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資料2-2

高等学校「情報教育」の指導内容提案について(初中等教育における教育の情報化に関する検討会第4回)

久野 靖注釈
平成17年4月15日

はじめに

  久野が理解している「情報教育」の目標(←「平成12年3月指導要領解説・情報編」)
X:明記されている目標
Y:間接的に読み取れる(と久野が考える)目標

  X:「情報活用の実践力(実)」「情報の科学的理解(科)」「情報社会に参画する態度(社)」の3目標
ただし(実)については小中学校で多くの分担を示唆

  Y:「情報」に適性・関心等を持つ生徒の伸長←「能力・適性・興味・関心等が多様化する生徒に対し、将来の進路を見据え、個性の伸長を図る」(←平成12年3月指導要領解説)
ただし「×情報を職業とする」「○情報を特に駆使する職業人・社会人」


注釈筑波大学大学院経営システム科学専攻

1 場面:「情報を調べまとめる」(実)

  (各教科での教育が主となるべき)(すべて実習)

  (理由:「お遊びの」テーマで実習しても深まらない・時間の無駄→具体的な各教科でその内容に即して)
内容:調査するテーマの明確化
内容:調査方法の検討・比較・選択
内容:調査の実行
内容:調べた情報の整理・体系化
内容:報告書、Webページ等アウトプットの作成

  (注:ソフトの操作学習は済んでいるものと考える)


2 場面:「プレゼンテーション」(実)

  (中学まででの体験をもとに教科「情報」で方法論や手法を整理。それ以後の実践は各教科内でおこなう)(理由は同上)

  (理由:「お遊びの」テーマで実習しても深まらない・時間の無駄→具体的な各教科でその内容に即して)
内容:プレゼンテーションの定義、目的、特徴、役割
内容:プレゼンテーションの典型的な手法とその得失
内容:プレゼンテーションの設計、製作、練習、実施、評価
内容:実際にテーマを決めてプレゼンテーションを行う(実習)

  (注:時間的に難しい場合は紙芝居+グループ内発表、グループ単位発表)


3 場面:「情報の表現方法と得失」(科)

  (既に持つ情報体験の体系化)
内容:ディジタルとアナログの差異と得失
内容:ディジタル情報/コンピュータの意義
内容:数値、文書、画像、音声、動画の表現方法
内容:具体的な情報の加工体験と分析・考察(実習)


4 場面:「ネットワークの原理と特徴」(科)

  (既に持つネットワーク体験の体系化)
内容:ネットワークの原理と長所・弱点
内容:プロトコル、伝送、経路などの概念
内容:各種のサービス:メール、WWW、他
内容:代表的なネットワークサービスの調査・比較(実習)

  (調査対象例:ブログ、Wiki、ネットショップ、等)


5 場面:「ネットワークコミュニケーション」(社)

  (既に持つネットワーク体験の体系化)
内容:情報伝達・コミュニケーションの社会的意義
内容:各種メディア(ネット以外も)の分類と得失の比較整理
内容:ネットワークコミュニケーションが持つ特徴と留意点
内容:具体的なコミュニケーションの分析・考察(実習)

  (分析対象例:ネット上で公開されている掲示板やメーリングリスト(ML)等)


6 場面:「コンピュータの原理と動作」(科)

  (既に持つコンピュータ体験の体系化)

内容:コンピュータの機器と内部構成

内容:CPUの動作原理
内容:ディジタルデータのCPUによる加工の原理

内容:簡単なプログラムの作成/修正体験(実習)


  (注:言語の学習を目的としない。課題例:命令の実行時間を計測する等


7 場面:「アルゴリズムとその意味」(科)

  (既に持つコンピュータ体験の体系化)

内容:簡単なアルゴリズム(最大、素数、最大公約数、等)

内容:アルゴリズムの性質(正しさ/速さ/停止性、等)
内容:アルゴリズムの実行/改良体験(実習)

  (注:言語の学習を目的としない。課題例:実行速度の計測・改良等)


8 場面:「コンピュータ言語とその意義」(Y)

  (プログラミング体験、HTML言語学習を前提)

内容:言語による情報の表現(日本語、人工言語)

内容:HTMLによるテキストの表現とその意義
内容:プログラミング言語が提供する構造と機能
内容:プログラミング言語による動作の表現(実習)

  (注:言語の基本機能に焦点をあてる。課題例:コードの読解・試行等)


9 場面:「ソフトウェアの設計と作成」(Y)

  (プログラミング体験を前提)

内容:「こういうソフト」の「こういう」(仕様)の指示方法

内容:ソフトの設計:データ、アルゴリズム、コード
内容:ソフト開発の特質:共同作業、テスト、保守など
内容:共同分担作業によるプログラム作成(実習)

  (注:実習は教師による課題も自由課題も考えられる)


10 場面:「WWWによる情報発信」(科)

  (基本的なものについては中学までで済んでいるものとする)

内容:WWWの原理、クライアント/サーバ、HTTPプロトコル

内容:文書とマークアップ/WYSIWYG、スタイルの分離、HTML/CSS
内容:ハイパーメディア、ドキュメント構造
内容:クライアント側/サーバ側プログラミング
内容:HTML/CSS/JavaScriptによるサイト記述(実習) 

  (注:動的コンテンツの例としてプログラミングも入れたい)


11 場面:「情報の価値と保護」(社)

  (社会全般のしくみについては社会科で履修)

内容:財産、無形財産、知的財産、個人情報、情報の持つ価値

内容:情報の財産としての特質と留意点
内容:情報の価値を守る法体系と考え方
内容:知的財産権の侵害事例の調査とまとめ(実習)

  (注:個人の価値観などの問題も社会科との連携必要)


12 場面:「情報社会とその位置づけ」(社)

  (社会の仕組みについては社会科で学んでいるものとする)

内容:社会の進化と情報社会の位置付け

内容:情報社会における様々な情報システムとその役割
内容:情報システムの設計、開発、保守とその難しさ
内容:具体的な情報システムを選んで調査しまとめる(実習)

  (対象例:銀行/コンビニのシステム、オンラインショップなど)


13 場面:「情報社会と安全性」(社)

  (社会全般のしくみについては社会科で履修)

内容:安全性の定義と意味、情報社会との関係

内容:情報技術上の安全性侵害と各種対策(暗号を含む)
内容:サイバー犯罪、ネットトラブル等と各種対策
内容:安全性侵害事例とその対策の調査とまとめ(実習)

  (注:「何が正しい/悪い」については社会科との連携必要)


14 場面:「情報技術による視覚表現」(Y)

  (美術科内、または美術科との連携。できるだけプログラミング体験を前提)

内容:「作る」「表現する」ことの意義と意味

内容:デザインの基礎(色、形、配色、配置、動き)
内容:色、動きなどのプログラミングによる扱い
内容:自分で考えた表現のプログラムによる作成(実習)

  (注:ツールによる代替も考えられるが…)


15 場面:「情報技術による音楽表現」(Y)

  (音楽科内、または音楽科との連携。できるだけプログラミング体験を前提)

内容:音の性質、高さ、強さ、和音、リズム、メロディー

内容:楽曲の持つ性質、典型的な進行など
内容:サンプリングとMIDI、それぞれの特徴
内容:自分で考えた音楽表現のプログラムによる作成(実習)

  (注:ツールによる代替も考えられるが…)

  (注:もっと基本部分として「音」「音色」を実習とすることも考えられる)


16 場面:「問題解決」(科)

  (問題解決の手順だけでなくツールも扱いたい)

内容:問題解決の手順:問題設定→調査→分析→解→評価

内容:問題解決のツール:モデル化、グラフ、状態、その他図法
内容:問題解決の考え方:ミニマックス、リスク、経験蓄積
内容:具体的な課題に対する問題解決(実習)

  (注:数学科との連携も必要)


17 場面:「モデル化とシミュレーション」(科)

  (できるだけプログラミングの体験を前提)

内容:モデルとその意味・意義、実物のモデルの例

内容:各種の数的モデル:連続、離散、統計的、等
内容:シミュレーションとその各種手法
内容:特定問題に対するシミュレーション(実習)

  (注:表計算などによる代替も考えられるが題材が限定される)


18 場面:「データの統合的な管理」(科)

  (できるだけSQLによる実習を前提)
内容:データベースの概念、機能、構造、意義
内容:データモデル、関係データモデル、SQLによる検索更新
内容:データベース設計、実務での応用(データウェアハウス等)
内容:簡単なデータベースの設計、作成、検索、更新(実習)

  (注:SQLはプログラミング言語と独立に学習可能だが両方学ぶのが望ましい)


19 全体的な注記

  「指導要領解説」に書かれているように、実践力的なものが小学校〜中学校で指導されるようになるにつれ、高校では実践力的なものの必要度は低下すると考えられる。
そうなった場合、当面は(現行指導要領下では)「情報A」より「情報B」「情報C」の開講を促し、なおかつこの両科目は中学校までで実践力を身につけた生徒を前提とする形にするのがよいと考える。
また「情報A」は(本来あっては困るが)中学校までに十分な実践力がつけられなかった生徒のために、もっぱら「情報B」「情報C」の準備のための科目として開講することも考えられる。
将来的には(次期指導要領においては)「情報B」「情報C」の共通部分を必修科目(たとえば「情報I」)とし、その上により進んだ「情報IIB」「情報IIC」などを(記号はつけ替えるとして)開講し、上記案「Y」の部分をより充実させて欲しい。


20 まとめ

  「情報教育」全体としての久野個人の提案は次の通り。
すべての生徒が小・中・高の各段階で1回ずつプログラミングに接する機会を保証するべきである。
さらに、接した生徒のうち、情報技術に興味を持った生徒に対する「受け皿」を用意するべきである。
「受け皿」は具体的には、小・中においては「各学校に1人以上の、プログラミングについて十分な造詣を持ち指導可能なスキルを持つ教員が配置されていること」であり、高校ではそれに加えて「選択科目としてプログラミングについて系統的に学ぶことのできる科目が用意されていること」であるべきと考える。
高校部分については上記は、現行指導要領内では(「情報A」)「情報B」「情報C」の内容中の「科学的理解」部分を増強することで対応するしかないが、将来的には科目構成から見直してそのような形を明確化して欲しい。 


21 参考文献

  A Model Curriculum for K-12 Computer Science: Final Report of the ACM K-12 Education Task Force Curriculum Committe

http://www.iist.unu.edu/~paddy/CSAct/k12final1022.pdf

ACM(米国計算機学会)の初中等レベルコンピュータ科学教育モデルカリキュラム→4レベル構成。レベル2までを全生徒必須と考える。レベル4はレベル3から進んでもレベル2から直接でも構わない
レベル1→コンピュータ科学の基礎(K-8):情報アクセス、筋道立てた考え方、評価(例:迷路の脱出法、投げたボールを拾う犬、クッキーを焼く、家から学校まで行く、砂の城を作る、単語を辞書順整列、などのアルゴリズム)
レベル2→現代社会とコンピュータ科学(K-9/10):コンピュータやネットワークの構造、段階的な問題解決、階層構造、抽象化、情報倫理(例:変数、手続き、制御構造)(例:リンク、情報の蓄積、ユーザインタフェース、ストーリーボード等のツール)
レベル3→分析・設計とコンピュータ科学(K-10/11):プログラム設計、データ構造、使いやすさ、計算機言語、ソフトウェア開発(例:再帰、オブジェクト指向、グラフィクス、対話的プログラム)(例:ハードウェア、要求仕様、設計、チーム、保守、ソフトウェア工学)
レベル4→コンピュータ科学のトピックス(K-11/12):advancedなコース、プロジェクト(例:DTP、プレゼンテーション設計、マルチメディア、グラフィクス、WebWebプログラミング、先端技術) 

  上記レベル1→中学まで、レベル2→高校必修、レベル3+4→高校選択と考えると久野提案とも対応している(これを参考に作ったわけでは全くないですが…)。



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