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情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて


第I章  情報化に対応した教育について

  本協力者会議がまとめた「体系的な情報教育の実施に向けて(第1次報告)」(平成9年10月3日)では,情報教育で育成すべき「情報活用能力」の内容を次項で述べる3つに焦点化し,系統的,体系的な情報教育の目標として位置づけることを提案している。「はじめに」で触れたように,情報化に対応した教育を展開するにあたっては,子供たちに「情報活用能力」を育成することに加えて,各教科等の目標を達成する際に効果的に情報手段を活用すること(学習指導における情報手段の活用)や,校務処理における教員の情報手段活用(校務の情報化)なども推進していく必要がある。

1 情報教育の位置づけ

  現在の学校現場では,コンピュータや情報通信ネットワーク等の情報手段を教育活動に使っていれば,それはすべて情報教育であると考えている場合もある。しかし,例えば,コンピュータを利用して算数でドリル学習をすることなどは,あくまでも算数・数学の目標を達成するための教育であって,「情報活用能力」の育成を主たるねらいとした教育とは区別すべきである。教育活動が効果をあげるには,教員が明確に目標を意識し,その達成に向けた意図的,計画的教育活動を編成することが不可欠だからである。逆に言えば,各教科等においても,「情報活用能力」の育成を目標とした教育活動は可能であり,また必要である。

(1) 情報教育の目標とカリキュラムの体系化

  本協力者会議では,今後の初等中等教育段階で育成すべき「情報活用能力」を以下のように整理し,情報教育の目標として位置づけることを提案した。

(1) 課題や目的に応じて情報手段を適切に活用することを含めて,必要な情報を主体的に収集・判断・表現・処理・創造し,受け手の状況などを踏まえて発信・伝達できる能力
    (情報活用の実践力)
(2) 情報活用の基礎となる情報手段の特性の理解と,情報を適切に扱ったり,自らの情報活用を評価・改善するための基礎的な理論や方法の理解
    (情報の科学的な理解)
(3) 社会生活の中で情報や情報技術が果たしている役割や及ぼしている影響を理解し,情報モラルの必要性や情報に対する責任について考え,望ましい情報社会の創造に参画しようとする態度
    (情報社会に参画する態度)

  なお,実際の学習活動では,情報手段を具体的に活用する体験が必要であり,必要最小限の基本操作の習得にも配慮する必要がある。(ここでいう情報手段は,コンピュータ等の情報機器や情報通信ネットワーク等を指す。)

(系統的,体系的な情報教育のカリキュラムの必要性)
  「情報活用能力」を育成するにあたっては,「情報活用能力」と「生きる力」との関連性,発達段階や各教科等の学習との連携に留意しながら,3つの柱の関連性やバランスに配慮した,系統的,体系的なカリキュラムを編成する必要がある。

(「情報活用の実践力」の育成と学習の範囲)
  「情報活用の実践力」は,小学校段階から各教科等の学習内容や教科等の枠を越えた総合的な学習課題を題材として育成されることが望まれる。その際,徐々に教員主導から子供主体へという展開が重要であり,学校図書館やコンピュータ教室などを活用しながら,学習活動や活用する情報手段の範囲を広げたり,深めたりしていくことが望まれる。また,学校・学年段階が進むにつれて,ある共通の課題について個人あるいはグループ別に異なる方法で解決を行い,その結果を相互に比較することがより重要になる。

(「情報の科学的な理解」の扱いと学習の範囲)
  「情報活用の実践力」を単なる体験のレベルから,真の実践力,知恵のレベルに高めていくために,「情報の科学的な理解」が必要である。小学校段階では,教員側が「情報の科学的な理解」に基づいて,適切な体験ができるように授業や学習活動を設計することが重要である。中学校段階以降では,体験と結びつけてその必要性を認識させ,情報手段を主体的に活用させる実践活動を行わせ,その過程や結果を評価させ,活動の改善を促しながら知識理解,知恵として定着を図る。初等中等教育を修了するまでに,すべての子供たちに履修させたい「情報の科学的な理解」の範囲としては,情報の表現法,情報処理の方法,統計的見方・考え方やモデル化の方法,シミュレーション手法,人間の認知的特性,身近な情報技術の仕組み,情報手段の特性がある。このほか,生徒の興味や関心に応じた内容について,学習する機会を提供することも必要である。

(「情報社会に参画する態度」の扱いと学習の範囲)
  「情報社会に参画する態度」は,「情報活用の実践力」と「情報の科学的な理解」に基づき,情報化が人間や社会に及ぼす影響や,影の影響を克服するための方策を考えさせることで培われる。学習の進め方としては,小学校段階では,影の影響を極力排するように教員が情報や情報手段の活用場面を設定し,徐々に子供たちの主体性に委ねていく過程で,影の影響やそれへの対処法を明示的に指導していくことが必要である。学習の範囲としては,情報技術と生活や産業,コンピュータに依存した社会の問題点,情報モラル・マナー,プライバシー,著作権,コンピュータ犯罪,コンピュータセキュリティ,マスメディアの社会への影響などが考えられる。これらの学習においては,自分自身が情報社会の創造に関与するという観点から,単なる情報の受け手としてでなく,自らが情報の発信者になる場合の態度の育成が重要である。

(情報手段を活用する上での留意点)
  以上の学習活動においては,情報手段を適切に活用することが必要である。そのためには,機器の基本操作を習得させることが不可欠になるが,小学校段階では,「情報活用の実践力」を育成する学習活動の中で,慣れ,親しみながら習得させることを基本とすべきである。また,具体的で直感的に理解できるものから,徐々に自由度が高く,抽象度や応用範囲の広いものを学習の題材として用いたり,あるいは,学習内容の広がりに対応して学習の幅を学校外に広げることや,課題の発見,情報の収集,調査結果の発表などに役立つ情報通信ネットワークの活用を取り入れることが望ましい。

(2) 第1次報告における次期学習指導要領に向けた提言

  第1次報告では,子供の発達段階等を考慮しながら,いくつかの代替案を比較検討し,以下のような提言を行った。

  • 小学校段階では,情報に関わる独立教科を設置するのではなく,各教科等,とりわけ「総合的な学習の時間」で「情報活用の実践力」を育成するための意図的,計画的な指導が行われることが望まれる。その際,「情報活用能力」の育成という観点から,学校教育活動全体を通じて,情報手段を積極的に活用することについて学習指導要領に明確に位置づける。 
  • 教科担任制の中学校段階以降では,独立した教科・領域において,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」を扱うことが望ましい。中学校では,現行の技術・家庭科「情報基礎」領域を必修扱いとした上で,情報教育の観点から内容を改善・充実する。また,生徒の興味・関心に応じて発展的な学習ができるように発展的,選択的内容を設ける。 
  • 高等学校では,すべての子供たちに,「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」の基礎的内容を指導するために,普通教育に関する教科として「情報」を設置し,その中に科目を複数設定する(いずれも2単位程度)。この普通教科「情報」は,必修とすることが望ましい。 
  • 特殊教育諸学校では,各教科等については,小学校,中学校,高等学校に準ずるとともに,情報手段の活用の在り方を含め学習の補助的手段の活用能力等を育成する観点から,その内容の充実を図る必要がある。中でも,情報通信ネットワークをコミュニケーションの補助手段等として利用することにより,障害のある子供たちが他の子供たちや様々な人と交流する機会を一層拡充していくことは,社会参加・自立を実現していく上で大きな効果があると考えられる。 
  • 情報教育の目標のうち「情報活用の実践力」については,各教科等のそれぞれの特性に応じて,すべての学校段階を通じて積極的に取り組むことが強く求められる。第1次報告においては,各教科等での指導例を示しているところである。これらを参考にしながら,学校段階,各教科等の特性に応じて,情報機器などの情報手段をより積極的に活用するよう学習指導要領上に規定することが望まれる。 

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