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カビ対策専門家会合(第6回)議事概要

1. 日時
  平成18年8月29日(火曜日)13時30分〜15時30分

2. 場所
  文部科学省10F3会議室(10階)

3. 出席者
 
(委員)   宇田川主査、高鳥委員、岡田委員、佐野委員、園田委員、細矢委員、堀江委員
(文科省) 吉野大臣政務官、田中大臣官房政策課長、三浦社会教育課長、森学術機関課長、その他関係官

4. 議事等
 
(1)  吉野大臣政務官から中国、カンボジアの世界遺産視察について以下のとおり報告があった。
 
 敦煌の莫高窟は乾燥地帯にあるが、川の氾濫により最下層にある第53窟にカビが発生した。乾燥地帯のためカビの増殖は止まっているが、カビの跡の修復方法についてはまだ模索中である。
 観光と文化財の保存との関係には常にジレンマがあり、将来的には莫高窟の壁画をデジタル化して公開したいとのことだった。
 西安の歴史博物館では、遺跡等からはがしてきた壁画を保存しているが、一連の作業によってカビの跡の修復に効果が挙がっていた。修復技法については、研究者や技術者などのルートを通じて、研究交流することが期待される。
 アンコール・ワットは高温多湿の地域にあり、白いカビや青いカビなど、多くのカビが発生していた。日本政府として修復プロジェクトを実施しており、早稲田大学や東京農工大学の先生方に御協力いただいている。
 また、上智大学は石澤学長を中心として、早くからアンコール・ワットの修復を行っており、昔ながらの技法を用いた建築修復や埋蔵物の調査に取り組んでいる。

(2)  大阪府立大学大学院教授の安保正一氏から高機能な酸化チタン光触媒と太陽光による環境浄化とクリーンエネルギー創製について説明があり、その後、質疑応答が行われた。主なやりとりは以下のとおり。(●説明者、○委員)
 
委員  酸化チタン光触媒を搭載した空気清浄機を用いることで、カビの胞子の縣濁液を噴霧したチャンバー内でパンにカビが生えるのを防げたということだが、通常はカビが菌糸を伸ばしてしまい、簡単に除去できなくなるのではないか。

説明者  空気が非常にきれいになったということのほかに、縣濁液の噴霧という手法を用いたことで、胞子がそれほど強くパンに接触しなかったのではないか。

委員  実際にカビが生えているパンを用いた実験はしたのか。

説明者  現在行っているところである。効果はありそうである。

委員  微細レベルで見たときに、酸化チタンの表面ではどのような反応が進行しているのか。

説明者  アルコールからアルデヒド、アルデヒドからカルボン酸へという逐次的な酸化反応である。水中で長時間光をあて続けた場合、ゴキブリのような大きなものが完全に二酸化炭素に分解され、跡形もなくなるという報告もある。カビの胞子であれば比較的短時間で分解されているのではないか。

委員  用いる空気清浄機によっては、酸化力が弱いためにアルデヒドで反応がとまり、トラブルが起きている。こういった製品に対する規制の方向性はどうなっているのか。

説明者  大気中で使用する場合、水中で使用する場合、抗菌用に用いる場合など、用途に応じて製品規格を定め、標準化するべく経済産業省で取組が進められており、一部には草案もできている。一口に光触媒といっても、作成方法によって月とスッポンほど反応性が異なる。したがって、反応性の十分高いものを使う必要がある。

委員  光触媒を搭載した空気清浄機付きの収納棚がすでに市販されているが、この場合の効果はどうなのか。

説明者  そのような製品の話は聞いていないが、室内で用いる場合には反応性が弱いかどうかすぐに気が付くはずである。実際、室内灯で作用する光触媒はまだ市販品ではない。

委員  あらゆる有機物を分解するということであれば、文化財等への適用について注意が必要になるのではないか。

説明者  光触媒反応は酸化チタン光触媒表面のみで進行するものである。すなわち遠隔的に文化財等を守るものであり、文化財等へ影響を及ぼさずにカビを殺すこともできるのではないか。ここが重要な点であると思っている。

委員  カビに対する殺菌効果が実際に現れ始めるまでの時間は計測しているか。

説明者  簡単な実験であり、そこまで細かく見ていない。1週間で目視による明確な差が出ていることは事実だ。光触媒の量を多くすれば、短時間で処理できることになる。

委員  カビは有機物の上に生えることが多い。その有機物が文化財だったりするわけだが、それに対する影響はどうか。

説明者  文化財自体に直接触れることなく、遠隔的に周りの空気がきれいになることで殺菌効果を発揮する。無機物であり、触媒自体がカビの発生源になることもない。これらは大きなメリットなのではないか。反応はあくまで触媒表面においてのみ進行するものである。

委員  カビに影響があって、パンに影響がないのはなぜか。

説明者  空気がきれいになってカビのエサがなくなるのではないか。空気中のカビの胞子も分解している。

委員  現在、カビが発生した場合には、まず汚染物を隔離することから始めている。隔離先の部屋に光触媒搭載の空気清浄機を設置することは有効なのではないか。

説明者  カビの生育進行を止めるだけでなく、殺菌効果も期待できるだろう。ただし、製品によって性能が大きく異なるので、専門家と相談して十分な反応性のある光触媒を使うように注意していただきたい。

(3)  関西大学教授の土戸哲明氏から微生物制御における活性酸素発生系の利用と新しい微生物学からの制御対策について説明があり、その後、質疑応答が行われた。主なやりとりは以下のとおり。(●説明者、○委員)
 
委員  カビの制御において、特に重要なファクターは何か。

説明者  専門外ではあるが、水分、付着の仕方、発現する代謝生理によって大きく変わってくるのではないか。カビの損傷については、研究自体も非常に少ない。

委員  カビも種類によってさまざまであり、一口に気相微生物学として整理することはできないのではないか。

説明者  そのとおり。表面に付着している場合でも乾燥している場合と湿っている場合とで分ける必要があるだろう。一般に乾燥、低温、飢餓はストレス要因であり、それらによってストレスレスポンスが起きているのは間違いないと思う。

委員  真菌のストレスレスポンスに対する研究は遅れていたが、最近はワーレミア菌などの報告があり、予測微生物学的な論文も大分出てくるようになった。

委員  現場では消毒剤や防黴剤を繰り返し用いてカビ対策を行っており、馴化現象が起こっているが、抗生物質の使用による耐性菌の出現といったドラスティックな現象は起こっていない。このあたりのメカニズムについてどのように考えればよいか。

説明者  抗生物質の場合はターゲットが明確であり、例えばターゲット酵素の遺伝子にポイントミューテーションが入るだけで、最小発育阻止濃度が100倍にも1,000倍にもなる。一方で、一般的に用いられる殺菌剤は界面活性剤であり、耐性獲得のためには細胞膜の構造を変化させる必要がある。これは増殖能力や生存能力に極めて重要な影響を与える変化であり、セレクションがかかっていると考えられる。大腸菌の場合、実際に馴化によって最小発育阻止濃度が5倍くらいになった株を調べてみると、転写、翻訳といった増殖活動にクリティカルに関わる調節遺伝子の変異を含む8つくらいの変異が同時に起こっていた。

(4)  徳島大学大学院教授の高麗寛紀氏から微生物劣化防止のための抗菌技術と海外事情について説明があり、その後、質疑応答が行われた。主なやりとりは以下のとおり。(●説明者、○委員)
 
委員  膠(にかわ)の防黴剤でいいものがあるという話があったが、以前、日光の方から話を聞いたときには顔料の剥落などでかなり困っているようだった。ぜひ紹介していただきたい。

説明者  今すぐ紹介はできないが、防菌防黴学会から「抗菌剤」という本が出ており、それに載っているはずである。私見になるが、過去の議事録でホルマリンを入れたアルコールを用いている例があったが、あまりよいとは思えない。確かに臭化メチルや酸化エチレンは使えなくなったが、BCAという薬剤がお薦めである。昇華性があるために広範囲に適用できるだけでなく、細菌にもカビにも効果があり、毒性も前2者に比べて格段に弱い。

委員  文化財分野ではきちんと試験をしてから薬剤を用いていくのが大前提であり、例えば膠の代替品として、硬化障害や接着力低下が起きにくそうな構造を持つポリマー系の蛋白素材を専門家の方から紹介していただけると非常にありがたいというのが、現場の切なる思いである。BCAは実際に文化財分野にも適用されており、正倉院の収納箱の中にBCAゲルが入っていたと記憶している。

説明者  私が所属している防菌防黴学会に膠の防黴剤を考えてほしいという依頼があれば、きちんと力になれると思う。

委員  日本の抗菌技術は非常に進んでいるという話があったが、どういう観点から進んでいるのか。

説明者  物をつくる技術も進んでいるし、評価方法も既に欧米を抜いている。だからこそJIS規格をISO提案しているわけである。

委員  さまざまな抗菌製品が市場に出回っているが、効くものとそうでないものの線引きというのはどのようになされているのか。

説明者  そのあたりのことをきちんとやるために新JISマークをつけよう、といった議論が進行しつつあるところである。抗菌加工してあれば菌がまったく生えないというわけでなく、製品の説明書を読んだり、抗菌製品全般に関するパンフレットを読んだりといったことをきちんと行っていただきたい。

(5)  次回は9月5日(火曜日)13時から開催することとなった。

(大臣官房政策課)

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