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J-PARCの利用方策のあり方に関する懇談会(第2回)議事録

1.日時

平成20年5月20日(火曜日)10時〜12時

2.場所

文部科学省3階 3F2特別会議室

3.出席者

(委員)

福山主査、井上委員、長我部委員、金子委員、川上委員、西村委員、大野委員、横山委員、山田委員、山内科学官(欠席 亀井委員、田中委員)

(説明者)

日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門 森井副部門長
高エネルギー加速器研究機構 下村理事

(オブザーバー)

J-PARCセンター 永宮センター長

(事務局)

とく永研究振興局長、大竹基礎基盤研究課長、板倉原子力研究開発課長、林量子放射線研究推進室長、ほか関係官

4.議事

(1)林量子放射線研究推進室長より、日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構における施設利用の枠組みについて説明があり、引き続き森井副部門長より原子力機構でのJRR-3中性子利用の現状について説明があった。その後以下の議論が行われた。

【川上委員】

 JRR-3では現在、技術支援を十分行える人員体制になっていないようですが、J-PARCでのサポート体制やコーディネーターの配備などは大丈夫でしょうか。

【森井副部門長】

 その辺をどうすれば良いかは、現在議論をしているところでありまして、この場でもいろいろと御議論をいただきたいと思っているところです。

【福山主査】

 今お話にありました点は、これから制度設計をどうするかという問題だと思います。

【川上委員】

 技術支援につきまして、支援要員が足りないだけなのか、それとも、技術的なものが足りないのか、その辺の分析はされていますでしょうか。

【森井副部門長】

 トライアル・ユース制度における経験で言えることは、絶対的な支援要員が足りないということです。産業界のニーズが何か、産業界が何を考えており、どのように対処すべきかを考えられる者が決定的に質、量ともに不足しています。ユーザーが入ってきましたときに、それを処理する体制が、今の運営では原子力機構でもトライアル・ユース制度を実施している機関のほうでも非常に不足しています。
 実際の実験におきましても、ユーザーと一緒に実験を行う研究者も今のところ不足しておりますので、個々の研究者がかなりの努力と犠牲を払ってユーザー支援をしているという状況です。

【川上委員】

 研究分野によって、研究者数の厚みも違うと思いますので、分野ごとの状況を教えていただければ、さらに分かりやすいと思います。

【森井副部門長】

 そうですね。原子力機構の生物系では、タンパクの結晶調整や大型化など圧倒的に不足している面があり、何らかの支援が必要ではないかと私も思っておりまして、やはり分野ごとにいろいろ問題がございます。

【福山主査】

 おそらくその問題は、マシンや施設によって状況が違います。その点に関しては、どういう技術支援が必要なのか、ある程度整理はされていますか。

【森井副部門長】

 はい。

【福山主査】

 17台の装置が施設共用の対象になっているとの説明がありましたが、こうした戦略的な使い方の意志決定は、どこでどのようになされたのですか。

【森井副部門長】

 原子力機構では、経営企画部、すなわち原子力機構の経営層と各研究拠点の長が、これまでの動向や今後の需要の予測をした上で決定しています。

【福山主査】

 戦略的な意志決定の際に、原子力機構独自の必要性と同時に、利用者である外部コミュニティーの意向や希望が反映される仕組みはあるのですか。

【森井副部門長】

 はい。ビーム課題の審査過程には、外部の先生方が入っておられますし、上部機構として施設利用協議会というものがありまして、ここに原子力機構の理事クラスやいろいろな分野を代表する方々が入っており、大所高所から御意見をいただき、それを反映するという仕組みになっています。
 また、下部機構としては、学会から直接的な御意見や御議論があります。

【福山主査】

 運営からのトップダウン的な視点と、コミュニティーのボトムアップ的なニーズとの意見交流、意思疎通は十分できるような仕組みができていると思ってよろしいですか。

【森井副部門長】

 そうですね。少なくとも中性子の部分につきましては、量子ビーム応用研究部門とJ-PARCセンターとが協力し、方向性を見出しております。

【福山主査】

 大きな施設では、戦略的な利用が特に大事なことです。施設が独自に利用しつつ、一方で広くユーザーのニーズを受けとめるというのは重要です。需要と供給がうまくマッチするのが理想だと思います。

【長我部委員】

 充足率が、独自利用と施設共用とほぼ同じということですが、そこをほぼ合わせるように、施設共用と独自利用の比率を決めているのでしょうか。もしくは、偶然そうなっているのでしょうか。

【森井副部門長】

 偶然そうなっていると思います。

【福山主査】

 ということは、何かうまくデザインされているということですか。

【森井副部門長】

 JRR-3は世界で第三番目、あるいは四番目によく使われている先端的施設であり、現在、中性子散乱実験を行える施設は日本で一つしかないわけです。したがいまして、分野によってあまり偏りのある利用とならないように心がけております。

【福山主査】

 そこは工夫されているということですね。JRR-3は確かに、随分とニーズが高いところですね。

【森井副部門長】

 そうですね。

【長我部委員】

 すいません、66対34という比率は、いつごろからそのように比率になったのですか。

【森井副部門長】

 過去5年間ぐらいを見ましても、0.5とか0.6という競争率になっております。

【長我部委員】

 そうすると、独自利用と施設共用に関しては5年ぐらい、大体その割合で推移してきて、共用の中で産業界の利用率に関しては、過去5年でかなり上がってきたということでしょうか。

【森井副部門長】

 施設共用制度が始まりましたのは、平成18年度と19年度の2年間だけです。

【長我部委員】

 そうですか。

【森井副部門長】

 全体の競争率というのは、過去、十何年の統計があるのですが、18年度、19年度でいいますと、競争率は大体このぐらいだと思います。共用比率は19年度のほうが少し増えていると思います。それは経営努力の反映です。

(2)林量子放射線研究推進室長より「大型先端研究施設の共用の促進に関する法律」について説明があり、引き続き、大野委員よりSPring-8における現状について説明があった。その後以下の議論が行われた。

【山田委員】

 SPring-8の共用ビームラインに、どのような装置をつくるかというのは、どのようなプロセスで決められたのでしょうか。

【大野委員】

 いろいろなプロセスがございます。私どもが重要分野だと思ったところに重点的にやる方法と、それからコミュニティーからの提案をいただいて、それを審査会で審査して、ビームラインをつくっていくという方法がございます。

【福山主査】

 その審査委員会は、どこにどういう形でできている組織ということでしょうか。

【大野委員】

 以前は諮問委員会がございまして、諮問委員会の中にビームライン検討委員会を設けておりました。ビームライン検討委員会で、各ユーザーからいただいた提案を外国人も含めた外部委員に審査をしていただいて、建設順位を決めて予算を獲得していく。そういうプロセスをとっておりました。

【福山主査】

 諮問委員会の中にそういう機能を持つ委員会があり、そこに施設側とコミュニティーの意見が両方出てきて、しかも国際的な視点に立っての議論がされて決まってきたということですね。

【山内科学官】

 Spring-8を建設したのは理研と原研ということですが、建設した機関と別の機関が維持・運転、あるいは高度化までやっていらっしゃるということで、技術移転など、最初の立ち上がりは相当大変だったのではと思うのですが、具体的にどういった方策でうまくいったのか、その辺を御説明いただけますでしょうか。

【大野委員】

 当初は、理化学研究所と日本原子力研究所が主体でございましたので今のJ-PARCセンターと似たような共同チームをつくっておりました。十数年前、JASRIはまだ貧弱でございましたので、そこに人を送り込みながら、教育をすることでJASRIが独り立ちできるようになったのは、約10年かかったと思っております。そういう形をとりながら、最初は理化学研究所あるいは日本原子力研究所の方たちが主体になりながら技術を継承していったということでございます。

【福山主査】

 確かにJASRIは設置者ではないですが、設置者である理研・原研との連携により、10年かけて今の状況ができあがったということですね。絶えず新しい方向性を探ってつくっていくというビームライン検討委員会は、最初の段階からJASRIに設置されていたのでしょうか。

【大野委員】

 当時、ビームラインの建設はJASRIの責務ではなく理研と原研の責務でございました。ただし、一般の課題を募集したわけではなく、施設の戦略的観点から、SPring-8ではこういうビームラインをつくるべきだという意見も、かなり通させていただいたのは事実ございます。

【福山主査】

 ビームラインをつくるのは設置者である理研。そのときに、どういうビームラインを選ぶかという、その意見の受け皿はJASRIが出したということですか。

【大野委員】

 はい、今はもうできません。

【林室長】

 枠組みとしての補足でございますが、この施設全体の設置者というのは、先ほど申し上げましたように理化学研究所ということになっておりますので、どういう施設にしていくかというのは、基本的には理化学研究所の責務ということにはなるのですが、やはりユーザーに対しているのは、今は登録機関ということになりますので、ユーザーからどういうニーズがあるかということについては、登録機関のほうで吸い上げて、適宜理化学研究所のほうに提供していく。それで、両者がお互いに補い合いながら、この施設を良いものにしていかなければならないという役割分担の下で運営するという考え方です。

(3)J-PARCの施設運営のあり方について以下の議論が行われた。

【福山主査】

 これまでの各機関の現状などを踏まえて、前回御説明した論点ペーパー、今回も配付していただいておりますので、そのうちの施設運営のあり方について、議論をしていただきたいと思います。

【林室長】

 前回御説明したところですが、今回、施設運営のあり方ということで、三点掲げております。今、申し上げたところですが、本施設の有効利用の観点から、両法人の業務の枠にとどまらず、幅広い利用に供する必要があるのではないかという論点。そういう観点から言いますと、第三者的な機関による中立・公正な課題審査、利用者に対する支援の充実、安定的な運転の確保等々が求められるのではないかというような観点。あと、施設運営に対して、国として一定の関与というのも考えてよいのではないかということ。ただ、そうした新しい制度を入れていく場合の留意点にはどういうものがあるのか、こうした観点を議論いただければと思っているところでございます。

【福山主査】

 原子力機構は基本的に独自利用であって、本務に支障がない部分に関しては施設共用をするという説明がありました。これはある意味、原子力機構にとっては、施設共用は第二義的なものである。つまり原子力機構にとっては、共用はメーンではないと理解しました。
 もちろんJ-PARCは、この原子力機構と高エネ機構が運営する施設ですが、やはりJ-PARCには共用を積極的に進めていただきたいと思います。

【川上委員】

 我々製薬企業はSpring-8に創薬ビームラインという専用装置を持っていますが、それ以外に、理研のビームラインにある高精度の装置も使わせていただいております。これは実費を払いつつやっていくわけですが、Spring-8が、理研主体だからこそ可能なのではないかと考えております。J-PARCではこのような利用ができるのでしょうか。

【林室長】

 Spring-8では、理研は先導的な研究を進めるために独自のビームラインを持っています。したがいまして、タンパク質の研究においても理研ビームラインでは、先導的な研究を行い、少し一般的な研究では、共用ビームラインを利用する。このような役割分担がございます。
 一方、J-PARCの場合、施設設置者は原子力機構と高エネ機構ということになりますので、仮に共用の枠組みを入れたとしても、それぞれ原子力機構と高エネ機構の業務というものが当然あり、中性子利用について先端的な研究を推進するという業務がそれぞれにありますので、J-PARCにおいても似たような枠組みになるのではないかと思います。

【長我部委員】

 JASRIの場合は、最初は関西の経済団体がつくった民間団体であって、そういう意味でかなり外部ユーザーからの目を向けられ、それが十数年かけて運営のノウハウを持つことによって、現在共用の母体になっているという歴史があると伺っております。J-PARCの場合には、JASRIに相当するような母体がないという点が、Spring-8の場合とは異なっているのではないかと思います。いかにして共用をつかさどる組織を立ち上げるかというところが、今後の大きな課題ではないかと思うのですが、私の理解は合っているでしょうか。

【大野委員】

 JASRIは、関西経済界を中心に47社集まってつくった法人であり、間違いございません。ただし、JASRIは産業利用にかなり比重を置いておりましたが、やはり学術コミュニティーが80パーセント以上あるのは事実でございます。産業利用推進協議会と利用者懇談会の二つをケアしているというところでバランスをとってやってきております。

【福山主査】

 Spring-8では、JASRIが10年の間に少しずつ実力をつけて変化してきたということですね。大型研究施設で最初に目につくのは、やはりサイエンティフィックな成果だと思います。それが社会に広まって、産業界も関心を持つという、基本的なパターンはそのようであると思います。

【大野委員】

 宮野先生がロドプシンの膜タンパクの構造解析を行い、これが引き金になって、創薬の方々もSpring-8にかなり御興味を示していただいたのは事実でございます。そのほかに、ある自動車メーカーで触媒を開発したのですが、それも原子力機構の研究グループが学術的に解明したというのが非常に大きな要因になりました。そういう意味で最先端の学術成果を発信することによって、産業界の機運を高めることができたと私自身は思っております。

【福山主査】

 インテリジェント触媒というのは、これはSpring-8の象徴的な成功事例だと思います。学術的に非常に興味深いテーマであると同時に、触媒として社会にも還元されております。世界中が注目する産業利用の背後には、サイエンスがあるという事例ではないかと思うのですが、J-PARCにおいても、良い事例ができれば、Spring-8と同じような状況がつくられるかもしれません。

【西村委員】

 Spring-8のような施設ができて、ライフサイエンスの分野で宮野先生のような成果が出て、特に産業界では非常に興味を持ち、これは使えるのではないかということで、そのコンソーシアムにも非常に力を与えたのではないかと思います。J-PARCで、ライフサイエンスの分野に関して、展開がどの程度あるのかというのが非常に難しいところですし、何か例を出してほしいというのが、産業界の正直な希望です。先ほど技術支援を十分に行える人員体制になっていないというお話もありましたが、もし、内部にライフサイエンス系の研究者がいないのであれば、外部機関と資金的な協力もしながら、中性子を使って何かインパクトを与えるようなデータを出していくべきだと思います。

【福山主査】

 成功事例が必要だということは前回の懇談会でも何回か出てきている。J-PARCのような大きな施設で、先端的な研究を推進する際には、戦略的な利用方法があってしかるべきだと思いますので、そうした議論がどこかで必要だと思います。

【西村委員】

 おそらく、Spring-8を使いつつ中性子も、という研究者もいると思います。

【福山主査】

 私もそう思います。

【西村委員】

 特に、やはりタンパク質で特に難しいといわれている、例えば膜タンパクとか、そういうところからデータが欲しいところです。

【福山主査】

 確かにそう思います。日本にはSpring-8があって、先端的な研究がされている。研究が進んできたが、観測できないところがある。そこを中性子であれば観測できるというコンビネーションが必要だと思います。そのようなテーマは必ずあるはずで、それをピックアップする仕組みというのは、今はどうなっているのでしょうか。

【西村委員】

 X線以外は必要ないという研究者も多く、私の所属している蛋白質研究所でも、ほとんど皆Spring-8でX線のみ使うというのが現状ですが、中性子を用いることに興味を持っている研究者も事実おりますし、そういう研究者と是非とも組んで研究を行って、これまでにない成果を出していただけたらと思っております。

【福山主査】

 それは、どのようにオーガナイズしたらいいでしょうか。

【井上委員】

 成功事例を求めてとおっしゃいましたが先ほど山内委員も言われたとおり、戦略的なことを考える必要があると思います。例えば、生命系の研究者にしても、一緒に研究をやってほしいということではなくて、生命系の分野にはこうした興味深い研究や未解明の事象があるのだということをほかの研究者に投げかけるというのが効果的かもしれません。そうすれば、関心を持つ物理系の研究者が出てくる可能性はあると思います。
 そういう場を提供するには、プラットフォームのような仕組みで、そういう興味深い分野があることを、いろいろな研究者に触れてもらえるような場が要るのではないかという気がします。
 前回の懇談会で川上委員が「死の谷」の話をされましたが、大学では必ずしも直接社会の役に立つことを研究する必要はないが最先端の研究を行うべきで、その一方、産業界では大量生産に向けた実用的な研究をする。JAEAのような組織では、使える技術だということを示す開発をする。そういった流れで「死の谷」を埋めていく役割を担うことができるのではないでしょうか。こういった場を提供するプラットフォームの形成が大変重要だと思いますので、行政側も戦略的に進めていただけたらと思います。

【西村委員】

 私は産業界にも身をおいておりますが、産業界というのは様子見をするところがあるので、一連の流れの中でとらえながら、良い方向に持っていってほしいし、それがやはり行政の役割だと私は思っています。

【福山主査】

 研究の段階から社会に使われるまでの間には、いろいろなステージがあり、一人の人間、一つの組織がそれを全部行うことはできない。やはりきちんと役割分担をして、そこを明確に意識する。そのためには、お互いに役割分担を意識した人が横でつながらなければいけない。情報や意識を共有しなければいけない。そうした場が是非必要だと思います。一方で、光の限界や中性子の可能性についての議論がサイエンスのレベルでなされる必要もあると思います。その辺に関しまして学会の立場として山田委員から御意見ないでしょうか。

【山田委員】

 学会では、もちろん議論しているのですが、どのような方策をとれば成功事例を創出できるかは、まだよく分かりません。しかし、X線・ミュオン・中性子で何ができるのかということを、一人一人の研究者が非常に深く考えるようになってきており、非常に期待してよいと思います。例えば、原子力機構でも量子ビーム応用研究部門ができ、高エネ機構でも物質構造科学研究所ができるなど、いろいろな量子ビームを複合的に使っていこうという体制が徐々にできつつあります。これからJ-PARCが立ち上がって、こういう方たちが共通のプラットフォームでいろいろなことをもっと深く議論していけば、私は何か具体的に成果が出始めるのではないかと、前向きに考えております。

【福山主査】

 今おっしゃったプラットフォームはどのようにつくりますか。

【山田委員】

 一つは、学会の立場からすると、ある共通の基盤を我々のコミュニティーサイドからつくるというのが一つの方法としてあるのですが、もう一つは、トップダウン的に何かをやったほうが良いのかどうかというところは、私は今のところまだそのアイデアはありません。

【福山主査】

 原子力機構の量子ビーム応用研究部門はそういう意味では非常に印象的な出来事で、原子力機構が有する中性子、放射光、イオンビームを全部つないだ例だと思います。ベースの点での研究活動の基盤の一つになるのかもしれません。量子ビーム応用研究部門のような組織は、なかなかほかでは見ない例、世界的にも見ない例ではないかと思います。

【山田委員】

 産業界の方々も、例えばミュオン、放射光、中性子といった複数の手段を使ってやっていこうという方もが出てきておられますので、それは非常に良いことだと思います。

【福山主査】

 系統的な仕組みづくりが、もう一歩進めば俄然変わると思います。これは文科省の戦略の問題になるのでしょうか。

とく永局長】

 文科省では、これまで全国に散在していた光科学技術を効果的に結集するネットワーク型研究拠点の構築を目指したプログラムをスタートさせておりまして、その中で量子ビーム基盤技術開発のプログラムも同じステージで展開しているところでございます。我々としては、このようなプラットフォームをつくっていく努力を継続しなければならないと考えておりますが、その一方で、J-PARCの完成を目前に控えた今の段階では、ボトムアップ的なアプローチがいくつか出てくるのではと考えております。先日のJ-PARCシンポジウムや本懇談会を通じて、関係者全体の積極的かつ主体的な盛り上がりを期待しているところでございます。

【金子委員】

 先ほどから、利用者の増加を期待した御意見が出ておりますが、最初から全員が良いと思って利用することはなく、はじめに利用する方々が良い成果を出すか出さないかといったところが、あとに続く方の利用につながっていくと思います。最初に利用した方々が、だめだという評価をしてしまった時点で、J-PARCは下降してしまうことになると思いますので、まずは初心者の方でも使いやすい施設利用が可能となるように努力していただきたいと思います。J-PARCでは、原子力機構、高エネ機構、茨城県の三者がビームラインを整備しておりますが、どの装置で測定したらいいのかよく分かりません。利用者の目的に応じて、だれがコーディネートし、測定や解析のサポートを行うのか、是非とも入口部分の体制づくりに早急に取り組んでいただきたいと思います。あと、共用促進法に関しまして、できればJRR-3なども含めた形の中性子全体の利用を視野に入れたJASRIのような組織があると、ユーザーにとっては大変有り難いと思います。

【大竹課長】

 最近、アメリカでも大強度パルス中性子源が稼働しはじめた状況を見ますと、中性子利用のすそ野は、実は我々が考えていた以上に広いと認識を改めた次第です。仮に共用法が適用されれば、ビームラインを共用のために整備することも可能になりますし、利用に対する支援についても、国としてある程度責務を負うことになりますので、やはりそういう方向を考えてみるべきではないかと思います。いかにして利用者の方に、より門戸が開かれ、より多くの利用機会を提供できるかという観点から御議論いただいて、もし法律が必要ということであれば、こちらとしても大いにその議論はしたいと思っております。

【福山主査】

 J-PARCの有効利用の観点から、原子力機構、高エネ機構両法人の業務の枠にとどまらず、幅広い利用に供する必要がある。これは共通の認識だと思います。そのためには、やはり今の組織では不十分で、第三者的な機関による中立で公正な課題審査が必要であると思います。また、利用者に対する支援の充実、安定的な運転の確保、計画的なビームラインの整備なども必須だろうと思います。このような全体を含めて施設運営に関しては、国として一定の関与が必要で、J-PARCの共用を促進するための何らかの制度的な措置が必要ではないかと思います。

【大竹課長】

 若干の補足なのですが、第三者的な機関というのを新たに設けるかどうかというのは、行政改革の関係でなかなか難しい面があります。新たな機関ができるということだけを前提にしているのではなくて、既存の機関も含めながら、中立・公正な運用を図る共用の考え方を御検討いただければと存じます。

【福山主査】

 J-PARCにおける中性子の幅広い利用を促進する。そのためには、今ある枠組みとしては共用促進法、これは大変可能性のある1つの手段である。ただし、今大竹課長から御説明があったように、登録機関といってもいろいろなタイプがあるがそれをどうするか。それを含めて、利用体制の枠組みをどのようにしてつくるか、これらの点はJ-PARCとSpring-8では共通のところもあるが違うところもあることを明確に踏まえたうえで、道筋を考えるべきであろうということかと思います。

(4)下村所長より、大学共同利用における枠組みの現状について説明があり、その後、以下の議論が行われた。

【福山主査】

 大学共同利用機関というのは、設置されるときから共同利用が前面にあるという点で、これまでのお話のあった施設共用の考え方とは状況が少し違う。大学共同利用機関に共用促進法を適用するというのは背反事象と考えてよろしいのですか。

とく永局長】

 大学共同利用は、施設の共同利用という非常に狭い意味の共同利用ではなく、国公私立大学全体の共通の研究の場、共同研究という意味での共同利用でございます。ただ、大規模施設でございますから、全国の国公私立大学の共同研究で使っていない時間が当然あります。その余った時間を産業界にも御利用いただいている。その意味では、現在のJRR-3と同じような位置づけになっています。大学共同利用機関に共用法を適用することについては、理念的にあり得ないわけではないと思いますが、J-PARCで建設されているK中間子実験室などは、実際のところ産業界からの需要はありません。したがって、共用法適用は、中性子およびミュオン実験施設に限定すればよく、KEKが建設している施設について共用法を適用するという議論は、観念的にはあり得ても、現実的ではないと考えています。

【川上委員】

 我々産業界の人間にとっては、J-PARCの建設費が高いために、ある意味で免罪符的に、国が産業利用を謳っているように感じるところがあります。その一方、茨城県は真剣に産業利用を考えておられて、産業利用に適した装置は茨城県のビームライン2本のみと私は思います。現在、共用ビームラインを提供しているのは茨城県だけですので、J-PARCにおける共用については、もっと茨城県と話し合ったほうが良いのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

とく永局長】

 我々が共用法適用を考えているのは、まさに共用ビームラインをつくるためです。現状のビームラインを前提に御議論いただくのではなく、これから共用法を適用して新たに共用ビームラインをつくるのだという前提で、その対策をどう考えるかという、そのための懇談会でございますので、御理解をいただきたいと思います。

【川上委員】

 その点は理解していますが、建設当初から共用法を適用するかどうかという議論があったように記憶しています。今年度末には供用が開始されるというときに、まだ共用法うんぬんという議論をしているということが理解できないということです。

とく永局長】

 時系列に見ますと、SPring-8固有の先端大型放射光施設に関する法律がまずあって、それが、2年前の通常国会においてようやく先端大型施設共用法という形で一般化されました。法律というのは大変難しいところがあって、具体の法律改正目的がないと改正できないということがありますが、このときは、次世代スーパーコンピューターをつくりますという具体の計画がありましたから、それをてこにして、いわばSPring-8固有の法律を一般法に拡大しました。同時に、法律には基づかないものの、予算補助として先端共用イノベーションという形で既存の独法や大学の設備、装置を共用に資する施策を昨年から進めているところでございます。現在、我々は先端大型施設共用法を、これから具体的にさまざまな施設に拡大していくという路線をとっております。2年前に法律改正をして、昨年度予算補助をつくって、今年度一般化のための拡大の検討をしているというのは、行政のスピードとしては、かなり順調に進捗しているものと考えております。

【横山委員】

 先ほどから成功事例をアピールする必要があるということを、繰り返して出てきておりますが、先日、東大化学専攻の山内薫先生を中心とした光コンソーシアムのグループが、XFELプロトタイプ機のビームを利用して得られた結果を大きく記者会見で発表しました。それが記者にも非常に受けて、多くの社に取り上げられていたと思います。理研で事前に随分準備をしたうえで、東大から発表するという共同発表の形をとりましたが、非常に戦略的な広報活動をしようということを、大学と研究機関がともにやっていくことが大変重要だと思っております。是非、そうした機会を逃さないように、十分に御準備をいただいて広報活動を行っていただけたらと思っております。
 あと、J-PARCの広報活動全般は、皆様お忙しくて、なかなか大変だろうと推察しております。世間的な情勢を気にしなければならないということを念頭に置いていただいて、成果が出たときには大きくアピールできるよう、J-PARCの中でも、広報活動をしっかりと位置づけていただけたらと感じております。

【福山主査】

 本日はいろいろな御議論をありがとうございました。次回については、前回と今回の議論をまとめて、事務局に報告書の骨子案を作成していただき、それを議論したいと思います。本日の議論がいろいろ反映されることと思います。本日の会議は以上で終わります。どうもありがとうございました。

―了―

(研究振興局基礎基盤研究課量子放射線研究推進室)