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カビ対策専門家会合(第12回)議事概要

1. 日時
平成19年1月29日(火曜日)10時〜12時

2. 場所
文部科学省10F3会議室(10階)

3. 出席者
(委員)
宇田川主査、岡田委員、高麗委員、園田委員、細矢委員、堀江委員
(カビ制御技術ワーキンググループ委員)
内田委員、土屋委員、矢辺委員
(文科省)
田中大臣官房政策課長、その他関係官

4. 議事等
(1) カビ制御技術ワーキンググループ委員から、文化財や博物館の収蔵物等の抗菌・防カビを主としたカビ制御技術に関し、有機系技術、無機系技術及び防カビ・抗菌のための施設環境管理それぞれの点から中間報告がまとまったことを受けて説明がなされた。その後、質疑応答及び意見交換が行われた。主なやりとりは以下のとおり。(●WG委員、○委員)

委員  有機系、無機系、環境管理それぞれについて要領よくまとめていただいて、大変勉強になった。今説明のあった薬剤や施設管理方策などは、例えば高松塚やキトラ古墳のような文化財に適用して、カビ発生を抑えることはできたのだろうか。

WG委員  カビに効果のある薬剤は間違いなく存在し、それを菌に問題なく作用させられれば、カビ発生・増殖を抑えることはできたと思う。しかし、壁画を損ねないでカビを抑えるための手法とチャンスが限られていたことが、困難のもとだったのだろう。これをいい事例として、場合に応じどんな薬が効くかを今のうちに調べ上げておくことが大切。

WG委員  古墳が発見される前と後では、古墳内の環境は変わっているはず。カビに必要な水分や酸素が複合的に影響したのだろう。今後、今回挙げたような情報が役に立てばいいと思う。

WG委員  無機系技術は、例えば金属が水と反応することで変色することもありうることを考えると、古墳のカビを押さえるには向いていないだろう。

委員  壁材での利用で、多孔質の無機のものでは調湿効果があるということだが、実際にどういったものが効果的かについて、どのあたりまで明らかになっているのか。博物館の収蔵庫にも応用できると思うのだが。

WG委員  銀ゼオライトあるいは一般のゼオライトでも、水の吸脱着率がおおよそわかっているので、施設の容量や環境がわかればゼオライトのパネルを何枚張れば効果的か、という大まかな計算は可能。熊本城の収蔵庫など、そういった施工をしているところもある。

委員  細菌、真菌のそれぞれについて抑える、殺すとはどのように区別がなされているのか。また、先ほど説明にあった具体的な薬剤はどの働きをするのか。

WG委員  実際のところ、「抑える」「殺す」に加え、「防ぐ」というチャンネルもある。防カビというと、カビが生えていないところに新しく菌が増えさせないことを想定している。薬剤にも、カビを防ぐことを目的とするものが殺すことを目的とするものより多く、有機系の防カビ剤にカビを殺す薬は使われていないと思う。既に生えているカビを殺す場合には、漂白とか脱水とか、物理化学的な手法を使うことが多い。防カビ剤の中にも殺カビ力を持つものはあるが、そうしたものは、安全性の面から使いにくい。
 バクテリアについては、「防ぐ」と「抑える」に関して、同じような効果を持つ同じような薬剤で両方を実現していると思う。バクテリアを殺す、という点では、防カビ剤と同じように物理化学的な効果に頼るものもあるし、生理代謝・生理活性によって抑えるという薬もあるだろう。ただ、このジャンルの薬剤は、食品や医薬の分野でもてはやされているもので、病院や食品に使われることが多く、非常に安全だけれども高い薬剤というように志向されて開発されているものが多いような気がする。抗生物質もそうした目的に沿ったものの一部といえる。

委員  カビのスペクトラムの関連では、どのような被験菌が用いられているのか。

WG委員  カビの種類は非常に多く、また、対象となるものの素材、使われる場所によって出てきやすいカビの種類は大分違ってくる。ものと状況によって問題となる菌が異なるので、その菌を得意とする薬を処方していくのがよくあるやり方である。例えば、カルベンダジンという薬剤は、安くて効果が高いのでいろいろなところに使われているが、アルタナリヤというカビを苦手としているので、それに利く薬も同時に処方するという手法は、技術的によくある。

委員  補足すると、いろいろな薬剤を比較する意味で標準菌というのがあり、それにはJIS規格の菌株を使用することになっている。
 先週、ワーキンググループの委員と一緒に千葉県立中央博物館を見学させていただいたが、そこでも、文化財などは収蔵庫に入れる前に燻蒸されるので、カビは一応そこで殺滅されていることになる。そうなると次にどうやってカビが入らないようにするかが非常に重要になってくるのであり、万一カビが付着していてもカビが増殖しないようにというので、静菌の問題は出てくるだろう。そのあたりのことをワーキンググループで検討してもらった。

委員  土屋委員から説明があったHEPAフィルターについて、フィルター上にトラップされた微生物、バクテリア、カビ胞子を殺す機能をつけたらいいと思う。SARS(サーズ)病棟や結核病棟のHEPAフィルターは、トラップされた菌が即座に死ぬような機能のついたものが開発されているし、JSTにも提案されているとのこと。
 また、特に有機系の抗菌剤は長い将来にわたって安定的に機能するかどうかは保証がないので、1,000年、2,000年置いておかなければならないような文化財に対し適用すべきではないと思う。乾燥や空気清浄や燻蒸にかけた文化財に、カビを増殖させないよう保存するのが適切と考える。使う薬剤にもなるべく安全なものを選ぶべき。

委員  有機系の薬剤には安全性の問題が絡んでくると思うが、その観点から開発段階で市場化されないものもあるのか。

WG委員  安全性に関しては、最優先事項として捉えられている。ただ、用途によっては、例えば工業用で、その薬剤の持つ危険性をあまり勘案しなくてもいい場合には試験的に使用されることもある。薬剤開発は、安全性に対する世の中の目が厳しくなっていることもあり、工業用であっても新規のものはなかなか出てこないのが現状。これまでの農薬開発の中で、農薬としては適切でなかったものの工業用として使えるものがあるのではないか、というのを遡って見ていこうとする動きもある。

委員  千葉県立中央博物館は、日本でもトップクラスの収蔵庫を持っているが、だからといって特別新しいことを施しているわけではない。ただ、日本の博物館は、収蔵庫として正倉院のような校倉造がいいと思い込んでいるところがある。先日、収蔵庫見学に参加されたワーキンググループの委員から、今後博物館の収蔵庫を新しく作るとしたら、どこを変えたらいいかというような意見があれば伺いたい。

WG委員  無機系の観点から言うと、抗菌性のパネルを取り付けたらどうかと思う。また、収蔵品の紙を無機系のセラミックにしたり、サンプルが入っている箱をコーティングしてみたり、というようなことができると思う。入手も難しくない。

WG委員  環境のコントロールは現状でベストかもしれないが、菌をつけない、増やさないことへの配慮としてもう少し工夫がいるのではないかと思う。一例として、燻蒸した資料をクリーン度の高い収蔵庫に入れるまでの間が、今のままだと汚染区域を通過することになるので、例えばくるんだまま燻蒸して、きれいな場所に来てから初めて開梱する、とか。また、現場の職員の意識向上も必要だろう。

WG委員  自分が以前にかかわった美術館のバックヤードと共通点がある、という印象を受けた。収蔵庫見学の際、カビと虫に関してどれくらいの比率で意識しているのか質問したところ、カビについてのコメントはなかったことを考えると、汚れとかカビとかいうものにもう少し意識を向けてもいいと思う。その意味で、普段の掃除も、汚れのたまりやすい柱の周りやはりの隙間、扉の取手などにも気を配って、全体の清浄性が維持されるようにすべき。また、コレクションが床に直に置かれていたような場面もあったが、普段から、そうしたことは避ける心がけが必要だと思う。つまり、ソフト面から、ちょっとした意識改革でお金をかけずに、同じ作業時間でグレードアップが図れるだろう。

WG委員  収蔵庫内に入ったとき、ナフタリンかクレゾールのようなにおいがした。仕方ないのかもしれないが、ああいったところで一日作業する職員にとっては、あまりいい環境とはいえない気がする。

委員  国立民族学博物館では、当初の設計段階では、燻蒸庫まで入る動線と燻蒸庫から収蔵庫に至る動線は別々になっていたものの、部屋が足りないというので結局同じになってしまった。今は、やはり別々にすべきとして、動線を整備し直しているところ。既存の収蔵庫での環境整備としては、湿度の制御が一番問題なので、その点からアイディアをいただけたら有難い。

(2) 田中大臣官房政策課長から、平成19年度予算案にカビ対策のマニュアル作りのための経費が計上されたとの報告があった。

(3) 事務局から、今後の進め方について、2月、3月にそれぞれ1回ずつ会議を開催し、報告書をまとめたいとの説明があった。その後、主査の方から、報告書案執筆に関し各委員の割振りが提示され、了承された。

(4) 次回は日程調整の上、追って連絡することとなった。

(以上)

(大臣官房政策課)


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