4.子どもの徳育の充実に向けて

(1)今日的課題を踏まえた子どもの徳育の在り方

(徳育を通じて身につけるべき内容)

○ 2で述べられている子どもの徳育に関する 今日的な課題を踏まえ、現在の我が国の子どもが徳育を通じて、身につけていくことが 期待される内容としては、特に、以下が考えられる。こうした内容については、大人自 らが率先して身につける姿勢を子どもに示すことも求められているものである。

  • 父母や祖父母などを敬い、家族を愛すること
  • 基本的な生活習慣の確立
  • 思いやることのできる想像力、感謝す る気持ち、他者と共感できる心の育成
  • 善悪に関する知識と感性を持つこと
  • 規範意識をもち、してよいこと、しな ければならないこと、してはならないことを認識できること
  • 自己肯定感をもつこと
  • 市民性、共同性・公共性に関する意識をもつこと
  • 謙虚な心をもち、年長者の考えに謙虚に耳を傾けること
  • 自らを律する精神の鍛錬
  • ルールを遵守すること
  • 公徳心をもつこと
  • 互いに協力し合いながら、 自己の人生を切り開く自立心をもつこと
  • 他者との関係を調整する力 、コミュニケーション能力の育成
  • 情報倫理、メディアとの正しい接し方 、正しいインターネット等の利用に関する常識をもつこと
  • 社会的存在としての自己認識(アイデンティティ)の確立
  • 人間や社会の在るべき姿について考えを深め、 生きる主体としての自己を確立し、自らの人生観、世界観ないし価値観を形成すること

(発達段階に応じた徳育の充実)

○ こうした徳育を通じて身につけるべき内容 に関して、3で述べられている観点を踏まえながら、各発達段階に応じて取り組むこと が重要である。そうした中、特に、発達段階ごとに重点的に取り組むべき内容としては 、以下の観点が考えられる。すべての大人がこうした発達段階ごとの観点を踏まえて子 どもの徳育の充実に取り組むことが望まれる。

  1. 乳幼児期からの、基本的な生活習慣の形成
  2. 幼児期からの、多様な体験を通じた社会性の 涵養、発達段階に応じた人間関係能力の学習、言語能力の育成
  3. 幼児期から学童前期における、 「してよいこと、しなければならないこと、してはならないこと」につ いての充実した指導、 「心に響く指導」の継続的な実施による、基本的な道徳心の醸成
  4. 学童前期からの、社会や集団のマナー・ルー ルに関する継続的な指導、発達段階に応じた、法や決まりの意義の理解な ど、規範意識の確立、市民性の涵養
  5. 学童前期からの、自己肯定感と自らの成長に よって得られる自己達成感の育成
  6. 青年期以降における、人間としての生き方、 在り方を踏まえ、自らの生き方をよく考え、人生を切り拓く力の育成
  7. 各発達段階における、豊かな情操の涵養と、 未来の主権者・社会形成に参加する一員という、自立した大人を目指す教育

(発達段階に応じた子どもの徳育に ついての関係者の深い理解)

○ これらの内容は、保護者をはじめとするす べての大人が理解し、実践すべきことであるが、特に、幼稚園、小学校、中 学校、高等学校の教師や保育士といった子どもの教育、保育等に関する専門家においては、こうした 発達段階に応じた観点を十分に踏まえた子どもの徳育の推進が期待されるものである。

(発達段階に応じた徳育の実践の方法)

○ 子どもの徳育に関する方法は、実践の場が 家庭や地域、学校等などと多岐にわたることから、一律に整理されるものではない。し かしながら、乳幼児期から、発達段階に応じた徳育の推進を図っていく意義は、 家庭・地域・学校のいずれにおいても共通である。とりわけ、ことばの教育や体験活動を、子ど もの発達段階の特徴を踏まえて推進することが、今日的な課題への対応としても大変重要である。

(2)家庭・地域・学校の役割と社会総がかりによる子どもの徳育の推進

(家庭・地域・学校のそれぞれの特 性を踏まえた役割分担)

○ 公徳心の喪失といった、人が人として存在 するための基盤が失われつつあるという危機に直面しているこの時代だからこそ、子ど もの徳育の充実にあたっては、社会総がかりとなって取り組む必要がある。そうした中 、家庭・地域・学校が各々の特性を踏まえた適切な役割を分担していくことが大切である。

(家庭の役割)

○ 子どもの徳育においては、家庭の役割が何 よりも大きい。家庭は、子育ての基盤であり、人生の基盤である。親をはじめとする特 定の大人との愛着形成や、家族との触れ合いを通じて、子どもの豊かな情操や基本的な 生活習慣、家族を大切にする気持ちや他人に対する思いやり、命を大切にする気持ち、 善悪の判断などの基本的倫理観、社会的なマナー、自制心や自立心を養う上で、重要な 役割を担うものである。それゆえ、子どものもっとも身近な模範役としての大人の役割 を親が果たすことが、子どもの豊かな心の育成に向けて、何よりも求められる。

(地域の役割)

○ 地域においては、親や教師以外の様々な大 人や、異年齢の子どもたちとの交流の機会を提供できること、自然体験や社会体験等の 様々な体験活動の機会が提供でき、思いやりの心や規範意識がはぐくまれることに寄与 するという特性を踏まえた役割が期待される。

(学校の役割)

○ 学校は、体系的なカリキュラムによる教育 活動が行われる場であり、さらには同年齢あるいは異なる年齢の子ども同士が触れ合い 集団生活を営む場であるという特性を踏まえた役割が期待される。さらに、学校には、 担任をはじめとする教師が存在するが、社会の一員としての自立した大人の身近なモデ ルとして、子どもの心の発達においてその意義は大きい。

(社会総がかりによる徳育の推進の ために今すぐ講ずべき方策)

○ こうした家庭・地域・学校の役割分担を踏 まえ、今すぐに取り組むべき、社会総がかりの徳育の推進の基本的な対応の方向性とし ては、以下の方策が考えられる。なお、言うまでもないが、こうした対応については、 大人ひとりひとりが当事者として取り組まなければならないという意識を持 たなければならないものである。

1. 子どもの健やかな心身の成長 のための家庭教育の充実と家庭支援

提言1 家庭でルールをつくり、子どもに愛情を 持って接し基本的なしつけを行うこと
提言2 家庭教育の支援とワーク・ラ イフ・バランスの推進を図ること
  •  家庭は、子どもの人生における出発点 であり、父母をはじめとする保護者が子どもの教育における一義的な責任を有するものである(※8)。
     保護者においては、誰よりも子育ての 当事者としての自覚を有し、家族の触れ合いの時間を十分確保し、愛情を持って子 どもに接し、基本的なしつけを行い、睡眠時間の確保や食育の推進(※9)による食生活の改善といった生活習慣の確立に努めることが大事である。
  •  例えば、家庭における基本的なルール や、親子の約束をつくることは、子どもが規範意識等を身につける上で効果的であ る。また、早寝早起きや朝ごはんをきちんと食べる、あるいは、親子でご飯を一緒 に食べるなどの取組は、子どもの基本的な生活習慣を確立する上で効果的である。 さらには、他人への思いやりの気持ちや感謝の気持ちをあらわす、ありがとう、ど うぞ、どういたしまして、といった言葉がけの推進は子どもの豊かな人間性をはぐ くむことに効果的と考えられる。こうした取組を家庭、地域が連携して進める必要がある。
  •  また、核家族化や地域における地縁的 つながりの希薄化が指摘される今だからこそ、従来以上に、ひとりひとりの子ども に対する理解を適切に行うという意識を、保護者だけでなく、周りの大人が有する ことが重要である。そうすることで、地域を中心に、保護者への適切な支援が行わ れ、孤立した子育てを避けることが期待される。
  •  国や地方公共団体等においては、すべ ての保護者が自信を持って安心して子育てをすることができるよう、社会全体での 家庭教育に対する支援に積極的に取り組んでいく必要がある。特に、保護者に対す る学習機会や情報提供に加え、家庭教育に無関心であったり、自信を持てない親な ど様々な状況にある家庭に対する支援なども含め、 身近な地域においてきめ細かな支援が実 施されることが重要である。 また、その際には、児童福祉部局、教育委員会 、家庭教育支援団体、学校等の関係機関が連携協力した家庭教育の支援体制の構築 ・充実が必要である。さらに、地方公共団体においては、家庭教育手帳を活用し積 極的に情報提供を行うほか、母子健康手帳に記載されている、子育てにおいて留意 すべき事項やアドバイスを周知徹底することも期待される。また、国においては、 家庭教育支援方策についての先進的な取組を開発・調査研究し、有効な支援方策を 地方公共団体に普及させていくことなどが望まれる。
  •  また、企業等においては、子どもの健 やかな心身の成長において、乳幼児期における家庭教育の重要性を今一度認識し、 男性が育児参加できること等ワーク・ライフ・バランスの推進に向けたさらなる取組が期待される。
~家庭教育の充実に向けた取組「 「親子でつくろう我が家のルール」運動」~

「親子でつくろう我が家のルール」運動

 親子でつくろう我が家のルール運動推進協議会 (文部科学省、社団法人日本PTA全国協議会、独立行政法人国立青少年教育振興機構 、独立行政法人国立女性教育会館)においては、社会総がかりで「心をはぐくむ」取組 を推進するため、すべての教育の出発点である家庭に対して、 「早寝早起き朝ごはん」といった生活習慣づくりや親子の約束など、基本的なルールづくりの大切さについて呼 びかけていく「親子でつくろう我が家のルール」運動を推進しており、標語 を募集し、7月に表彰を行った。

【優秀作品】
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2. 地域の教育力の充実

提言3 子育て関関係団体と連携協力 し、地域の子育ての取組を充実すること
  •  子どもは家庭で親をはじめとする家族 の愛情のもとではぐくまれ、地域の友達や大人と交流しながら成長していく。した がって、地域の教育力の充実は、子どもの徳育の充実には不可欠のものである。近 所のお祭りや、子供会・町内会等の行事や児童館・公民館活動といった地元の活動 への子どもたちの参加率が上昇しているという明るい傾向がある(※10)。このような地域における子どもや大人の関わり等、地域における子どもの健やかなはぐくみへの 積極的な取組の着実な進展を期待したい。
  •  また、家庭、地域、学校が、 十分な連携を図った子育てを推進 するにあたっては、保護者の学びの場を提供しているPTA の果たす役割は大きい。地域ぐるみの道徳教育の実践をPTA等が推進している事 例もあり、今後ともPTA活動の一層の充実、さらには子育て支援等に関する事業 を実施しているNPO等の関係団体の活動の充実が期待される。この他、子どもが 社会における自らの役割や自己有用感を認識できるよう、児童会や生徒会活動にお ける子どもの主体的な取組の一層の推進も求められる。
  •  このような地域の教育力の充実には、 地域の大人が、地域の子どもを育てることは自らの役割でもあるという自覚ある関 与が大切であり、地域の大人と子育て等に関係する団体との連携協力の充実も期待 される。さらに、地域の大人においては、例えば、 学校における、 入学式や卒業式といった人生の節目節目 の儀式等において、地域の住民が積極的に参加し、地域の子 どもの徳育についての当事者意識を高めるということも望まれる。また、国や地方 公共団体等は、地域における子どもの教育に関する様々な取組の事例を収集し、実 証的な分析を行い、好事例を広く周知することが望まれる。
~家庭、地域、学校等における子どもの育成への取組例~

【助産師による子どもの自己肯定感を育む「いのちの大切さを伝える出前講座」 (群馬県助産師会) 】

  •  群馬県助産師会のメンバーが県内の小中学校 に出向き、頭で理解するのではなく、心で実感できるように工夫した、親子一緒に参 加する体験活動型の講座を開催している。
  •  講座を体験した子どもは、尊いいのちである こと、家族に望まれて生まれてきたこと、自分自身が生きる力を持って生まれてきた ことを実感し、また、保護者は、子どもが生まれてきたときの感動を再確認し、親子 のかけがえのなさを認めあい、絆を深めるきっかけとなっている。

【地域全体で子どもを育てるシステム作り‐自 発的な生活習慣の確立を目指して‐(東京都文京区立駒本小PTA) 】

  •  平成19年度より「PTAからPTA+A(エリ ア・地域)へ」をPTA活動のテーマとして掲げ、より地域とPTAが密接に関 わり、地域全体で親子の子育てを支援している。
  •  また、同年、PTAと地域住民の有志が中心となり、 「ワクワク子どもクラブ」を設立し、在籍校に関わらず、近隣地域の親子交 流を深める活動を開始している。
  •  平成20年度には駒本小学校支援地域本部を開設 し、PTAと地域の連携を図りながら、基本的な生活習慣の確立をめざしている。
  •  具体的には、児童生徒の登下校の見守りと声 がけによる挨拶習慣の確立をめざしたスクールガード活動や、学校登校後の 15分間の読書タイムを実施しているが、1~ 3年生は週一回、PTAや祖父母を中心としたボ ランティアによる絵本の読み聞かせも実施している。この他、NPOとの連携による 、科学の視点から食生活の見直しを図る子ども料理科学教室活動や、自立心の確立と 防災・救護訓練を目的とした防災キャンプ等を実施している。

【心を耕し、 心をつなぐPTA活動‐読書活動を通じて‐ (静岡県伊豆市立湯ヶ島小学校) 】

  •  子どもと保護者が読書を通じてつながり、共 に心の健康と成長を促すことを目的に読書活動をPTA活動の取組の中心に据えている。
  •  PTA会費で購入した本を、会員が家庭で子 どもと一緒に読み、感想を書いて、次の会員に回す「心の玉手箱」の取組を実施している。
  •  毎週木曜日の朝、PTAの会員が、学校で先 生、子どもに対して本の読み聞かせを行う「お話の玉手箱」の取組を実施している 。PTAの会員が全員参加の活動である。
  •  こうした活動を通じて、保護者の生き甲斐づ くりになると共に、子どもと大人の距離が縮まっている。

【一人一人が輝く、心豊かなたくましい永原っ 子を育成するPTA活動‐子どもの基本的な生活習慣の確立を目指したPTAの取組‐ (鹿児島県姶良郡加治木町立永原小学校PTA) 】

  •  「早寝早起き朝ごはん運動」を実施しており 、各家庭において、毎月第二週目の一週間における「起床時刻」 「朝食摂取」 「学習時間」 「テレビ視聴時間」 「ゲーム時間」「就寝時刻」をチェック項目として 調べ、分析・改善している。
  •   「一家庭・一家訓運動」を推進し、各家庭で 話し合い、家族みんなで守る約束(ルール)を決めて取り組んでいる。家庭で作るル ールの中には、町全体の実践事項である、 「話を静かに聞くことができる」 「あいさつができる」 「正しい言葉づかいができる。 」 「自分のことは自分でできる」 「一日に見せるテレビの時間を決める(平日2時間以内、休日4時間以内) 」の5項目を含めるとともに、各家庭におけるノーテレビデーまたは、ノーテレビタイムを設けることとしている。
  •  こうした取組を通じ、親自身が朝食の重要性 を始めとして、生活リズムの育成の重要性を再認識し、家庭生活の向上が図られている。

【家族や仲間の大切さを心身で学ぶ 野外研修(NPO法人森と海の学校) 】

  •  森と海の学校では、 1984 年の開校以来、子ども自然体験 キャンプ等の野外研修を行い、 小学生や中学生が参加し、 研修中は異年齢での縦割り編成での共同生活を行い、子どもたちは自然に協力と思いやりの心を学んでいる。
  •  研修の企画・運営は、大学生等の学生指導員 が担当しており、学生指導員は、子どもを預かるという活躍の場を与えら れることで育つ契機にもなっている。
  •  また、「親からの手紙」というプログラムが位置づけられており、子どもたちは、共同生活に慣れ、家族を思い出す頃に手紙を手 渡され、一人で読むことで、親の愛情を確認するとともに、翌日には子どもが手紙の 感想文を書き、保護者に送られる。手紙の交換を通じて、家族の存在を見つめ直し、 絆を深めるきっかけとなっている。

3. 学校における道徳教育の充実

提言4 全校的な体制づくりを通じ、 各学校において道徳教育を充実すること
提言5 道徳教育に関する教材の活用 への支援と教師の資質向上を図ること
  •  学校における道徳教育の充実は、新し い学習指導要領においても、重要な観点のひとつと位置づけられ、発達の段階に応 じた指導の重点の明確化、道徳教育の推進を主に担当する教師( 「道徳教育推進教師」(※11)を中心として道徳教育を展開することの明確化、児童生徒が感動を覚える 魅力的な教材の活用の推進などの改善が図られている。現在、各学校においては、 文部科学省が作成した「心のノート」や民間の教材会社、教育委員会等が作成した 教材が使用されているが、こうした教材について、規範意識、人間関係、生き方、 法やルールなどの内容や、先人の生き方、伝統や文化などを題材とすることの促進 等、一層の充実・改善により、学校における道徳教育の充実が期待される。特にい わゆる副読本を一層活用する観点から、本年度より試行されている国による財政的 な支援は重要な役割を果たすものであり、更なる充実が期待される。
  •  また、各学校においては、学校全体で 道徳教育に取り組むための体制づくりが重要である。校長の方針のもと、 「道徳教育推進教師」を中心とした、全教師が協力した道徳教育の推進や道徳の時間の授業 公開の促進が必要である。 こうした取組は、道徳教育についての家庭や地域との共通理解を深め ることにもつながる。また、要かなめの時間である道徳の時間と、特別活動を 含めた各教科等における道徳教育とは密接なかかわりを有するものであり、学校教 育全体を通じた取組を一層推進することにより、道徳教育の充実を進めることが望 まれる。その際、絵本の効果的な活用や、「早寝早起き朝ごはん」運動に加え、例 えば「ありがとう、どうぞ、どういたしまして」といった、あいさつ活動などを、 1年間を通じて、学級の目標として推進するといった工夫も、各学校においては考えられる。
  •  なお、学校で子どもと身近に接する教 師は、自立した大人の姿を、子どもに対して身をもって示すことが望まれることか らも、学校の内外における教師の研修といった取組の更なる充実が期待される。
  •  さらに、国においては、道徳教育の一 層の充実を支援するためにも、各学校における道徳教育の指導者の在り方について 研究を進めることが必要である。また、国や地方公共団体等においては、すべての 教師の道徳教育についての理解と一定の専門性の定着を図るため、教員養成段階や 研修等における道徳教育に関する内容の充実方策についての検討も必要である。

4. 子どもの体験活動の充実

提言6 発達段階に応じた子どもの体験活動の充実を図ること
  •  体験活動については、子どもたちの発 達段階に応じた充実が必要であり、3で示している子どもたちの発達段 階における主な特徴を踏まえ、
    イ 学童期(小学校の時期)においては 、自然体験(例えば、農業体験等)を通じて、自然に親しみ、その偉大さ、美し さに出会ったり、仲間との関わりを深めたりする体験活動、
    ロ 青年前期(中学校の時期)において は、職場体験、ボランティア活動等、社会と自己の関わり方を考え始めることに つながる社会体験活動、
    ハ 青年中期(高等学校の時期)におい ては、自己の将来展望や社会における自分の役割についての考えを深めることが 期待でき、キャリア教育の視点からも重要な役割を果たす就業体験活動や奉仕活動、
    をそれぞれ重点的に推進することが期待される。
  •  こうした発達段階に応じた体験活動の 充実は、家庭・地域・学校などすべての場において、図られる必要がある。既に述 べてきたように、子どもは、他者や社会、自然・環境の中での直接的な体験を通じ て、自らと向き合い、他者と共感し、自然や社会の一員であることを実感できるが 、今の子どもたちは、インターネット社会の進展の中、バーチャルな情報や知識に は触れることが多くとも、直接的な体験の機会が、昔の子どもたちに比べて著しく 減少している。そうした中、我々大人が努力し、 子どもが主役である体験活動の機会をつくり、 子どもが自己有用感を体感し、社会における自らの役割や居場所に気づ くきっかけとなる機会の充実を図る必要性は大きい。子どもの健やかな成長には、 家庭における親の役割や地域の大人との交流の役割が一義的には大きいものである が、こうした社会環境の変化等の視点も踏まえ、家庭や地域だけでなく、学校も含めて、 異年齢、異なる地域の子どもの交流、集団宿泊活動、自然体験活動、奉仕体験 活動といった体験活動の機会を充実することが必要である。
  •  さらには、こうした取組を家庭・地域 ・学校が推進するため、国や地方公共団体等においても、 体験活動等の充実に向けた支援を 積極的に推進することが望まれる。具体的には、国においては、関係省庁が 連携し、山や河川、あるいは、農山漁村などにおいて、 子どもが自然に親しむことができる 環境の充実や自然体験活動の推進、あるいは、宿泊体験活動の機会の充実な ど、様々な体験活動の機会の充実に向けた一層の支援方策が望まれる。また、地方 公共団体においては、教育委員会や河川、農政、環境部局といった関係部局、さら には、青少年教育団体等の関係団体との連携を進め、子どもの体験活動の充実を推 進することが期待される。
  •  また、国においては、子どもの体験活 動に関する様々な取組事例に関して、専門家による実証的な調査分析を行い、発達 段階に応じた体系的な子どもの体験活動の望ましい在り方を検討していくことも必要である。

5. 読書活動を通じた子どものことばの教育の充実

提言7 絵本の読み聞かせや古典に親しむ等の読 書活動の充実を幼児期から図ること
  •  ことば・日本語は、論理や思考といっ た知的活動だけではなく、コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもある。自分 や他者の感情や思いを的確に表現し、理解し、受け止めるためには、語彙や表現力 が豊かであることが重要である。豊かな心は、ことばによってはぐくまれ、愛情あ ることばがけによって自尊心や他者への思いやりの気持ちが生まれる。こうした発 達段階に応じた子どもの適切な言語能力の習得に向けた取組の推進は、言語活動の 充実に寄与するだけでなく、子ども同士で遊びながらコミュニケーションスキルを 直接学ぶ体験、あるいは子どもたち自らがルールをつくり、また、そうしたルール を守る経験を有することにもつながる。すなわち、ことばの教育を通じて、コミュ ニケーション能力を子どもは身につけることができ、真に他者の立場に立った、思 いやりある言動を実践することにつながるものである。
  •  ことばを活用した子どもの徳育の実践 にあたっては、読書活動が有効である。読書を通じて、子どもは、ものの見方、感 じ方、考え方を広げ、深めることになる。発達段階に応じて、長く読まれている古 典や近代以降の作品など、我が国において継承されてきた言語文化に親しむことが できるような取組を進めるべきである。とりわけ、古典を学ぶことは、子どもの徳 育の視点からも意義深い。先人の情感や感動が集積されている古典に親しむことで 、伝統的な文化の継承と発展、さらには、先人たちの人間観を学ぶことが可能とな る。伝統文化を通じて道徳心を培うことができる古典を使った取組を家庭、地域、 学校で推進することが重要である。
  •  特に、幼児期においては、絵本の読み 聞かせの意義は極めて大きいものと考えられる。例えば、従来より我が国で親しま れている善い行いを勧め、悪い行いを懲らしめることを主題とした絵本等を使った 読み聞かせを行うことは、幼児が、善悪に関する感性をはぐくむことにもつながる 。現在も、幼児への読み聞かせの方法等を説明しながら保護者に絵本等を手渡す 「ブックスタート」 運動が実施されているが、こうした取組を積極的に推進していくことが期待される。
  •  また、現在も各家庭においてノーテレ ビタイム等を設けている事例などが見られるが、例えば、そうした時間に親子で読 書活動を行うことも意義が大きいと考えられる。
  •  このように、家庭や学校等においては 、保護者や教師等が、子どもの発達における読書活動の意義について十分理解した うえで読書活動の充実を進め、子どもの感性や情緒をはぐくむことも重要である。

6. インターネット社会における課題への対応

提言8 有害情報から子どもを守る取 組や情報モラル教育を推進すること
提言9 子ども向けの良質な番組提供 や出版等への取組を充実すること
  •  インターネットなどの新しいメディア 技術の発達による子どもたちへの大きな影響を踏まえ、子どもと新しいメディア技 術との望ましい関係の在り方の早急な検討が必要である。関係する企業等において は、有害情報の除去や携帯電話のフィルタリングなど、子どもたちを有害情報から 守る配慮等、子どもたちの心身の健康なはぐくみという観点からの引き続きの配慮 と方策の充実とともに、日進月歩で進む新しいメディアと子どもの望ましい関係の 在り方の構築に向けた不断の対応が望まれる。
  •  同時に、家庭・地域・学校や企業等、 様々な場において、情報モラル教育の推進を引き続き図ることも重要である。
  •  なお、5歳児、小学6年、中学3年の いずれにおいても、約6割の子どもが、1日2時間テレビを見ているという現状(※12)とテレビ番組に関する保護者の不安(※13)を踏まえると、家庭における生活習慣の確立 に向けた努力や、学校における道徳教育の充実だけでなく、放送局や出版社等のメ ディア関係者においては、子どもの豊かな心身の発達への配慮についての一層の意 識の向上や、子ども向けの良質な番組提供や書籍等の出版等への取組の充実を望みたい。

7. 社会全体で子どもの徳育を推進する体制づくり

提言10 子どもの徳育の 充実に向けた啓発活動を推進すること
  •  家庭・地域・学校等における子どもの 徳育に関する充実方策の実施を促進するためにも、国や地方公共団体の教育・福祉 ・医療等の担当部局だけでなく、様々な関係機関が連携し、子育て・徳育について の社会のすべての大人の意識を喚起する必要がある。
  •  こうした社会全体での啓発活動を国民 的運動として展開することを通じ、大人の意識が変わり、子どもの徳育の当事者で あるという意識を有することにつながり、子どもの徳育の充実が進められていくものである。
  •  また、国や地方公共団体等においては 、徳育の推進に関する様々な取組の事例を収集し、好事例を広く周知することが望 まれる。さらには、好事例において共通する要素を分析し、効果的な方法論の提言 に向けた実証的な検討を行うことも重要である。
~社会全体で徳育を推進する取り組む事例「 「心の東京革命」 」~
  •  東京都では、親や大人が次代を担う 子どもたちに正面から向き合い、責任を持って正義感や倫理観、思いや りの心をはぐくみ、人が生き ていく上で当然の心得を伝えていく取組として「心の東京革命」を進めている。
  •  心の東京ルールとして、子どもた ちに伝える7つの呼びかけとして、 「毎日きちんとあいさつさせよう」 「他人の子どもでも叱ろう」 「子どもに手伝いをさせよう」 「ねだる子どもにがまんをさせよう」 「先人や目上の人を敬う心を育てよう」 「体験の中でこどもをきたえよう」 「子どもにその日のことを話させよう」を提案している。
  •   「心の東京革命行動プラン」を策定し、以下の取組を実施。
  1. 企業や団体の参加による推進組織として「心 の東京革命推進協議会」を設立。
  2. 毎月第3土曜日を「家族 ふれあいの日」と定め、親子 の絆を強める契機としてイベント等を実施するほか、飲食業界 や文化・レジャー施設の 強力による親子割引サービスを実施。
  3. 心の東京革命アドバイザーの養成。
  4. 地域ぐるみで子どもを育成する取 組を「心の東京革命推進モデル」に指定。
  5. 親が自信を持って子育てに取り組めるための、 子育て講座「心の東京塾」を開講。
  6. 「子ども家庭支援センタ ー」を設置し、地域の子育て 支援のネットワーク作りを推進。
  7. 「とうきょう親子ふれあ いキャンペーン」として、親 子での自然体験や文化活動を毎年夏秋に市区町村や民間団体と連携して実施。 等
~鳥取県家庭教育推進協力企業制度~
  •  鳥取県では、 「鳥取県家庭教育推進協力企業制度」を 設け、次代を担う子どもたちをみんなで育てていくという考え方のもと 、県全体の家庭教育の向上を進めている。
  •  県教育委員会と、本制度の趣旨に賛 同し、従業員の子育てをしやすい職場づくりや、地域の子どもたちを健やかに育て る地域貢献など、次に掲げるプログラムを2つ以上取り組む企業が協定を締結している。

プログラム

  1. 学校に行ってみよう(参観日や保護者 会、学校行事等への参加の働きかけや休暇が取りやすい職場環境づくりの取組)
  2. 仕事を語ろう、仕事を見せよう(子 どもたちによる親の職場訪問等の取組)
  3. 子どもの体験活動を広げよう(親子や家族で参 加する自然体験活動や地域活動)
  4. 我が社の子育て支援(家庭教育研修会 の実施、学校への出前事業、地域での子育て支援事業、企業独自の子育て支援策( 残業時間削減と地域活動への参加の奨励、育児のための短時間勤務制度、子ども の看護休暇制度の導入等) )
  •  県は、家庭教育研修会の講師の派遣 や締結した協力企業の取組内容を広くPRする等により協力企業を支援している。

※8 教育基本法
(家庭教育)
第十条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。

※9 食育基本法
(子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割)
第五条 食育は、父母その他の保護者にあっては、家庭が食育において重要な役割を有していることを認識するとともに、子どもの教育、保育等を行う者にあっては、教育、保育等における食育の重要性を十分自覚し、積極的に子どもの食育の推進に関する活動に取り組むこととなるよう、行われなければならない。

※10 内閣府「低年齢少年の生活と意識に関する調査報告書」(平成19年2月)

※11 小・中学校学習指導要領解説(道徳編)における道徳教育推進教師の役割の例示

  1. 道徳教育の指導計画の作成に関すること
  2. 全教育活動における道徳教育の推進,充実に関すること
  3. 道徳の時間の充実と指導体制に関すること
  4. 道徳用教材の整備・充実・活用に関すること
  5. 道徳教育の情報提供や情報交換に関すること
  6. 授業の公開など家庭や地域社会との連携に関すること
  7. 道徳教育の研修の充実に関すること
  8. 道徳教育における評価に関すること など

※12 厚生労働省「第6回21世紀出生児縦断調査」(平成18・19年度)、文部科学省「平成20年度 全国学力・学習状況調査」

※13 平成20 年度子どもとメディアに関する意識調査 調査結果報告書(社団法人 日本PTA全国協議会)によると、保護者が子どもに見せたくないテレビ番組について、小学5年生の保護者の30.1%、中学2年生の保護者の23.2%が「ある」と回答。
 また、子どもに見せたくない理由として、 「内容がばかばかしい」が、小学5年生の保護者で53.1%、中学 2年生の保護者で52.8%と最も多かった。次いで、「言葉が乱暴である」(小学5年生の保護者で41.1%、中学2 年生の保護者で38.0%)。

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初等中等教育局児童生徒課