資料2 小学校における全国学力・学習状況調査のあり方について

平成22年12月17日

千代田区立番町小学校 有馬守一

1 小学校長の意識調査から

 全国連合小学校長会では、抽出調査となった本年度の全国学力・学習状況調査実施後の8月、各都道府県公立小学校の約4%(849校)を対象に、校長の意識調査を行った。以下に質問項目と速報値を紹介する。

(1)調査の必要性について

 1 社会の変化や国の役割の見直しにより、新たな学力や学習状況調査の在り方を検討すべきである。 … 37.3%(317校)
 2 今後とも同種の「全国学力・学習状況調査」が必要である。 … 33.3%(283校)
 3 国の役割としては従来より実施されてきた「教育課程実施状況調査」に重きを置くべきである。 … 27.8%(236校)
 4 その他 … 1.6%( 14校)

 1の新たな調査の在り方の検討を求める意見が最も多いが、2の今後も同種の調査が必要とする意見や、3の教育課程実施状況調査を重視すべきとの意見の間に大差はなく、校長の見解は三分されていると見てよい。しかし、調査の必要性を含めて在り方を検討すべきとする1、3の意見が2/3を占めている点には注目が必要である。

(2)調査の実施方法について

 1 第6学年を対象に、抽出した学校で調査を実施する … 42.2%(375校) 
 2 第6学年を対象に、全学校で調査を実施する … 27.5%(233校)
 3 対象学年を拡大して、抽出した学校で調査を実施する … 17.0%(144校)
 4 対象学年を拡大して、全学校で調査を実施する … 8.4%(71校)
 5 その他 … 2.9%(25校)

 1の、本年度の実施方法と同様の「6年・抽出」が最も多い。「抽出」対「全校」を比較しても概ね5対3の割合となる。対象学年については6年と答えた校長が7割に上るが、「対象学年の拡大」を望む声も昨年度の約17%から25%強と増えている。

(3)調査の内容について

 1 これまでと同様、国語・算数を中心にした内容とする … 49.4%(479校)
 2 国語・算数だけでなく理科・社会を加えた内容とする … 28.4%(241校)
 3 可能な限り、学習指導要領の目標・内容の実現状況が測れる内容とする。 … 21.1%(179校)
 4 その他 … 1.1%(9校)

 1の現行の国語・算数を支持する声が最も多いが、教科の拡大を求める2と3を合計すると49.5%になり、校長の考えは二分されているといえる。

(4)実施頻度について

 1 毎年実施する … 52.1%(440校)
 2 数年に1度の実施とする … 31.0%(262校)
 3 隔年の実施とする … 15.4%(130校)
 4 その他 … 1.5%(12校)

 最も多い意見は1 の「毎年実施する」であるが、「数年に1度」と「隔年」を合計すると46.4%になり、ここでも、校長の意見は二分されていることが分かる。

2 各都道府県担当者からの報告

 平成22年10月中旬、各都道府県の調査研究担当者が集う連絡協議会が行われた。そこで交わされた全国学力・学習状況調査に関する報告・意見の概要を紹介する。

○ 全連小が主張する「抽出・隔年・希望調査なし」については支持する県が多かったものの、独自の調査がない等の理由で「悉皆ないし希望調査」を求める県もあった。

○ 「希望調査」については、自治体・教委サイドで決定されたケースが大多数を占め、結果処理で苦労した事例が多数報告された。全般的に「希望調査」へのニーズは低い。

○ 調査内容として「少なくとも4教科」を希望する県が多いが、これ以上学校や児童の負担を増やしたくないとの理由で、国語・算数を支持する県もある。

○ 開示により、序列化が先行することに強い懸念を抱いている県が多い。

○ 抽出調査の場合の抽出率については10~30%とばらつきがあり、実施学年や実施時期についても、4~6年、年度当初~1・2月と一致しなかった。

3 調査結果の活用の状況について

 全国学力・学習状況調査の学校質問紙調査で、活用状況が調査されているため、全連小では独自の調査は行っていない。「平成22年度 全国学力・学習状況調査【小学校】報告書」によると、「指導計画に反映させた」「教育指導の改善に活用した」が概ね90%に上り、「調査対象学年・教科だけでなく、学校全体で活用した」とする学校も、80%以上に上っている。一方、保護者・地域への公表や説明、働きかけなどは70%台にとどまり、適切な開示や説明に苦慮している実態も浮かび上がる。

 東京都では独自の「平成22年度 全国学力・学習状況調査報告書-授業改善のポイント-」が作成・配布され、多くの地区や学校で「授業改善プラン」の作成と学校HP上の公開が一般化してきている。こうしたプランの作成と評価を通して、全校的な取り組みが実現すれば理想だが、理科・社会や他学年等の独自の調査が実施されない地域では、プランの作成自体がなかなか難しい実態がある。

4 今後の学力調査の在り方について(ここからは私見です)

○ PISA調査の結果から

 今月7日に公表された同調査の結果に、小学校における全国学力・学習状況調査がどう影響しているかはさだかではないが、ここ数年、朝読書はほとんど全校に普及し、校内研究のテーマや指導の重点も、読解力や思考力、さらに活用する力や表現力などにシフトしてきていることは事実である。反面、全国学力・学習状況調査が国語・算数中心であったことから、ドリル的な学習への傾斜も懸念されている。

○ 目的・名称に即した調査を

「学力」調査と銘打つ以上、校長としては教育課程が目指す学力総体を対象にしてほしいとの思いがある。特に、日本の子どもたちの弱点とされる「思考力・判断力・表現力」は、理科・社会の学習で培われる面も大きいだけに、今後の調査の方向性に、調査の対象教科として理科・社会が検討され、平成24年度は理科を追加する方向が位置づけられたことは、小学校として喜ばしいことである。

○ 児童や学校の負担への配慮を

 しかし、学習内容や授業時数が増加する中で、調査教科数が増えることは、児童の学習負担や教員の業務負担への影響も心配される。名称・目的を絞り、数か年サイクルで学力状況が把握できるようなシンプルな調査の在り方も検討したい。(年度ごとに教科を絞る方法や着目する力を絞る方法などが考えられる)

○ 目的と方法の一致を

 現行の調査は、1 教育施策の検証と改善、2 継続的な改善サイクルの確立、3 学校の指導や児童の学習状況の改善の三点を目的にしているが、国、自治体、学校のそれぞれの役割や重点が不明確なままで、相互に重なり合っている印象が否めない。

 互いの役割を明確化するともに、財政力の弱い自治体には国が援助するなど、支援の在り方を工夫していく必要があるのではないか。(3まで国が担うのは適切か?)

○ 序列化や過度な競争等への配慮を

 これまでの調査で、県ごとの「学力」順位は定まってきた感がある。県内各地区の順位すら「定説」になってしまったところもある。中には校長が、結果がふるわない原因分析と改善対策をレポートにして提出するよう指示された地区もあると聞く。

 こうした序列化は、有形無形に子どもたちの郷土意識をも蝕んでいるのではないか。

○ 国と学校との課題意識の共有を

 国としての学力調査とその活用は、学校の問題意識と重なって初めて、実効あるものとなる。教員の指導改善への取り組みもしかりである。調査で何を見取り、どう改善につなげていくのか、十分論議を尽くしていきたい。場合によっては、校種によりかなり違った調査内容・方法となるのかもしれない。

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初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)