参考資料1 「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」(平成20年1月17日 中央教育審議会)【道徳教育関係抜粋】

7.教育内容に関する主な改善事項

(4)道徳教育の充実

  • 教育は、人格の完成を目指すものであり、自らを律しつつ、他者と共に協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性をはぐくむことは学校教育の基本である。このため、現在も学校教育では豊かな心の育成が重要な課題となっている。教育基本法や学校教育法の改正においても、義務教育をはじめとした教育の目標として、豊かな情操と道徳心、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力、公共の精神、社会の形成に参画する態度、生命及び自然を尊重する精神、伝統や文化を尊重し、我が国と郷土を愛するとともに、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うことなどが規定された。
     すなわち、道徳教育は、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を具体的な生活の中に生かすことなどを通して、主体性のある日本人を育成するため、道徳的な心情、判断力、実践意欲と態度などの道徳性を養うことを目標とし、学校の教育活動全体を通じて行われるものである。
  • 特に小・中学校においては、道徳教育のかなめとして道徳の時間を設け、特別活動をはじめとした各教科等における道徳教育との密接な関連を図りながら、計画的、発展的に道徳的価値や人間としての生き方についての自覚を深め、道徳的実践力を育成することとされている。また、高等学校における道徳教育については、公民科や特別活動のホームルーム活動を中心に、人間としての在り方生き方に関する教育を学校の教育活動全体を通じて行うこととされている。
  • このように道徳教育は、学校の教育活動全体で行っているが、4.(2)第五で述べたとおり、学校、家庭及び地域の役割分担と連携が重要であり、特に家庭の果たすべき役割は大きい。しかしながら、3.のとおり、今日、社会規範自体が大きく揺らぐといった社会の大きな変化や家庭や地域の教育力の低下、親や教師以外の地域の大人や異年齢の子どもたちとの交流の場や自然体験等の体験活動の減少などを背景として、生命尊重の心や自尊感情が乏しいこと、基本的な生活習慣の確立が不十分、規範意識の低下、人間関係を築く力や集団活動を通した社会性の育成が不十分などといった指摘がなされている。
     また、小・中学校の道徳の時間については、指導が形式化している、学年の段階が上がるにつれて子どもたちの受け止めがよくない(注1)との指摘がなされており、何よりも実効性が上がるよう改善を行うことが重要である(注1)。
     これらの点を踏まえ、道徳教育の充実を図る必要がある。
  • このような観点から、道徳教育については、まず子どもたちの実態を踏まえ、幼稚園・小・中・高等学校の学校段階や小学校の低・中・高学年のそれぞれの段階ごとに取り組むべき重点を明確にし、より効果的な指導が行われるようにする必要がある。その際、
    • 幼稚園においては規範意識の芽生えを培うこと、
    • 小学校においては生きる上で基盤となる道徳的価値観の形成を図る指導を徹底するとともに自己の生き方についての指導を充実すること、
    • 中学校においては思春期の特質を考慮し、社会とのかかわりを踏まえ、人間としての生き方を見つめさせる指導を充実すること、
    • 高等学校においては社会の一員としての自己の生き方を探求するなど人間としての在り方生き方についての自覚を一層深める指導を充実すること、
    にそれぞれ配慮する必要がある。
     とりわけ、基本的な生活習慣や人としてしてはいけないことなど社会生活を送る上で人間としてもつべき最低限の規範意識、自他の生命の尊重、自分への信頼感や自信などの自尊感情や他者への思いやりなどの道徳性を養うとともに、それらを基盤として、法やルールの意義やそれらを遵守することなどの意味を理解し、主体的に判断し、適切に行動できる人間を育てることが大切である。
  • 教材については、現在、文部科学省が作成した「心のノート」や民間の教材会社、教育委員会等が作成した多様な読み物資料や視聴覚教材等が使用されている(注2)。これらの教材について、学校や学年の段階ごとの道徳教育の内容の重点化を踏まえ、それぞれの段階にふさわしい最低限の規範意識、人間関係、生き方、法やルールなどの内容に関する教材を工夫するとともに、先人の生き方、自然、伝統や文化などといった人に感動を与える美しさや強さを浮き彫りにした題材を活用することを促進することが必要である。
     なお、このように道徳教育に関する教材の充実を図り、各学校においてこれらを活用した道徳教育の改善が図られるためには、国や教育委員会等による十分な条件整備が必要である。
  • 次に、5.(7)の第一で示したとおり、子どもたちの発達の段階に応じて、親や教師以外の地域の大人や子どもたちとの交流、自然の中での集団宿泊活動や職場体験活動、奉仕体験活動などの体験活動は、他者、社会、自然・環境との直接的なかかわりの中で自らを振り返るといった点で極めて重要であり、道徳性の育成にも大いに資するものである。このため、(5)に示すとおり、特別活動や総合的な学習の時間などにおいて、これらの体験活動を推進することが必要である。
  • また、前述のとおり、子どもたちは学校だけではなく、家庭や地域社会における教育によってはぐくまれるほか、社会の変化や風潮からも影響を受ける。このため、道徳教育の充実に当たっては、重要な役割を果たす家庭や地域社会と学校の連携・協力が不可欠であり、三者が一体となった取組を進めていくことが重要である。例えば、学校での道徳教育に地域の人材も参加するなど学校と家庭や地域社会が共に取り組む体制や実践活動の充実、「早寝早起き朝ごはん」といった生活習慣や礼儀、マナーなどを身に付けるための取組などの家庭や地域社会における積極的な推進、「殺すな、盗むな、うそを言うな」といった最も根源的な課題を学校・家庭・地域社会を含めた社会全体で考えていくことなどが大切である。
    このように、社会全体で、子どもたちの生活習慣の確立、規範意識の醸成、道徳的価値観の形成などを推進していくための具体的な諸方策については、今後、別途検討を深めていく必要がある。
  • このように道徳教育の内容面の充実を図るに当たっては、小・中学校の道徳の時間の教育課程上の位置付けなども重要な課題であり、この点についても専門的な観点から検討した。その中においては、
    • 道徳の時間を現在の教科とは異なる特別の教科として位置付け、教科書を作成することが必要、
    • 多様な教材の活用が重要であり、学校や教育委員会が購入する副読本等に補助するなどの支援策が必要、
    • 授業時数が確保されず、十分な指導が行われていないことから、教科への位置付けが議論されていることを踏まえれば、教科と同様に、十分に時数が確保され、しっかりと指導されるよう内容の充実を考えるべき、
    • 道徳の時間は現在の教育課程上の取扱いを前提にその充実を図ることが適当、
    • 学校では、地域ごとに特色ある多様な教材が使用されており、教科書を用いることは困難、
    といった種々の意見が出された。また、「審議のまとめ」についての関係団体からのヒアリングや国民から寄せられた意見においても様々な見解が見られた。
     このように、道徳の時間の教育課程上の位置付けなどの課題については、様々な意見が見られるところであるが、これらに共通するのは道徳の時間の授業時数が必ずしも十分に確保されず、指導が不十分といった道徳教育の課題をいかに改善するかという問題意識であり、道徳教育を充実・強化すべきという認識では一致している。このような観点からは、実際の指導に大きな役割を果たす教材の充実が重要である。例えば、道徳の時間において、一人一人の子どもたちが、学習指導要領の趣旨を踏まえた適切な教材を教科書に準じたものとして十分に活用するような支援策を講ずることが考えられる。その際、現在、各学校においては、「心のノート」や民間の教材会社、教育委員会等が作成した多様な読み物資料等を使用して指導が行われているが、道徳教育の充実・強化の観点から、これらの多様な教材を認めつつ、その内容や活用方策の一層の充実を図ることが重要である。
  • (注1)「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月閣議決定)では、「小学校で1週間の自然体験、中学校で1週間の社会体験を実施し、高等学校で奉仕活動を必修化する。また、徳育を「新たな枠組み」により、教科化し、多様な教科書・教材を作成する」とされた。
     なお、「教科」について法制上定義がなされている訳ではないが、一般的に、1免許(中・高等学校においては、当該教科の免許)を有した専門の教師が、2教科書を用いて指導し、3数値等による評価を行う、ものと考えられている。
  • (注2)平成15年に実施した文部科学省「道徳教育推進状況調査」では、道徳の時間で使用する教材について、すべての子どもたちに配付されている「文部科学省が作成した心のノート」が小学校では97.1パーセント、中学校では90.4パーセントと最も多い。次いで、「民間の教材会社で開発・刊行した読み物資料」が小学校では81.5パーセント、中学校では70.8パーセントと多い。また、「都道府県や市町村教育委員会において開発・刊行した読み物資料」が小学校では58.8パーセント、中学校では48.8パーセント、「映像コンテンツ(テレビ放送など)」が小学校では66.8パーセント、中学校では66.3パーセントとなっている。

8.各教科・科目等の内容

(2)小学校、中学校及び高等学校

14.道徳教育

(1)改善の基本方針
  • 道徳教育(注3)については、その課題(注4)を踏まえ、小・中・高等学校の道徳教育を通じ、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を培い、自立し、健全な自尊感情をもち、主体的、自律的に生きるとともに、他者とかかわり、社会の一員としてその発展に貢献することができる力を育成するために、その基盤となる道徳性を養うことを重視する。
     また、発達の段階や社会とのかかわりの広がりなどの子どもたちの実態や指導上の課題を踏まえ、学校や学年の段階ごとに、道徳教育で取り組むべき重点を明確にする。
  • 道徳の時間における子どもの受け止めは、小学校と中学校では相当に異なっていることから、幼児期や高等学校段階での改善を視野に入れつつ、より効果的な教育を行うために、小学校と中学校の指導の重点や特色を明確にする。
     高等学校においては、道徳の時間は設定されていないが、社会の急激な変化に伴い、人間関係の希薄化、規範意識の低下が見られる中で、高等学校でも、知識等を教授するにとどまらず、その段階に応じて道徳性を養い、人間としての成長を図る教育の充実を進める。
  • 学校全体で取り組む道徳教育の実質的な充実を図る視点から、道徳教育の推進体制等の充実を図る。
     また、子どもの道徳性の育成に資する体験活動を一層推進するとともに、学校と家庭や地域社会が共に取り組む体制や実践活動の充実を図る。
  • (注3)道徳教育は、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を具体的な生活の中に生かすことなどを通して主体性のある日本人を育成するため、道徳的な心情、判断力、実践意欲と態度などの道徳性を養うことを目標とし、学校の教育活動全体を通じて行うこととしている。
    • 小・中学校においては、そのかなめとしての道徳の時間を設け、各教育活動における道徳教育との密接な関連を図りながら、計画的、発展的に道徳的価値(及び人間としての生き方:中学校)の自覚を深め、道徳的実践力を育成することを目標としている。道徳の内容は、主として「自分自身」「他の人とのかかわり」「自然や崇高なものとのかかわり」「集団や社会とのかかわり」の四つの視点からとらえ、小学校第1、2学年15項目、第3、4学年18項目、第5、6学年22項目、中学校23項目の内容を整理して示している。
    • 高等学校においては、公民科や特別活動のホームルーム活動を中心に人間としての在り方生き方に関する教育を学校の教育活動全体を通じて行うことに重点を置いている。
  • (注4)課題として、
    • 子どもの心の成長にかかわる現状を見るとき、子どもを取り巻く環境の変化、家庭や地域社会の教育力の低下、体験の減少等の中、生命尊重の心の不十分さ、自尊感情の乏しさ、基本的な生活習慣の未確立、規範意識の低下、人間関係を形成する力の低下など、子どもの心
    • 活力が弱っている傾向が指摘されている。また、社会参画への意欲や態度の形成が求められている。
    • 道徳の時間については、その指導が形式化して実効が上がっていないとの指摘や、学年が上がるにつれて子どもの受け止めがよくない。
    • 学校や学年の段階等を踏まえた道徳教育の重点が見えにくく、教育活動全体を通じた指導や、道徳の時間を含めた相互の関連が十分でない、教師が理解しにくいものや指導しにくい内容があるとの指摘がある。
    • 高等学校の道徳教育は、在り方生き方に関する教育を教育活動全体を通じて行うこととされているが、そのことを意識した指導が十分にはなされていないとの指摘がある。
    • 道徳教育に取り組む体制を一層充実し、家庭や地域社会と一体となって推進することが求められている。
(2)改善の具体的事項
  • (ア)道徳教育の指導内容について、子どもの自立心や自律性、生命を尊重する心の育成をいずれの段階においても共通する重点として押さえるとともに、基本的な生活習慣、規範意識、人間関係を築く力、社会参画への意欲や態度、伝統や文化を尊重する態度などを育成するといった観点から、学校や学年の段階ごとに取り組むべき重点を示す。特に人間関係や集団の一員としての役割や責任などを実践を通して学ぶ特別活動をはじめとして各教科等がそれぞれの特質を踏まえ担うものについても明確にする。
     また、道徳教育の内容項目について、学校や学年の接続や系統性を踏まえて、分かりやすくする。
  • (イ)小学校における道徳の時間においては、自己の生き方及びその基盤となる道徳的価値観の形成を図る指導を徹底する観点から、低学年では、幼児教育との接続に配慮し、例えば、基本的な生活習慣や善悪の判断、きまりを守るなど、日常生活や学習の基盤となる道徳性の指導や感性に働きかける指導を重視する。
     また、中学年では、例えば、集団や社会のきまりを守り、身近な人々と協力し助け合うなど、体験や人間関係の広がりに配慮した指導を重視する。
     さらに高学年では、中学校段階との接続も視野に入れ、他者との人間関係や社会とのかかわりに一層目を向け、相手の立場の理解と支え合い、集団の一員としての役割と責任などに関する多様な経験を生かし、夢や希望をもって生きることの指導を重視する。
     特に高学年段階から同じテーマを複数の時間にわたって指導するなど、指導上の工夫を促進する。
  • (ウ)中学校における道徳の時間においては、思春期の特質を考慮し、社会とのかかわりを踏まえ、人間としての生き方や社会とのかかわりを見つめさせる指導を充実する観点から、道徳的価値に裏打ちされた人間としての生き方について自覚を深める指導を重視する。その際、法やきまり、社会とのかかわりなどに目を向ける、人物から生き方や人生訓を学んだり自分のテーマをもって考え討論したりするなど、多様な学習を促進する。
     また、中学校は教科担任制であり、複数の教師が生徒の教科等の指導にかかわることを生かして、学年や学校において協力し合う指導体制による展開を重視する。
  • (エ)高等学校においては、高等学校のすべての教育活動を通じて道徳教育が効果的に実践されるようにするため、学校としての指導の重点や方針を明確にし、道徳教育の全体計画の作成を必須化するとともに、各教科や特別活動、総合的な学習の時間がそれぞれの特質を踏まえて担うものについて明確にする。
     また、社会の一員としての自己の生き方を探求するなど、生徒が人間としての在り方生き方にかかわる問題について議論し考えたりしてその自覚を一層深めるようにする観点から、中核的な指導場面となる「倫理」や「現代社会」(公民科)、「ホームルーム活動」(特別活動)などについて内容の改善を図る。
  • (オ)特に小学校高学年や中学校の段階で、法やきまり、人間関係、生き方など社会的自立に関する学習において、より効果的な指導を行うため、道徳の時間及び各教科等それぞれで担うものや相互の関連を踏まえ、役割演技など具体的な場面を通した表現活動を生かすといった指導方 法や教材等について工夫することが必要である。
  • (カ)道徳的価値観の形成を図る観点から、書く活動や語り合う活動など自己の心情・判断等を表現する機会を充実し、自らの道徳的な成長を実感できるようにする。
  • (キ)社会における情報化が急速に進展する中、インターネット上の「掲示板」への書き込みによる誹謗中傷やいじめといった情報化の影の部分に対応するため、発達の段階に応じて情報モラルを取り扱う。
  • (ク)学校教育全体で取り組む道徳教育の実質的な充実の観点から、道徳教育主担当者を中心とした体制づくり、実際に活用できる有効で具体性のある全体計画の作成、小・中学校における授業公開の促進を図る。
  • (ケ)子どもの道徳性の育成に資する体験活動や実践活動として、例えば、幼児等と触れ合う体験、生命の尊さを感じる体験、小学校における自然の中での集団宿泊活動、中学校における職場体験活動、高等学校における奉仕体験活動などを推進する。
  • (コ)道徳教育にとっても家庭や地域社会の果たす役割は重要であり、様々な学校教育活動について学校、家庭、地域が相互に結び付きを深める中で、道徳教育については、例えば、生活習慣や礼儀、マナーを身に付けるための取組などが家庭や地域社会において積極的に行われるようにその促進を図ることが重要である。

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