3.指導方法の在り方

参考:人権教育の効果的な指導のための方法と技術

 人権感覚を育成する基礎となる価値的・態度的側面や技能的側面の学習においては、児童生徒が自ら主体的に、しかも学級の他の児童生徒たちとともに学習活動に参加し、協力的に活動し、体験することが不可欠である。このような能力や資質を育成するためには、児童生徒が自分で「感じ、考え、行動する」することが求められる。こうした学習の取組においては、基本的には個別的活動よりもグループ活動が必要となってくる。
 以下に挙げるのは、グループ活動を効果的に進めるために教師が熟練していることが望ましいテクニックである。

1.グループ活動を効果的に進めるテクニック

グループ活動を効果的に進めるテクニック

ブレーンストーミング

 ブレーンストーミングは、新しい主題を導入し、創造性を促進し、多くのアイデアをすばやく生み出す方法です。特定の問題を解決したり、ある問いに答えるのに使用できます。

【使用法】
  • ブレーンストーミングしたいと思う問題を決め、様々な答えが出せるような問いを作ります。
  • 全員が見えるところに問いを書きます。
  • 自分たちの考えを自由に発言し、誰もが見ることのできるところ(例えば模造紙など)に一語で、又は短文で書いてもらいます。
  • 誰からもアイデアが出なくなったら、ブレインストーミングを終わります。
  • コメントを求めながら、提案されたことがらを一つずつ検討していきます。
【留意点】
  • 新しい提案はどれも残さず書き留めます。しばしば最も創造的な提案がいちばん有効で興味深いものであるものです。
  • 意見の提案が終わるまでは、他人の書いたものについて誰も意見を述べてはいけません。また、すでに出された意見をくり返してはいけません。
  • 誰もが意見を出すように激励してください。
  • 学習集団を励ます必要がある場合にのみ、指導者の意見を出すようにします。
  • 出された提案の意味がよくわからない場合には、説明を求めます。
ウォール・ライティング

 ウォール・ライティングは、ブレーンストーミングの一種です。学習者は、自分たちの意見を小さな紙片に書いて壁に貼ります。この方法の利点は、他の人たちの意見の影響を受けずに、学習者が自分で静かに考えることができること、さらに貼り付けた紙は、意見を分類しやすくするように自由にあちこちに張り替えることができることです。

ディスカッション

 ディスカッションは、ファシリテータ及び学習者が、当面している問題に対して自分たちがどんな態度でいるかを、自分で発見するのによい方法です。これは人権教育においては、非常に重要なことです。というのは、学習者は事実を知っているだけではなくて、自分自身で問題を調査し、分析することも必要だからです。ニュース、ポスター及び事例研究は、ディスカッションを活性化するのに役立つ手段です。「・・・についてあなたはどのように考えますか?」と問いかけることから、ディスカッションを開始させてください。

バズグループ

 これは、全体でのディスカッションで意見が出ないような場合に有効な方法です。学習者に、二人一組になって主題についてそれぞれ1、2分間討議してもらい、その後でそれぞれの間で出た意見を全体会で分かち合いをさせます。すぐに教室が互いに話し合う声でいっぱいになり、様々な意見が飛び交うのを体験することになるでしょう。

小グループ活動

 小グループ活動は、全体活動と対照的なもので、誰もが参加できるように奨励し、協力的なチームワークを発展させる支援をする方法です。小グループのサイズは、全体の参加者の数とか、使えるスペースの大きさというような、実際的な事情に応じて決めることになります(注)。小グループ活動は、取り組むべき課題によって、15分、1時間、あるいは1日というように、割り当て時間は異なってきます。
 学習者に対して、「この問題について討議してください」と言うだけでは生産的な討議になることは困難でしょう。主題が何であれ、活動目的がまず明確に定義され、小グループのメンバーは後で全体会で報告することを求められる活動目標を意識し、それを目指して討議することが必要です。例えば、解決を必要とする問題とか、答えることを要求する問いという形で課題を出すことが必要でしょう。
 (注)場合によっては2、3人になるかもしれませんが、6人から8人という規模が最もうまくいくようです。

はしご形ランキング、ダイヤモンド・ランキング

 特定の情報を提供しようとしたり、小グループで焦点化して討議を行うよう促すのに有効な方法です。
 それぞれの小グループに声明文カードを1セットずつ準備してください。1セットは、9枚の声明文カードから成ります。学習者に議論してもらいたい話題に関連する、短くて単純な声明文を9つ準備して、各カードに1つずつ書きます。
 それぞれのグループは、各声明文について議論し、次に、9つの声明文を重要さの順で並べます。並べ方は、はしご形でも、ダイヤモンド形でもかまいません。また、合意形成のための機会を提供します。
 はしご形ランキングの場合には、最も重要な声明文が最上段に置かれ、その下に2番目に重要なもの、3番目にその次に重要なものという順に並べ、最も重要でない声明文が一番下に位置付けられます。
 ダイヤモンド・ランキングの場合は、最も重要な声明文はどれであるか、その次に重要な声明文はどれとどれの2つか、中ぐらいの重要性の声明文はどれとどれとどれの3つか、というように選び、9つの声明文をダイヤモンド形に位置付けるのです。どれが重要でどれがそうでないか、というように単純明快に区別できるような問題はほとんどないのですから、ダイヤモンド・ランキングの方が、より適切な方法であるといえるでしょう。これは、それほど意図的な工夫をこらしたものではないので、学習者にとっては受け入れやすいのです。
 このランキング法を変形して、声明文を8つにしておいて、残りの1つは学習者たちが自分たちで考えて書くようにさせる、というものがあります。

ダイヤモンド・ランキング ~カードの並び~

ロールプレイング

 ロールプレイングは、学習者によって演技される短いドラマです。人々は状況をロールプレイングで演出するために自分の生活経験を活用しますが、ほとんどは即興的に演じられます。ロールプレイングは、学習者になじみがないような環境や出来事を経験できるようにすることを目標とします。ロールプレーは、状況についての理解を改善し、その状況にかかわっている人々への感情移入を促進することができます。
 ロールプレイングとシミュレーションとの違いは、シミュレーションが同じく短いドラマから成っていながらも、通常は台本が書かれていて、ロールプレイングほどには即興性を含んでいない、という点にあります。
 ロールプレイングの価値は、現実の生活を模倣するところにあります。ロールプレイングは、登場人物の行動が正しいか間違っているかというような、単純な答えは出ないような問いを突きつけるかもしれません。学習者に役割を入れ替えて演じてもらえば、より大きな洞察が得られるでしょう。
 ロールプレイングは、感受性を働かせながら使用する必要があります。第一に、ロールプレイングが終わった時点で、演じた人がその役割を抜け出すのに必要な時間がきちんと確保されることが不可欠です。第二に、学習者のそれぞれが、個々人の感情やグループの社会的構成を尊重する必要があります。例えば、障害のある人々に関するロールプレイングの場合、学習者の中に障害のある人が(もしかしたら見えない形ででも)いるかもしれないこと、あるいは、障害のある親戚や友人がいる学習者もいるかもしれないということを、しっかり考慮に入れるべきです。そんな人々が心を傷つけられたり、他の人々から注目されたり、周辺に追いやられたりするようなことがあってはならないのです。もしそんなことが起こってしまった場合には深刻な事態として受け止め、謝ることはもちろん、その問題を一つの事例として、同様のことが二度と起きないよう再度検討しなければなりません。また、ステレオタイプ化することがないように、十分気を付ける必要があります。
 ロールプレイングは、演じたり、模倣したりする「能力」を通して、学習者が他の人々についてどんなことを考えているか、その中身を引き出すものです。これこそが、こうしたアクティビティを大いに興味深いものにするのです。「あなたが演じた人々は、実際生活でも、あなたが演じた通りにふるまうでしょうか?」と報告会で尋ね返しながら問題に取り組むことは有用でしょう。情報を常に批判的に考察することが必要であることに気付いてもらうことは、いつも教育的には有用です。
 さらに、自分たちの性格形成の土台となっている情報をどこで入手したかを学習者に尋ねることもできるでしょう。

シミュレーション

 シミュレーションは、学習者全員を巻き込んだ、いわば拡張型のロールプレイングと見なすことができるでしょう。シミュレーションは、安全な環境の中で、学習者が挑戦的な経験ができるようにするものです。シミュレーションは、しばしば、一定程度の情緒的な関与を要求しますが、この情緒的関与のおかげで、シミュレーションは非常に強力な手段となるのです。人々は自分たちの頭と体で学習するだけでなく、自分たちの心も使って学習するのです。
 シミュレーションの後で報告会をすることは、特に重要です。シミュレーションを演じた人たちは、自分たちの感情について議論すべきでしょう。例えば、なぜ自分がある行動を選び取って演じたのか、どんな不公正に気付いたか、そして達成された解決法がどれくらい自分たちにとって受け入れうるものであると考えるか、等々を議論するのです。指導者は、学習者が、自分たちが経験したことと、世界における現実の状況とを比較してみることができるよう、必要な支援を行っていきます。

絵、写真、漫画、図面、コラージュ

 「一枚の写真は、一千語の文章に匹敵する。」視覚的なイメージは、情報を提供し、興味関心を刺激する強力な手段です。視覚的な思考様式を好む人々にとってばかりでなく、言語を使って自己表現をするのが苦手の人々にとっても、図画は、自己表現とコミュニケーションの重要な手段であることを記憶しておいてください。

<写真コレクション作成のためのヒント>
  • 写真は何にでも使える手段であるので、ファシリテータが、自分自身の写真コレクションを構築しておくのは結構なことです。画像は、新聞、雑誌、ポスター、旅行パンフレット、郵便はがき、あいさつ用のカードなど、様々なところから集めることができます。
  • 写真を切り取ってカードに貼りつけ、本のカバー用に販売されている透明な粘着テープでカバーをかけて、長持ちがして、取り扱いやすいものにしておきます。カードのサイズをそろえておけば、写真コレクションはセットもののようになるでしょう。
  • それぞれの写真の裏側に、整理番号を書いておき、どこかにその出典、オリジナル・タイトル、その他の有用な情報を記録しておくとよいでしょう。そうしておけば、学習者は応答すべき対象としての写真だけに立ち向かい、余計なヒントなどに当惑させられずにすむことになります。
  • 写真を選ぶ場合には、バラエティーに富むように注意しましょう。ジェンダー、人種、障害の有無、年齢、国籍、サブ・カルチャーを含めた文化などを、意識して選びましょう。世界の東西南北各地からなる、また様々な自然的・社会的・文化的環境にある地域からの写真を選択するようにしましょう。さらに、それぞれの写真のサイズ及び色が与える影響のことも考えましょう。このサイズや色の効果は、学習者の写真理解を歪める可能性がありますので、ほどよい均質の写真セットになるように、写真コレクションを整理してください。
映画、ビデオ及びラジオドラマ

 映画、ビデオ及びラジオドラマは人権教育のための強力な手段であり、青少年にも人気があります。映画鑑賞後のディスカッションは、さらに進んだ学習活動にとってのよい出発点となるべきものです。映画の中の「現実的生活」はどれくらい真実味があったか、登場人物が現実的に描写されていたか、あるいは登場人物がある特定の道徳的観点などを促進しようとしていたかなど、映画に対し学習者が最初に感じたことの中に、話し合うべきことがらがあるはずです。

新聞、ラジオ、テレビ、インターネット

 メディアからはすぐれたディスカッション用資料を得ることができます。メディアの内容及びそれが提示される方法について討議し、そこに含まれる不均衡やステレオタイプを分析することはいつも興味深いものです。

写真撮影と映画作り

 携帯型のカメラやビデオカメラの技術は、写真撮影や映画制作を誰にでもできるようにしてくれました。青少年の写真や映画は、その観点が態度を生き生きと示していて、すぐれた展示資料となります。ビデオ便りは障壁と偏見を取り除くための方法として有効であることが証明されています。ビデオ便りは、おそらくは出会うことがないと思われるような人々が「語り合う」こと、お互いにどんな生き方をしているか、またどんなことが自分たちにとって重要であるかということについての洞察を分かち合うことなどをできるようにするのです。

2.ディスカッション技能を発達させるための方法と技術

ディスカッション技能を発達させるための方法と技術

 ディスカッションは、聴き方や順に発言する仕方、あるいは他人の権利を尊重するために重要な他のグループ技能などを実践する機会でもあります。誰もが参加できるようにするためには、グループは適切な規模であることが重要です。例えば15人から20人くらいというように、グループが大きすぎる場合、ディスカッションのためには小グループに分割する方がよいでしょう。相互作用や参加を促すためには、メンバーが相互に見えるように円形ないしは半円形に着席するのが好ましいのです。グループで討議して合意されるべき一般的原則には、次のようなことがらが含まれるでしょう。

  • 一時に一人だけが発言すること。
  • 非難するようなコメントやいかなる形態のあざけりも止めさせること。
  • それぞれが自分自身の観点や経験から発言し、他人に代わって一般化しないこと。つまり、「一人称単数の主語での発言をすること。
  • たった一つの「正しい」答えだけがあるとはかぎらない、とういことを忘れないこと。
  • 微妙な問題について話す時には、内密性の維持に同意すること。
  • 各人に沈黙を守り、本人の意志にしたがって、特定の問題についてのディスカッションに参加しない権利があること。

マイクロフォン

 他人の話すのをきちんと聴く習慣をつけるための活動です。

【進め方】

 円形に着席させます。テープレコーダーのマイクロフォンとかそれに似た形のものを順番に回していきます。マイクロフォンを持っている人だけが発言を許されます。
 他の人たちは話し手に耳を傾け、また話し手に注目します。その人の発言が終わったら、次の発言したい人にマイクロフォンを渡します。

ディレンマ・ゲーム

 自分自身の意見を発表し、他人の意見を傾聴し、新たな理解に照らして意見を交換するように促すための方法です。様々な変形が可能です。

【進め方】
  • (1)取り上げている問題、例えば「表現の自由にはいかなる制限もあるべきではない」というような問題に関連する3つか4つの対立する意見を用意します。
  • (2)チョーク又はテープで床に線を引きます。
  • (3)線の右側は意見に賛成であることを示し、左側は反対であることを示すことを説明します。その線からの距離が賛成ないしは反対の程度を示し、距離が大きければ大きいほど、賛成や反対の程度が高いことになります。部屋の両壁が最高限度となります。線上に立つのはその人は特に意見がないことを示します。
  • (4)最初の意見を読みます。
  • (5)その意見についての自分の見解を示すように線のどちら側かに立ってもらいます。
  • (6)自分たちがその場所に立っている理由を話すように促します。
  • (7)話したいと思う人には誰でも発言してもらいます。その後、立つ場所を変えたいと思う人があるかどうか尋ねます。
  • (8)移動したいと思う人たちが移動し終えたら、その人たちに移動した理由を言ってもらいます。

(1)児童生徒の自主性を尊重した指導方法の工夫(「協力的」、「参加的」な学習の取組)

事例19:地域の人々からの聞き取りを通じて、地域の課題を発見し、自分たちにできることをさがす取組(グループで調べる学習の取組)

 教科の学習を通して活動の動機付けと課題設定を行った上で、子どもたち自身が計画して聞き取り学習を行い、その成果を新たな行動へと発展させる取組事例である。

1 テーマ

 人にやさしいまちづくり

2 目的と概要

 地域の歴史について学習し、自分たちのまちを振り返る活動に対する動機付けと課題設定を行う。その上で、人にやさしいまちづくりのために活動している人々の生き方に触れ、聞き取りや活動の中で分かったことや学んだことを自分たちの生活に結び付けて考えるとともに、自分たちの住む地域に愛着を持つ。さらに、地域の一員として何ができるかを考える。

3 所要時間/教科等

 長(事前・事後学習を含む)/社会、総合的な学習の時間、特別活動 等

4 準備するもの

 インタビューカード

5 進め方

1.動機付け・課題決定
  • 校区を流れる川の切りかえの歴史についての学習
  • 地域の公園ができるまでの歴史についての学習
2.課題追求・交流
  • 自分たちのまちを振り返る。
    • ※ 自分たちの校区、地域の中でこれがあってよかったと思うものを書く。
    • ※ 家の人や近所の人に、このような施設や活動ができたらもっとうれしい、助かるというものを聞き取る。
    • ※ 校区内で、地域のためにがんばっている人を見つける。
  • 施設を訪問してその施設等の役割について調べる。
    • ※ グループごとに調べたい施設と人を決める。
    • ※ 施設を訪問して聞き取りを行う(障害者施設、高齢者施設、保育所、公民館など)。
3.発信・行動
  • 交流と振り返りの中で自分たちにできることをさがす。
  • 施設訪問で調べた内容をもとにガイド番組をつくる。
  • ガイド番組を使い、全校や地域に発信する。

6 留意点

  • インタビューカードを作成して、あいさつや知りたいこと、質問内容、役割分担などを事前に明確にしておく。
  • 自分たちが住むまちの人たちと出会い、そこで学んだことを仲間たちと協力して、また地域や保護者に発信し認められていく中で、自分たちが様々な人に支えられて生きていることを実感させる。
  • 自分に自信がなく、人間関係がうまく結べない子どもたちに、これから起こるであろう様々な課題に向き合う力を付けていきたい。

事例20:自分を見つめ、自分の夢について調べ、発表する取組

 自分を見つめ、自分の夢や希望は何かを考えた上で、個々の児童生徒が、その夢や希望を実現した人を探して、フィールドワークを行い、自分の考えた方法で発表する活動についての取組事例である。

1 テーマ

 見つめよう自分 広げよう出会い・ふれあい

2 目的と概要

 身近な大人への聞き取りや職場へのフィールドワークを行い、人との豊かなかかわりを通して、夢や希望を持ち、自己実現への意欲を高め、自分のできることを考えて行動することができるようにする。また、共に活動することを通して、他者の思いや願いに触れながら、互いに違いを認め、生き方に共感することができるようにする。

3 所要時間/教科等

 長(事前・事後学習を含む)/総合的な学習の時間、特別活動 等

4 準備するもの

 インタビューカード、まとめるのに必要な紙等の材料

5 進め方

  1. 今の自分を見つめる。
    • 今の自分はどのような自分か書かせて発表し合う。
  2. 身近な人(自治会長さん、校長先生)の生き方を聞いて、自分の夢や希望を持つ。
  3. 職場訪問をして自分と同じような夢を実現した人から学び、友だちに紹介する。
    • 福祉施設の職員
    • 生花店の店員(店長)
    • 洋菓子店/和菓子店の店員(店長)
    • 幼稚園の教員
    • ピアノの講師
    • 空手の師範
    • 医師/獣医師
    • 看護士
       など
  4. 自分とのかかわりを考え、まとめる。
  5. 紙芝居、劇、作文、楽器演奏などで自分の夢や希望を伝える。
  6. これまでの活動を振り返る。

6 留意点

  • 子ども同士の交流を数多く取り入れ、それぞれの思いや考えを出し合うことで見方を広げ、相互の交流を深める中で自分を肯定的に見つめ、自信を深めさせる。
  • 他者との違いに気付き、それを認め、思いに共感し、それを尊重していこうとする態度を培う。
  • 自分の夢を実現した人たちや、幼い頃からの思いを大切にしている人の話を聞いたりすることで出会いの心地よさや楽しさを実感させる。

事例21:学級における協力的な人間関係づくりと自主的なルールづくりの取組

 最近の子どもたちについては人間関係をうまくつくれず、友だちとの関係に疲れているとの指摘も多い。クラスで起きている問題について児童生徒どうしで解決法を話し合い、クラスのルールを作る取組事例である。

1 テーマ

 仲間を知ろう!自分を知ろう!

2 目的と概要

 言われるとうれしくなる言葉・悲しくなる言葉を出し合い、確認し合った上で、現にそのクラスで起きている問題を取り上げ、その解決方法について考えさせる。クラスの人間関係を良好にすることに通じる文化を育み、技能を身に付けられるようにする。

3 所要時間/教科等

 短/道徳、特別活動 等

4 準備するもの

 特になし

5 進め方

  1. 言われるとうれしく元気になる言葉と言われると悲しくつらくなる言葉をそれぞれ出し合う。
  2. 攻撃的な言い方などにより、どれほど傷つくのかを確かめ合う。
  3. クラスで起こったトラブル場面などを取り上げて、なぜトラブルが高じたのか、どうすれば解決できるのかを考える。
  4. 対立解決についての考え方を整理し、クラスの「きまり」を作る。
      → クラスの「きまり」は、子どもたちどうしで自主的に守らせる。「きまり」をめぐってさらに問題が生じた際には、改めて話し合いをさせる。

6 留意点

  • 学級に共通の言葉が生まれることを期待し、児童からそのような言葉が発信されたときには、見逃さずに受け止めて、みんなのものにしていく。
  • クラス内で実際にあったトラブル場面や攻撃的な言い方等を取り上げる場合は、当該事例の当事者の実態に留意する必要がある。個人の糾弾などにつながることのないよう、十分な配慮を行う。
  • クラスの「きまり」については、子どもたち自身に考えさせ、決めさせる。「きまり」の内容については、クラスの全員にとって有益かつ合理的なものとなるよう必要に応じ、教員が助言を与える。
  • このアクティビティを成功させるため条件整備として、教員と児童生徒の間、児童生徒相互の間に望ましい人間関係を形成することをねらいとし、次のような取組を進めることも有効と考えられる。
    • ※ 人間関係についての技能などは、普段の遊びなどで身に付いていくことが望ましい。教職員が子どもの遊びを観察し、積極的にかかわることも大切である。
    • ※ 日記帳のやりとりなどによって子どもと心の交流を図り、子どもの気持ちや暮らしの状況を受け止める努力も、この学習を成功させる上で不可欠になる。
    • ※ 児童生徒によっては、学校だけではなく家庭の協力も得た方が成長につながりやすい場合がある。そのような場合などは、保護者との連携を図るよう努める。
    • ※ 人間関係の形成を促す様々なアクティビティをよく知って、学年や学級にぴったりのものを探り当て、実施する。
    • ※ 普段の様々な取組の中で、語りやすい人間関係をつくる活動を大切にし、計画に位置付ける。

参考:児童生徒の自主性を尊重した指導展開のポイント

児童生徒の自主性を尊重した指導展開のポイント

 児童生徒の自主性を尊重するためには、学習プログラムの計画立案から導入、展開、評価に至るまで、一連の流れを持つように組み立てるべきである。そのためには、学習計画の立案・実施・振り返りのそれぞれの段階で次のような点に留意することが求められる。

1:主体的な学習を支える基盤を整備する

 学習の計画や実施に先立って、学習をよい形で成立させるための様々な条件の整備が不可欠である。条件のなかには、教室をきれいに保つことや学校図書館を充実させることなどの他、児童生徒の基本的な人間関係づくりの力を育み、豊かな集団を形成することが含まれている。例えば、児童生徒が互いに異なるものを受け容れ、相互理解を図っていけるようにコミュニケーション能力を育成する。その際、異なる意見の存在に気付き、お互いの考えを交換し合うために、基礎学力の育成、思考の源としての言葉を運用する力、話す力・聞く力の育成、カウンセリング的な技法を生かしたコミュニケーション能力の育成に努め、誰もが自分の考えを臆することなく発表できる温かい集団を作っておく。そのため、日頃から国語科をはじめ各教科等における言語活動の指導を充実させるとともに、学校を挙げて、教職員がカウンセリング的な技法を身に付け、児童生徒の声に耳を傾ける学校文化をつくること求められる。

2:指導者としての支援体制の可能性と範囲を共通理解する

 計画を立てる前提として、教員が指導者として目的を明確に持ち、事前に支援体制について共通理解を図っておくことが求められる。今日では、家庭における子育ての実態も多様化しており、養育の放棄・怠慢などの児童虐待が見受けられる一方、過保護や過干渉と思われるケースも見られるが、いずれにしても、家庭への支援を抜きには、人権教育や人権学習を成立させることも困難となる。他の機関や団体とも連携しつつ、学校として様々な課題に教職員が足並みをそろえていかに積極的に取り組むのかが社会的に問われている。

3:児童生徒の実態を踏まえ、児童生徒が取り組み易く、解決可能な課題を設定する

 学習計画のテーマ設定に当たっては、日常生活の延長線上に学習を位置付け、身近な課題設定をする。特に、解決を迫られている課題や成長が期待される課題であることが望ましい。これらの具体的な課題解決を通して、自尊感情を高め、より合理的なものの見方を培い、共に考え・生きることの自覚を深める。さらに、課題が一部の子どものためではなく全員のためであるよう考慮することが大切である。そのためには、児童生徒一人一人の関心をつかむように日頃より努め、とくに焦点を当てるべき子どもの興味や関心を活かしつつ、全ての児童生徒が入り込みやすい広がりのある課題設定を行うことも考えられる。

4:意欲を高める導入のための学習活動を選択する

 学習計画の導入については、児童生徒が学習テーマに強い関心を寄せ、学習計画の道筋をある程度イメージできるように、特に工夫を凝らす必要がある。そのような視点から、児童生徒が意欲を持って学習集団として課題解決に集中できるような導入法を工夫する。学習課題の内容や性格を踏まえて、ゲーム的な学習活動、擬似体験的な学習活動、あるいはフィールドワーク的な学習活動などを適宜選択する。導入の学習活動が効果的に展開されたときには、次の自主的な話し合いや小集団活動へのつながりがはっきり見えてくるものである。

5:自主的な話し合い活動や小集団による活動を展開する

 導入を受けての自主的な話し合いや小集団活動においては、児童生徒の疑問や関心を積極的に伸ばしてやることが望ましい。学習活動全体の大テーマに応じて、小グループで活動する小テーマが浮かび上がることを期待するわけだが、計画段階で主な小テーマを準備しつつも、児童生徒からその範囲をはみ出た小テーマが出てくることも期待したい。一方的な指導に偏ることのないように工夫し、児童生徒一人一人の声が、活動を通して反映されていると実感されるように配慮することが大切である。
 個々の児童生徒の顔が見える活動を継続させることは、一人一人の児童生徒の人権を保障することにもつながる。また、自主的な話し合いを通して、1学習課題について最初の共通認識が生まれる、2意見対立や疑問が浮き彫りとなり、学習集団に自覚される、3学習課題の中の小テーマが浮かび上がり、関心に応じてグループが形成される、というような成果が期待できる。この段階では特に、児童生徒から何かが産み出されることをじっくりと待つ姿勢を教員が持つことと、方向性を見い出せるよう支援することが重要である。

6:人物や情報との印象的な出会いを提供する

 児童生徒が自分たちの話し合いや自主活動を通して、何らかの疑問を抱いたり、自分たちなりの結論的な考えに至ったり、問題意識が拡散してしまったりしている場合は、人物、事象、統計的データ等の提示により児童生徒を新たな問題に出会わせることが有効である。
 これにより、児童生徒はそれまでの共通認識をさらに深めたり、再検討したり、新たな疑問を抱いたりする。そして、新たな課題に意欲を持って取り組むことになる。

7:考察を深めるための話し合いを実施する

 出会いを踏まえて話し合いをさせ、児童生徒の探求活動を具体的に計画させる。探求活動としては、「図書館などで情報を探索する」、「インターネットに発信して多くの人からの反応を探る」、「新しく人と出会う」、「フィールドワークを行う」、「インタビューを重ねる」、「質問紙調査等により幅広い意見を収集する」等が考えられる。これらの活動は、中学校を卒業する頃までにはある程度の基礎知識を得て、実際に行って技能を習得できるよう、小・中学校で連携して計画を組むことが望ましい。

8:多様なものの見方や考え方を受容する

 考察を深めるための探求活動を進める際には、結論を急がず、失敗を生かし、結果よりも過程を尊重する指導を心がけることが大切である。児童生徒一人一人が、自由にかつ安心して意見交換が行えるように配慮したい。ここでいう多様な物の見方や考え方を受容するとは、何でも許容することを意味するのではない。

9:自主的探求活動の展開を図り、一人一人の児童生徒の活躍の場を保障する

 探求活動でもう一つ大切にするべきは、一人一人の活躍の場を保障することである。児童生徒の主体性や自主性は、一人一人の児童生徒が学習活動の過程においてその当事者としての自覚を持つことから可能となる。そのためには、一人一人の児童生徒の得意な学習スタイルや知的プロフィールなどの個性を踏まえつつ、目的を共有し、自尊感情と参画意識を持って意欲的に活動できる場を保障することが求められる。教師は児童生徒の探求活動に臨機応変に適切なヒントを与える。
 学年を超えた縦割り集団を活用するなどして、異年齢集団による取組を設定することも、成就感を持たせ意欲を育てることにつながる。

10:まとめの作品作りや発表の機会と場を設定する

 これまでの学習では、知識が習得されたらそれで終わる傾向が強かった。技能や態度、行動力の育成をめざす人権学習にあっては、特に自分たちが学んだことを発信する活動を大切にしたい。とりわけ、最終段階では、自分たちの学んだことが本当に社会的に役に立つのか、実際に活用できるのかを確かめる活動が位置付けられなければならない。学習形態に応じて「調査結果や実験結果をまとめて報告する」又は「芸術作品を完成させて発表する」等の成果を発表できる機会と場を設定する。その際、校内だけに止まらず、広く保護者や地域社会へと発信の場を広げることが効果的である。
 また、発表内容に関連して、実際に社会的に活動している人たち、問題の当事者、解決のために活動している人等を対象に発表を行うことが有益である。もちろん、このような発信の活動は、最終段階だけではなく、取組のあらゆる過程で位置付けられてよい。

(2)「体験」を取り入れた指導方法の工夫

事例22:交通安全ウォーキングを通じた地域の高齢者との交流体験の取組

 高齢者をはじめ、地域の様々な人たちに体験的活動における指導的役割を担ってもらい、これらの人々との交流を通じて、活動の成果を高め、コミュニケーション能力の育成を図る取組事例である。

1 テーマ

 交通安全ウォーキングを楽しむ

2 目的と概要

 地域の高齢者との交流体験を通して、地域や高齢者に対する親愛の情、尊敬の念が育つことを主なねらいとしている。自己の感情や意志を素直に表現しながら、楽しく交流し、共感し合う体験を通して、人とかかわることの楽しさや喜びなどを味わわせたい。

 ※ 高齢者と交通安全に気を付けながら歩き、親しみや信頼感を持ちながら会話を楽しむ。

3 所要時間/教科等

 短/生活、特別活動 等

4 準備するもの

 黄色の横断旗

5 進め方

  1. 高齢者と子どもがペアを組む。
  2. 参加者全員が自己紹介をする。
  3. 道中の安全に気を付け、交通ルールを確認しながら、目的地まで歩く。
    • ※ 交通ルールやマナーを身に付ける。
    • ※ 信号の見方、信号のない交差点の渡り方など高齢者の人とともに再確認をする。
  4. 目的地に到着した後は、目的地での活動を行いながら、高齢者との会話を楽しむ。
  5. 学校に向かって出発する。
  6. 学校に到着した後、さらに自由に会話を楽しむ。

6 留意点

  • 自己の感情や意志を素直に表現しながら、楽しく交流し、共感し合う体験を通して、人とかかわることの楽しさや喜びなどを味わわせる。
  • 高齢者と一緒に歩きながら地域の自然や人々の生活に触れ、地域を大切にする心や人としての豊かさ、やさしさなどを学び取らせる。

事例23:保育所・幼稚園との交流と保育実習体験の取組

 校区内にある保育所や幼稚園を訪ね、幼い子どもたちと接し、世話をすること等を通じて、自分の成長も多くの人々に支えられたことを理解し、自己肯定感を高める等のための取組事例である。

1 テーマ

 ふれあい

2 目的と概要

 校区の保育所・幼稚園へ出かけ、保育実習の体験活動を行う。幼児とふれあい、その世話をしたり遊び相手になったりすることを通じて、自分が必要とされる存在であることを確認し、自己肯定感を高める、保育実習を通して自分自身の幼少の頃を振り返り、自分の成長を支えた様々な方の支援があったことに気付く、労働の苦労や責任、喜びについて実感する、自分が親になる時の子育てのイメージを養う等の効果を期待できる。

3 所要時間/教科等

 中(事前・事後学習を含む)/技術・家庭、特別活動 等

4 準備するもの

  • 保育実習のための教材・教具(例えば絵本、おもちゃ・遊び道具など)、又はこれらを作成するための材料・道具(例えば模造紙、色紙、文房具など)
    • ※ 基本的に、学習者自身で準備

5 進め方

  1. 校区の保育所・幼稚園を訪問し、保育について見学や聞き取りをし、保育計画を立てる。(就学前の幼児の立場に立って計画する)
  2. 一緒に遊べるおもちゃや遊びをグループで考え、必要となる教材・教具を集めたり、作ったりする。
  3. 作成した保育計画に基づいて、それぞれの行き先に出向き保育実習を行う。
  4. 実習を通じて感じたこと気付いたことを児童生徒同士で話し合い、何を学んだかについてまとめた上で、実習先へ報告する。

6 留意点

  • 保育実習をより身近なものと感じさせるため、可能であれば、なるべく卒園した保育所・幼稚園で実習を行えるようにする。
  • 日常的な校種間連携を行い、ともに子どもたちの成長を支援する立場で行う。
  • 実習でのつながりをもとに、行事への招待や合同の行事が行えるような日常的な校種間連携へとつなげていきたい。
  • 中学校での職場体験学習の一環として実施することもできる。

事例24:一人暮らしや体の不自由な高齢者との交流・ボランティア体験の取組

 一人暮らしや体の不自由な高齢者を地域のコミュニティセンターに招いて交流し、ボランティア活動を体験する取組事例である。

1 テーマ

 ふれあいリハビリの方との交流会

2 目的と概要

 地域のコミュニティセンターに一人暮らしの高齢者や体の不自由な高齢者を招き、手品や紙芝居、音楽の発表などの活動を通して交流を図る。高齢者との交流を通して福祉に関する関心や意欲を高め、人権課題への自覚を深めるとともに、ボランティア活動の中でのさわやかな心のふれあいを通して、人をいたわる気持ちや親切にするやさしい気持ち、相手の立場に立って考える想像力やそれを行動に移せる実践力を育てる。

3 所要時間/教科等

 短/特別活動 等

4 準備するもの

 カルタなど一緒にできるゲーム

5 進め方

  1. 活動の計画を立てる。
  2. 交流を行う。
     【活動例】
    • はじめの言葉
    • 出会いのあいさつ(自己紹介)
    • ふるさとカルタ
    • 肩たたきをしよう
    • みんなで歌おう
    • 高齢者の方のお話や歌
    • 別れのあいさつ
    • おわりの言葉

6 留意点

  • 交流会の実施に当たっては、社会福祉協議会をはじめ関係諸機関との連携を図りながら計画・立案をする。
  • 活動を行うに当たっては、児童生徒がこれまでに行ってきた活動と体験活動を有機的に結びつけ、活動内容を深めるとともに、体験の中で生じる疑問を授業の中で発展させる工夫を行うことが大切である。

事例25:達人・名人への弟子入り修行体験の取組

 地域の伝統芸能や文化の達人・名人に弟子入りして修行を行う体験学習を通して、勤労を尊ぶ態度を養うとともに、社会における人とのつながりの大切さを実感し、人間関係を調整できるための力を身に付けさせる事例である。

1 テーマ

 地域の伝統芸能・文化を生かして

2 目的と概要

 地域に在住するその道の達人・名人を探し出し、その家に出かけて弟子入りをして師匠に学ぶ。達人・名人と交流する中で、職人気質や技のすばらしさに触れ、生き方を考える体験をするとともに、地域の伝統芸術や文化に理解を深め、人とかかわる力を高める。

3 所要時間/教科等

 長(事前・事後学習を含む)/総合的な学習の時間、特別活動 等

4 準備するもの

 地域の伝統芸能・文化に関する資料

5 進め方

  1. 課題の探究
    • 地域の名人・達人を探す。
  2. 課題の設定
    • 弟子入りする名人・達人を決める。
      • ※ 自分が習いたい技ごとにグループに分かれ、弟子入りの準備をする。
  3. 課題の追究
    • 達人・名人のもとで修行をする。
  4. 課題の深化
    • 自分たちの師匠の紹介文をまとめる。
  5. 課題の拡大
    • 自分たちの習った技を伝える(修行した成果を発表する)。
  6. 学習のまとめ
    • 自分たちの学習を振り返り、取組の成果を確認する。

6 留意点

  • 体験する文化等は、例えば、竹細工、陶芸、大工、三味線、生け花、書道、茶道、和服着付け、畳作りなどが考えられる。
  • 達人・名人とは、活動に入る前から信頼関係を築くよう事前の打合せや準備を十分に行う。

参考:体験的な活動を取り入れた指導のポイント

体験的な活動を取り入れた指導のポイント

1:人権教育の目的に照らして体験的な活動を位置付けること

 体験的な活動には、高齢者や障害のある人との交流活動や奉仕活動、擬似障害体験活動、地域清掃などの公共性の高い奉仕活動等々の様々な形態がある。これを、各教科等との関連を踏まえ、人権教育の目的を明確に意識して計画・実施する。

2:事前・事後の指導を工夫して本来の目的に合致させること

 体験的な活動においては、その内容の精査と指導過程の工夫が求められる。まず、事前・事後の指導を整え、体験的な活動が効果的にねらいに迫るものとなるように工夫すること、次いで、交流活動や奉仕活動において、児童生徒が何をどのように体験するのかについて、訪問先の機関と事前に協議・整理しておくことが大切である。過度の体験的な活動の設定は、児童生徒に負担を負わせるだけでなく、交流する相手に大きな損失を与えることにもなる。

3:児童生徒が主体的にかかわることのできる体験的な活動にすること

 奉仕的な活動は、自発的な形で行われることが望ましいが、体験がない場合は自発性を期待することは難しい。児童生徒にまず体験させて、学習の中から、自発性を育てていく指導過程が求められてくる。その際、発達段階を踏まえ、指導として一方的に押し付けるのでなく、児童生徒一人一人が自らの生活体験や教科等における学習を通して、主体的に参加していけるような指導計画や工夫が必要である。そのためにも、児童生徒に目的意識を持って考えさせる場を保障すること、体験的な活動の種類や内容を事前に学習する機会を設定し、自ら選択し活動していくような場面を設定していく。

4:児童生徒一人一人が、体験を通して人権課題への自覚を深め、自分の考えを深め広げていくことのできる体験的な活動にすること

 体験的な活動は、座学と異なり、児童生徒にとって新鮮であり興味や関心の高まるものと言える。例えば、児童生徒同士の話し合いや発表の場を数多く設定することで体験的な活動の成果と課題が自覚できるようにする。その際、学校内に止まらず、広く、家庭や地域社会の協力も得て、児童生徒の成長を支援する体制をとることも効果的である。
 また、指導の過程で、児童生徒一人一人の成長を見逃さないためにも、個々の発言を尊重すること、さらには、感想や学びの記録を通して、一人一人の心に寄り添う指導を継続させることが望ましい。

5:児童生徒の実態、学校や学級の実態、家庭や地域社会の実態を踏まえること

 人権教育の実施においては、児童生徒や学級、学校、地域社会などの実態を踏まえて体験的な活動の内容を精査することが必要である。例えば、学校が地域の中でどのような役割を果たしてきたのか、また、どのような役割を家庭や地域社会から期待されているのかを事前に把握した上で、体験的な活動を実施することが重要であり、実施に際しては、このような家庭や地域社会からの理解と共感を得ることが必要である。

6:地域社会の人達から学ぶ機会を充実させること

 子どもの成長は、学校だけで図られるものではない。特に人権教育のように、長く生涯にわたって、社会における更なる実践が求められるとき、家庭や地域社会との連携は不可欠である。そのため、学校だけでなく、保護者や地域住民が、体験的な活動における指導的な役割を担っていくことが、体験的な活動の成果を高め、社会参画を目指す行動力を育てることにもつながる。

7:人権感覚の高揚と定着を図るために道徳の時間における指導を生かすこと

 体験的な活動は、総合的な学習の時間や特別活動の時間に実施されることが多いが、心の問題として人権感覚を育てていくためには、人間としての在り方や生き方という視点から道徳の時間を工夫し、体験的な活動と連携を図ることが効果的である。
 道徳の時間の主たるねらいは道徳性の育成とその道徳的実践力の向上であり、その内容項目は、人権教育の学習内容と密接に繋がるものが多数含まれている。このような道徳の時間本来の計画的・継続的な指導を通して、発展的な課題として人権課題への動機付けや価値への自覚の深まりを図ることは、体験的な活動を主体的なものとしていくためにも必須の指導である。

(3)児童生徒の発達段階を踏まえた指導方法の工夫

事例26:幼児期における取組

 幼児期は、遊びを中心とする生活の場で人権感覚を育むことが望まれる。以下は、絵本の読み聞かせをする中で、共感能力等を涵養する取組事例である。

1 テーマ

 絵本に親しむ

2 目的と概要

 「絵本に親しむ」活動を通じて、人と人との温もりのある言葉のやりとりの心地よさに気付き、「伝え合う力」、「相手を思いやってかかわる力」、「社会的共感能力」の基礎を育む。

3 所要時間/教科等

 中/-

4 準備するもの

  • 1日目 絵本
  • 2日目 図書館への依頼、図書館職員との打合せ、貸し出しカードの作成(保護者対応)

5 進め方

(1日目)
  1. 園で揃えた絵本の中から、読みたいものを幼児に選ばせ、各自絵本を楽しませる。(3・4歳児については、「絵本に親しむ」活動の初めての回のみ保護者や教員と選ばせる。)幼児が、夢中になって絵本の世界に入り込めるよう、適宜必要な助言を与える。
  2. 絵本を読む中での幼児の気付き・つぶやきを聴いて回る。幼児が考えたこと・感じたことを自由かつ率直に表現できるよう、肯定的な態度で聴く。
  3. 幼児のそれぞれの表現を受け止め、認めていく。
(2日目)
  1. 図書館に行く。
  2. 図書館職員の方に絵本を読んでいただく。(日常とは異なる環境での読み聞かせは、幼児に新鮮な思いを抱かせる効果が期待できる。)
  3. 各自の貸し出しカードを持たせ、図書館の本を選ばせる。(「自分の貸し出しカードを持つ」ことで、図書館へ来る楽しみが生まれ、家族と来館する契機となることが期待できる。)

6 留意点

(1日目)
  • 担任等は、幼児が楽しみながら自己表現ができ、心や体をしなやかにする心地よさを味わえるよう配慮する。
(2日目)
  • 保護者一日体験の行事等として行うと、家庭における「読み聞かせ」の契機になる可能性がある。
  • 館内では、静かに行動する等、公共の場でのマナーを予め指導しておくことが必要である。
  • 幼児の貸し出しカードは、基本的に保護者に用意していただくこととなるが、家庭の状況等に配慮し、場合により柔軟な対応を行うことも必要である。

事例27:小学校低学年における取組

 小学校低学年において、肯定的かつ受容的に自他を受けとめる児童を育てることをめあてとした取組である。

1 テーマ

 ぼく・わたしを発見する

2 目的と概要

 「自慢できること」、「びっくりしたこと」など、自分のこと、自分が体験したことを記入させる記入カードを使用して、自分の様々な面を見つめさせ、発表させるとともに、自分や友だちについて発見したこと等を確認する。個々の個性や良さをお互いに理解し合う中で、自己肯定感や他者に対する受容性を養う。

3 所要時間/教科等

 短/特別活動 等

4 準備するもの

  • 記入カード
    • ※ 記入カードには、自分のことについて答えさせる次のような質問を載せる(質問数は6問程度)。
       【質問項目例】
       「一番自慢できることは?」、「びっくりしたことは?」、「一番いい思い出は?」、「一番楽しい(幸せな)場所は?」、「いっぱいしたこと(がんばったこと)は?」、「自分のことで、みんなに知ってほしいのは?」
    • ※ 各質問ごとに、答えを記入するための記入欄を設ける。

5 進め方

  1. 教員の話(教員自身の体験をベースにした話)を聞き、本時の学習課題を知る。
  2. 記入カードへの記入のしかたの説明を聞き、各質問項目について記入する。
  3. 各質問項目ごとに、記入した内容について発表する。ただし、発表したくない項目については、パスできる。
  4. 発表者が言い終わると全員で『そうなんだ』と声を揃えて言う。
  5. 自分や友だちについて発見したことや感想を書く。
  6. 書いたことを発表し合う。

6 留意点

  1. 記入カードの記入欄は、吹き出し形式にする等、記入しやすいよう工夫する。
  2. 質問事項については、生徒や学級の状況によって適切に工夫する。その際、「自己肯定感」や「多様性に対する受容的態度」を養うという目的に合致している項目かを考慮する。
  3. カードに記入させている間、個々の児童の様子を見ながら、ていねいに個別指導を行う。
  4. 受容的な雰囲気の中で展開されるよう配慮する。

事例28:小学校高学年における取組

 概念理解が進み、抽象的思考が深まる小学校高学年において、地球規模の問題である環境問題についての学習を行う。日常の生活圏を越え地球規模で繋がる問題についての認識を深め、そこで培われた問題意識で日常生活を照射し、各自の生き方・在り方を考えさせる取組である。

1 テーマ

 環境問題から考える「共に生きる社会」

2 目的と概要

 環境問題について、「共に生きる」という視点で自分の問題として考えさせる。世界各地で起きている環境問題の原因がどこにあるのか、自分たちの生活とどのように繋がっているのかを学んだ上で、人類の未来に責任を負うという視点から認識を深めさせ、共に生きるために自分ができることを考えさせる。
 グループで協力して調べ、発表する、各グループの成果物を互いに評価し合うなどの活動も取り入れ、共生感覚の涵養と実践力の育成を目指す。

3 所要時間/教科等

 長(事前・事後学習を含む)/総合的な学習の時間、特別活動 等

4 準備するもの

  • 世界各地の環境問題をテーマにした30分程度の視聴覚教材(又は講師への依頼)
  • 壁新聞作成に必要な文房具(模造紙・マジック・糊等)

5 進め方

  1. 導入的指導として、世界各地の様々な環境問題とその原因等についての概略説明などを行う。また、グループごとの課題研究となることを予告する。
  2. 視聴覚教材を視聴する(又は講話を聴く。)。
  3. 4~6人ずつのグループを作る(グループの数は偶数になるようにする。)。
  4. グループに分かれ、環境問題に関する新聞記事や書籍等を持ち寄り、各自が特に興味・関心を抱いた記事を選び、どのような点で興味・関心を持ったかについて意見を述べ合う。
  5. 各グループで、取り上げる環境問題を一つ選定する。
  6. 取り上げた環境問題に関し、地域生活の中での問題の現れについて聞き取り調査を行ったり、国内外における問題の様子について、インターネットや図書館の書籍等で調べたりする。
  7. 取り上げた環境問題を題材として壁新聞を作る。「テーマ」、「テーマを選んだ理由」、「調べ学習でわかったこと」、「コメント(私たち自身の問題として)」、「今の私たちにできること」の5点は必ず紙面に入れる。
  8. 作成した壁新聞を一斉に張り出す。
  9. グループを、発表担当グループと聴き役担当(質問担当)グループの2つに分ける。両グループの数は同じになるようにする。発表担当は作成した壁新聞の内容について発表する。聴き役担当は、発表担当の各グループを順に廻って発表を聴き、質疑応答の後、発表の内容でよかった点について述べる。
  10. 一巡したところで担当を交替し、発表、質疑応答等を同様に行う。
  11. 教員によるまとめを行う。

6 留意点

  • 環境問題について、単なる知識上の理解のみで終わらないよう、また、「共に生きる」というテーマから外れることがないよう指導する。時空を超えて想像力豊かに環境問題を捉え、自分の生き方・在り方の問題として引き付けて考えることができるよう、教員は、動機付けやテーマ設定、調べ学習、まとめ等の過程において適切な指導を行う。
  • 環境問題は、身近な地域の問題から地球規模の問題までの広がりを持ち、その探求の仕方も自然科学的なアプローチや政治・経済的なアプローチなど多岐にわたる。このため、児童の状況等に応じ、テーマの枠を設定するのも一つの方法である。
  • 小学4年理科のエネルギー分野の学習等、教科学習との連動も図りながら展開することも考えられる。
  • ねらいに応じて、海岸の漂流物拾いを兼ねた海岸清掃、ゴミ焼却場等の見学等を計画に入れてもよい。

事例29:中学校における取組

 パソコンや携帯電話などの情報機器を個人で所有する者も多くなり、ネットへのアクセス等の機会も増える中学生を対象に、情報モラルの大切さを指導する取組である。

1 テーマ

 情報モラルの大切さを学ぶ

2 目的と概要

 インターネットの特性及び個人情報保護の必要性を知り、情報モラルの重要性を理解させる指導の取組を通じ、情報に関する倫理観を養う。また、高度情報化社会の光と影について理解を深めさせ、情報の真偽を適切に判断し、情報手段を適切に活用できる能力と態度を育てる。

3 所要時間/教科等

 中/技術・家庭 (技術分野)等

4 準備するもの

  • 個人情報の入った仮想Webページ
  • 「情報モラル研修教材」(独立行政法人教員研修センターのホームページにて公開)
  • ワークシート

5 進め方

(仮想Webページを使った指導)
  1. 個人情報の入った仮想のクラスWebページを閲覧し、これをインターネット上で公開することによる利点・問題点について考える。
  2. Webページの中の不適切な内容について考えて発表する。
    • ※ 生徒の肖像、電話番号・住所等
  3. このWebページを公開したとき、どのような問題が起こりうるかについて考え、発表する。
    • ※ 画像へのいたずら、個人の自宅・連絡先等に向けた嫌がらせ、名簿業者を通じた個人情報の売買と購入業者による悪用など
  4. 個人情報を情報通信ネットワーク上で公開することの影響について考えをまとめ、個人情報とは何かについて理解を深める。
(「情報モラル研修教材」を使った指導)
  1. 独立行政法人教員研修センターのホームページで公開している「情報モラル研修教材」の擬似体験ページを閲覧し、個人情報流出の危険性や恐ろしさを実感をもって理解する。
    ※ 誰にでも当たる懸賞コーナー、友だち探しチャット、携帯電話のメールからの個人情報の流出、身に覚えのない請求
  2. ネットワーク社会において各自が気を付けていくべきことをワークシートに書き込み、発表し合う。
  3. 教員の講義によりネットワーク社会の光と影について整理する。

6 留意点

  1. 小学校段階からの情報モラル教育の基盤の上に、インターネットによる加害者・被害者とならないための判断力を身に付けさせる。
  2. 個人情報の入ったクラスの仮想Webページは、自分たちの問題として引き付けて考えさせるため、実際のクラスのものに多少の変更を加えて教材化してもよいが、予め保護者等の許可を得るなどの事前準備が必要である。
  3. 個人情報の流出事件の報道記事を提示することも、自分自身の課題として生徒に考えさせる一方法となる。
  4. 技術・家庭以外の各教科等においても、情報モラル教育の充実を図ることが必要である。

参考:プライバシー保護と個人データ流通についての原則

 「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドライン(1980年9月OECD理事会勧告附属文書)第2部 国内適用における基本原則」より

  • 学校内における様々な活動の中で、個人情報の取扱いやプライバシーに配慮することはきわめて重要であり、教職員は、プライバシー保護の問題に関し、十分な認識を有していなければならない。同時に、児童生徒に対しても、発達段階に応じ、情報化社会における個人情報保護等の問題について、適切に指導していく必要がある。
  • 「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドライン(OECD理事会勧告附属文書(1980年9月)」は、プライバシー保護等に関する国際的な基本原則を定めたものであり、我が国の個人情報保護法の考え方のベースともなったものであって、教職員の研修や、児童生徒への情報教育等の取組の中で、この原則を題材に学習を行うことも非常に有意義と考えられる。
  • 全22条からなるこのガイドラインにおいては、総論や国際的適用における基本原則などのほか、国内適用の場合についても8項目からなる基本原則が示されているが、それらに共通するのは、自分に関する情報は自分でコントロールするという考え方である。情報化が進む現代社会にあっては、どのような場合に自分に関する情報をどこまで提供するのかを判断できなければ、個人が様々な不利益を被ることになりかねない。これらの原則に関する学習を通じ、プライバシー保護のルールについて理解を深めるとともに、自らの情報を適切に管理する技能を身に付けていくことが求められる。

1.収集制限の原則〔ガイドライン第7条〕

 個人データの収集には制限を設けるべきであり、いかなる個人データも、適法かつ公正な手段によって、かつ適当な場合には、データ主体に知らしめ又は同意を得た上で、収集されるべきである。

2.データ内容の原則〔ガイドライン第8条〕

 個人データは、その利用目的に沿ったものであるべきであり、かつ利用目的に必要な範囲内で正確、完全であり最新なものに保たれなければならない。

3.目的明確化の原則〔ガイドライン第9条〕

 個人データの収集目的は、収集時よりも遅くない時点において明確化されなければならず、その後のデータの利用は、当該収集目的の達成又は当該収集目的に矛盾しないでかつ、目的の変更ごとに明確化された他の目的の達成に限定されるべきである。

4.利用制限の原則〔ガイドライン第10条〕

 個人データは、第9条により明確化された目的以外の目的のために開示利用その他の使用に供されるべきではないが、次の場合はこの限りではない。

  • (a)データ主体の同意がある場合、又は、
  • (b)法律の規定による場合

5.安全保護の原則〔ガイドライン第11条〕

 個人データは、その紛失もしくは不当なアクセス、破壊、使用、修正、開示等の危険に対し、合理的な安全保護措置により保護されなければならない。

6.公開の原則〔ガイドライン第12条〕

 個人データに関わる開発、運用及び政策については、一般的な公開の政策が取られなければならない。個人データの存在、性質及びその主要な利用目的とともにデータ管理者の識別、通常の住所をはっきりさせるための手段が容易に利用できなければならない。

7.個人参加の原則〔ガイドライン第13条〕

 個人は次の権利を有する。

  • (a)データ管理者が自己に関するデータを有しているか否かについて、データ管理者又はその他の者から確認を得ること。
  • (b)自己に関するデータを、(1)合理的な期間内に、(2)もし必要なら、過度にならない費用で(3)合理的な方法で、かつ、(4)自己に分かりやすい形で、自己に知らしめられること。
  • (c)上記(a)及び(b)の要求が拒否された場合には、その理由が与えられること及びそのような拒否に対して異議を申立てることができること。
  • (d)自己に関するデータに対して異議を申し立てること、及びその異議が認められた場合には、そのデータを消去、修正、完全化、補正させること。

8.責任の原則〔ガイドライン第14条〕

 データ管理者は、上記の諸原則を実施するための措置に従う責任を有する。

事例30:高等学校における取組

 高校生を対象に、現代社会が直面している問題を、法的な観点も含めて考えさせることにより、社会規範の相対性と「人権」の持つ普遍性についての認識を深めさせることを目当てにした取組事例である。

1 テーマ

 生命倫理について考える

2 目的と概要

 科学技術の急速な発達に伴い、生命倫理をめぐる諸事案が深刻な社会問題となっている。社会事象の持つ多面性に気付かせるとともに、ディベートの手法を採り入れることにより、命をめぐる問題について自らの課題として引き付けて考えさせる。

3 所要時間/教科等

 中(事前・事後学習を含む)/総合的な学習の時間、特別活動 等

4 準備するもの

 PC室(インターネット検索)、図書室(参考図書検索)の使用予約(1時間)

5 進め方

  1. 現代社会が直面する生命倫理をめぐる諸問題(遺伝子操作、クローン、臓器移植、尊厳死、安楽死、代理出産等)を提示する。
  2. ディベート(模擬裁判)と、最終的な発表形態となる新聞について解説する。
  3. 協議の上、テーマを2つに絞り込み、生徒は2グループに分かれる。
  4. 各テーマごとに、グループのメンバーをさらに肯定派・否定派・中立派の3派に分ける。各派の人数は均等になるよう調整する。
  5. 各派ごとに資料を収集し、肯定派と否定派は、発表用資料を作成する。資料収集に当たっては、法的側面も含めて、客観的資料を幅広く収集するよう指導する。
  6. 教員は、発表用資料を点検指導し、中立派には、それを基に質問書を作成させる。
  7. 肯定派・否定派は、それぞれ対立する派の発表資料に対する反論書を作成し、当日のシナリオを検討する。
  8. 1つめのテーマについて裁判形式(肯定派には弁護側、否定派には検察側、中立派には裁判官の立場での模擬裁判形式)で討議する。
  9. 2つめのテーマの裁判(弁護側、検察側、裁判官)を担当している生徒は、1つめのテーマの裁判討議中、陪審員と新聞記者を担当する。この生徒たちには、疑問点など質問する機会を与える。
  10. 陪審員担当の生徒は、最後に評決を行い、裁判官は、陪審員による評決を参考に、法的根拠を明示した理由書を付して判決を下す。
  11. 陪審員担当の生徒は、評決と判決についての感想をまとめる。
  12. 新聞記者担当の生徒は、評決・判決・感想を含めてこれまでの経緯等を記事にまとめる。
  13. 2つめのテーマについても同様に行う。
  14. 新聞を発行し、教師によるまとめを行う。

6 留意点

  • 科学技術の発達と生命倫理を巡る問題が生じる背景には、倫理、社会、文化、政治、経済等様々な要素がある。生徒の状況によっては、論拠となるポイントを適切に押さえているか等の指導が臨機応変に必要である。
  • 基本的人権や生命の重み等から外れた議論になることがないように、また、単なる知識・理解に止まることなく、最終的には、自分の問題として捉えられるよう適切に指導する。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課