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別添3

すべての学校にPDCAサイクルを確立するために

静岡市検証改善委員会

はじめに

 静岡市教育委員会では、2005年政令市移行に伴い「新しい時代をひらく教育基本構想」を策定し、「一人ひとりの自己実現による幸福を目指す」ことと、「社会を支える人材を育成する」ことを基本目標に掲げ教育を推進してきた。その中の政策課題の一つである「確かな学力」の育成については、指導・授業のあり方の研究、教育課程の改善の推進、総合的な学習の時間の充実、読書活動の充実などを図ってきた。
 特に、教育課程編成・実施の改善は、学校のPDCAサイクルを確立するための重点として、教育課程編成基準の制定、教育課程編成説明会、教育課程ヒアリング等の実施により浸透を図っている。
 さらに、「教育課程実現状況調査検討委員会」を設置し、その報告では、市独自の学力調査等の実施に代わる全国学力・学習状況調査を活用した改善の推進が提言されたところである。

1 検証改善委員会の体制について

 静岡市検証改善委員会は、静岡市教育委員会事務局学校教育課主席指導主事である望月和彦を代表者として、静岡市教育委員会の指導主事を中心とした行政関係者4名、市内の公立小学校長3名(算数1名、国語1名、支援校代表1名)、公立中学校長2名(数学1名、国語1名)、静岡市小中学校PTA連絡協議会代表1名、静岡大学教授、常葉学園大学准教授の学識経験者2名の計13名から構成される委員会である。
 本委員会の他に、特に、心理学的アプローチによるデータの分析手法を開発するため村山功教授を中心とした静岡大学部会(再委託)、教科教育学的アプローチによる分析手法を開発するため中村孝一准教授を中心とした常葉学園大学部会(再委託)、児童生徒自身による分析手法を開発するための児童生徒部会、地域・保護者による分析手法を開発するための地域・保護者部会を設け、検討を行った。
 6月に第1回検証改善委員会を開催し、10月までに2回の委員会及び作業部会において、分析手法の開発及び分析を行った後、2月の委員会を中心に学校改善支援プランをまとめた。

2 学校改善支援プランの概要

 検証改善委員会では、全国学力・学習状況調査の静岡市の結果について全国と比較した結果、全体的に良好であった。しかし、小学校については、国語の「書くこと」「読むこと」及び算数の「数量関係」、中学校については数学の特定の設問に特に課題が見られた。また、学習状況調査の結果からは、地域活動への参加、運動をしている時間等に課題があるという結果が見られた。
 これらを受けて、静岡市検証改善委員会としては、「静岡市として一律の分析や改善を図るのではなく、地域・学校の実態にあった改善を図る」ことを基本にし、各学校が活用できる分析手法を開発することをねらいとし、以下の3点を中心に学校改善支援プランをまとめた。

  • 1一人ひとりの子どもたちに確かな学力をつける
  • 2すべての学校にPDCAサイクルを確立する
  • 3市民総がかりで参画する教育を推進する

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 前項の概要でも言及したが、本市の全国学力・学習状況調査の結果について、検証改善委員会で分析を行ったところ、以下の点が明らかになった。
 教科に関する分析では、全体として良好であり、知識に比べて活用に課題があるなど全国の同様の傾向を示しているものが多い。しかし、個別の教科について具体的に見ると以下のような特徴と課題が見られた。

(小学校・国語)

 Bについては、すべての領域において全国と比較して平均正答率が上回っている。Aにおいては、「書くこと」「読むこと」の領域に課題がみられる。

(小学校・算数)

 A、Bともに「数と計算」「量と測定」「図形」の領域においては、全国と比較して平均正答率が高いものの、「数量関係」の領域については課題が見られる。

(中学校・国語)

 A、Bともにすべての領域で全国と比較して平均正答率が上回っている。特にBについては良好な結果である。また、無解答率が低かったのも特徴である。

(中学校・数学)

 A、Bともにすべての領域において、全国と比較して平均正答率が高いものの、自分の考えを数学的に説明することについては課題が見られる。
 また、児童生徒質問紙の質問項目同士のクロス分析から、次のような特徴と課題が見られた。

(国語とクロス分析)

 小・中ともに国語の授業で自分の考えを書いたり話したりする活動を「している」と答えた児童生徒は、全国平均に比べて多い。また、「していない」と答えた児童生徒に比べて、Bの平均正答率が大きく上回っている。

(算数とクロス分析)

 「学校のきまりや友達との約束を守っている」児童は、「守っていない」児童と比べてA、Bともに正答率が高い。

(数学とクロス分析)

 「人に理由や手順を説明するときは、筋道を立ててわかりやすく説明するように気を付けている」生徒は、知識・活用とも正答率が高い。

 児童生徒質問紙調査の結果からは、以下のような特徴と課題が見られた。
 「早寝・早起き・朝ごはん」や「家の人と一緒に夕食を食べたり、話をしたりしている」などの生活習慣が良好な傾向にある。さらに、「学校で好きな授業や楽しみな活動がある」「自分には良いところがある」などの肯定感をもった児童生徒が多く、安定した学校生活を過ごしている状況がうかがわれる。一方、「地域の行事に参加している児童生徒」の割合や「体育の授業以外に運動している児童生徒」の割合は、全国に比べて少ないという課題が見られる。
 また、本市の特徴である広域な市域を反映しているという面が見られる。すなわち、市街地・山間地など、学校が設置されている地域の状況が調査結果に強く反映されていることが明確になった。

4 学校改善支援プランについて

 各学校が自ら分析し改善を図ることを支援するために、検証改善委員会が開発した分析手法をまとめ、これらを実践した事例をモデルとして提示した。このプランを活用し浸透していくことが各学校のPDCAサイクル確立の推進に資するものである。

1静岡市検証改善サイクルの確立

 学校自らの検証改善を核に、児童生徒、地域・保護者、大学が側面から支援するしくみを提示した。

学校における検証改善手法モデル

 学校が確立すべき「組織」「分析」「情報提供」「改善」についてモデル化した。各学校に校内検証改善委員会の設置を求めるとともに、分析や改善の必須内容と学校の実態に応じて実施する内容を明示することに努めた。

児童生徒による検証改善手法モデル

 児童生徒が分析し、提言・支援案をまとめる手法についてモデル化した。ワークショップ型分析とアンケート活用授業型検証を提示した。

地域・保護者による検証改善手法モデル

 地域・保護者が分析し、提言・支援案をまとめる手法についてモデル化した。ワークショップ型(アンケート活用型)分析と討論型分析を提示した。

大学における検証改善手法モデル

 静岡大学が心理学的アプローチにより開発したデータ処理モデルを提示した。学校改善のための全校データ処理、教師の経験的知識や疑問の検証、個別指導のための個人データ処理の3モデルを示している。
 また、常葉学園大学が教科教育学的アプローチにより開発したモデルを提示した。改善項目分析重点化提示方略、校内研究分析評価方略、目標評価分析指導計画作成方略、現代教育課題分析方略の4モデルを示している。

2分析手法モデルの実践

 検証改善委員会が提示した分析手法モデルを用いて、静岡市全体の結果と検証改善対象校の結果について実践した事例を実践モデルとして提示している。

静岡市全体の結果についての実践モデル

 児童生徒は、ワークショップ型分析により、地域・保護者は討論型分析によりそれぞれの提言・支援案をまとめている。また、常葉学園大学は国語、算数・数学、学習状況について課題を明確にし、提言・支援案をまとめている。
 これらをうけて、静岡市としてのACTIONを示している。各部会の提言・支援案は「それぞれの立場でこう参画できる」という視点により提示されている。これは、改善の主体である市(学校)が協働する上で重要なことである。

検証改善対象校での実践モデル

 児童生徒はアンケート活用授業方検証により、地域・保護者はワークショップ型(アンケート活用なし)分析により、それぞれの提言・支援案をまとめている。また、静岡大学は学校から依頼された内容をもとに、学校改善のための全校データ処理、教師の経験的知識や疑問の検証を行い、提言・支援案をまとめている。これらをうけて検証改善対象校としてのACTIONを示している。
 実践モデルで提示された各部会からの提言・支援案は「それぞれの立場でこう参画できる」という視点により提示されている。これは、改善の主体である市(学校)が協働する上で重要なことである。

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 学校改善支援プランについては、その周知普及を図るために、2月に静岡市改善事例報告会を開催した。学校の自発的な改善を促すため自由参加とし、直接質疑可能なポスターセッション方式とした。学校参加率85パーセント、参加人数112名であった。特に、大学部会によるデータ処理、児童生徒による分析手法が注目を集めた。さらに、学校改善支援プランと事例集をあわせ、全教職員に配付した。
 また、市民の参画を促すため、検証改善委員会が結果の概要をもとにまとめた行動メッセージをリーフレットとして作成し、小学校6年生、中学校3年生児童生徒及び保護者に学校を通じて配付するとともに、市内町内回覧板を通じて各家庭に回覧した。
 静岡市教育委員会としても、学校改善支援プランの手法や全国学力・学習状況調査の結果を教育課程に確実に反映させるため、教育課程ヒアリング、学校訪問、教育課程編成説明会を中心に、学校のPDCAサイクル確立をいっそう推進していく。また、学力向上推進事業検証改善協力校を中心に実践研究を進める取組を継続することとする。なお、協力校以外のすべての学校において分析手法を取り入れることができるように、静岡市教育委員会が行う事業(民間教育力活用事業、スペシャリスト派遣事業、学校応援団事業、学校評価事業等)との連携を図る取組も行っていく。

6 学校改善支援促進事業について

 学校改善支援プランの先行的な実施として、文部科学省が募集した学校改善促進事業に応募し、8月に選定された。
 静岡市検証改善委員会は「自律的な学校改善に対する支援」をテーマに事例を収集し普及することとした。これは、静岡市検証改善委員会が提示した学校のPDCAサイクルを確立するための分析手法・改善例の核となる学校自らの取組を支援することが、学校改善にとって最も有効であると考えたからである。そのために、検証改善支援校を指定し実践研究を行った。
 以下、取組の概要について記述する。

<実施計画>

  • (1)静岡市検証改善委員会が校内検証改善委員会(全校設置)に対し、検証改善のモデルとなる学校(検証改善支援校)を公募する。検証改善支援校の指定を希望する校内検証改善委員会は静岡市検証改善委員会が提案する分析手法例を参考に校内検証改善委員会独自の手法をもって応募する。
  • (2)静岡市検証改善委員会が「校内検証改善委員会の独自の分析手法が明確であること」「学力・学習状況調査の結果を踏まえた課題が明確であること」「学校の地域的な特徴のバランスをとること」を基準に検証改善支援校を13校選定する。
  • (3)静岡市検証改善委員会は、検証改善支援校の要請により学力調査等の結果の分析を支援するとともに、改善支援方法を提示する。検証改善支援校は分析内容及び学校独自の改善方法に加え、効果が予測される改善支援を選択して静岡市検証改善委員会に報告する。
    • *改善支援方法は調査研究の視点から以下のア〜コとする。
      • ア 家庭学習等支援(担任と連携した専任指導員による赤ペン指導の実施)
      • イ 放課後学習支援(専任指導員による学校寺子屋設置と指導の実施)
      • ウ 伝統的学習支援(専任指導員によるそろばん・暗唱・視写・反復ドリル学習等の実施)
      • エ 少人数指導支援(専任コーディネーターによるTT指導や習熟度学習の改善提案及び実施)
      • オ 在宅学習支援(専任指導員によるITや教材を活用した主として配慮が必要な児童生徒への指導の実施)
      • カ 教員研修・講座支援(学校外部講師による模擬授業、研修講座等の実施)
      • キ 地域・保護者支援(学校外部講師、栄養士等による講演会等の実施)
      • ク 学力向上合宿支援(専任コーディネーターによるプログラム作成と実施)
      • ケ 読書力向上支援(専任指導員による読み聞かせ指導の実施)
      • コ 体力向上支援(専任指導員による校内あそび・校内トレーニングの実施)
  • (4)静岡市検証改善委員会が検証改善支援校に対し、効果が期待される改善支援を実施する。

<実施の経過>

  • (1)検証改善支援校の指定
     次の13校を選定し実践研究を行った。
    学校名 特徴
    東豊田中学校 中規模郊外
    大里中学校 大規模郊外
    中島中学校 中規模郊外
    西豊田小学校 大規模郊外
    清水三保第一小学校 中規模郊外
    清水西河内小学校 小規模山間
    清水有度第一小学校 中規模郊外
    麻機小学校 中規模郊外
    藁科中学校 小規模山間
    長田南中学校 大規模郊外
    水見色小学校 小規模山間
    美和中学校 中規模郊外
    蒲原東小学校 中規模郊外
  • (2)専任指導員の任用・派遣
     静岡市検証改善委員会では、前項の13校の改善計画により、指導員による支援を希望する学校に対し、専任指導員を派遣した。
     そのために、静岡市広報誌を利用した公募、登録制により、広く人材を開発し、確保することを図った。また、専任指導員の指導性を向上させる意図から、登録資格を教員免許状所有者(見込み含む)とし、任用に当たっては研修を行い、使命の高揚と条件整備を行った。また、実際の指導場面を指導主事が参観し指導・助言を行った。これらにより、32名の専任指導員を任用し、学校の改善計画を支援できるものを派遣した。
  • (3)指導主事の関わり
     検証改善委員会を構成する指導主事が、教育委員会事務局学校教育課指導主事に連携を依頼し、13校の検証改善支援校に対し、指導助言・連絡調整を行った。原則として月1回の学校訪問により、学校の分析手法・改善計画の推進、全国学力・学習状況調査を中心とした実態・課題の把握、専任指導員の服務・勤務の管理、検証改善支援校における成果の確認と検証等を図った。
  • (4)検証改善の実際
     13校の検証改善支援校では、校内検証改善委員会を組織し、学校の実態把握に努め、適切な改善を実施した。http://www.gakkyo.shizuoka.ednet.jp/(※静岡市教育委員会事務局教育部学校教育課ホームページへリンク)(平成20年4月予定〜)にて詳細を紹介している。
     なお、各学校の改善計画の一部である検証改善委員会が専任指導員を派遣して支援した中心事例は次のとおりである。
    学校名 中心事例
    東豊田中学校 放課後生活設計
    大里中学校 少人数指導、放課後学習
    中島中学校 少人数指導、放課後学習
    西豊田小学校 少人数指導、放課後学習
    清水三保第一小学校 放課後学習システム
    清水西河内小学校 放課後学習、家庭学習
    清水有度第一小学校 音読指導、少人数指導
    麻機小学校 放課後学習
    藁科中学校 少人数指導
    長田南中学校 放課後学習、在宅学習等
    水見色小学校 読書力向上、体力向上、放課後学習
    美和中学校 放課後学習、学力向上合宿
    蒲原東小学校 通学合宿
  • (5)検証改善支援校による実践研究の成果
     検証改善支援校における実践から、静岡市検証改善委員会では、研究の結果から学校のPDCAサイクルの確立が推進されると、次のような傾向が見られることを成果として確認した。
    • 1独自性
       各学校の取組は地域、組織、教職員の構成により異なってくる。分析手法・改善手法も同様である。
    • 2実証性
       全国学力・学習状況調査を活用し、検証改善を推進すると、説明根拠、成果根拠として学校の説明が変容してくる。
    • 3創造性
       同じ基礎的基本的知識の向上を図る場合でも、継続的な取組手法(例えば、ドリル学習)や、大きな体験をさせるような取組手法(例えば、合宿)がある。
       これらのことから静岡市検証改善委員会では、市の地域性からも「各学校の多様な改善」にこそ意味があり、多様な改善が非常に重要であると結論付けた。全国学力・学習状況調査が悉皆で行われる意味もここにおいて確認している。

<成果の普及>

 検証改善支援校における事例については、検証改善委員会の成果とともに2月に静岡市改善事例報告会において発表し普及を図った。専任指導員の支援ばかりでなく、各校の組織・分析手法に注目が集まった。なお、その内容は、学校改善支援プラン・事例集1として全教職員に配付した。
 今回の学校改善支援促進事業において得られた成果については、学校改善支援プランと同様に、学校のPDCAサイクルを確立し、児童生徒の学力向上のための施策に活かしていくとともに、文部科学省が平成20年度から実施する「全国学力・学習状況調査等を活用した学校改善の推進に係る実践研究」及び「学力向上実践研究推進事業」においてもその取組を進めていく予定である。

7 おわりに

 静岡市検証改善委員会では、本年度の事業終了にあたり、「学校改善支援プラン・事例集1」の最後に次のようなメッセージを掲載した。私たちの実感である。

 全国学力・学習状況調査を活用した検証サイクルの確立・学校改善の推進。なにを進め目指すのでしょう。わたしたち検証改善委員会も暗中模索で出発し、たくさんの話し合いをしました。しかし、答えは出逢った子どもたちが、教えてくれました。
 学力向上合宿に参加した中学生は、真顔で語ってくれました。「先生、これまでにこんなに勉強したことはない…。頭がうんだ。でもね、気持ちのいい疲れかな。」体力遊びを続けていた児童の合い言葉が生まれました。「どんまい!」指導員の口癖でした。在宅学習を受けていた生徒が変わりました。「わかるとおもしろいね、ちょっと、学校に行ってみようかな。」
 わたしたちは、確信しました。学力向上、学校改善は、子どもが変わっていく事実をつくり出すためにあるのです。できるようになりたい。わかるようになりたい。ひとりの子の悩みにこたえるために、子どもたちの笑顔をつくりだしていくために、あるのです。
 静岡市には、子どもを、学校を支えるすばらしい土壌があります。大学は、専門的な知見や技能を惜しまず提供してくださいました。児童生徒自身も考えています。多くの市民も関心を寄せてくださいました。まさに総がかりで応援しています。
 ある校長は、こんな言葉を残してくれました。「全国学力・学習状況調査は、初め、正直、点数が問題で、それを上げるためかなとも思った。だけど、いろいろな方に根拠をもって説明すると、改善するために本当に応援してくださる。これをきっかけに裾野が広がっていく。これはすばらしいことです。」
 一人ひとりの子どもたちの笑顔のために、これからも静岡市の学校改善の裾野を広げていきたいと思います。