法としての紫外線やオゾンの殺菌装置は人・文化財両方への安全性を確保しなければならないという指摘もあるが、民家の防カビ・殺菌を簡便に実施する方法としては可能性がある。このあたりを本「試案」に含めるかどうかは、この場で議論して決めればよいと思う。

委員  清浄度に関して実際に計測経験があるのは東文研ぐらいだろう。文化財を収蔵している空間は、比較的湿度が高いので、落下真菌数も大変少ないし、細菌については文化財への影響はほとんど考慮していない。落下真菌数や浮遊真菌数について経験からわかった程度を示すことはできるが、この報告書内で何らかの数値を示すのであれば、同時に出典または根拠も同時に提示しておくべき。また、ここにいろいろな調査項目と数値を載せることでそれに現場がとらわれすぎないようする注意が必要。自分としては、施設の環境をクリーンに保てる可能性のある管理指針の中で、実行可能性のある手段・基準を掲載していったらいいと考えている。

委員  ここに示した基準は、すべてNASA(ナサ)からきたもので、世界共通。また、準清潔区域や汚染区域の落下菌や空中浮遊菌の調査をしても意味はないし、落下真菌がでないようなところでは、別の測定方法をとることも考える必要がある。カビそのものは外部環境から入ってくるものなので、それを持ち込まないことが一番の対策。薬剤や燻蒸といった今までのアプローチがいつまでも許されるわけではないことを考えると、環境の清浄化から始めるのは非常に重要。

委員  それでは、報告書内にカビは外部から持ち込まれるという点で、施設管理は大変重要であるという前提も書き込むべき。また、落下真菌や浮遊真菌を数えるための培地は、ポテトデキストロースでない方がいいのではないか。

委員  培地の種類は何の菌を採取するかによって変わるもの。一番初歩的で、材料が簡単に入手でき、どんな菌でも採取できるというので、ポテトデキストロースを選んである。

委員  普遍性があって使いやすいという意味で、ポテトデキストロースが一般的にどこでも共通に使われているもの。特殊なものに使いたいときは、あとでそういうものを加えればよい。

委員  であるならば、清浄度の計測と評価に関して、培地の種類については選択の余地があることを示しておいた方がよい。実際に調査をするのは、博物館の職員自身でなく委託業者であることが多いので、ポテトデキストロースしか適用できない、という風に受けとられないよう気をつけなければならない。

委員  落下菌の調査をしたときに、カビ対策のネットワークがあれば、培地をネットワーク内のどこかに送ることで収蔵庫の環境をある程度明らかにすることが可能になるだろうし、そういったことは案外簡単にできるのではないか。

事務局  この報告書の性質を考えてみたときに、あまりに使用者側に多様性が示されていると先に進めなくなってしまうだろう。したがって、まず最初にとるべき手段を示しておいて、それで不十分だった場合の次の手も付記しておくという形にした方がよいのではないか。ここに示すのは確かに試案であって、絶えず最新の知見を反映するために見直しが必要なものかもしれないが、こうした分野に関する最初の提言となるものであるから、現時点でわかる範囲の知見・情報の中で議論を十分尽くしていただき、報告書を仕上げてもらいたい。
 清浄度の指標として菌数が書き込まれているが、文化財保存に当てはめた場合、この数字はどういう意味を持ってくるのか。環境を測る尺度であって、文化財側に何か影響を与える尺度ではないと考えるのか。

委員  いろいろな施設において空調設備や空気清浄用機器がきちんと機能しているかどうかを評価するのに、一番有効な指標がこの菌数。文化財は特殊なので、直接ふき取ったり寒天培地を当てたりして菌数を調べることは不可能。そうなるとそれを保管している環境を評価していかざるを得ない。いったん清浄化された文化財であれば、菌数10個以下の環境で外からの持込さえなければ、カビ増殖は想定されない。菌数30個以下という基準が食品の世界では一般的だが、今回の指針では、文化財の場合には例えば重要度の違いもあるかもしれないが、それも勘案した上で一番理想的な10個以下の環境に保管するのがよい、ということにしたもの。

委員  補足すると、収蔵庫の温湿度は一時的なものだが、カビの菌数はその2、3週間前からも含めた収蔵庫の環境の総合的な評価の対象になる数。菌数のモニタリングによって、収蔵庫の過去の環境の把握も可能になる。

委員  菌数10個以下の環境というのは、大変理想的な環境で、佐野委員の発言にあったように、もし現場での数値が菌数10個以下になっているのであれば、この指針にこうやって具体的な数値を示したところで大した問題にならないと思うが。落下真菌と浮遊真菌では、落下と浮遊の差はあまりなく、落下真菌の方が測定は簡単にできるので、浮遊真菌まで測定する必要はないと考えているところ。

委員  今回報告書の中に対策として書いてあるもののうち、前半部分に書いてある事柄の方が、そこから得られるものは大きいと思う。例えば、まず人材育成は重要な問題であり、これをぜひとも強調していく必要がある。2番目としては、人材育成や技術指導、啓発といった面からネットワークを作ることも重視していかなければならない。3番目としては、現場が予期していなかった事態が起こったことから、当の現場にデータ・情報がないことが明らかになったので、その部分にも焦点を当てることが必要ということであり、これも報告書で強調したい点である。また、今回は予防を主眼にしていて、その後の汚染をどうするかというのは取り上げないことになっているが、今後は啓発も含めて、汚染があった場合の対応についても考えていかなければならないだろう。

委員  確かに、事後対策についても検討の必要があるかもしれない。ところで、報告書で提言しようとしている「カビ対策を含めた保存科学全般に関する人材育成に向けた「カビ対策マニュアル」」がテキストのようなものとして機能しうると考えるか、人材育成という観点から意見をいただきたい。

委員  例えば菌学会などを受け皿にして、菌類関係の学生に確実にポストを与える状況を作るとか、研究所にも必ず菌類関係のポストを配置するなどして人材育成を図ることが重要だろう。博物館や菌学会から社会に向けて働きかけを行うことも必要。

委員  日本防菌防黴学会には各分野に分かれて分科会があるが、例えばその分科会に指導的立場を担ってもらったり啓発活動をしてもらったりすることもありうるだろう。文科省にも、この分野で研究者が活躍できる場を確保するよう努めてもらいたい。

委員  自分の所属する食品微生物学会であれば、一般向けの講演会を文化財関連の学会と共同で開催することもできるだろうし、それも人材育成につながるだろう。

委員  通信教育や大学のオンライン・コースで保存科学講座の提供を充実させることもできると思う。

委員  文部科学省ならば、科研費の特定研究という形態が取れるのではないか。特定研究であれば、例えば特定の文化財を研究することにして、その延長上にカビ対策マニュアルを作ったり講習会を開催したりということも取り入れられるだろう。

事務局  カビのような特定の分野では、人材不足がよく指摘される。中心になる拠点が存在しないと、人材の問題というのはなかなか解決しない。例えば新しくできる国立文化財機構がひとつの業務として取り入れることもできるだろう。前にヒアリングした千葉大学の真菌医学研究センターは、文科省から菌株保存という観点から支援を受けているが、それと人材育成を一緒に実施するということもできるかもしれない。

委員  理化学研究所では、技術的に進んでいる遺伝子分野などは重点的に研究されているが、カビを現場からとってきて顕微鏡レベルから調べていく、というような基礎的なところは敬遠されがち。

委員  実習も大切。カビの分野ならば一人一台顕微鏡が必要だが、なかなかそういう設備が整っているところはない。何かのプロジェクトの後に倉庫に保管されているような遊休資材のネットワークがあればそれも活用できるだろうが、その顕微鏡がカビ観察に適当かどうかがわからないのでは問題。

委員  実は、真菌の専門家がたくさんいるのは医学の世界。千葉大学の真菌医学研究センターでは毎年1週間の講習会を開催したり、外国人留学生を招へいしたり、研究にも力を入れている。千葉大の真菌医学研究センターであれば、中核拠点となりうるかもしれない。

委員  現場側からいうと、人材育成の前に人が集まらないという問題がある。医学の世界であれば臨床検査技師、食品の世界なら食品衛生管理者、というように一定の資格を取得する過程で知識を得なければならないようになっているわけだが、そうやって強制しないと現場側はなかなか動き出さない。

委員  例えば毎年国立科学博物館で開催される博物館マネジメント講習会であれば、履修することによって立派な資格として認識される。同様に、文化財の施設関係の講習会で認定書を出し、その講習会を文科省が支援するということにすれば、博物館側も参加に積極的になるだろう。

委員  カビの分野というのは、実際のところ実態がよくわからない面が多い。まして、今回対象にしているような分野ではほとんどデータはなく、今後の積み重ねが非常に重要。短期的には困難であるとしても、例えば年度ごとでテーマを区切ってデータを集めていけば、どんなことが問題なのかが浮かび上がってくるはず。その際、東文研が中心になっていくことが予想されるが、他の専門家や現場の協力も得つつ、データの積み重ねを続けていくことが必要だろう。

委員  以前にヒアリングのときにも聞いたことだが、施設での事故事例は、博物館にとって恥部であり保管責任追及のもとになるので、公開することには消極的。食品会社であってもそれは同じである。文化財関係は公的機関が多いものの、わざわざ事例のすべてを公開しようというところは少ないだろうが、それは問題ではないだろうか。

委員  確かにカビの問題が切実なところがあるのは事実。一方で、今回こういう会合ができて初めて、カビも博物館や文化財との関連で問題になるということを知った人も多いのではないだろうか。

委員  相談窓口を設置するというのは、ここで鍵になるのではないだろうか。直接専門家に連絡するのでなく、窓口を通すことによってそこで情報が蓄積され、資料として出来上がっていくのではないかと思う。報告書の原案にも相談窓口の設置が提言されているところであり、数箇所の設置を早く実現できればと願っている。

委員  現状では、博物館・美術館に対して実態調査を行っており、そのうち25パーセントくらいでカビ被害が報告されている。大学や図書館に対する調査はないので、どれくらいの被害があるのかは不明であり、東文研に相談に来るのは被害が深刻になってからというのが多い。大学であれば、微生物学の専門拠点を作りやすいだろうから、それに関連したことも報告書にいれてもらいたい。

委員  窓口へ相談するとは言っても、相談側の状況がわからないと実際のところは一般論に終始しがち。文化財の保管環境を知っているような微生物学者はほとんどいないだろうというのが問題のひとつである。博物館や美術館は、事故事例を外部へ出すということをほとんどしないので、相談窓口を設置したとしてもお互いの間で信頼関係が生まれないと、窓口に情報が蓄積されることも、一般的な対策を立てることも期待できない。

委員  昨年の実績としては、東京大学でもカビ被害例が報告されている。ただ、今後はいろいろな大学で同様の被害が見つかる可能性があり、そのときにこれまでのように東文研しか対応できるところがないとなると、とてもではないが対応しきれない。窓口を開設したときに、たとえば調査票の定型を作っておけば少人数でも対応ができるので、この会合でそういった定型の作成にも知恵を出してもらえれば有難い。また、電子メールでなくて電話で直接担当者と話ができるようにするためにも、拠点を作るのは有効である。

委員  他にも施設の状況等を把握できるような資料があればいいと思うのだが。窓口については、まずそういった拠点を設定した上で、連絡先を公開するという順序を踏むのだろう。

委員  「カビ制御技術の研究開発の促進」に関するところだが、ここにあげてある薬剤は特に特殊なものではなく、日常生活用品の抗菌用に適用されるようなレベルのもの。また、紫外線殺菌装置についても最近のものは改良が進み、人体への影響も心配するほどのものはない。オゾン殺菌装置については、設置のときにそれなりの安全性を確保しなければならない。いずれにしても施設の清浄化にはフィルターや空調設備とその付属部分を含めてどういう技術を利用するのか検討すべきところ。

委員  制御技術の開発を進める際に一番問題なのは、対象になる生物がよくわからないまま研究開発が進んでしまうことがあること。カビという生き物をよく知りながらテクニックとしての制御技術を利用するための研究開発を進めなければならない。

委員  対象になる微生物の問題ということであれば、文化財を保管する環境でどういうカビが出てくるのかを先に研究しておく必要があり、それを基本として、なおかつ文化財に影響を及ぼさないような技術を導入していかなればならないというのが、今後の研究開発上の一番の問題であろう。報告書案にある「施設環境管理指針(試案)」のところに関しては、本日の前半の議論で出た意見を盛り込むのがよいと思う。

事務局  今後の作業としては、本日の意見を事務局でいったん整理した後、委員の皆様にまた意見をいただくことにしたい。また、来年度には「カビ対策マニュアル」作成を予定しているところだが、それをデジタル・アーカイブ化してインターネット上で公開すると同時に、例えばカビ被害の実態をビジュアルに載せることもできるのではないかと思う。

委員  いいアイディアではあるが、被害状況のわかる写真というものが手に入るかは疑問。カビ自体の写真はあると思うが、カビ被害の写真かどうかを判断するには、ある程度情報が蓄積されないと難しいだろう。

事務局  とりあえず本報告書には、カビの絵や被害状況のわかる写真のようなものを加える予定をしているので、委員の皆様のご協力をお願いしたい。今までの会合における資料として出されたものから、各方面の許可を取った上で掲載するものもあると思う。

委員  最後に、人材育成のことを少しだけ。やはり一番問題なのは、大学で菌類の研究者そのものが急激に減っているので、今回の報告書でそこまで踏み込むのは難しいかもしれないが、文科省にも心に留め置いていただきたい。

事務局  また事務局で整理し直すこととしたい。

(2) 次回は日程調整の上、追って連絡することとなった。

(以上)

(大臣官房政策課)


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