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資料1

初等中等教育の情報教育に係る学習活動について
(報告書案)


初等中等教育の情報教育に係る学習活動について
(報告書)

平成17年まるまるまるまる
初等中等教育における教育の情報化に関する検討会

1. はじめに(本報告書の位置づけ)

   本年1月より検討が開始された、「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」においては、これまで、
  (1)  学校教育の情報化の今後の姿
(2)  『情報教育』の内容の充実
の2つの事項について検討を進めてきた。

 「(1)学校教育の情報化の今後の姿」については、現行の「e-Japan重点計画(注)」後(2005年度の後)の学校教育の情報化のあるべき姿について、主に4月までの4回で検討を行い、その成果を、本年4月15日、「初等中等教育における学校教育の情報化の今後の姿について(論点整理)」(以下「論点整理」という。)としてまとめた。この「論点整理」は、検討会として統一した意見、方向性を集約したものではないが、その後の文部科学省内外における検討での適切な活用を期待して、本検討会で示された各委員の意見等を整理したものである。
 「論点整理」に掲げられた主な意見としては、
 定量的指標では教育の情報化は遅れているが、ITの質的な利用等についても重視すべきである。
 ITを活用した教育の効果は検証されており、教員等には、積極的にIT活用を図ることが求められる。
 一般社会の中で「自律的」に教育の情報化の必要性を醸成させることが重要である。
 一般社会と学校とのIT環境のギャップを少なくすべきである。
 情報化の進展を受け、今後、多様なIT環境が現出してくることを念頭に置くべきである。
 今後は、地方自治体の独自判断に基づく情報化の推進が強く期待される。
といった点が挙げられている。詳しくは、「論点整理」を参照されたい。
 一方で、今日まで、情報化は急速に進展してきており、今後も、情報化はさらに進展し続けると考えられる。このような状況下、児童生徒が、「情報活用能力」(情報活用の実践力、情報の科学的な理解、情報社会に参画する態度)を身につけ、情報社会に対応できる力を備えていく必要性は、今後益々高まってくると考えられる。
 しかしながら、教育現場においては、情報教育が充分に行われているとは言い難い状況にあると考えられる。そして、その原因の1つとして、現行学習指導要領の下における情報教育の位置づけや、子どもたちが身につけるべき「情報活用能力」の具体的な内容、情報教育に係る具体的な学習活動例が、教育現場に十分周知されていないことがあると考えられる。以上を踏まえ、本検討会においては、小中学校段階からの情報教育の充実を図るとともに、携帯電話の普及等、情報社会を巡る状況変化などの新たな課題にも対応するため、「(2)『情報教育』の内容の充実」について検討を行ってきた。
 本報告書は、この検討結果を取りまとめたものであり、現行学習指導要領の下で、各学校における教育課程の編成や各教科等の指導において、参考として活用され、より一層情報教育が推進されることを期待して作成したものである。

(注) e-Japan重点計画」…我が国が「2005年に世界最先端のIT国家となる」ことを目標として、全閣僚を構成員に含む「IT戦略本部」が作成してきた計画。平成13年以降平成16年まで、毎年、内容を拡充して作成された。「学校教育の情報化」についても盛り込まれている。

2. 「情報教育」と「教育の情報化」との関係

   本報告書を取りまとめるのに先立ち、「情報教育」と「教育の情報化」との関係を再確認する。

 「教育の情報化」は幅広い意味を持つが、特に指導場面に着目すれば、従前より以下のように整理されている。
「教育の情報化」の目的は、1子どもたちの情報活用能力の育成、すなわち体系的な「情報教育」の実施に加え2各教科等の目標を達成する際に効果的に情報機器を活用することを含むものである。
 すなわち、「教育の情報化」の概念に含まれる教育としては、
1 子どもたちの情報活用能力の育成を目的とした「情報教育」
2 各教科等の目標を達成する際に効果的に情報機器(IT)を活用すること(IT活用)
の2つがある。
 「情報教育」(1)は、「子どもたちの情報活用能力の育成」を目的とした教育であって、単にITを活用することとは異なる。ITを活用することは、情報教育を目的とした活用と、効果的に「各教科等の目標を達成する」ことを目的とした活用がある。ただし、後者は、「各教科等の目標を達成する際に効果的にITを活用すること(IT活用)」(2)となるが、この限りでは、ITを活用することは手段に過ぎず、それのみでは「子どもたちの情報活用能力の育成」を目的とした「情報教育」(1)にはならない。ITを活用することが「情報教育」(1)に位置づけられるためには、ITを活用することが、どのように「子どもたちの情報活用能力の育成」に資するのかが明確となり、実際に指導を行う教員が、その関係を理解した上で指導することが必要となる。

 以上を踏まえて「教育の情報化」の概念を図示すると、以下のとおりとなる。

「教育の情報化」の概念図

 ここで、「IT活用」(2)の観点については、「(1)学校教育の情報化の今後の姿」に係る検討として行われており、その成果は、「論点整理」の中で整理している。
 一方、本報告書は、これまで行われてきた「情報教育」(1)に係る検討の成果をとりまとめたものである。本報告書に、「IT活用」についての検討結果の内容も盛り込み、本報告書を本検討会における検討全体のとりまとめとして位置づけることも考えられたが、
1) 本報告書の目的が、「各学校における教育課程の編成や、各教科等の指導において参考として活用される」ことにより、教育現場において「情報教育」が進むことにあること
2) 本報告書に「情報教育」に加えて「IT活用」を盛り込むと、報告書の内容の焦点化が不十分となり、目的が十分に達成できなくなることが想定されること
から、本報告書は、あくまで現行の学習指導要領の下で「情報教育」に係る検討の成果のみに焦点化することとした。

 以上を前提とし、次項(3.)では、本報告書の目的等について扱うこととする。
 なお、本報告書では、小、中、高等学校の「普通教育」において行われる情報教育を対象としており、高等学校の「専門教育」において行われる情報教育(注)については対象としないことを、あらかじめ注記しておく。

(注) 「専門教育」において行われる情報教育…「専門教育」とは、学校教育法(昭和22年法律第26号)第41条に規定されており、通常は、一般教育に対比され、専門的な知識及び技能を修得させる教育のことをいう。「『専門教育』において行われる情報教育」とは、学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)別表第三(二)専門教育に関する教科に掲げられた各教科において行われる情報教育のことである。

3. 本報告書の目的等について

 
(1) 情報教育の位置づけ

   我が国の初等中等教育における教育の情報化への対応は、昭和40年代後半の高等学校の専門教科において、情報処理教育が行われるようになったことに端を発している。以後、情報教育は、臨時教育審議会、教育課程審議会等における検討を踏まえた平成元年告示の学習指導要領改訂、中央教育審議会、教育課程審議会等における検討を踏まえた平成10年(高等学校にあっては平成11年)告示の学習指導要領改訂を経て、小中学校にあっては平成14年度から全面実施、高等学校にあっては平成15年度から学年進行により実施されている現行の学習指導要領に基づき行われているところである。
 また、現在、情報教育において育成することを目指している「情報活用能力」には、以下の3観点がある。
1 情報活用の実践力
   課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて、必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し、受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力
2 情報の科学的な理解
   情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と、情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解
3 情報社会に参画する態度
   社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し、情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え、望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度
 また、専ら情報活用能力の育成を目標としている教科等としては、高等学校の教科「情報」及び中学校の教科「技術・家庭」における「技術分野」の「B情報とコンピュータ」があるが、情報教育は、これらを含むあらゆる教科等において行われることが想定されている。このため、現行の学習指導要領に基づき情報教育を進めるためには、各教科等の指導を行う教員が、自らが指導する内容の中にも「子どもたちの情報活用能力の育成」を念頭においた「情報教育」が含まれていることを認識しつつ、教育を進めていくことが必要となる。

(2) 本報告書の目的

   情報教育は、高等学校の教科「情報」等を含むあらゆる教科等において行われることが期待されている。しかし、情報教育全体という視点で見れば、各学校段階や学年、各教科等の個々の学習活動にどのような形で情報教育が盛り込まれ、また、各学習活動の視点で見れば、当該学習活動が、小、中、高等学校を通した情報教育体系全体の中でどのように位置づけられているのかを網羅的に把握することは難しい。
 また、学習指導要領が改訂された平成10年(高等学校にあっては平成11年)からほぼ7年が経過し、この間も、情報化は進展し続けている。これに伴い、子どもたちが身につけるべき「情報活用能力」の具体的な内容も変化してきていると考えられる。学校教育においては、所謂「不易の部分」を指導し、子どもたちに、社会の変化そのものに対応できる力を身につけさせる教育が大切であることは言うまでもないが、特に「情報教育」においては、対応が求められる「社会の変化」が極めて速いことから、これらの変化に応じた適時適切な教育を行っていくことも必要である。
 このような状況を踏まえ、本検討会においては、社会において進展し続ける情報化に相応した「情報活用能力」の具体的な内容が何であるかを検討し、小、中、高等学校の全ての学校段階において、教科等をできる限り網羅的に捉え、情報教育に係る学習活動を抽出し、それが情報教育の体系の中でどのように位置づけられるかを一覧形式で提示することとした。当該学習活動一覧の具体的な内容は後述の5.に記すとおりであるが、これが、各学校における教育課程の編成や、各教科等の個別の指導において参考として活用され、教育現場において「情報教育」が進むことが期待されるところである。
 なお、本報告書は、例えば、「情報活用能力」の具体的な内容や情報教育の位置づけ等について、児童生徒の保護者に対する理解を促す際にも活用できる。このように、本報告書が、上記に加え、幅広く活用されることも期待したい。

(3) 本報告書と「新・手引」との関係

   「情報教育に関する手引」は、平成3年7月に文部省がまとめているが、現行の学習指導要領の下で取り組むべき「情報教育」については、学習指導要領を補足する形で具体的に示しているものとして、平成14年6月に文部科学省がまとめた「情報教育の実践と学校の情報化−新『情報教育に関する手引』−」(以下「新・手引」という。)がある。具体的には、その第2章において、「初等中等教育における情報教育の考え方」として「情報教育の位置づけ」、「各学校段階における情報教育の在り方」及び「情報教育と各教科等との関係」について、また第3章において、学校現場の視点から見た「子どもの学習活動と情報教育の実践」について記されている。特に、第3章第2節においては、「1.学習活動の組み立て方」や「2.学習活動例」を掲げており、学習活動場面にまで踏み込んだ具体的な記述もある。しかし、ここで掲げられた学習活動の事例は10のみであり、前述の(2)で記したとおり、各学校段階や学年、各教科等の個々の学習活動にどのような形で情報教育が盛り込まれているかを網羅的に把握することは難しかった。このため、本検討会において本報告書をまとめることとしたものである。
 したがって、本報告書と「新・手引」は、整理の仕方や内容の具体性が異なっているものの、両者において前提としている情報教育の位置づけや目標、情報教育の在り方等には、何ら相違はない。

4. 情報教育の推進のために(各委員の意見の整理)

   本検討会においては、現行の情報教育について様々な意見交換が行われた。
 そこで、ここでは、学習活動を一覧形式で提示する前に、本検討会において示された各委員の主な意見を簡単に整理することとする。

(1) 情報教育の内容の明確化の必要性

   前述の2.でも記したとおり、「教育の情報化」が「情報教育」と「IT活用」との双方の意味を持っていることを学校に浸透させることは極めて重要であることについては認識の共有が図られた。これに加え、「義務教育諸学校、高等学校のそれぞれの段階の指導において達成すべき目標が明確でない」、「各学校段階、各学年で指導すべき内容を、高等学校の普通教科『情報』及び中学校『技術・家庭』を含むどの教科等で指導すべきかについて、その整理が不十分」といった意見が示された。そして、具体的に、「義務教育諸学校、高等学校それぞれの段階において指導すべき内容と、当該指導を行う各教科等の指導分担を明確化するため、典型的な指導例を抽出し、各教科等の指導場面にマッピングしその系統性を示すべき」という意見もあった。加えて、「情報教育の内容の明確化は、教育現場において行われている発展的な教育を阻害することのないよう配慮しつつ行うべき」との意見もあった。

(2) 情報教育の内容

   情報教育の内容については、「情報手段の活用に偏り過ぎるべきではない」、「情報を適切に活用して合理的判断や創造的思考、表現・コミュニケーションなどに役立てる力、よりベーシックな情報活用能力の育成が必要である」、「不易の内容を明確化する」といった意見に加え、「情報科学、情報工学、情報システム学に関連する科学・技術的内容が乏しい」といった総論的な意見があった。
 また、具体的な意見としては、情報活用能力の3観点を理念のままで終わらせないという考え方の下、3観点それぞれについての主な意見として、以下のようなものが示された。
  1  情報活用の実践力
 
 情報の収集、判断、発信等の一連の情報伝達過程について指導することを前提とした上で、その手段としてコンピュータを活用する能力の育成を重点に検討すべきである。
2  情報の科学的な理解
 
 一定の基礎学力が前提となるが、自らの情報活用を評価・改善するために不可欠である。
 人間が判断を誤る原因や判断を誤らせる要因についての科学的な観点から見た教育が重要で、科学的センスや学習意欲向上にも繋がる。
3  情報社会に参画する態度
 
 情報モラル、情報化の影の部分への対応を充実すべきである。
 マスメディアのメッセージを鵜呑みにしないなど、情報に対し、冷静で合理的な判断ができる力が必要である。
 情報モラル教育には、「情報倫理教育」と「情報安全教育」がある。

(3) 各学校段階のレベルに応じた指導とその連続性

   各学校段階、各学年において指導すべき内容を明確化し、その連続性を確保するということを前提として、主に、以下のような意見が示された。

1  小学校段階
   関連する教科等で幅広く情報教育を扱っているため、その位置づけが難しいが、情報活用の実践力、情報社会に参画する態度が包括的に扱われるべきであり、児童の発達段階を踏まえつつ情報の科学的な理解にも触れるべきである。

2  中学校段階
   情報活用の実践力、情報社会に参画する態度が包括的に扱われるべきであることは小学校と同じであるが、情報の科学的な理解の充実が必要であり、教科「技術・家庭」の「技術分野」における「B情報とコンピュータ」で扱うことができる。

3  高等学校段階
   情報活用の実践力については、「リテラシー」を小中学校で習得した「スキル」を活用する総合力として捉え、熟成させることが必要である。また、情報の科学的な理解については、プログラミングを一定程度扱うなど、情報科学、情報技術についての内容をもったものとすべきであり、情報社会に参画する態度については、小中学校の発展形としての指導が必要である。

4  盲・聾・養護学校
    13に加え、障害の状態に配慮した機器及びテクノロジーの知識・技術の普及を図ることが必要である。

  なお、情報モラル教育については、特に、各学校段階に応じた指導とその連続性という観点から、「スキル」の指導に合わせて、子どもが小さい頃から自然と身につけられるようにすべきであり、小中高を通じて発達段階を考慮した指導体系を確立することが必要という意見があった。

 本検討会では、以上のような意見を可能な限り反映して、現行の学習指導要領の下で可能と考えられる小、中、高等学校の全ての学校段階における、情報教育に係る学習活動の一覧を整理したものであり、その内容は、次項(5.)のとおりである。

5. 情報教育に係る学習活動一覧

 
(1) 指導項目の整理

   小、中、高等学校の全ての学校段階において、情報教育に係る学習活動を抽出し、それを情報教育の体系の中に位置づけるに当たっては、現行の情報活用能力に係る3観点(情報活用の実践力、情報の科学的な理解及び情報社会に参画する態度)について、それぞれに係る具体的な指導項目としてどのようなものがあるかを整理することが必要となる。即ち、個々の学習活動が、情報活用能力の3観点のどこに位置づけるかに係る判断根拠となるものが必要ということであり、これは、「新・手引」に具体的に掲げられた情報活用能力の3観点を理念のままで終わらせないことにもつながることである。
 指導項目について整理したものは、別添1のとおりであるが、ここでは、これについて解説する。
 情報活用能力の3観点の定義は3.(1)で前述したとおりであるが、ここでは、これら3観点を、その定義の文言から、「情報活用の実践力」については、「課題や目的に応じて適切に活用する」、「必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造する」及び「受け手の状況などを踏まえて発信・伝達する」の3つに、「情報の科学的な理解」については、「情報活用の基礎となる情報手段の特性」及び「情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法」の2つに、そして、「情報社会に参画する態度」については、「社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響」、「情報モラルの必要性や情報に対する責任」及び「望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度」の3つに分類した。

1  「情報活用の実践力」について
   まず、「必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造する」及び「受け手の状況などを踏まえて発信・伝達する」の2分類に属する指導項目としては、それぞれ、「情報を適切に収集、判断、処理(分類、加工、編集等)し、新たな情報を創造し、表現するために必要な技能等」及び「情報を発信・伝達するために必要な技能等」を掲げた。即ち、「収集・判断・表現・処理・創造・発信・伝達」という一連の行動において、各過程を適切に行うために必要となる技能等に係る指導項目として整理している。「収集」「判断」等、各過程を細分化して指導項目を設定することも考えられたが、一連の情報伝達過程の中での個々の行動が、各過程のいずれに属するかを明確に区分することが難しく、複数の過程に跨る行動も多い。また、具体的な学習活動を見ても、各過程それぞれについての学習活動が分化している訳ではないことから、一括して指導項目として掲げることとした。
 次に、「課題に応じて情報手段を適切に活用する」の分類については、前出の2分類を包括する内容も扱う分類として位置づけ、「一連の情報伝達過程における適切な情報手段の活用に係る基礎知識」と「主要な情報手段の適切な活用に必要な基礎的な技能等」という2つの指導項目を掲げた。前者は、一連の情報伝達過程の意味や、各過程における多様な情報手段の存在、各過程における課題や目的に応じた情報手段の適切な活用の必要性等について扱う指導項目として整理し、後者は、主要な情報手段としての「コンピュータ」や「携帯電話」の活用に必要な基礎的な技能等について扱う指導項目として整理している。

2  「情報の科学的な理解」について
   まず、「情報活用の基礎となる情報手段の特性」については、情報伝達を行うための前提となる様々な知識のうち、各種情報手段に共通する特性(原理、仕組み等)について扱う分類として位置づけ、「総論」と「各論」に当たる2つの指導項目を掲げた。
 「総論」においては、「情報活用の実践力」の「課題や目的に応じて情報手段を適切に活用する」の指導項目「一連の情報伝達過程における適切な情報手段の活用に係る基礎知識」にも位置づけられる「一連の情報伝達過程における多様な情報手段の存在」を掲げた上で、「当該多様な情報手段に共通する、及び各々の一般的特性」として、多様な情報手段の「活用場面における機能的特性」、音声、書面、PC画面等といった「扱う情報の形態の特性」、電気、電波、光;アナログ/デジタル;暗号化等といった「扱う情報の伝わり方の特性」を扱う指導項目として整理した。
 「各論」においては、一連の情報伝達過程全てにかかわりうる特徴的な情報手段として、「コンピュータの特性」、「インターネットを活用した通信(メール、掲示板等)の特性」及び「モバイル(携帯電話等)の特性」を掲げ、それぞれの仕組みや機能及びその特性、それを活用した情報手段の存在やその特性等について扱うこととして整理した。
 次に、「情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法」については、情報伝達を行う経験と情報学の基礎的理論、方法とを結びつける指導について扱う分類として位置づけ、「情報伝達過程全体に関わるもの」と「情報伝達過程中、特に『処理』及び『創造』に強く関わるもの」という指導項目を掲げた。
 「情報伝達過程全体に関わるもの」においては、「一連の情報伝達過程での誤りの発生原因と解消手法」及び「一連の情報伝達過程における人間とコンピュータ等との活動特性の相違」を掲げ、コンピュータに限定せず、人間が行う情報伝達を科学的に捉えることとして整理した。
 「情報伝達過程中、特に『処理』及び『創造』に強く関わるもの」については、「問題解決(新たな情報の創造)のための多様な情報手段及びその特性」、「コンピュータの機能はプログラムやアルゴリズムが前提となっていること」、「問題解決(新たな情報の創造)を効果的に行う手段である『モデル化』、『シミュレーション』等の意味、特性及びその有効性」、「問題解決(新たな情報の創造)に情報手段を活用した結果を客観的に評価することの必要性、その手段等」及び「コンピュータによる制御等」を掲げ、問題解決(新たな情報の創造)へのコンピュータ等の活用、プログラムやアルゴリズム、モデル化やシミュレーション、コンピュータによる制御等について扱い、情報伝達を行う経験と情報学の基礎的理論との関係の明確化を図ることとして整理した。
 なお、「情報の科学的な理解」においては、「情報活用の基礎となる情報手段の特性」及び「情報を適切に扱ったり、自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法」の2分類が並列の関係にあり、一方が他方を包括する関係にはなく、いずれか一方を、他方に属する指導をも包括する内容を扱う分類として位置づけることとはしていない。

3  「情報社会に参画する態度」について
   まず、「社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響」については、情報伝達を行うための前提となる様々な知識のうち、情報、情報手段、情報技術が社会に果たす役割や及ぼす影響を特出しして扱う分類として位置づけ、役割や良い影響に係る指導項目と、悪い影響に係る指導項目という2つを掲げた。
 次に、「情報モラルの必要性や情報に対する責任」については、「情報モラルの必要性」と「情報に対する責任」を並列した名称となっているが、ここでいう「情報に対する責任」は「情報モラル」に含まれる概念と考えられる。その上で、当該分類は、情報伝達を行うための前提となる様々な知識のうち、「情報モラル」の習得を特出しして扱う分類として位置づけ、「『情報モラル』を身につける必要性及び身につけるために必要な知識」という指導項目を掲げた。当該指導項目の内容をさらに分類するとすれば、「情報モラル」の概念の分類をどの程度詳細に行うかによってその粗精度は変わってくるが、ここでは、総論的な位置づけとして「適切な情報伝達の必要性と『情報モラル』の習得が情報伝達の前提となること」を掲げ、各論的な位置づけとして、著作権等「違法行為」に係る内容、情報の発信伝達に伴う責任等「違法ではないが不適切な行為」に係る内容、そして、犯罪に巻き込まれないための知識等「情報安全教育」に係る内容を掲げた。
 最後に、「望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度」については、情報伝達を行うための前提として認識しておくべき根本的な考え方を扱い、併せて前出の2分類を包括する内容も扱う分類として位置づけ、「情報化の適切な進展に寄与しようとする考え方」という指導項目を掲げた。当該指導項目の内容としては、コミュニケーションを重視する考え方、一連の情報伝達過程の各過程を適切に行おうとする考え方、メディアから収集した情報を常に批判的に捉える考え方といった内容を掲げているが、本指導項目は、「態度」「根本的な考え方」を扱う項目であり、必ずしもこれらに限定されるものではない。

 【参考】
 5.(1)では、情報活用能力の3観点をさらに合計8分類に整理し、それぞれに係る指導項目を掲げてきた。
 一方で、「新・手引」の第3章「第1節情報教育のねらいと期待される学習活動」の「3.情報活用能力の着実な育成のための学習活動の組み立て」においては、情報活用能力の各要素として、以下のものが掲げられている。

   情報活用の実践力
 
(1)   課題や目的に合った情報手段(情報メディア、コンピュータ、ネットワーク)の適切な利用
(2) 必要な情報の選択
(3) 課題解決における主体的な情報活用(収集・表現・創造・発信・交流)
(4) 情報の表現とコミュニケーション
 情報の科学的な理解
 
(5)   情報手段の仕組みや特性の理解
(6) 問題解決の手順と結果の評価についての基礎的な理論や方法
(7) 人間の知覚、記憶、思考についての特性にかんする基礎的な理論と方法
(8) 情報を表現する技法に関する基礎的な理論と方法
 情報社会に参画する態度
 
(9)   情報社会についての理解
(10) 情報モラル・情報発信の責任についての理解
(11) 情報社会に積極的に参加し、よりよい社会にするために貢献しようとする態度

 そこで、ここでは、ここまで整理してきた先述の8分類と、「新・手引」第3章第1節3.にある情報活用能力の上記11の要素との関係を明確にする。
 まず、「8分類」についてであるが、これは、あくまで「情報活用能力」の3観点の定義の文言を尊重して整理した、より、3観点に近い位置での分類である。一方で、「11の要素」については、「情報活用能力」の3観点の意味は踏まえつつも、「定義」の文言から整理したものではなく、より、実際の教育現場における学習活動に近い位置で整理したものである。このため、「8分類」に比べれば、定義から離れてはいるものの、具体性のある内容となっている。
 今回の検討会の整理において、「新・手引」に既に明示されていた「11の要素」からの指導内容の整理を行わず、より「情報活用能力」の3つの観点に近い位置づけの8分類で整理をした理由は、本検討会における検討が、個々の学習活動が3観点に分類される情報活用能力のどこに位置づけられるかを明確にし、情報活用能力の3観点を理念のままで終わらせないことを目的としていることを重視したためである。
 11の要素を個々に見れば、いずれも8分類のいずれかに整理することができるものであり、8分類と11の要素とは、両者相容れないものではない。

(2) 学習活動一覧

   (1)では、指導項目の整理について扱ったが、ここでは、具体的に各学校段階、学年ごとに、教科等をできる限り網羅的に捉え、情報教育に係る如何なる学習活動が考えられるか、また、それが、(1)で8分類に整理した情報教育の体系の中でどのように位置づけられるかを整理し、「学習活動一覧」として示すこととする。なお、繰り返しとなるが、当該一覧は、各学校における教育課程の編成や、各教科等の個別の指導における参考として活用されることを期待するものである。
 学習活動一覧は、現行の学習指導要領又はその解説の中で、各教科等ごとに掲げられている、指導すべき「内容」の中から、情報教育、即ち子どもの情報活用能力の育成をその目的に含むと解されるものを抽出し、(1)で整理した8分類に当てはめるとともに、小、中、高等学校を通じた情報教育の連続性等を考慮した配列を考え、適宜加除修正することにより作成したものである。

 以上の手法により整理した学習活動一覧は、別添2〜4に掲げるとおりである。各々、学校段階ごとに整理したものであり、ここでは、それぞれについて解説することとする。

1  小学校段階
   小学校段階の学習活動一覧は、別添2のとおりである。
 学年については、低学年(1、2年)、中学年(3、4年)及び高学年(5、6年)の3段階に分けて整理しており、個々の学習活動は、学習指導要領又はその解説の記載に従って記しているが、情報教育の観点から解説を加えている。

 一覧の中で「総合など」等と付記されている学習活動は、総合的な学習の時間等で扱うことを念頭に置いたものであるが、これらは、
 総合的な学習の時間においては、「各学校は、地域や学校、児童の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行うものとする」とされており、各学校においては、その趣旨やねらいを踏まえて目標や内容を定めることとされており、その一方で、行う学習活動の課題の例の1つに「情報」が掲げられていることから、当該学習活動を総合的な学習の時間で扱うことができる
 それ以外の教科等においても、学習指導要領やその解説で示されている目標や内容を逸脱しない範囲内で、指導方法等を工夫することにより、当該学習活動を扱うことができる
という観点で掲げているものである。したがって、必ずしも、現行学習指導要領又はその解説において明示されているものではないが、既述のとおり、一覧は、各学校における教育課程の編成や、各教科等の個別の指導における「参考」として活用されることを期待するものであることから、特に掲げることとしたものである。
 また、一覧においては、その多くが「情報活用の実践力」に相当するものとなっている。これは、従前より、小学校段階では、「情報活用の実践力」の育成に焦点を当てて、情報手段に慣れ、親しませつつ、その適切な活用体験を持たせることが大切(「新・手引」第2章第2節)とされていたことと整合しているものである。一方で、従前より、情報の真偽に関わることや、著作権やプライバシーの問題などについては、具体的問題場面が発生した時に、それを見過ごすことなく、繰り返し触れることが重要とされていた(「新・手引」第2章第2節)ところでもあり、必ずしも「情報活用の実践力」のみを指導すれば十分とされている訳ではない。加えて、社会において情報化は進展し続けており、情報機器の活用の低年齢化も進んでいる。さらに、平成16年6月には、長崎県佐世保市において、小学校6年生の女子児童による同級生殺害事件が発生したが、本事件では、インターネット上の掲示板への書き込みが、被害児童に対する怒りや憎しみを抱く要因の一つになったとの指摘があり、「情報モラル」に係る指導を求める要請が高まっている。
 以上のような状況を踏まえれば、小学校段階から、総合的な学習の時間等において、「情報の科学的な理解」や「情報社会に参画する態度」に係る指導を行うことが考えられるところであり、特に後者については、「情報モラルの必要性や情報に対する責任」について扱うことが考えられる。このため、ここで示す学習活動一覧においては、中学年(3、4年)の段階から、総合的な学習の時間等において、「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」の基礎的な内容について扱う形で整理している。

 このほか、情報活用能力の3観点及びその分類に関し、「情報活用の実践力」の「課題や目的に応じて情報手段を適切に活用する」は、さらに「情報手段の基礎的な操作習得」及び「情報手段の適切な活用」という2つの詳細分類を、また、「必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造する」については、さらに「情報の収集・判断」及び「情報の表現・処理・創造」という2つの詳細分類を設けている。これは、小学校段階の学習活動が情報教育の中でも基礎的なものであり、(1)で整理した3つの観点、8つの分類及び指導項目という体系からは若干それるとしても、当該詳細分類を設定することにより、そこに整理された学習活動が目指す情報活用能力が、具体的にイメージしやすくなると判断したためである。

2  中学校段階
   中学校段階の学習活動一覧は、別添3のとおりである。
 中学校段階では、学年の区分は設けず、「中学校段階」という1段階で整理している。これは、小学校の学習指導要領においては、特別活動を除く全ての教科等の指導内容が、学年ごとに分けて記載されているのに対し、中学校の学習指導要領においては、理科、保健体育、技術・家庭、外国語など、指導内容が学年ごとに分けて記載されていない教科等が増え、これらの教科等においては、学習指導要領に掲げられた指導内容をいずれの学年で指導すべきかについて、各学校において創意工夫することとなっているためである。
 「各教科等の情報教育に関係する指導内容」欄では、学習指導要領又はその解説の記述に従って個々の指導内容を記しているが、小学校段階と同様、情報教育の観点から解説を加えている。また、総合的な学習の時間等における指導も考えられるところではあるが、中学校段階においては、学習指導要領に記載されている内容の中で、情報教育に係るものが比較的多いことから、特に、総合的な学習の時間等における指導については掲げないこととした。しかし、このことは、総合的な学習の時間等において情報教育に係る指導を行わないことを推奨している訳ではない。各学校が、その判断により、必要に応じて、総合的な学習の時間等において情報教育に係る指導を行うこともできるところである。
 次に、教科「技術・家庭」について触れる。教科「技術・家庭」については、「技術分野」に、情報活用能力の育成を目指す「B情報とコンピュータ」が設定されてており、学習指導要領においては、
(1)   生活や産業の中で情報手段が果たしている役割
(2) コンピュータの基本的な構成と機能及び操作
(3) コンピュータの利用
(4) 情報通信ネットワーク
の4項目をすべての生徒に共通に履修させることとし、
(5)   コンピュータを利用したマルチメディアの活用
(6) プログラムと計測・制御
の2項目を生徒の興味関心に応じて選択的に履修させることとしている。ここで別添3の一覧を見ると、選択的に履修させる部分も含めれば、「B情報とコンピュータ」において、情報活用能力に係る3観点全てに触れることができるようになっている。しかし、「技術・家庭」のみで、中学校段階における情報教育全てを担っているわけではないので、中学校段階においても、小学校段階と同様、各教科等において、情報活用能力の3観点から情報教育の指導が行われることが期待されるところである。
 なお、1でも触れたとおり、平成16年6月に長崎県佐世保市において発生した小学校6年生の女子児童による同級生殺害事件では、インターネット上の掲示板への書き込みが、被害児童に対する怒りや憎しみを抱く要因の一つになったとの指摘があり、「情報モラル」に係る指導を求める要請は高まっている。このため、中学校段階においても、「情報社会に参画する態度」、特に「情報モラルの必要性や情報に対する責任」についての継続的な指導は重要である。
 別添2の小学校段階の学習活動一覧においては、「情報モラルの必要性や情報に対する責任」についても、その基礎的な内容を総合的な学習の時間等で扱う形で整理しているが、別添3の中学校段階の学習活動一覧においては、同分類の指導内容として、「技術・家庭(技術分野/B情報とコンピュータ)」に係る「情報化が社会や生活に及ぼす影響を知り、情報モラルの必要性について考えること。」等、3つを掲げている。各学校や各教員は、特にこの分類に係る指導内容について、生徒が、小学校段階で如何なるカリキュラムにより、どの程度まで基礎的な内容について指導を受けてきたかを十分に踏まえて、具体的な学習活動を整理していくことが重要である。
 最後に、中学校段階においては、小学校段階よりも学習活動の内容が高度化しており、当該一覧の「各教科等の情報教育に関係する指導内容」の欄の記述の内容も、小学校段階の学習活動一覧の中で記されている内容よりも高度化している。このため、当該記述のみでは具体的な学習活動がイメージできないことも考えられたことから、右端に「学習活動例」の欄を設けることとした。

3  高等学校段階
   高等学校段階の学習活動一覧は、別添4のとおりである。
 高等学校段階でも、中学校段階と同様に学年の区分は設けず、「高等学校段階」という1段階で整理している。これは、学習指導要領において、指導内容が学年ごとに分けて記載されている教科及び科目がなく、各学年に置く教科及び科目そのものも、各学校において設定できるためである。
 「各教科等の情報教育に関係する指導内容」欄では、学習指導要領又はその解説の記述に従って個々の指導内容を記しているが、小、中学校段階と同様、情報教育の観点から解説を加えている。また、特に、総合的な学習の時間等に係る指導については掲げないこととした点は、中学校段階と同様であり、このことが、総合的な学習の時間等において情報教育に係る指導を行わないことを推奨している訳ではないこと、各学校が、その判断により、必要に応じて、総合的な学習の時間等において情報教育に係る指導を行うこともできるところであることも、中学校段階と同様である。
 次に、教科「情報」について触れる。教科「情報」には、「情報A」、「情報B」及び「情報C」という3つの科目が設定されており、いずれか1科目以上を履修することが必要とされている。ところで、別添4の学習活動一覧を見ると、情報A、情報B及び情報Cの全てについて、情報活用能力の3観点に係る指導内容が入っていることから、いずれの科目を履修しても、情報活用能力の3観点全てについて触れられるようにはなっていることが分かる。
 しかしながら、(1)で示した8分類という視点でみれば、情報A、情報B及び情報Cの各々について、8分類全てが網羅されるている訳ではない。このため、高等学校段階においても、小、中学校段階と同様、各教科等において、情報活用能力の3観点から情報教育の指導が行われることが期待されるところである。
 以上のほか、「情報社会に参画する態度」、特に「情報モラルの必要性や情報に対する責任」について扱っていくことの重要性が高いという状況は、高等学校段階においても、小、中学校段階と同様である。
 これに関し、別添3の中学校段階の学習活動一覧においては、「情報モラルの必要性や情報に対する責任」について、「技術・家庭(技術分野/B情報とコンピュータ)」に係る「情報化が社会や生活に及ぼす影響を知り、情報モラルの必要性について考えること。」等、3つ指導内容が掲げられているが、別添3の高等学校段階の学習活動一覧においては、同分類の指導内容として9の指導内容を掲げており、よりきめ細かい指導を行うことが可能になっていると考えられる。各学校や各教員は、特にこの分類に係る指導内容について、生徒が、中学校段階で如何なるカリキュラムにより、どのような指導を受けてきたかを十分に踏まえて、具体的な学習活動を整理していくことが重要である。
 最後に、中学校段階と同様、別添4の高等学校段階の学習活動一覧においても、右端に「学習活動例」の欄を設けているが、その理由についても、中学校段階と同様である。

4  盲聾養護学校および特別支援教育における配慮点
   特別支援教育における学習活動の内容は、基本的に前記小・中・高等学校における一覧に準ずる。しかしながら盲聾養護学校においては、在籍児が小学部(時には幼稚部)から高等部まで広範囲に及び、個々の児童生徒の支援ニーズが多様なことから、情報教育を進めるにあたっては、一貫性のある計画的な教育課程が必要である。
 盲聾養護学校に学ぶ児童生徒は、その障害故にどうしても移動が困難であったり、体験的に学習を進めることが難しい場合も多い。そこで情報活用の実践力を高め、情報を活用するスキルを学ぶことにより、あらゆる学習場面において社会参加・自立に向けた「生きる力」に直結する豊かな学びを期待することができる。とりわけコミュニケーションに障害のある児童生徒にとっては、情報端末機器は自らの意思を表現する有用なメディアでもあり、生活におけるパートナーとして大きな意義を持つ。そうした独自の意義を十分にふまえて積極的に情報活用の実践力を伸ばす必要がある。
 情報の科学的な理解については、そうした社会生活に直結する情報や機器の特性を学び、さらに自らの障害について知り、その改善・克服に向けて自らの不利を補う技術や環境改善の方策を知ることは大切である。
 情報社会に参画する態度の育成は、ネットワーク社会がある意味で障害の有無や人種、国境を越えた平等な世界であることを意識し、機器のアシストを受けながらも積極的に参加し、自己を表現していく経験を積むことが必要である。盲聾養護学校だけでは得難い広範囲な交流やコラボレーションによって社会性を身につけ、社会人としての責任や自覚を促すことは特別支援教育に学ぶ児童生徒にとって大きな意義を持つものである。
 これら一連の情報教育は、それぞれの教科等で扱われるものと平行して、盲聾養護学校教育課程独自の領域としてある「自立活動」の内容としても、その障害の改善克服を目指して豊かに取り組む必要がある。また、教育課程編成上の特例として、領域・教科を併せた指導ができることになっており、そうした生活体験に密着した指導の中にも情報教育の意義をふまえた計画的な指導を取り入れる必要がある。こうした個に応じた指導は、「個別の教育支援計画」として記述され、系統性を持って実施されるべきものである。
 なお、特別な支援ニーズを持つ児童生徒が適切な情報教育を受けるためには、以下のような配慮と指導上の工夫もまた必要である。
   障害や特性に応じた支援機器及び技術(アシスティブ・テクノロジー)の導入
 情報にアクセスしやすい環境整備(アクセシビリティの向上)
 特別なニーズに応じた支援教育に有効な柔軟性のある教育コンテンツの開発と普及
 指導方法やテクノロジーを支援できる専門機関の利用と相談機関の充実
 このように特別支援教育においてはその障害や環境故にデジタルデバイドが生じることがないよう、特に積極的な情報教育の展開が必要である。情報化による恩恵を一番受けるのはこうした特別な支援を必要とする子どもたちである。ところが、盲聾養護学校や特別支援教育における情報教育の意義についての理解や、それを支える技術の導入、指導に当たる教師自身を支援することについての重要性がまだ教育界全体で十分認識されていない傾向にあるのは今後の大きな課題といえよう。

6. 最後に
   前項(5.)においては、「情報教育」(高等学校の「専門教科」において行われるものを除く。)について、小、中、高等学校の全ての学校段階において、教科等をできる限り網羅的に捉え、情報教育に係る学習活動を抽出し、それが情報教育の体系の中でどのように位置づけられるかを一覧形式で提示したところである。
 しかしながら、本報告書において当該学習活動一覧を提示したことのみをもって、「情報教育」の充実が図られることにはならない。情報教育の充実は、学習活動一覧が、各学校における教育課程の編成や、各教科等の個別の指導において、参考として活用され、実際に教育現場において子どもたちの情報活用能力が育成されることにより実現されるものである。
 学習活動一覧の内容については、別途、パンフレットにおいてその概要を示すこととしている。各学校及び各教員においては、当該パンフレットを参考としつつ、詳細については、本報告書によりその理解を深め、適切に活用されることを期待したい。


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