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資料1-1

初等中等教育における学校教育の情報化の今後の姿について(論点整理)(案)

平成17年4月15日
初等中等教育における教育の情報化に関する検討会


 現在、政府においては、「2005年に世界最先端のIT国家となる」との目標を達成するため、内閣に設置されている高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が平成16年6月15日に作成した「e-Japan重点計画2004」等に基づき、各省庁において様々な施策が展開されている。「学校教育の情報化」についても、同計画に、2005年度までに達成すべき数値目標等が定められているところであるが、これに加え、本年2月24日に同本部決定された「IT政策パッケージ2005−世界最先端のIT国家の実現に向けて−」においては、「取組みをさらに強化する」対象に「教育」が掲げられるなど、2005年度の目標達成に向けた取組みが示されたところである。

 文部科学省においては、これらの計画等に掲げられた内容も踏まえ、学校教育の情報化に向けて様々な施策を展開しているところであり、特に、同計画において平成17年度までの達成期限が定められた目標の実現に向けて、所要の地方交付税措置も講じられ、関係府省や民間等との連携も含む様々な取組みが展開されていると評価される。また、各地方自治体においても、平成17年度の目標達成に向けた政府レベルや官民を挙げた集中的な諸施策を受けて、最終年度である平成17年度に様々な施策を計画しているようである。
 国及び地方の双方が目標の実現に向けた施策を展開している現状を踏まえ、平成18年度以降については、原則として、平成17年度の目標達成がなされたIT環境整備を前提として(例えば、全ての教室がインターネットに接続された環境を念頭に置いて)、今後の各教科等におけるITを活用した指導や、情報教育の内容について議論がなされるべきである。
 また、この目標が平成17年度までに達成されなかった場合も、平成17年度以降一刻も早くこの目標を達成すべきことはいうまでもない。平成17年度末に目標が達成されていない地方自治体においては、速やかに目標達成がなされるよう、最大限の努力がなされるべきである。

 ところで、学校教育の情報化は、「e-Japan重点計画2004」に掲げられた目標を実現することのみをもって達成されるものではなく、平成17年度以降も引き続き推進することが必要となる。このため、「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」(以下「検討会」という。)においては、平成17年度以降も見据えた、初等中等教育における学校教育の情報化の今後の姿についてを検討項目として掲げ、自由に意見を交換し、その論点を整理することとした。 以下、本年1月から開催された検討会における意見等について整理するが、現時点では、検討会としての統一した意見、方向性を集約し、取りまとめたものとはせず、今後、文部科学省内外において、具体的に検討が進められるに際して、その検討状況等に応じて適切に活用されることを期待することとする。また、文部科学省内外の検討状況等を踏まえ、必要に応じ検討会においても適切に検討を行うこととする。


1. e-Japan重点計画2004」に掲げられた「学校教育の情報化」に係る目標と、現状について
   検討会で交換された意見の内容について触れる前に、その前提として、委員の間で認識を共有化した、現在の「e-Japapn重点計画2004」に掲げられている「学校教育の情報化」に係る目標と、その現状について簡単に触れる。

(1) e-Japan重点計画2004」に掲げられた「学校教育の情報化」に係る目標
   「学校教育の情報化」については、コンピュータ整備、高速インターネット接続、校内LAN整備、教員のIT指導力の向上等について、小中高等学校及び盲・聾・養護学校等における目標を記載している。「学校教育の情報化」に関する目標の具体的な記述については、別添1を参照されたいが、特に注目すべき項目を列挙すれば、以下のとおりとなる。

 1 IT環境整備関係
2005年度までに、概ねすべての公立小中高等学校等が高速インターネットに常時接続できるようにするとともに、各学級の授業においてコンピュータを活用するため、必要な校内LANの整備やIT授業などに対応した「新世代型学習空間」の整備等を推進することにより、すべての教室がインターネットに接続できるようにする
(公立小中高等学校等について)2005年度までにコンピュータ教室における1人に1台使える環境の整備のほか、普通教室等への整備を推進し、教育用PC1台あたり児童・生徒5.4人の割合を達成する。
 2 教員によるITを活用した教育の推進関係
2005年度までに、約90万人の公立の小中高等学校等の概ねすべての教員がコンピュータ等のITを用いて子どもたちを指導することができるようにする。

(2) e-Japan重点計画2004」に掲げられた「学校教育の情報化」に係る目標の現状
   (1)で掲げた目標に係る平成15年度末の現状については、別添2(PDF:35KB)、を参照されたいが、その要旨を記せば、概ね以下のとおりとなる。

 1 IT環境整備 関係
公立小中高等学校等のうち、高速インターネット(400kbp以上)に接続されている学校の割合は、71.6%である。
公立小中高等学校等における普通教室のうち、校内LANに接続している教室の割合は、37.2%である
公立小中高等学校等における教育用PC1台当たりの児童生徒数は、8.8人である。
 2 教員によるITを活用した教育の推進関係
公立小中高等学校等の教員のうち、コンピュータを使って教科指導等ができる教員の割合は、60.3%である。

2. 「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」における検討の論点整理
   検討会においては、1.で記した内容について認識を共有化した上で、平成17年度以降も見据えた初等中等教育における学校教育の情報化の今後の姿について、様々な意見交換が行われた。以下では、その内容について記す。なお、その前提として、「情報活用能力」の育成と、各教科等の目的を達成するためのITの活用とを混同すべきでないことに留意する。

(1) 教育の情報化の評価について
   現在、「教育の情報化」については、校内LAN整備率や、コンピュータを活用して指導ができる教員の割合等、定量的な指標に基づく評価が行われているが、「教育の情報化」においては、本来、ITを活用してどのような教育が行われ、それがどのような効果を挙げているかについてが重視されるべきある。
 定量的な指標も意味はあり、それ自体を決して軽視すべきではないが、それのみを強調しすぎると、「教育の情報化」が単なる数字合わせになり、「質的な利用度」や、最も重視すべき「ITを活用してどのような教育が行われ、それがどのような効果を挙げているか」についてが軽視されることになりかねない。このような指標のみを取り上げて、我が国の教育分野全体で見た情報化が「遅れている」という評価を下すことについても、慎重になるべきである。
 一方で、授業内容や授業形態に応じたIT活用の評価観点があるはずであり、その観点では、ITの積極的な利用には至っていないのではないかといった意見や、諸外国と比べれば、やはり「遅れていない」とはいい難いという意見もあった。
 また、毎年度、文部科学省が行っている、教育の情報化に関する実態調査について、調査方法を見直すべきとの意見もあったが、従来の調査結果との比較、継続性の問題や、現在及び将来の「学校教育の情報化」に係る目標との整合も踏まえつつ、判断していくべきものと考えられる。

(2) ITを活用した教育の効果
   ITを活用した教育の効果については、評価しにくいところがあるが、効果を評価するに当たっては、その重要性を共感してもらえるようにすることが大切である。
 以上を前提としつつ、ITを活用した教育の効果に係る先例を見ると、英国の調査等においては、ITの活用により、子どもたちの学習意欲等が高まることが明らかにされている。
 また、我が国においても、ITを活用した教育による児童生徒の学力向上、及び児童生徒が主体的な学習をすることによる学力の向上について、各種の調査研究が行われている。調査研究によれば、ITを活用することによる教育効果を期待できる指導場面は多数あることが判明し、また、ITを活用することによる教育効果が特に期待される分野として、「興味・関心」「情報活用能力」及び「知識理解」が挙げられることが示されている。また、ITを活用した教育の効果を実証するための授業においては、特に児童生徒の「関心・意欲・態度」の面での向上効果が得られたとの結果も示されている。
 このように、ITを活用した教育については、我が国においても、その効果が検証され、より具体的には、従来の伝統的な学力のみならず、新しい能力もITを活用することで向上することが示されている。
 このように、学校教育におけるITの活用の促進は、社会の要請に応えるものでもある。今後、教育の情報化に携わる者、特に教員は、実際にITを活用するに当たり、大きな指導効果が期待される指導場面や指導分野も認識しつつ、IT活用に係る社会的要請に応えるため、積極的なITの活用を図ることが求められる。

(3) 今後の教育の情報化について

 1 情報化に臨む姿勢
   ITの活用は、魅力ある授業、分かる授業を実現するための新しい方法論として位置づけられ、その実現のために役立つものであり、我が国の学校教育のために必要と考えられるものである。
 人間力や人間性の育成と教育の情報化は両立するものであり、教育の情報化を進めるに当たっては、強制的にその「必要性」を普及させるのみならず、社会の中で「自律的」に教育の情報化の必要性(必然性)を醸成させることも重要である。
 以上を踏まえつつ現状に目を向ければ、一般社会におけるIT環境は依然として急速に進展している。子どもの生活実態に合ったIT環境の下での教育が望まれることから、少なくとも、一般社会におけるIT環境と学校のIT環境との間のギャップは少ない方がよく、子どもが置かれている一般社会のIT環境が進展すれば、それに応じた学校のIT環境の整備が必要となる。特に、昨今、新たな機能の付加等が著しい携帯端末の普及については、留意することが望まれる。
 一般に、教育現場におけるIT化は、一般社会におけるそれと異なる「特別なもの」と思われている場合もある。一般社会におけるIT化の進展には教育現場の教員も留意すべきであり、教員は、教育現場におけるIT化が、決して「特別なもの」ではないという認識を持つことが重要である。

 2 IT環境整備
   一般社会における情報化の進展は著しく、多様な設備が開発されている。このため、今後、これら多様な設備を活用した、多様な形態のIT環境が現出することも想定されることを念頭に置くことが望まれる。
 また、IT環境整備は、直接的には地方自治体が行う事務であることから、一般社会における情報化の進展を踏まえた、地方自治体の判断に基づく、自由なIT環境整備が期待されるところであり、国においては、今後、地方自治体がIT環境を整備するに当たっての参考としうる、IT環境のモデルを念頭に置いた、一定の指針となるような目標を設定していくことが期待される。
 なお、具体的なIT環境に関する意見として、「従来のような『コンピュータとインターネット』という視点ではなく、『情報端末と情報網』という視点で議論すべき。」「一人一人がいつでも使いたいときに使える環境、教員がいつでもどこでも手軽に使用できるIT環境(電子ボード等の設置)を目指すべき。」「ブロードバンド化を促進すべき。」「生徒及び教員それぞれに一人一台の情報端末の整備が必要。」といったものがあった。
 また、ハード面ではないが、教育用コンテンツについて、教員が「そこさえ見れば」利用できるようなものがあるとよいとの意見もあった。(なお、国立教育政策研究所では、教育・学習に関する情報の中核的Webサイトとして、教育情報ナショナルセンター(NICER)の整備が進められている。また、独立行政法人教員研修センターにおいても、研修や授業実践に役立つ情報等を提供する研修支援情報システムをホームページを通じて提供している。)
 一方で、IT環境整備の直接的な実施主体である地方自治体においては、予算上の制約が大きい。特に学校における施設及び設備の整備については、現在、防災の観点から、学校の施設等を耐震基準を満たしたものとするための改築等が優先され、IT環境整備に係る予算の確保が難しいという意見もあった。
 これに対し、IT環境を整備していくためには、地方自治体の教育委員会ごとに、教育及び教育の情報化のビジョン、理念等を設定し、体系的な情報化の道筋を立てることが重要であるとの意見、「子どもの力をつけるために、IT環境を整備する」といえるようにすべきといった意見が示された。加えて、学校単位でも、教育委員会の理解と協力の下、予算面での優遇措置が必要との意見もあった。
 この他、教育の情報化が、主として地方交付税措置により進められていることが、整備の遅れや地域格差を生み出したのではないか、また、例えば、情報教育振興法のようなものをつくり、国が責任をもって整備を促進することができないか、との意見もあった。また、ITが教員にとって使いやすい形で提供されるような工夫が必要といった意見もあった。

 3 教員によるITを活用した教育の推進
   (1)において、学校教育の情報化を図るに当たり重視すべき事項として、「ITを活用してどのような教育が行われ、それがどのような効果を挙げているか」を掲げたが、ITを活用した教育を行うためにはIT環境を整備するのみでは不十分であり、整備されたIT環境を実際に教員が活用することが必要となる。教員によるITを活用した教育については、必ずしも十分ではないという意見が多く、「無理やりITを活用しているに過ぎず、『分かる授業』につながっていない場合もある」といった意見もあった。また、「ITにより教育が如何に変わるかを知らない教員がいる」という、教員の意識の低さを指摘する意見もあった。
 以上を踏まえ、教員によるITを活用した教育を進めるためには、大きく、教員による自発的な活用の促進と、教員にITを活用した指導を行う能力を習得させることとの2つが考えられる。
 まず、教員による自発的な活用を促進するためには、ITを活用することによりどのような利点が得られるか、如何に生徒の学力をアップさせる指導ができるかを整理する必要があるが、これについては、前出(2)で記した英国での調査結果等や、本年度行われた我が国における調査研究結果の扱いが重要になるであろう。また、教員が、自らがITを活用しているイメージを持ちうるようなモデルを示すことも重要である。この他、教員を対象に、IT活用のメリットを感じさせるような校内研修等を実施することが重要、講習会等において授業で実際にITが使われることを教えることにより教員が学ぶ動機付けをすべき、若手教員をターゲットとしてIT活用のメリットを感じさせるようにIT活用実践を進めてもらうことが肝要、はじめから難しいITを活用するのではなく簡単なものから入るようにすべき、といった意見もあった。
 次に、教員にITを活用した指導を行う能力を習得させることについてであるが、これについては「教員のIT指導力を高めるために教員が身につけるべき能力を明確化すべき」、「教員を目指す学生に対して全教科におけるIT活用の基礎基本を学ばせることを制度化すべき」といった意見があった。前者については、情報化の進展が進む状況下、網羅的に当該能力を示すことの可否やその意味についても、より慎重な検討が必要と考えられる。後者については、現時点でも教育職員免許法令上は、小中高等学校の教員の普通免許状を取得するための教職課程のうち、「教育課程及び指導法に関する科目」に含めることが必要な事項として「教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含む。)」が定められている。また、昨年7月に文部科学省初等中等教育局教職員課長より各都道府県・指定都市教育委員会に発出された通知においても、「教員が授業等において必要とするITスキル、ITリテラシーに関する知識の向上を図るため、これらに関する内容が教員採用選考において扱われるよう努めること。」とされているところであり、慎重な検討が必要と考えられる。
 これらの意見に加えて、例えば、座学後のIT活用実践の結果を報告させるところまで研修で求める等、研修の在り方を考える必要があるとの意見や、学校ごとに先生が不得意分野をカバーし合って全体としてバランスの取れたIT活用を可能にすることも考えられるとの意見もあった。これらについては、実際に教員研修を行い、教員の配置について判断する、各地方自治体の教育委員会の取組みが期待される。
 また、ITを如何にうまく使えるようにするかについてモデルを示すことが大切、日本全体でプログラミングをできる人を増やせばその中でITを使える教員が増える、「生徒」から見てプロジェクタ等を使った授業はこれくらい受けなければならない等の制約を設ける、いい授業をしようとしている教員が報われたり、教員にITを活用するインセンティブを与えたりするための工夫を考える、教員の資質能力の向上を図っていく中で(養成・採用・研修等)、IT指導力を育成していくことが必要である、小中高の各学校段階においてどのようなIT活用を何時間導入するかの指針を示すことが考えられる等の意見もあった。

 4 その他
   教育の情報化の主体については「国、自治体が共に考えるべき。」等の意見があった。教育の情報化については、その内容に応じて、国、地方自治体がそれぞれの立場から情報化を進めることが必要になると考えられる。
 その中で、3においても若干言及したが、地方分権の推進を念頭に置いた三位一体の改革が進められている現下、一般社会における情報化の進展を踏まえた、地方自治体の独自判断に基づく情報化の推進が強く期待されている。検討会においても、「トップダウン的に情報化を進める時期にある。」との意見もあった一方で、「自治体の長の責任」について言及する意見や、「(地方自治体における)多数の施策の中での『教育の情報化』を考える必要がある。」「トップダウンの施策のみならず、教育センター等が行うボトムアップの施策を考えることも重要。」「教育委員会として、情報教育のビジョン、理念が欠けている。」といった地方自治体の対応を求める意見や、「現場においてITの価値を理解してもらうことが大切。」といった、教育現場に近いレベルでの対応を求める意見もあった。
 この他、「情報化を『学校と家庭,地域とが連携して教育活動を展開していくための手段』として進めるべき」、「保護者などにITを活用した教育の意義を知らせることが大切。多くの保護者が学校においてもITの恩恵を受けるべきと考えているはず。」、「『何故、隣の学校でやっているのに、うちの学校でやらないのか。』という感覚を広げること」、「子どもたちに『ITを使いたい』という意識を持たせることが大切」との意見(その一方で「子どもはITを使う使わないについて特段の意識はない」という意見)や、情報化を推進する具体的な施策として、「組織面での整備(支援者派遣予算の一元化等)」、「英国のように、プロのコンサルタントを雇う仕組みが重要」、「研究開発機関の整備」、「国の整備したコンテンツを簡単に配信するための仕組みづくり」、「児童・生徒が間断のないIT利用環境にいることが大切」、「一部の地域で実施されているネットデイ等の地域ぐるみの取り組みのノウハウを、全国の他の地域へ伝えていくことが重要」等、具体的な施策の提言に相当する意見もあった。

3. 最後に
   冒頭にも記したが、以上は、本年1月より現在までに開催された「初等中等教育における教育の情報化に関する検討会」において、「学校教育の情報化の今後の姿について−2006年度以降の学校教育の情報化について−」を検討し、その中で出された各委員の意見等を概ね整理したものである。
 現在、関係省庁を挙げて、「e-Japan重点計画2004」等に基づき、平成17年度までの達成期限が定められた目標の実現に向けた各種施策が進められているところであり、文部科学省においても、学校教育の情報化に係る目標の実現に向けた様々な施策が展開されている。しかしながら、学校教育の情報化は、「e-Japan重点計画2004」に掲げられた目標を実現することのみをもって達成されるものではないことを考えれば、今後、政府レベルで、平成18年度以降の学校教育の情報化の在るべき姿についての検討が進められることも考えられる。
 本論点整理は、このような状況を踏まえ、今後、学校教育の情報化について具体的に検討を進めるに当たり、その検討状況等に応じて適切に活用されることを期待するものである。また、いうまでもなく、本論点整理を踏まえ、より適切な学校教育の情報化に係る施策を展開することを期待するものである。



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