ここからサイトの主なメニューです

資料3

J-PARCの利用方策のあり方に関する懇談会 報告書骨子(案)

1.我が国における中性子利用の現状

(1)概況

  • 現在、我が国における中性子利用は、主として日本原子力研究開発機構(JAEA)の有する研究用原子炉JRR-3において実施。同炉の課題申請日数は増加傾向にあり、全体で約1.5倍の競争率となっている。
  • また、パルス中性子源としては、日本原子力研究開発機構及び高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で、J-PARCの物質・生命科学実験施設を現在建設しており、本年12月には中性子ビームの共用を開始する予定。
  • 日本中性子科学会では、J-PARCにおける中性子利用の開始に向けて、ユーザーコミュニティの立場から、こうした大型施設の利用のあり方について活発に議論している。

(2)産業利用の状況と期待

  • JRR-3における産業界の利用は、平成18年度に施設共用制度及びトライアルユースを開始したことにより着実な増加を見せており、平成17年度に課題の5パーセントだったのが、平成19年度においては10パーセントを占めるに至っている。
  • J-PARCの中性子ビーム利用の開始を控え、産業界の中性子利用に対する期待も高まっている。具体的には、以下の通り。
    • 製造業においては、実機での残留応力測定、集合組織(合金)測定、ナノ磁性・ナノデバイス開発、燃料電池構成材料の開発、水素脆性の原因究明など、中性子の利用による技術革新
    • 医薬品業においては、パルス中性子を用いたタンパク質の立体構造解析による、医薬分子設計(SBDD)への寄与、及び創薬の確度やスピード向上への貢献
  • こうした産業界の期待の高まりを受けて、5月には「中性子産業利用推進協議会」が設立されている。

2.J-PARCにおける中性子利用体制のあり方

(1)J-PARCにおける中性子利用体制の課題

  • J-PARCの中性子ビームについて、産業界も含めた幅広い利用が期待されているが、プロジェクトを推進しているJAEA及びKEKの業務の関係で、既存の枠組みでは限界も存在するなど、産業界も含めた幅広い利用のための枠組みの整備が必要である。
  • 現状では、JAEAの施設はJAEA本来の研究開発が優先され、その業務及び資金に支障のない範囲でしか、他の研究者・技術者にも利用させることができない。また、KEKは大学共同利用機関であり、KEKが行う研究と同一の研究をおこなう大学共同利用が中心である。
  • J-PARCを我が国として最大限活用していくためには、施設による支援体制の充実が重要である。
  • 一方、J-PARCと同様に大型研究施設であるSPring-8では、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(共用法)に基づいて、幅広い分野の利用者への共用が促進されており、産業利用についても着実に増加している。
  • なお、Spring-8の運転経費については、安定的な施設運営の確保の観点から、法人の運営費交付金ではなく、補助金として手当されている。

(2)幅広い中性子利用体制の構築

  • こうした状況を踏まえ、中性子利用の促進を図る上で、J-PARCにおいてもSPring-8と同様に共用法の適用をすべきであり、以下の点について留意しつつ、具体的な検討を進めるべきである。

【留意事項】

  • SPring-8では、共用を担当している高輝度光科学研究センター(JASRI)が施設の建設段階から存在していたが、J-PARCについてはそうした組織が現時点では存在しないこと。
  • 初心者でも施設を適切に利用できるような相談体制や課題申請システムの整備が必要(利用窓口の一元化など)。
  • さらに、JRR-3なども含めた中性子利用全体を一体的に推進する体制が期待されており、理想としては、人的・経済的に独立した組織の構築が適当。

(3)J-PARCの運営のあり方

  • 研究成果の取扱いについては、産業界による利用ニーズに対応するべく、成果公開型利用においても一定期間その結果の公表を猶予するなどの柔軟な制度を設計すべきである。
  • 産業界からは施設利用に係る料金設定について、トライアルユースの実施や安価な料金設定の要望があることから、これらの要望を踏まえた料金設定を検討すべきである。
  • 成果非公開型の利用においては、守秘義務の徹底が重要である。

(4)J-PARCにおける研究推進のあり方

  • タンパク質立体構造解析の分野のような中性子利用研究が発展途上にある分野では、産業界の利用につなげるために、まず、アカデミアの利用において先端的な成功例が示される必要がある。
  • 学術利用と産業利用の配分に留意しつつ、インパクトの高い成果創出のため、トップダウン方式である程度成果が期待される研究を国として戦略的に実施することが必要。
  • 放射光による研究との連携や、異分野の研究者間の交流から新たな成果が生まれることが期待。そうした動きを強く推進すべきである。
  • 研究成果について、関係機関が連携して戦略的な広報活動を行うことが重要。