第8章 学校における情報化の推進体制

第1節 教育委員会と学校が連携した教育の情報化の推進体制

1.教育委員会(教育CIO)が果たすべき役割

  「IT新改革戦略」において、学校のICT化のサポート体制強化の必要性が提言され、平成20年3月には、学校のICT化のサポート体制の在り方に関する検討会が「学校のICT化のサポート体制の在り方について-教育の情報化の計画的かつ組織的な推進のために-」をまとめている。ここでは、報告書の趣旨に沿って、教育委員会が地域や学校における教育の情報化を計画的、かつ組織的に進めるための役割を明確にする。

(1)教育の情報化のビジョンを策定し、広く浸透させる

教育振興基本計画への位置付け

  都道府県自治体が教育振興基本計画の中に、教育の情報化についての方針を明確に位置付けることが大切。例えば、平成20年5月に策定された「東京都教育ビジョン(第2次)」では、重点施策の一つとして、都立学校におけるICTを活用した授業力の向上が揚げられ、整備計画が明記された。これにより、ICT化が遅れている都内の各自治体にも拍車がかかることが期待される。

教育施策への位置付け

  市町村自治体においても、教育の情報化を、教育施策の一つとして位置づけることが望ましい。例えば、すでにICT環境の基盤整備が終了した東京都日野市においても、平成21年度から5年間の学校教育基本構想『教育のまち日野』に、子ども達に学力や情報活用能力をつけるためのICT活用が、当然のこととして明記されている。

指導主事の役割

  学校への指導・助言の役割を担う指導主事は、それぞれの教科教育の中でICTの活用を意識して指導にあたれるよう力量を高める必要がある。

Web、パンフレット等による保護者、地域への情報発信

  策定したビジョンを浸透させるために、教育委員会内の各部署がその趣旨をよく理解して共通見解をもち、関連施策も含めて機会あるごとに広く学校、保護者、地域住民へ周知を図ることが重要。特にWebサイトや教育広報誌等で積極的に発信する。

(2)ICT環境整備計画を策定し、学校のICT環境を整備する

予算の確保(地方交付税の積算根拠等)

  今までは、教育の情報化のための予算は優先順位が低く、なかなか整備計画が立てられない状況があった。しかし、地方自治体でのICT関連費用積算に基づく地方交付税の使途を明確にするなど、関係部局と調整しながら教育予算をいかに確保して教育の情報化を進めていくか、教育委員会の力量が問われる時代になる。

授業、校務、それぞれに対応した適切なICT環境整備

  IT新改革戦略に示されているように、1校務のために、一人1台のコンピュータを配備すること、2日常的にICTを活用した授業を実施するために、校内LANや普通教室におけるICT環境を整備することが、早急に求められる。

ネットワーク、機器等の保守管理は教育委員会が一括して委託

  学校のICT環境整備については、行政システムとは異なる教育用システムとして考える必要がある。このことを、セキュリティ面も含めて関係部局と連携して計画していくことが重要である。

(3)推進体制の整備

人材配置と組織配置の例

  教育の情報化の理念を実現するために、統括的な責任をもって学校のICT化を推進する人材あるいは組織を教育委員会内に配置する必要がある。

  • ※ 教育CIO機能の実現形態1.-人材配置-(検討会の図)
  • ※ 教育CIO機能の実現形態2.-組織配置-(検討会の図)
補佐官の位置付けと役割

  教育CIOの機能が、教育、技術、行政のいずれの分野についても、十分発揮できるよう、教育CIOの補佐役が必要である。

大学等の外部人材の積極的な活用

  教育の情報化を進めるにあたって、知識や経験を備えていない自治体は、教育CIOに適切な助言が不可欠である。その助言者として、外部の専門家の登用が考えられる。

初期段階における特別なチームの組織化と横断的な取組

  導入時は、教員の意識改革を図りながら、運用面での指導やトラブルに、ていねいに対応していくことが必要となる。例えば日野市のICT活用教育推進室のように、ICT活用が軌道に乗るまでは、ICTに特化した機動力のある特別の専門組織を設立することが効果的である。この組織は、関連部署と連携して横断的に教育の情報化を進めていくための中心となる。

2.教育CIOの機能

  学校のICT化においてCIOが担うべき機能とは、「学校のICT化について統括的な責任をもち、ビジョンを構築し実行すること」である。こうした機能を、学校のICT化における以下の諸課題に対応して、発揮させていくことが必要である。
※ 検討会の図2-1「CIO機能の分野」を利用

(1)学校のICT環境整備

  学校のICT環境整備の計画策定と予算獲得、授業改善等のための普通教室等のICT環境整備、低コスト・高機能な調達、首長部局の情報政策部門・財政部門との連携(検討会報告書より抜粋)

(2)情報化による授業改善と情報教育の充実

  先導的な実践事例の調査・研究、普及、情報モラル教育の充実、ディジタル教材の活用促進、研究組織の設立と運営支援(検討会報告書より抜粋)

(3)校務の情報化の推進

  情報化による校務の効率化と組織内・組織間連携の促進(検討会報告書より抜粋)

(4)情報セキュリティへの対応

  情報セキュリティポリシーの策定・運用・改善、個人情報保護の具体的手順の策定、情報漏洩事故等発生時の対応、情報セキュリティ監査の実施(検討会報告書より抜粋)

(5)情報公開・広報・公聴

  情報化に関する情報公開、学校の広報と説明責任の遂行、教育委員会におけるICTを活用した情報公開・広報・公聴、保護者・地域との連携促進(検討会報告書より抜粋)

(6)人材育成・活用(管理職、主幹教諭イコール教務主任)

  管理職研修の実施、教員のICT活用指導力の調査・分析、体系的な研修の計画・実施、外部人材の活用(検討会報告書より抜粋)

3.学校との連携

  教育の情報化を推進する上で、教育委員会の役割は大きいが、実際に総括的な責任をもって学校のICT化を進めるのは、学校CIOとしての管理職である。ここでは、教育CIOと学校CIOがどのように連携しながら教育の情報化を進めていけばよいのかについて、述べる。

(1)学校の実態把握と情報提供

管理職への情報提供、コンサルテーション

  ICT活用指導力調査の結果を分析して、それを各学校に知らせるとともに、校長が、学校CIOとして、校内の情報化におけるリーダーシップを発揮して学校経営するための必要な情報(教育の情報化に関する資料、実践事例資料等)を提供する。さらに、ICT化を図る上での学校経営上の相談にのったり、校内研修や授業等の支援を行ったりすることが求められる。

(2)学校の情報化推進サポート

ICT支援員の育成、活用、運用体制等

  教育委員会内に、教員のICT活用(例えば授業、校務、教員研修等の場面)をサポートするICT支援員を配置することが必要である。その人材を育成し、OJT等によって資質を高め、随時学校からの要請に応えてサポートするシステムを作ることが望ましい。
 ※ 検討会の図3-1「ICT支援員に係わる体制整備のイメージ」、図3-2「ICT支援員の機能と具体的な業務」を利用

  ※ 教育CIOのアクションチェックリストの作成を検討する

第2節 教育の情報化の推進にあたり管理職に求められること

1.管理職(学校CIO)の役割

  総括的な責任をもって学校のICT化を進める、学校CIOとしての管理職の役割について、教育CIOとの役割分担、すなわち教育委員会と学校の役割分担を明確にしながら述べる。

(1)情報化の重要性、必要性の理解が重要

  管理職が、教育の情報化の趣旨をよく理解し、教職員に正しく伝えることが推進の第一歩である。

(2)求められるマネジメント力

  校長は、ICT活用の意義をよく理解し、リーダーシップを発揮して校内のICTを推進していく体制を整える。必要なのはスキルではなく、理解と周知とマネジメント力である。その際、教員が困った時に相談にのったり、安心して指導にあたったりできるような環境づくりを行う。

(3)学校経営計画、学校評価への位置づけ

  学校経営計画及び学校評価項目に、校内の情報化を取り入れることで、授業や校務、情報発信等のICT活用の具体的な取組指標や成果指標を、保護者や地域住民、教育委員会と共有し、連携して推進することができる。

2.校内情報化推進体制の構築

  校長、副校長(教頭)、主幹教諭(教務主任)等の連携による学校全体の情報化推進と、具体的に情報化を推進するための校務分掌を組織化することが望ましい。なお、情報主任は、技術担当ではなく、カリキュラムコーディネータとして機能させることが授業でのICT活用、情報教育実践の普及に効果的である。また、実務者レベルでの学校間の情報交換により校内情報化の普及ノウハウを相互活用することが効果的である。

(1)管理職、主幹教諭(教務主任)等の連携による学校全体の情報化推進

  教育課程全体を管理している管理職、主幹教諭(教務主任)等が中心となって、効率的に、校内の情報化を推進していく体制をとる。

(2)実務者レベルでの学校間の情報交換により普及ノウハウを相互活用

  推進体制は同じでも、それぞれの学校の実態により、推進状況に違いが出てくる。実務者レベル(教務主任)で、悩みや戦略を共有し、どのように推進したらいいのか互いに知恵を出し合う場(教務主任研修等)を設けると効果的である。

(3)カリキュラムコーディネータとしての情報主任

  情報主任は、校内のICT活用を活性化させるにあたり、教員にスキルを教えることよりも、むしろ、効果的な活用方法を一緒に考え、提案するなどのカリキュラムコーディネータとしての役割が求められる。

3.学校の情報化の具体化

  以下の各項目について、各章との関連を図りながら、管理職の役割を明記する。

(1)ICT環境整備、運用の工夫

  校内の教職員に、システムやICT機器の管理方法を周知すると同時に、校内でより活用しやすくするための運用の工夫を図る。

(2)ICT活用と情報教育の教育課程への位置付け

  学力の向上を目指した授業改善、情報活用能力の育成のための情報教育の充実を、教育課程上に位置付ける。具体的には、ICTの活用を、学習指導要領に基づいて作成する各教科・領域の年間指導計画の中に明記する。また、情報教育の全体計画を作成する。

(3)校務の情報化による業務の効率化

  校務の情報化により、成績管理や校務分掌上の事務の効率化を図る。また、情報の共有によって、校内の児童・生徒理解を深めたり、作成した教材を共有、改善したりして教員相互に学び合い、教育の質の向上を図る。

(4)情報セキュリティへの対応

  教育委員会で定められた情報セキュリティポリシー等の規程を遵守し、その適切な運用を図るように、校内のマネジメントを図る。また、日頃から児童生徒の個人情報保護など情報セキュリティ上の意識を高めるように啓発に努める。

(5)情報公開・広報・公聴(学校ホームページ)

  学校における教育活動の情報提供に対する保護者のニーズに応え、保護者や地域住民の理解・信頼・協力を得るために情報の発信やコミュニケーションを促進する。具体的には、学校ホームページや学校だよりを活用して学校情報を発信・共有していく。

(6)校内研修(ICT活用指導力基準の活用)

  教員のICT活用指導力の調査結果を踏まえ、計画的に授業研究の場を設定し、外部の講師やICT支援員を招いてICTを活用した効果的な指導方法を研究する機会を作る。ICT機器の活用方法については、自主的に校内で学び合う機会を作る。

(7)ICT支援員の活用(教員の自立に向けての授業支援)

  ICTを活用した授業等を全ての教員が自立して行うことができるように、また、自立できた教員に対しては更なる要望に応え「わかる授業」「魅力的な授業」の実現・発展に向けた多様な支援をするために、ICT支援員を活用する。中学校では校務でのICT活用からの導入が効果的であり、導入期にはそのための支援が必要である。

  ※ 学校の情報化と外部の支援体制の図を作成
検討会の図1-8「学校のICT化のサポート体制の全体イメージ」
旧手引きのP172の図「学校内の体制と外部からの支援体制」を参考に

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初等中等教育局参事官付