8 スクールカウンセラーの対象2-症状、問題行動別の対応の実際

(1)不登校

  不登校は、もともとそれに対処するためにスクールカウンセラーが配置されたということもあって、スクールカウンセラーの活動の最も重要な対象である。
  不登校の援助は、児童・生徒の憲法上保障された教育を受ける権利を満たすことである。仮に学校の側に、生徒が登校できなくなっているなんらかの障害があるとするならば、それを取り去るべく努力することが必要なのであって、学校という制度そのものが子どもたちを抑圧しているのだから、不登校生徒は学校以外の別の方向を目指せばよいという考え方は、スクールカウンセラーとしては適切ではない。
  現実的な不登校への対応の仕方は、個々のスクールカウンセラーによっていくらかの違いがあるが、一般的に下記のようなことには注意しなければならない。

a 不登校は「本人と会えなければ対処できない」ものではない。

  不登校への関わりをはじめた当初から、学校の相談室に自分から相談に出向いてくる児童・生徒はまれである。したがって、本人が来ないから相談が始まらないという態度では、学校では不登校に対応できない。本人へのかかわりができなくても保護者との面接が可能な場合はそれを続けるべきであるし、それも不可能な場合であっても、担任や不登校担当者と、その事例に対する有効な援助のための協議を続けなければならない。

b 待機形相談ではなく積極的に問題に関わること

  相談室に待機し、担任や不登校担当者が相談をコーディネートしてくれるのを待っているだけでは不十分である。相談にいたるプロセスをどのように作り出していくかを計画し、準備することも、スクールカウンセラーの重要な仕事である。担任や不登校担当との十分な協議の上で、必要ならば保護者と連絡を取り、相談を促していくということも行なわなければならない。

c 「だまって暖かく見守る」のみでは不足(「登校刺激」にどう対応するか)

  不登校への援助では、本人の心に侵入せず「暖かく見守る」ことが必要な時期がある。また、スクールカウンセラーがそれを行なうかどうかは別にして、積極的に登校を促し、そのための刺激を与えなければならない時期もある。そのことをよく理解し、親や担任の「登校刺激」一般を否定することのないようにしなければならない。
  また、「暖かく見守る」ことの必要な時期でも、何もせずに放置するのではなく、親の面接を継続し、支持的な態度で親の不安を解消するなど、本人を支えるための対応を継続しなければならない。

d 家庭訪問を否定しない

  スクールカウンセラーは家庭訪問をすることができる。担任や不登校担当から家庭訪問の依頼があったときには、その事例における必要性をよく考慮し、それを行なうかどうかを判断しなければならないし、それを行なわないときには、その事例における行わない理由を述べて理解を求めなければならない。「カウンセラーは家庭訪問をしない」という理由で、家庭訪問一般を否定すべきではない。

e 別室登校、相談室登校、保健室登校

  相談室登校については、相談室に登校してきた生徒が部屋を独占していることで、他の相談ができない状態にならないように、不登校担当者や窓口教員とよく協議し、登校時刻や登校時間を調整したり、緊急の相談があったときの移動待機場所を確保したりしなければならない。

f 適応指導教室との連携

  適応指導教室を設置している市町村では、その施設の場所、設置時間、プログラム、入級の仕方などを把握しておかなければならない。担当している児童・生徒を入級させるときには、施設の担当者とよく連携協議し、保護者面接の際などに意見、見解の相違のないようにしなければならない。
  また、適応指導教室はいわゆるフリースクールではなく、不登校児童・生徒が、登校できるようになるまでの間一時的に通う場所である。そのことをよく理解し、担当の不登校児童・生徒を預けたまま関係が途切れてしまうことのないようにしなければならない。

(2)いじめ

  いじめに対する対応も、不登校と並んでもともとのスクールカウンセラーの重要な業務である。
  学校ではいじめは、「指導」という観点から、加害者に反省させ、その後いわゆる「握手して仲直り」型の対応を行なうことが多い。しかしながらカウンセラーとしては、それでは十分ではなく、なによりもいじめ被害者の心的外傷によく対応することが重要である。被害者が、加害者と「握手して仲直り」することでより大きな心的外傷を被ることもありうるので、そのような場合は生徒指導担当者とよく協議し、「仲直り」を延期することも考えなければならない。
  いじめ加害者のカウンセリングも、必要に応じて行なわなければならないが、いじめという事態に関しては、最優先されるのは被害者の心的外傷への対応であるということを忘れてはならない。

(3)生徒指導

  生徒指導上の問題行動を行なう児童・生徒もスクールカウンセラーの対象である。スクールカウンセラー制度開始当初は、学校では、これらの児童・生徒はスクールカウンセリングの対象であるとは考えられていなかった。しかしながら初期のスクールカウンセラーたちの様々な実験的なかかわりの中で、生徒指導上の問題行動に対するスクールカウンセリングの有効性が実証され、そのことによって生徒指導セクションとの信頼関係が作り上げられてきた。現在のスクールカウンセラーはその歴史を踏まえて、一方的に生徒指導を批判することなく、問題行動にも主体的、積極的に対応しなければならない。ただし、これらの児童・生徒に関わるスクールカウンセラーは、学校の中での生徒指導とカウンセリングについて、それぞれの役割の意味、両者の関係などをきっちりと整理しておくことが重要である。
  基本的には次のように考えるべきである。
  教育や指導は、その対象となる児童生徒の心の基本的な安定が図られて初めて可能となる。教育、指導とカウンセリングの関係は、家庭の中における父親的役割と母親的役割に対比させることができる。即ち子供は、依存や甘えを母親によって満たされ、不安を解消され、ホールディングされている感覚がある環境の中で、始めて父親による禁止を受け入れ、社会性を獲得していることができる(これは現実の父親と母親による性役割の固定化という意味ではなく、あくまで関わりにおける二つの役割の対比である。)。子供の成長にとっては、この基本的安定感の達成(子供への母性的関わり、成長発達における快楽原則の適用)と、それを背景とした禁止の受け入れによる社会性の獲得(父性的関わり、成長発達における現実原則の適用)の両者が絶対的に必要である。生徒指導や教育が社会性の獲得という役割を担っているとするならば、カウンセリングの役割はそれが可能となるための基本的安定感の達成である。もともとこの基本的安定感は家庭の中で達成されるべきであるが、歴史的、社会的要因によって、現代社会ではこの安定を欠く児童生徒が増大している事実は否むことができない。それが生徒指導においてカウンセリングの役割が要請される理由である。
  そのような観点から考えると、生徒指導においてカウンセリングの果たす役割は、決して児童生徒の問題行動を解消させることではないということが分かる。カウンセリングだけあるいはカウンセリングマインドのみによって生徒の問題行動を解消させることはできない。適切な教育、指導とカウンセリングの連携が問題行動解消のための基本的な条件である。
  現実的な対応における注意点は次のようなことである。

a カウンセリング

  問題行動を行なう生徒自身を対象としたカウンセリングでは、面接室内での突然の行動化も予測される。それに対して、生徒自身とカウンセラーの安全を図るため、面接室の扉を開放しておくなど、起こりうる事態に対して準備をしておくことは重要である。特に暴力的な激しい行動化が予測される場合には、個別面接やカウンセラー単独でのグループ面接は控え、その他のかかわりを模索したほうがよい。その場合、生徒指導担当者との共同面接や、生徒自身ではなく保護者の面接を継続して行なうことは有効な方法である。
  まちがえても相談室内で暴力や喫煙などの問題行動を起こしてはならないし、仮にそのようなことが起こった場合には即時に相談室を閉鎖しなければならない。また、生徒自身や他者を傷つけたり、危険な状況に発展したりすることの予測される情報が開示されることが多いので、守秘をめぐっても通常とは異なる扱いが必要となる。そのような場合は、守秘についても生徒指導担当者とのチーム対応が原則である。
  問題行動による被害生徒のカウンセリングは重要である。この場合、生徒自身の安全に十分配慮しなければならない。

b 連携

  生徒指導上の問題行動では、警察、司法、子供センター、補導所、教護施設などとの連携が重要になる。これらの機関と直接関わるのは生徒指導担当者であるが、その機関における心理担当者と協議を行なう場合には、スクールカウンセラーがそのコーディネートを行なうことも必要である。また、連携のための基礎的知識として、少年法や児童福祉法など関連法規の基本的な内容、処遇の仕組みなどは知っておかなければならない。
  ときには、学校として生徒を警察、司法機関に告発する必要が生じることがある。この場合、生徒の告発は、生徒の安全を確保し、心理的な援助を行なうために強制的に治療機間に繋ぐということであって、決して罰を与えるためにいわゆる「生徒を警察に売る」ことではないということはよく理解しておかなければならない。

c 被害生徒の問題

  暴力的な、また脅迫など継続する心理的な被害に遭っている生徒は、PTSD状況に陥っていることが予測されるので、カウンセリングなどの治療的対応が絶対的に欠かせない。この場合生徒の安全感の確保に十分配慮し、安易に謝罪場面を設定したりしないことはいじめ被害の場合と同じである。 また、被害生徒の安全感の確保には、加害生徒への適切な処遇が条件となることも忘れてはならない。加害生徒の責任をあいまいなまま放置しておくと、そこから生徒全体の、あるいは保護者も含めた学校に対する不信感が容易に広がってゆき、最悪の場合には学校が崩壊状況に陥ることがある。その意味からも加害生徒の告発は重要である。

d 生徒指導が困難になった状況

  生徒指導上の問題行動が多発し、学年や学校が崩壊状況に陥っている場合には、教職員のメンタルヘルスを考慮することが重要である。自信喪失からうつ状態に陥って休職に至る場合や、自責による自死などはこのような状況下で起こりやすい。そうした事態を避けるために、管理職と協議の上でストレスチェックなどを行い、教職員のストレスに早期に対応していくことも必要である。

e 生徒指導上問題のある生徒が相談室に集まる場合

  問題行動を行なう生徒が相談室に集まり、相談室が機能しなくなっている場合には、生徒指導担当者と協議の上で、相談室利用のルールを明確に設定しなければならない。カウンセラーが無理をして単独で対応しようとすると、生徒指導担当者のいわゆる「甘やかしている」という誤解を生み、それはスクールカウンセリングそのものへの不信感へ発展していくということをよく自覚しておかなければならない。授業エスケープで相談室に来る生徒についても同様である。原則は生徒指導セクションとカウンセリングセクションとのチーム対応であるということを忘れてはならない。

(4)発達に関わる問題(特別支援教育に関わる問題)

  発達に関わる様々の問題は、本来心理学がその対象としてきた重要な領域である。スクールカウンセラーは臨床心理学が専門であるから、発達のことはよくわからなくてもよいといった、心理学専門領域内部の狭いセクショナリズムを一般化してはならない。また学校は、児童生徒が文字通り発達の途上にある生き生きとした現場である。その意味からもスクールカウンセラーは、心理学の専門家として発達という領域に精通していなければならない。この場合の発達の領域とは、児童生徒の一般的な発達に関する理解と、発達の障害に関する理解の両方を含んでいる。
  具体的には次のようなことに対する理解と対応ができなければならない。

a 特別支援教育の必要な発達の障害

  教育現場での「発達障害」への対応では、その「障害」とされる事態が、多様な発達可能性の一形態であると考えられていることについてよく理解しておかなければならない。「障害児」教育ではなく特別の支援を必要とする教育なのである。臨床心理学や医学の領域で普通に用いられる「発達障害」という概念を、自明の前提として教育現場に持ち込むことはできない。その上で、「発達遅滞」「自閉症」「ダウン症」といった診断概念にもよく精通していなければならない。

b 特別支援教育学級との連携

  特別支援教育を行なっているクラスの担任は、そのクラスの児童生徒への対応の仕方について、発達心理学の専門的な領域に関わる問題で悩んでいたりすることも多い。その場合スクールカウンセラーは、最も身近な専門家として、その問題へのアプローチの仕方をアドバイスできる立場でなければならない。また、他のクラスとの交流の中にいる生徒がいる場合、一般のクラスの担任との間で意見の食い違いが起こる場合も考えられるが、必要な場合にはスクールカウンセラーは専門家としてその翻訳調整の役割を果たすことができなければならない。小学校と中学校での見解の相違が起こる場合も同様である。

c 特別支援教育を必要とする子どもを持った親へのケア

  このような立場にある保護者は、いろいろな面でストレスにさらされることが多く、そのストレスの蓄積がまた子供の発達に悪影響を与えている場合も多い。このような保護者への受容的、共感的なサポートは、スクールカウンセラーの重要な業務である。

d 軽度発達障害

  日常的に特別支援学級に所属するほどではないが、何らかの発達上の課題があって一般のクラスになじみにくい、いわゆる「軽度発達障害」と診断される可能性を持った一群の生徒への対応は、現在の学校での焦眉の課題である。スクールカウンセラーはこの「軽度発達障害」について正しい理解をもっていなければならないし、対応の仕方について的確に助言ができなければならない。
  ただし「軽度発達障害」といった用語、またその中身である「学習障害(LD)」、「注意欠陥多動症候群(ADHD)」、「広汎性発達障害」、「高機能自閉症」、「アスペルガー症候群」などは医療上の診断用語である。スクールカウンセラーは医師の診断なくそのような用語を生徒に対して断定的に使ってはならない。

f 発達検査について

  学校で診断のための発達検査を行なう必要はないが、医療機関や子供センターとの専門家としての連携のために、代表的な発達検査の結果の判定については精通していなければならない。

(5)心的外傷(トラウマ)、虐待

  災害、事件、事故による心的外傷(トラウマ)、あるいは親による虐待に対する対応も、スクールカウンセラーが熟知しておかなければならない現代的課題である。

a 心的外傷(トラウマ)

  災害、事件、事故などが発生し、そのことによるトラウマが想定される場合は、カウンセリングによる治療的対応が必要である。何らかの災害に遭遇したり、暴力被害や性被害、突発的な事故に遭遇した生徒や教職員がいる場合には、可能ならばできるだけ速やかに面接を行い、トラウマが深化しPTSD(心的外傷後ストレス障害)として固定化しないように予防的対応(心のケア)を行なわなければならない。(「PTSD」も医療上の診断概念であり安易に断定的に用いてはならない。)
  また、例えば学校周辺で暴力事件や性被害が続出し、被害にあっていない一般生徒の間にも動揺が想定される場合には、教職員に対して「心のケア」の研修を行うとともに、生徒や保護者に対して「心のケア」に関する説明会などを行うことも重要である。

b 虐待

  児童生徒への虐待の可能性があったり、また実際にその事実があったりする場合には、速やかに子供センターに通告しなければならない。この手続きはシステムとしては管理職からということになるが、緊急性があると判断されしかも学校内での手続きに手間取るときには、スクールカウンセラーの主体的な判断によって直接独自に子供センターに通告することもためらってはならない。
  虐待への対応は、関係諸機関に通告すればそれで終了というものではない。通告以後も関係諸機関と連携を深め、被虐待の対象となっている児童生徒の安全について、絶えず注意と関心を持って見守っていなければならない。そのためには関係諸機関による、対象児童生徒に関する協議を継続していかなければならないし、その中で、学校やスクールカウンセラーが今何ができるのかについても、絶えず考えておかねばならない。
  まだ虐待には至らないが、親の不適切な養育が観察される場合には、そうした親に対する不適切さの指摘やどうすればよいかの助言は、今後スクールカウンセラーの重要な業務となっていくだろう。そのような保護者に対しては、積極的に面接相談の機会を設けていくべきである。

(6)その他の症状、問題行動

  学校で観察されるその他の問題行動、症状に対しても、それが心理学的な課題である場合には、スクールカウンセラーは積極的に関わらなければならない。特に教育現場で、常識的に考えて奇異とされるような症状、問題行動については、その意味をよく翻訳して教職員に説明していかなければならないし、それへの適切なかかわり方を助言していかなければならない。
  例えば、解離性同一性障害における人格変換、性同一性障害の生徒への日常生活、統合失調症が疑われる場合の幻覚妄想、重篤な恐怖症状、強迫症状をもつ神経症、不安発作が頻発する神経症、繰り返し行われる過食嘔吐、生命に関わるほどの拒食などは、常識的には奇異とみられやすいが、医療機関への繋ぎ方を含めたそうした症状への対応の仕方を的確にアドバイスしていくことは、スクールカウンセラーの重要な業務である。

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初等中等教育局児童生徒課