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資料5−7

いじめへの対応のヒント

2003年10月東京学校臨床心理研究会運営委員作成

□「いじめ」理解のヒント

いじめの定義
 
1 (1)自分より弱いものに対して一方的に(2)身体的、心理的な攻撃を継続的に加え(3)相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わないこととする。(文部省1994年)
2 集団内で単独または複数の成員が、人間関係の中で弱い立場にたたされた成員に対して身体的暴力や危害を加えたり、心理的な苦痛や圧力を感じさせたりすること(都立教育研究所)
3 単独、または複数の特定人に対し、身体に対する物理的攻撃または言動による脅し、嫌がらせ、無視等の心理的圧迫を反復継続して加えることにより苦痛を与えること(警視庁保安部少年課1994年)

いじめの構造(いじめの4層構造)森田洋司1986年
 
いじめる生徒
観衆(はやしたてたり、おもしろがったりして見ている)
傍観者(見て見ない振りをする)
いじめられる生徒
 いじめの持続や拡大には、いじめる生徒といじめられる生徒以外の「観衆」や「傍観者」の立場にいる生徒が大きく影響している。「観衆」はいじめを積極的に是認し、「傍観者」はいじめを暗黙的に支持しいじめを促進する役割を担っている。

いじめの原因と背景
 
1 児童生徒の問題
対人関係の不得手、表面的な友人関係、欲求不満耐性の欠如、思いやりの欠如、成就感・満足感を得る機会の減少、進学をめぐる競争意識、将来の目標の喪失、など
2 家庭の問題
核家族、少子家庭の増加→人間関係スキルの未熟さ
親の過保護・過干渉→欲求不満耐性の習得不十分
親の価値観の多様化→協調性・思いやりの欠如、規範意識の欠如、など
3 学校の問題
教師のいじめに対する認識不足
教師も生徒も多忙で、お互いの交流が不十分
知識偏重など、価値観が限られていると、差別の構造につながりやすい
生活指導や管理的な締め付けが強いと、集団として異質なものを排除しようとする傾向が生じやすい、など

いじめのサイン
 (参考資料 都教育委員会「いじめ防止のための手引き」狛江市人権尊重推進委員会)
 
1
表情や態度: 沈んだ表情。口をききたがらない。わざとはしゃぐ。ぼんやりした状態でいる。視線を合わせるのを嫌う等。
2
服装: シャツやズボンが破れている。ボタンがとれている。服に靴のあとがついている等。
3
身体: 顔や身体に傷やあざが出来ている。マジックで身体へのいたずら書き。登校時に身体の不調を訴える。顔がむくんでいたり青白い等。
4
行動: ぽつんと一人でいることが多い。急に学習意欲が低下。忘れ物が多くなる。特定のグループと行動するようになる。使い走りをさせられる。プロレスの技を仕掛けられる等。
5
持ち物: 持ち物がしばしば隠される。持ち物に落書きされる。必要以上のお金を持っている等。
6
周囲の様子: 人格を無視したあだ名を付けられる。よくからかわれたり無視されたりする。発言に爆笑が起きる等。

いじめの状況とその対応
   いじめへの対応では、SCは教員と連携をとって活動するのが原則である。生徒集団を把握している担任・学年の教員、生活指導部を中心に解決策を模索し、SCは全体の中での役割を分担して動く。いじめの当事者を含めた集団全体への心理教育的働きかけや、大人が「いじめは許さない」という断固とした態度を示すことが必要である。以下に、便宜的にいじめの状況を分け、学校で行われる一般的な対応を示す。
A, 身体的・経済的被害が繰り返され、いじめ行為が犯罪用件を満たすような場合。(違法行為)
<対応>学年・学校全体で取り組む。警察や児童相談所との連携。
B, 心理的・物質的ないじめが繰り返され、いじめの事実が確認可能である。
<対応>学年・学校全体で取り組む。いじめた生徒、いじめられた生徒、双方の話をよく聞き、事実確認、それぞれへの指導、学年集会・学活での集団指導を行う。双方の保護者と話をし、協力を求める。保護者会の開催など。
C, 心理的ないじめの繰り返し、ふざけの延長など、いじめの事実確認は困難な場合もあるが、いじめられる側にストレス症状が出ている。
<対応>双方の話をよく聞く。いじめた側に加害意識が乏しい場合や双方がいじめを否認する場合もある。教員による事実確認、指導が一般的。クラス全体への指導や保護者への説明を行う。
D, 仲間内で一時的にいじめ行為がある。(友達関係のトラブル)
<対応>一方または双方に会い、自分達で解決策を考えさせる方向で話を聞く。双方合同での話し合いも効果的。表面的な和解で終わりがちなので注意。
E, 積極的ないじめ行為は確認できないが、集団内での位置づけが固定し、疎外されている。いじめられた側は被害感をもっている。(集団内での孤立)
<対応>周囲もその状態に慣れているため(教員も含めて)いじめと認識されにくい。孤立している生徒を支えながら、集団全体への働きかけをする。
F, 強い被害感・被害妄想
<対応>いじめを訴える生徒への個別対応を。医療機関などへのリファーも。

□スクールカウンセラーにできること

いじめられた生徒への対応
 
いじめられている側が「いじめられている」と感じたら、その時点でいじめとして関わる必要がある。
いじめられた生徒からSCに相談があった場合、SCは週1回の勤務なので、いじめの状況によっては、本人の承諾を得て関係教員に知らせるようにする。教員の方がすでに情報をもっていることが多いが、少なからず知らない場合もある。生徒に関しての先生への情報開示に関しては、現実を良く把握して生徒の立場にたち、まず管理職と相談することも考える。
教員は事実確認、SCは気持ちを聞くなど、役割分担ができるとよい。
いじめられた生徒は不登校になりやすいのでフォローを続ける。本人の自尊感情を育てていく。
あきらかにこれはいじめだと周囲が思っても本人がいじめと認めないケースもある。
いじめの訴えには、本人の抱えるストレスや悩み、家庭の問題などが背景にある場合もあり、その点にも留意する。

いじめた生徒への対応
 
SCのところへは、いじめについての相談より、友達への不満、教員への反感、自分の悩みなどを話しに来ることがある。それを受け止めるようにする。
教員に連れてこられた場合、教員(指導する人)とは違うスタンスで会い、話を聞いてくれる相手として、生徒との関係を作っていく。その生徒の「なぜ、いじめるのか」という心の状態を考えていく。

周囲の生徒への対応
 
いじめがあるという相談が寄せられた場合、その生徒たちの勇気を認め、教員と連携をとる方向で動くようにする。
いじめが続いている時は、周囲の生徒の受ける精神的なストレスに留意する。

保護者への対応
 
保護者に会う際には、学校内でのSCの役割を意識し、いじめの場合に陥りやすい対立構造に留意する。保護者と学校に対立がある場合は、SCがその調整役を果たすようにする。
いじめられた生徒の保護者には被害的になっている気持ちに寄り添う。
いじめた側・いじめられた側、どちらの保護者の場合も、子どもの心のあり方について話し合えるとよい。

教員との連携
 
いじめという言葉には「いじめイコール学校の責任」というニュアンスがあり、学校では使うのをためらう傾向がある。
いじめに対応している教員に対してはその大変さをねぎらう。SCは相談内容の秘密を守りながらも、事実関係についてはできるだけ教員と共有し情報交換を密に行なう。
いじめられる生徒にも問題があるという風潮に対しては、いじめられる生徒だけでなく、いじめた側の生徒や、周囲の生徒への心理的影響の重大さを伝える。
発達障害が背景にある可能性が考えられる場合、発達障害を理解する視点を提供していく
いじめの事実はあるがいじめた側が特定できない場合、犯人探しに躍起になると集団内に疑心暗鬼が広がる可能性があり、むしろ教員が一丸となって生徒全体に「いじめはいけない」と訴え続けることが有効である。SCは心理面からのアドバイスを行うなどして教員を支える。
教員へのアドバイスの具体例
教員一人で対応せず、複数の教員で対応するように。
いじめられた生徒、いじめた生徒の話は、偏見をもたないで聞く。
SCからみた生徒の見立てを伝える。双方の生徒の心理的背景についてわかりやすく説明し、一方的な指導で終わらないように伝える。
生徒はいじめがあってもいじめを否認することがある。潜在化を防ぐためにはサインを見逃さないことが大切である。
いじめた生徒の責任転嫁、正当化に対しては、複数の教員による粘り強い関りが功を奏する。
集団に対する指導では、生徒達の自分もいじめられるかもしれない不安や、恐くていじめを止められない気持ちなども扱う。
子どもの集団では、いじめは起こるものと認識し、いじめをなくすことではなく解決の経過を大切にする。
保護者と話しをする時は必ず直接会って話を聴くように、またその際、保護者の言われることは、はじめはとにかく聴いていくほうがよいとアドバイスをする。

予防的関り
 
日常的にSCと管理職、教員間で生徒についての情報交換を十分行い、いじめのサインを見逃さないようにする。
主に、教員が学活、道徳の授業などで、いじめは絶対に許されないことを指導していく。生徒同士でいじめの対応を話し合う、対人関係能力の育成(SST)など。
SCは生徒向け便りなどでいじめを取り上げる、要請があれば生徒向けに話をするなど。
日頃から、“人権”に関して、知識を得て、学習しておく。
いじめをテーマに校内研修を行う。
相談室を集団の中で孤立しがちな生徒の居場所にする。

他機関との連携
 
学校が行う。
関係機関連絡会の開催など、予防的に地域のネットワーク作りなどが求められる。

参考図書
 
「いじめ」教室の病い   森田洋司・清水賢二(金子書房)
「いじめの世界の子どもたち―教室の深淵」 深谷和子(金子書房)
こころの科学 ナンバー70「いじめ」 河合隼雄編(日本評論社)
「自分をまもる本―いじめ、もうがまんしない」 R.ストーンズ(晶文社)
「思春期のこころとからだ」 氏原、菅編(ミネルヴァ書房)
「いじめ問題研究報告書−いじめ解決の方策を求めて」 東京都立教育研究所1996年3月
「いじめ問題研究報告書−いじめの心理と構造をふまえた解決の方策」 東京都立教育研究所1998年3月
「いじめから学ぶ」 江川(大日本図書1986年)
「生きていいの?」 寺脇研(近代文芸社)

2005年度追加参考図書
 
「いじめなんてへっちゃらさ」   トレボー・ロメイン(大月書店2002年)
「見えない子供の世界 いじめ」 徳重篤史他共著(慶応通信1987年)
「葬式ごっこ」 朝日新聞社会部(1986年)
「いじめからの脱出」 遠藤豊吉(日本放送出版協会1986年)
「自分らしく思春期 いじめ・登校拒否をこえて」 春日井敏之(かもがわ出版)
「岩波ブックレット いじめ子ども110番からの発言」 汐見稔幸(岩波書店)
「いじめ(子どもをとりまく問題と教育:6)」 真仁田昭他編著(開隆堂出版)
「いじめ問題ハンドブック−分析・資料・年表」 高徳忍(拓殖書房新社)
「ライブラリ 思春期の“こころのSOS”1いじめ のりこえるにはどうするか」 詫摩武俊(サイエンス社)
「女の子どうしって、ややこしい!」 レイチェル・シモンズ著 鈴木淑美訳
草思社(2003年)
「いじめイコール学級の人間学」 菅野盾樹著 新曜社(1986年)
※1997年版あり(ソフトカバー、ただしアマゾンでは品切れ)
「コロバイン・ハイスクール・ダイアリー」 ブルックス・ブラウン/ロブ・メット著 西本美由紀訳 太田出版(2004年)
「学校危機への予防・対応マニュアル−危機管理をどうするか」 新福知子著
教育出版(2005年)


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