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カビ対策専門家会合(第7回)議事概要

1. 日時
  平成18年9月5日(火曜日)13時〜15時

2. 場所
  文部科学省10F3会議室(10階)

3. 出席者
 
(委員)   宇田川主査、高鳥委員、岡田委員、佐野委員、園田委員、細矢委員、堀江委員
(文科省) 吉野大臣政務官、田中大臣官房政策課長、三浦社会教育課長、その他関係官

4. 議事等
 
(1) 森林総合研究所の桃原郁夫氏から菌類による木材の劣化とその対策について説明があり、その後、質疑応答が行われた。主なやりとりは以下のとおり。(●説明者、○委員、△吉野大臣政務官)
 
委員  白色腐朽と褐色腐朽についてリグニンの分解方法に違いはあるのか。

説明者  白色腐朽菌は分解酵素を出すためにリグニンの分解が起こる。褐色腐朽菌についてはよく分かっていないが、ラジカルによってリグニンを変質させるという考えがある。

委員  リグニンの分解による強度への影響はどの程度か。

説明者  セルロースが強度に直結するのは間違いないが、リグニンの影響は定かではない。ただし、セルロースを鉄筋にたとえればリグニンはその周りにあるコンクリートであり、リグニンがなくなることでセルロースが圧縮等に弱くなるという影響は考えられる。

委員  心材には精油等の抽出成分が含まれ、腐朽に対する抵抗性が強いということだったが、文化財に使われている木材には経験的にそのような木材が多いと考えることはできるか。

説明者  基本的に良い木材の良い部分が使われていたと考えられる。ただし、抽出成分が時間をかけて失われ、表面の抵抗性が落ちている可能性はある。

委員  抗原抗体反応や遺伝子を利用した診断方法の紹介があったが、これらは特定の菌種を区別した対策につながるのか。

説明者  そこまでは至っておらず、木材に発生したのがカビか腐朽菌かを見分ける目的で使用されている。カビの場合は強度に影響を及ぼさないため、次亜塩素酸による処理と乾燥くらいで大丈夫だが、腐朽菌の場合はしっかりとした対応が必要になる。

委員  カビは強度に影響を及ぼさないということだが、糖やセルロースは分解しないのか。

説明者  木材の場合、セルロースの周りにはリグニンが豊富にあり一般的なカビが分解できない状態になっているため、カビは強度にほとんど影響を及ぼさない。

委員  木によってカビに強かったり弱かったりすると思うが、強い木にはどのようなものがあるのか。

説明者  一般に精油を多く含む木が強い。

委員  含水率300パーセントでは腐朽が進行しないとのことだが、それはどのような状態か。

説明者  ほとんど飽水状態であり、細胞中に水が入っている。それにより空気が十分に得られず、腐りにくくなる。

吉野大臣政務官  艀(はしけ)でも空気に当っている部分が腐って、水に浸かっている部分は腐らない。

委員  現在流通している建築材等は何らかの形で防腐や防黴加工がされているのか。

説明者  例えば住宅に使用する木材の場合、使う場所によっては処理することが義務付けられているが、それ以外では特に処理は行われていない。その他、木を伐る時期によっては、辺材変色による商品価値の低下を防ぐために処理を施すこともある。

委員  軟腐朽は高含水率の木材に見られるとのことだが、含水率100パーセントというイメージか。

説明者  詳しくは存じ上げないが、本によると木製貯水槽の腐朽といった例が挙げられていることから、含水率300パーセントに近い条件ではないか。

委員  そのような特殊な菌もいるということか。

説明者  そのとおり。

委員  物理的処理として熱処理の紹介があったが、抽出成分等も蒸発するものと考えられる。効果の持続性はどうか。

説明者  熱処理の場合は処理温度によって効果が大きく異なり、200度を超えると効果が大きくなる。ただし強度の低下や変色といった問題が伴ってくる。抽出成分等だけでなく、菌のエサとなるヘミセルロース等も分解しているとすれば、効果の持続性が期待できる。

委員  以前、木材の不燃化を目的としたコーティング剤として珪酸を主体とした薬剤を紹介してもらったことがあるが、そのようなものに防腐効果は望めないのか。

説明者  表面を完全に覆えればよいが、膨張率の違い等によりクラックが生じた場合には効果は望めないだろう。

委員  腐朽診断の1つとして超音波を用いる方法の紹介があったが、文化財への適用されているのか。

説明者  文化財分野への適用は定かではないが、X線を用いているのは見たことがある。

委員  文化財にも適用されている。腐朽が進行している場合には音波も使用できる。このような測定関係の研究を行っている文化財系の研究者もいる。

(2) 堀江委員から好乾性菌類について説明があり、その後、質疑応答が行われた。主なやりとりは以下のとおり。(●説明者、○委員)
 
委員  最近、図書館を調査するとワーレミアがたくさん出ることが多い。ゆっくり育つ菌であり、掃除をして経過を見るという処置を取っているが、それでよいのか。

説明者  ワーレミアの発育は非常に遅く小さいコロニーしか形成していないため、寒天培地では他の菌に隠れて見えないこともある。逆に発育条件が適していれば、胞子を非常に多く形成するため、ワーレミアがたくさん出現することになる。このように培地等の影響により、培養後によく生えるカビの種類が異なるため、文化財等に被害が出た場合には直接検鏡するほうがよい。

委員  ワーレミアはハウスダスト1グラムの中に10万個程度生育しており、どこにでもいるカビである。

委員  文化財のカビ生育メカニズムの説明があったが、資料にカビが生えたと気づく場合、我々は中湿性のカビを見ているという理解でよいか。

説明者  説明はあくまでモデルケースであり、すべてがこれにあてはまるわけではない。基質によってカビの見えやすさが異なるが、見えにくい基質においてカビが生えたと気づくのはこのケースが多い。また通常はカビが生育しない環境であっても、箱の中などせまい閉じられた環境ではカビが発生することがある。夏だけに使用する化粧品等に黒コウジカビが生えたりするのがその例であり、文化財についても、箱に入れて長らく閉じてしまうのは考えものである。

委員  米穀倉庫の例でも、最初は好乾性のカビが生育するとのことだが、これは共通のメカニズムといえるのか。

説明者  食品の場合は乾燥させて保存することが一般的であり、好乾性カビから中湿性カビという順序になるが、湿ったものであれば最初から低湿性カビや中湿性カビが発生する。

委員  米の場合、水分が15パーセント以下になると非常に味が悪くなるため、長期保管をするためには低温貯蔵にして、水分を16パーセント以上に保っている。

委員  ユーロチウムについて、分生子と子嚢胞子の2種類の胞子があるが、環境に応じた使い分けがなされているのか。

説明者  栄養がよく、湿度が適している場合には子嚢胞子を形成するが、文化財のように栄養に乏しい条件下や湿度が極端に低かったりする場合には分生子を多数つくる。子嚢胞子を形成する他のアスペルギルスの場合も同様で、条件がよければ子嚢胞子をつくるが、それ以外は分生子をつくる。
  なお、好乾性菌のうち、自然界からよく検出される菌というのはユーロチウムの中の数種類とワーレミアに限られ、特に文化財で問題になるのはユーロチウムだと考えられる。

委員  一般に乾燥させればカビの生育は抑えられる。基質の水分活性を測定したいが、文化財に対して現場で使えるような小型の水分活性の測定装置はあるか。

説明者  文化財の場合は非破壊検査が大前提であり、中の水分を間接的に測る方法はあっても水分活性の測定は難しいのではないか。

委員  含水率は赤外線等により測定できるが、水分活性は測定できないために困っている。

委員  ユーロチウム・ハロフィリクムとワーレミア・セビの生育に対する最低水分活性を見るとほとんど違いがないが、経験的には大きく違うと思っている。前者は本当に乾燥した特殊な培地でしか生えてこない。

説明者  ユーロチウム・ハロフィリクムは準合成培地に70パーセントくらいショ糖を入れて2ヶ月程度放置するとうっすらとコロニーを形成する。
  また、本枯節とよばれる高級な鰹節の表面にはユーロチウム・ハロフィリクムが生えると聞いたことがある。鰹節は切り身を一度ゆでたあと、ユーロチウムのたくさん入った箱に入れ、表面にユーロチウムを生育させる。これをカビ付けと称するが、カビ付けの後に天日で干して表面のカビを減らすことを繰り返す。この作業を通じて、中の水分がカビによってポンプのように外に排出される形となり、どんどんと乾燥することになる。最終的にハロフィリクムのような絶対好稠性のカビが発生するという仕組みなわけだが、これはだんだんと湿気が増すことでカビが発生してしまうという文化財のカビ発生メカニズムのちょうど反対の循環になる。

委員  最低水分活性は温度によって影響されるために注意が必要である。また、最低水分活性と最適水分活性は別の話であり、最低水分活性の小さい菌の中にも高い水分活性で生育するものもある。また、発芽に対する最低水分活性もあり、きちんと読み分けていくことが重要である。

(3) 事務局から平成19年度概算要求について報告があり、その後、質疑応答が行われた。主なやりとりは以下のとおり。(●事務局、○委員)
 
委員  文化財等の保護のため、カビを取り扱える人材を育成するためにはどういった方策が考えられるか。

事務局  色々な段階で取り組むべき課題だが、概算要求の中では研修会を全国展開し、ネットワーク化していくことができればと思っている。国が本格的に取り組んでいこうという姿勢を見せることで、問題意識を持っている若者や関連する分野の研修者の方々がこの問題に真剣に取り組む契機となることも期待できる。

委員  高校生や一般を対象に博物館等の社会教育施設で行っている事業と関連付けられれば、さらなる効果が期待できるのではないか。

委員  情報通信が発達し、画像も含めて気軽にインターネットでやり取りできる時代になってきている。例えば、私のところには大学病院の先生から写真が送られてきて、アスペルギルスですよと助言を行うこともあり、病院ではそれだけでアスペルギルス症に対する治療をはじめることができる。文化財等の対策という面では、医学ほどの蓄積はまだないのかもしれないが、いずれは画像を見ただけで初動段階における的確な指示を出せるようなネットワークの構築も可能なのではないか。

委員  若者や関連分野の研究者が菌類の分野に足を踏み入れたときに、彼らに対して適切な指導を行えるような人材もきちんと確保していく必要がある。菌類の基礎をしっかりと大学で教えるなど、人材の層を厚くしていくために、基本的な専門教育の充実にも配慮していただきたい。

(4) 次回は9月12日(火曜日)14時30分から開催することとなった。

(大臣官房政策課)

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