4.子どもの徳育の充実に向けて

(1)今日的課題を踏まえた子どもの徳育の在り方

(徳育を通じて身につける内容)

○ 2で述べられている子どもの徳育に関する今日的な課題を踏まえ、現在の我が国の子どもが大人の愛情のもとで大切にされるという意識を持ちながらはぐくまれ、身につけていくことが期待される内容としては、特に、以下が考えられる。こうした内容については、大人自らが率先して身につける姿勢を子どもに示すことも求められているものである。

  • 自他を尊重し、お互いを思いやり、感謝し、共感する心
  • 年長者の考えに謙虚に耳を傾けること
  • 父母や祖父母などを敬い、家族を愛すること
  • 基本的な生活習慣の形成
  • 他者との関係を調整する力、コミュニケーション能力の育成
  • 規範意識を持ち、自らを律し、してよいこと、しなければならないこと、してはならないことを認識できること
  • 公徳心を持ち、ルールを遵守すること
  • 人間や社会の在るべき姿について考えを深め、生きる主体としての自己の確立
  • 情報倫理、メディアとの正しい接し方、適切なインターネット等の利用に関する常識を持つこと

(発達段階に応じた徳育の充実)

○ こうした徳育を通じて身につける内容に関して、3で述べられている観点を踏まえながら、各発達段階に応じて取り組むことが重要である。そうした中、特に、発達段階ごとに重点的に取り組むべき内容としては、以下の観点が考えられる。すべての大人がこうした発達段階ごとの観点を踏まえて子どもの徳育の充実に取り組むことが望まれる。

  1. 乳幼児期からの、基本的な生活習慣の形成
  2. 幼児期からの、多様な体験を通じた社会性の涵養、発達段階に応じた人間関係能力の学習、言語能力の育成
  3. 幼児期から学童前期における、「してよいこと、しなければならないこと、してはならないこと」についての充実した指導、「心に響く指導」の継続的な実施による、基本的な道徳心の醸成
  4. 学童前期からの、社会や集団のマナー・ルールに関する継続的な指導、発達段階に応じた、法や決まりの意義の理解など、規範意識の確立、市民性の涵養
  5. 学童前期からの、自己肯定感と自らの成長によって得られる自己達成感、自己有用感の育成
  6. 青年期以降における、人間としての生き方、在り方を踏まえ、自らの生き方をよく考え、人生を切り拓く力の育成
  7. 各発達段階における、豊かな情操の涵養と、未来の主権者・社会形成に参加する一員という、自立した大人を目指す教育

(発達段階に応じた子どもの徳育についての関係者の深い理解)

○ これらの内容は、保護者をはじめとするすべての大人が理解し、実践すべきことであるが、特に、幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教師や保育士といった子どもの教育、保育等に関する専門家においては、こうした発達段階に応じた観点を十分に踏まえた子どもの徳育の推進が期待されるものである。

(発達段階に応じた徳育の実践の方法)

○ 子どもの徳育に関する方法は、実践の場が家庭や地域、学校等などと多岐にわたることから、一律に整理されるものではない。しかしながら、乳幼児期から、発達段階に応じた徳育の推進を図っていくことの重要性は、家庭・地域・学校のいずれにおいても共通である。とりわけ、ことばの教育や体験活動を、子どもの発達段階の特徴を踏まえて推進することが、今日的な課題への対応としても大変重要である。

(2)家庭・地域・学校の役割と社会総がかりによる子どもの徳育の推進

(家庭・地域・学校のそれぞれの特性を踏まえた役割分担)

○ 公徳心の喪失といった、人が人として存在するための基盤が失われつつあるという危機に直面しているこの時代だからこそ、子どもの徳育の充実にあたっては、社会総がかりとなって取り組む必要がある。そうした中、家庭・地域・学校が各々の特性を踏まえた適切な役割を分担していくことが大切である。

(家庭の役割)

○ 子どもの徳育においては、家庭の役割が何よりも大きい。家庭は、子育ての基盤であり、人生の基盤である。親をはじめとする特定の大人との愛着形成や、家族との触れ合いを通じて、子どもの豊かな情操や基本的な生活習慣、家族を大切にする気持ちや他人に対する思いやり、命を大切にする気持ち、善悪の判断などの基本的倫理観、社会的なマナー、自制心や自立心を養う上で、重要な役割を担うものである。それゆえ、子どものもっとも身近な模範役としての大人の役割を親が果たすことが、子どもの豊かな心の育成に向けて、何よりも求められる。

(地域の役割)

○ 地域においては、親や教師以外の様々な大人や、異年齢の子どもたちとの交流の機会を提供できること、自然体験や社会体験等の様々な体験活動の機会が提供でき、思いやりの心や規範意識がはぐくまれることに寄与するという特性を踏まえた役割が期待される。

(学校の役割)

○ 学校は、体系的なカリキュラムによる教育活動が行われる場であり、さらには同年齢あるいは異なる年齢の子ども同士が触れ合い集団生活を営む場であるという特性を踏まえた役割が期待される。さらに、学校には、担任をはじめとする教師が存在するが、社会の一員としての自立した大人の身近なモデルとして、子どもの心の発達においてその意義は大きい。

(社会総がかりによる徳育の推進のために今すぐ講ずべき方策)

○ こうした家庭・地域・学校の役割分担を踏まえ、今すぐに取り組むべき、社会総がかりの徳育の推進における基本的な対応の方向性としては、以下の方策が考えられる。なお、これらの方策について、未来の主権者である子ども自らが考え、子ども同士で行動することで、お互いが学びあい、成長することができるよう、子どもが主人公となる機会を社会全体として保障し、子どもの可能性を引き出すことが、大人社会の責任であることを自覚して、我々大人は取り組まなければならないものである。

1.子どもの健やかな心身の成長のための家庭教育の充実と家庭支援

提言1 家庭で子どもに愛情を持って接し、生活上の基本的なしつけを行うこと

提言2 家庭教育の支援とワーク・ライフ・バランスの推進を図ること

・ 家庭は、子どもの人生における出発点であり、父母をはじめとする保護者が子どもの教育における一義的な責任を有するものである(※8)。
 保護者においては、誰よりも子育ての当事者としての自覚を有し、家族の触れ合いの時間を十分確保し、愛情を持って子どもに接し、基本的なしつけを行い、睡眠時間の確保や食育の推進(※9)による食生活の改善といった生活習慣の確立に努めることが大事である。
・ 例えば、家庭における基本的なルールや、親子の約束をつくることは、子どもが規範意識等を身につける上で効果的である。また、早寝早起きや朝ごはんをきちんと食べる、あるいは、親子でご飯を一緒に食べるなどの取組は、子どもの基本的な生活習慣を確立する上で効果的である。さらには、他人への思いやりの気持ちや感謝の気持ちをあらわす、ありがとう、どうぞ、どういたしまして、といった言葉がけの推進は子どもの豊かな人間性をはぐくむことに効果的と考えられる。こうした取組を家庭、地域が連携して進める必要がある。
・ また、核家族化や地域における地縁的つながりの希薄化が指摘される今だからこそ、従来以上に、ひとりひとりの子どもに対する理解を適切に行うという意識を、保護者だけでなく、周りの大人が有することが重要である。そうすることで、地域を中心に保護者への適切な支援が行われ、保護者の子育てへの不安が解消されるとともに、子どもが、落ち着いた環境のもと、安心して育つことが期待される。
・ 国や地方公共団体等においては、すべての保護者が自信を持って安心して子育てをすることができるよう、社会全体での家庭教育に対する支援に積極的に取り組んでいく必要がある。特に、保護者に対する学習機会や情報提供に加え、家庭教育に無関心であったり、自信を持てない親など様々な状況にある家庭に対する支援なども含め、身近な地域においてきめ細かな支援が実施されることが重要である。また、その際には、児童福祉部局、教育委員会、家庭教育支援団体、学校等の関係機関が連携協力した家庭教育の支援体制の構築・充実が必要である。さらに、地方公共団体においては、家庭教育手帳を活用し積極的に情報提供を行うほか、母子健康手帳に記載されている、子育てにおいて留意すべき事項やアドバイスを周知徹底することも期待される。また、国においては、家庭教育支援方策についての先進的な取組を開発・調査研究し、有効な支援方策を地方公共団体に普及させていくことなどが望まれる。
・ また、企業等においては、子どもの健やかな心身の成長において、乳幼児期における家庭教育の重要性を今一度認識し、男性が育児参加できること等ワーク・ライフ・バランス(※10)の推進に向けたさらなる取組が期待される。


※8 教育基本法
(家庭教育)
第十条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
 2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。

※9 食育基本法
(子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割)
第五条 食育は、父母その他の保護者にあっては、家庭が食育において重要な役割を有していることを認識するとともに、子どもの教育、保育等を行う者にあっては、教育、保育等における食育の重要性を十分自覚し、積極的に子どもの食育の推進に関する活動に取り組むこととなるよう、行われなければならない。

※10 ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の定義として、「男性も育児参加できるワーク・ライフ・バランス企業へ-これからの時代の企業経営-」(平成18年10月厚生労働省男性が育児参加できるワーク・ライフ・バランス推進協議会)においては、「働く人が仕事上の責任を果たそうとすると、仕事以外の生活でやりたいことや、やらなければならないことに取り組めなくなるのではなく、両者を実現できる状態のこと」としている。

2.地域の教育力の充実

提言3 子育て関係団体と連携協力し、地域の子育ての取組を充実すること

・ 子どもは家庭で親をはじめとする家族の愛情のもとではぐくまれ、地域の友達や大人と交流しながら成長していく。したがって、地域の教育力の充実は、子どもの徳育の充実には不可欠のものである。近所のお祭りや、子供会・町内会等の行事や児童館・公民館活動といった地元の活動への子どもたちの参加率が上昇しているという明るい傾向がある(※11)。このような地域における子どもや大人の関わり等、地域における子どもの健やかなはぐくみへの積極的な取組の着実な進展を期待したい。
・ また、家庭、地域、学校が、十分な連携を図った子育てを推進するにあたっては、保護者の学びの場を提供しているPTAの果たす役割は大きい。地域ぐるみの道徳教育の実践をPTA等が推進している事例もあり、今後ともPTA活動の一層の充実、さらには子育て支援等に関する事業を実施しているNPO等の関係団体の活動の充実が期待される。この他、子どもが社会における自らの役割や自己有用感を認識できるよう、児童会や生徒会活動における子どもの主体的な取組の一層の推進も求められる。
・ このような地域の教育力の充実には、地域の大人が、地域の子どもを育てることは自らの役割でもあるという自覚ある関与が大切であり、地域の大人と子育て等に関係する団体との連携協力の充実も期待される。さらに、地域の大人においては、例えば、学校における、入学式や卒業式といった人生の節目節目の儀式等において、地域の住民が積極的に参加し、地域の子どもの徳育についての当事者意識を高めるということも望まれる。また、国や地方公共団体等は、地域における子どもの教育に関する様々な取組の事例を収集し、実証的な分析を行い、好事例を広く周知することが望まれる。


*11 内閣府「低年齢少年の生活と意識に関する調査報告書」(平成19年2月)

3.学校における道徳教育の充実

提言4 全校的な体制づくりを通じ、各学校において道徳教育を充実すること

提言5 道徳教育に関する教材の活用への支援と教師の資質向上を図ること

・ 学校における道徳教育の充実は、新しい学習指導要領においても、重要な観点のひとつと位置づけられ、発達の段階に応じた指導の重点の明確化、道徳教育の推進を主に担当する教師(「道徳教育推進教師」(※12))を中心として道徳教育を展開することの明確化、児童生徒が感動を覚える魅力的な教材の活用の推進などの改善が図られている。現在、各学校においては、文部科学省が作成した「心のノート」や民間の教材会社、教育委員会等が作成した教材が使用されているが、こうした教材について、規範意識、人間関係、生き方、法やルールなどの内容や、先人の生き方、伝統や文化などを題材とすることの促進等、一層の充実・改善により、学校における道徳教育の充実が期待される。特にいわゆる副読本を一層活用する観点から、本年度より試行されている国による財政的な支援は重要な役割を果たすものであり、更なる充実が期待される。
・ また、各学校においては、学校全体で道徳教育に取り組むための体制づくりが重要である。校長の方針のもと、「道徳教育推進教師」を中心に、各教師がそれぞれの役割意識をもち、全教師の参画、分担、協力の下での道徳教育の推進や道徳の時間の授業公開の促進が必要である。こうした取組は、道徳教育についての家庭や地域との共通理解を深めることにもつながる。また、学校全体で取り組む道徳教育の要(かなめ)である道徳の時間と、特別活動を含めた各教科等における道徳教育とは密接なかかわりを有するものであり、学校教育全体を通じた取組を一層推進することにより、道徳教育の充実を進めることが重要である。その際、絵本の効果的な活用や、「早寝早起き朝ごはん」運動に加え、例えば「ありがとう、どうぞ、どういたしまして」といった、あいさつ活動などを、1年間を通じて、学級の目標として推進するといった工夫も、各学校においては考えられる。
・ なお、学校で子どもと身近に接する教師は、自立した大人の姿を、子どもに対して身をもって示すことが望まれることからも、学校の内外における教師の研修といった取組の更なる充実が期待される。
・ さらに、国においては、道徳教育の一層の充実を支援するためにも、各学校における道徳教育の指導者の在り方について研究を進めることが必要である。また、国や地方公共団体等においては、すべての教師の道徳教育についての理解と一定の専門性の定着を図るため、教員養成段階や研修等における道徳教育に関する内容の充実方策についての検討も必要である。


※12 小・中学校学習指導要領解説(道徳編)における道徳教育推進教師の役割の例示
1 道徳教育の指導計画の作成に関すること
2 全教育活動における道徳教育の推進,充実に関すること
3 道徳の時間の充実と指導体制に関すること
4 道徳用教材の整備・充実・活用に関すること
5 道徳教育の情報提供や情報交換に関すること
6 授業の公開など家庭や地域社会との連携に関すること
7 道徳教育の研修の充実に関すること
8 道徳教育における評価に関することなど

4.子どもの体験活動の充実

提言6 発達段階に応じた子どもの体験活動の充実を図ること

・ 体験活動については、子どもたちの発達段階に応じた充実が必要であり、3で示している子どもたちの発達段階における主な特徴を踏まえ、
 イ 学童期(小学校の時期)においては、自然体験(例えば、農業体験等)を通じて、自然に親しみ、その偉大さ、美しさに出会ったり、仲間との関わりを深めたりする体験活動、
 ロ 青年前期(中学校の時期)においては、職場体験、ボランティア活動等、社会と自己の関わり方を考え始めることにつながる社会体験活動、
 ハ 青年中期(高等学校の時期)においては、自己の将来展望や社会における自分の役割についての考えを深めることが期待でき、キャリア教育の視点からも重要な役割を果たす就業体験活動や奉仕活動、
をそれぞれ重点的に推進することが期待される。
・ こうした発達段階に応じた体験活動の充実は、家庭・地域・学校などすべての場において、図られる必要がある。既に述べてきたように、子どもは、他者や社会、自然・環境の中での直接的な体験を通じて、自らと向き合い、他者と共感し、自然や社会の一員であることを実感できるが、今の子どもたちは、インターネット社会の進展の中、バーチャルな情報や知識には触れることが多くとも、直接的な体験の機会が、昔の子どもたちに比べて著しく減少している。そうした中、我々大人が努力し、子ども同士がふれあい、一人一人が主役となる体験活動を推進し、子どもが自己有用感を体感し、社会における自らの役割や居場所に気づくきっかけとなる機会の充実を図る必要性は大きい。子どもの健やかな成長には、家庭における親の役割や地域の大人との交流の役割が一義的には大きいものであるが、こうした社会環境の変化等の視点も踏まえ、家庭や地域だけでなく、学校も含めて、異年齢、異なる地域の子どもの交流、集団宿泊活動、自然体験活動、奉仕体験活動といった体験活動の機会を充実することが必要である。
・ こうした取組を家庭・地域・学校が推進するため、国や地方公共団体等においても、体験活動等の充実に向けた支援を積極的に推進することが望まれる。具体的には、国においては、関係省庁が連携し、山や河川、あるいは、農山漁村などにおいて、子どもが自然に親しむことができる環境の充実や自然体験活動の推進、あるいは、宿泊体験活動の機会の充実など、様々な体験活動の機会の充実に向けた一層の支援方策が望まれる。また、地方公共団体においては、教育委員会や河川、農政、環境部局といった関係部局、さらには、青少年教育団体等の関係団体との連携を進め、子どもの体験活動の充実を推進することが期待される。
・ また、国においては、子どもの体験活動に関する様々な取組事例に関して、専門家による実証的な調査分析を行い、発達段階に応じた体系的な子どもの体験活動の望ましい在り方を検討していくことも必要である。

5. 読書活動を通じた子どものことばの教育の充実

提言7 絵本の読み聞かせや古典に親しむ等の読書活動の充実を幼児期から図ること

・ ことば・日本語は、論理や思考といった知的活動だけではなく、コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもある。自分や他者の感情や思いを的確に表現し、理解し、受け止めるためには、語彙や表現力が豊かであることが重要である。豊かな心は、ことばによってはぐくまれ、愛情あることばがけによって自尊心や他者への思いやりの気持ちが生まれる。こうした発達段階に応じた子どもの適切な言語能力の習得に向けた取組の推進は、言語活動の充実に寄与するだけでなく、子ども同士で遊びながらコミュニケーションスキルを直接学ぶ体験、あるいは子どもたち自らがルールをつくり、また、そうしたルールを守る経験を有することにもつながる。すなわち、ことばの教育を通じて、コミュニケーション能力を子どもは身につけることができ、真に他者の立場に立った、思いやりある言動を実践することにつながるものである。
・ ことばを活用した子どもの徳育の実践にあたっては、読書活動が有効である。読書を通じて、子どもは、ものの見方、感じ方、考え方を広げ、深めることになる。発達段階に応じて、長く読まれている古典や近代以降の作品など、我が国において継承されてきた言語文化に親しむことができるような取組を進めるべきである。とりわけ、古典を学ぶことは、子どもの徳育の視点からも意義深い。先人の情感や感動が集積されている古典に親しむことで、伝統的な文化の継承と発展、さらには、先人たちの人間観を学ぶことが可能となる。伝統文化を通じて道徳心を培うことができる古典を使った取組を家庭、地域、学校で推進することが重要である。
・ 特に、幼児期においては、絵本の読み聞かせの意義は極めて大きいものと考えられる。例えば、従来より我が国で親しまれている善い行いを勧め、悪い行いを懲らしめることを主題とした絵本等を使った読み聞かせを行うことは、幼児が、善悪に関する感性をはぐくむことにもつながる。現在も、幼児への読み聞かせの方法等を説明しながら保護者に絵本等を手渡す「ブックスタート」運動が実施されているが、こうした取組を積極的に推進していくことが期待される。
・ また、現在も各家庭においてノーテレビタイム等を設けている事例などが見られるが、例えば、そうした時間に親子で読書活動を行うことも意義が大きいと考えられる。
・ このように、家庭や学校等においては、保護者や教師等が、子どもの発達における読書活動の意義について十分理解したうえで読書活動の充実を進め、子どもの感性や情緒をはぐくむことも重要である。

6. インターネット社会における課題への対応

提言8 有害情報から子どもを守る取組や情報モラル教育を推進すること

提言9 子ども向けの良質な番組提供や出版等への取組を充実すること

・ インターネットなどの新しいメディア技術の発達による子どもたちへの大きな影響を踏まえ、子どもと新しいメディア技術との望ましい関係の在り方の早急な検討が必要である。関係する企業等においては、有害情報の除去や携帯電話のフィルタリングなど、子どもたちを有害情報から守る配慮等、子どもたちの心身の健康なはぐくみという観点からの引き続きの配慮と方策の充実とともに、日進月歩で進む新しいメディアと子どもの望ましい関係の在り方の構築に向けた不断の対応が望まれる。
・ 同時に、家庭・地域・学校や企業等、様々な場において、情報モラル教育の推進を引き続き図ることも重要である。
・ なお、5歳児、小学6年、中学3年のいずれにおいても、約6割の子どもが、1日2時間テレビを見ているという現状(※13)とテレビ番組に関する保護者の不安(※14)を踏まえると、家庭における生活習慣の確立に向けた努力や、学校における道徳教育の充実だけでなく、放送局や出版社等のメディア関係者においては、子どもの豊かな心身の発達への配慮についての一層の意識の向上や、子ども向けの良質な番組提供や書籍等の出版等への取組の充実を望みたい。


※13 厚生労働省「第6回21世紀出生児縦断調査」(平成18・19年度)、文部科学省「平成20年度全国学力・学習状況調査」

※14 平成20年度子どもとメディアに関する意識調査調査結果報告書(社団法人日本PTA全国協議会)によると、保護者が子どもに見せたくないテレビ番組について、小学5年生の保護者の30.1%、中学2年生の保護者の23.2%が「ある」と回答。
また、子どもに見せたくない理由として、「内容がばかばかしい」が、小学5年生の保護者で53.1%、中学2年生の保護者で52.8%と最も多かった。次いで、「言葉が乱暴である」(小学5年生の保護者で41.1%、中学2年生の保護者で38.0%)。

7.社会全体で子どもの徳育を推進する体制づくり

提言10 子どもの徳育の充実に向けた啓発活動を推進すること

・ 家庭・地域・学校等における子どもの徳育に関する充実方策の実施を促進するためにも、国や地方公共団体の教育・福祉・医療等の担当部局だけでなく、様々な関係機関が連携し、子育て・徳育についての社会のすべての大人の意識を喚起する必要がある。
・ こうした社会全体での啓発活動を国民的運動として展開することを通じ、大人の意識が変わり、子どもの徳育の当事者であるという意識を有することにつながり、子どもの徳育の充実が進められていくものである。
・ また、国や地方公共団体等においては、徳育の推進に関する様々な取組の事例を収集し、好事例を広く周知することが望まれる。さらには、好事例において共通する要素を分析し、効果的な方法論の提言に向けた実証的な検討を行うことも重要である。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課