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J-PARCの利用方策のあり方に関する懇談会(第1回)議事録

1.日時

平成20年4月22日(火曜日)10時〜12時

2.場所

文部科学省16階 2特別会議室

3.出席者

(委員)

福山主査、井上委員、長我部委員、金子委員、川上委員、西村委員、大野委員、横山委員、亀井委員、田中委員、山田委員

(説明者)

日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門 藤井部門長
日本中性子科学会 山田会長(本懇談会委員)
株式会社日立製作所基礎研究所 長我部所長(本懇談会委員)
エーザイ株式会社創薬技術研究所 川上主幹研究員(本懇談会委員)

(事務局)

とく永研究振興局長、藤木審議官、大竹基礎基盤研究課長、林量子放射線研究推進室長、山内科学官、ほか関係官

4.議事

(1)藤井部門長よりJAEAにおけるJRR3中性子利用の現状について説明があり、その後以下の議論が行われた。

【福山主査】

 トライアルユースはかなり実効性があるように見えますが、JAEAではなく、それを利用しているサイドのほうから何か御意見はございますか。

【山内科学官】

 一つお尋ねしたいのですが、この実施課題の採択の仕組みというのはどういうふうにしているのでしょうか。

【藤井部門長】

 放射線利用振興協会が文科省からの委託を受けて実施しています。原子力機構のJRR-3のビームタイムを210日ぐらい買い取り、公募を行い、主に各企業から申請書が提出され、審査を放射線利用振興協会で行い、採択されれば無償で実施できる、という仕組みです。トライアルユース制度は既にSPring-8では大分前から導入されています。これは、成果は必ず公開するというのが原則で、三つの目的があります。一つ目はその企業自身が中性子の味見実験を行い中性子に慣れること、二つ目は、成果を公開することによって、ほかの企業が私たちも使えるのではという呼び込みの効果。三つ目に、味見実験を行い、やはり中性子は有効だと思えば、成果公開ではなくて非公開、あるいは次のステップに進んで、トライアルユースからさらに次のステップに進むということで、その三つが目的だと私は理解しております。

【山内科学官】

 わかりました。ありがとうございます。

【福山主査】

 放振協の課題審査、選択をするプロセスは、そこに関与している方たち、要するにエキスパートがいるのですね。

【藤井部門長】

 はい、このあたりは何人かおられますけども、これはいろいろな産業界の方も学術界の方も、客観的に見識の高い方々です。

【福山主査】

 一方で、慣れない人が使うためのトライアルユースにはコーディネーターがいるのですか。

【藤井部門長】

 はい、重要なところはコーディネーターも配置しています。それから支援要員も配置しています。

【福山主査】

 課題審査とコーディネーターの動きというのは、それも全体でコーディネートされているということでしょうか。

【藤井部門長】

 されています。

【福山主査】

 2年前から始まった試みはかなりインパクトが大きいようです。これからどうなっていくでしょうか。変化率は大きいと思います。

【川上委員】

 我々の会社もトライアルユース制度を利用させていただきましたが、やはり装置そのものがかなり多目的に使えるようにはなっていても、我々の目的とは少し仕様が違うという感じもあるので、JRR-3においてもいろいろなタイプの実験ができるようなフレキシビリティーを持たせていただきたい。実際、JRR-3を使ってみて、もう少しスピードが速いほうが良いということで、我々の分野はむしろJ-PARCに期待するところがあります。

【福山主査】

 おっしゃるのはハードの部分ですか、それともソフトの部分ですか。

【川上委員】

 ハードの部分です。

【藤井部門長】

 現状では、タンパクの構造解析でフルにデータセットをとろうとすると一カ月ぐらいかかります。ところが一カ月のビームタイムはとても今トライアルユースでは出すことができませんので、どうしても中途半端になると私は思っています。J-PARCですと二、三日でとれる勘定なので、特にタンパクのような構造解析はJ-PARCのほうが向いているところはあります。

【福山主査】

 確かにそこは格段に変わるはずだと思います。

(2)山田委員よりJ-PARCの利用体制につき、中性子科学会からの提言がなされ、その後以下の議論が行われた。

【田中委員】

 今のグランドデザインというのは、我々が今後利用するという意味からすると大変重要だと思います。いろいろなユーザーが利用しやすくするために、それをサポートする体制のプラットフォームの重要性がある。そのためには、山田委員が最後におっしゃった人材育成の問題がかなり重要視されてくる。ピークを出す研究あるいはプロジェクトのためにも人材育成は必要ですが、サポート体制をつくるプラットフォームがきちんとできないと広い利用ニーズが出てこないとするならば、そういうことは現実的にかなり具体的な人材育成とキャリアパスの問題がある。そういう問題が具体的に解決できなければ、グランドデザインの要素というのは絵にかいた話になってしまいますが、現実的な提案ができるのでしょうか。

【山田委員】

 J-PARCセンターの一番大きなミッションは、一般ユーザーの方々にこの施設を使っていただくことだと思っています。第三者機関の装置は、例えば茨城県の場合ですと茨城県独自の研究のためにこのビームを使うわけですが、それ以外にJ-PARCセンターに対して必ずあるパーセンテージは装置を貸し出すというのが基本的な考え方になっています。また、大学側も装置を持っている限りは自分たちのプロジェクト研究だけをするのでなく、J-PARCセンターに貸し出したマシンタイムでもユーザーサポートの義務があるという基本的なルールがあります。
 それから人材育成に関してですが、これは非常に重要な問題で、まだはっきりした答えは出ておりませんが、大学の持っている人材を集めるポテンシャリティーを大いに活用するべきであると考えています。それからキャリアパスの問題が非常に重要で、産業界の方々と大学の方々がこれからどういう人材が必要なのかということを話し合う必要があると思います。大学だけで考えていても解決できない問題だと思います。

【田中委員】

 そのためにも是非広い分野に応用用途があるのだという形と、これを活性化することによって、今山田委員がおっしゃったコミュニケーションの一つのルールなり一つの新しい環境をつくっていくことが次のキャリアパスにつながると思われます。そういう御努力をされているということは理解できるわけですが、是非その辺の観点をもって進めていただきたいと思います。

【山田委員】

 その問題点は非常に良く認識しているのですが、具体的に解決策がまだ見つからないのが現状です。

【田中委員】

 それが出ないと、やはりどこかで止まってしまう気がするわけです。ですから、その辺を是非考慮していただきたいと思います。

【福山主査】

 確かに今の問題点は非常にクリアですが、それを解決するための具体的なアクションプラン、完璧なものではないにしても、そういう方向に向かって少しずつ具体的なアクションをとらないと実現しない、確かに大きな課題だと思います。これは中性子ばかりではなくて、次世代大型コンピューターの利用に関しても全く同じような問題があります。そういう意識を共有できるようなところが必要です。
 今山田委員から御紹介があった話のポイントとして、一つ目は組織としての三位一体が必要ということ。これは国と施設とコミュニティー全体がこれからの具体的なプランをつくっていかなければいけないということで動いておられます。学会でのプラン作りに林量子放射線研究推進室長が参加されて、今の段階からいろいろ将来の仕組みを工夫しておられる。これは非常に重要なことだと思います。二つ目に、サイエンス、テクノロジー、インダストリーのサイクルの本当のつながりの仕組みをどうつくるか。それは今後の大きな課題であり、何か糸口が見つかればブレークスルーが起こるかもしれません。田中委員の気にされているのはその辺のことかと思います。

【川上委員】

 中性子では創薬に大きな期待が寄せられていますが、中性子科学の主体は物理の研究であり、実際、学会員の学問分野として創薬に関係するケミストリーの部分というのは非常に少ないのが現状です。例えば、タンパク質科学一つとっても、中性子関係の方はほとんどおられないわけで、創薬に関係する研究分野が進むかどうかといったところの重要な事項は、学会では隅のほうに追いやられているというところがありますので、学会でも十分に議論して見直していただきたいと思います。先ほどから人材育成という話もありますが、化学や生物学といった分野にも門戸を広げた学会にしていただき、異分野間での交流から研究を進めていける体制がほしいところです。

【福山主査】

 おっしゃっていることはサイエンスのトレンドの中核の部分に関係しています。物質科学は伝統的に物性物理、固体電子論的な発展をしてきている。それが今度は境目がケミストリーとつながり、そこにインダストリーが求められる。生物も結局は物質ですから、そうした視点で研究するという動きができれば、今おっしゃったようなことは少しずつ解消されてコミュニケーションが進むと思います。しかし、まだそこまでには至っていない。ですから、そういう認識を持ってコミュニケーションができるようになれば、変化は期待できるかもしれません。

【山田委員】

 学会としても財政的に今年あたりから若干余裕が出ましたので、いろいろな学会にブースを設けて、ボランティアで我々がそこに出かけていき中性子を広めていく活動を、今年度行う計画です。

【福山主査】

 確かに広く中性子を知ってもらう必要がありますね。

【山田委員】

 はい。

(3)長我部委員よりJ-PARCで期待されるナノテクノロジー・材料分野での研究について説明があり、その後以下の議論が行われた。

【福山主査】

 日立製作所では随分長く、中性子を利用して様々な研究されていたようですが。

【長我部委員】

 17年ぐらいやっておりまして、最初は重厚長大型の企業のニーズから始まったのですが、ここ数年から10年近くがナノテクノロジーのほうにシフトしてきたという経緯がございます。

【福山主査】

 シリコンドーピングについてですが、核反応を使ってリンにするのが、一番ホモジニティーがよく、製品としてベストなのですか。

【長我部委員】

 はい、おっしゃるとおりです。熱拡散で入れる方法もありますが、まだ性能が中性子ドープほどには及んでおりません。それがかなりネックになっているというのが現状で、今の受注量は確保できるのですが、需要が伸びたときに、それ以上の積み増しはフランスの原子炉のほうでも受け付けられないというような状況でございます。

【福山主査】

 日本では今どこも無理なのですか。

【長我部委員】

 オーストラリアなど幾つかあるのですが、とても足りないのではないかと思っています。パワー半導体は、第三の途上国での鉄道や自動車でインバーターをかなり使うということで、これからインバーターの需要が非常に伸びると予想しておりますので、これは重要なポイントかと思っております。J-PARCとは直接な関連はないかもしれません。

【福山主査】

 わかりました。最後におっしゃった「死の谷」の克服の問題。これは先ほど田中委員や山田委員から言われた問題と根は一緒で、何かそこを克服するような仕組み、それは先ほどお話があった中性子学会のようなところが、情報交換をする場を工夫するということで少しずつ変えていけるかもしれません。そこに行政も関与していただけるとありがたいと思います。

【長我部委員】

 はい、是非。産業界としても待っているだけではなくて、私たちのほうで何が必要だということを訴えていかなければいけないでしょうし、また勉強もしていかなければいけないでしょうし、そういう意味ではいろいろ協力させていただいてやっていくことが重要ではないかと思っております。

(4)川上委員よりJ-PARCで期待されるライフサイエンス分野での研究について説明があり、その後以下の議論が行われた。

【田中委員】

 今おっしゃられたタンパクの構造解析は、応用範囲がものすごく広い。文科省のタンパク3000のあとの標的タンパクプロジェクトでは、やはりX線解析とNMR法しか採用されていない現実があります。先ほどの山田委員の話にもありましたように、どこかでピークをつくりたいとするならば、タンパクの構造解析で何か成功事例を出さないといけないと思うのですが、川上委員自身は、日本の中で中性子ビームがこれだけタンパク構造解析の中で受け入れられない仕組みになっているのは何が原因だと思われますか。

【川上委員】

 蛋白質関係の学会に中性子を利用する研究者がほとんどないことでしょう。入っていたとしても、出身は物理の方が多く化学出身の研究者と話が合わないことも多いようです。ドラッグデザインの経験がないことが原因だと思いますが、X線屋もまだわかっていないところがあり、水素は無視してもいい、あるいは水素は計算で入れたものだけでいいと思われているところがあります。我々はアトミックレベルというよりはサブアトミックレベルの情報がないと本当は良いデザインに行けないのではと思っており、水素結合について今までX線で解明できたところは非常に少ないと思います。エネルギー障壁の低い水素結合については、ほとんど手が出せていない状況なので、中性子で答えを出すことができるかもしれません。このようにまだまだサイエンスとして残された問題が数多くありますので、やはりアカデミアから成果を発信していただきたいと思います。我々はアカデミアからの情報をもとに出発していくということははっきりしていますので、アカデミアからの発信がないと、産業応用と言われても実際に一緒に組んで研究を進めていくという段階はまだ先の話ではないかと思います。

【田中委員】

 今のお話からすると、逆に中性子をやっている方は物理屋ばかりで、そこのところの人材の欠如が、X線解析屋とかNMR屋とのコミュニケーションがうまくいってない。だからこれを進めるためには、もう少し生物化学あるいは有機化学に近い人たちもここへ引き込まないと解決法は見出せない。あるいは比較が正確にできないという判断でよろしいですか。

【川上委員】

 はい、そのとおりです。X線やNMRを使って研究している方は論文もたくさん書いており、X線もしくはNMRだけでドラッグデザインができる、情報を与えられる、と主張され、世間の方々もそのように鵜呑みにしている現状がありますが、決してそんな甘いものではないということを私はあえて主張したいと思います。現場でやっている我々から見れば、やはりX線、NMRだけでは情報が足りないと言わざるをえません。我々は表面プラズモン共鳴などいろいろな方法を総合的に使いますので、中性子にもツールの一つになってほしいというのが、私が中性子に対する期待です。

【西村委員】

 私は大阪大学の蛋白質研究所にも籍があります。大阪大学の蛋白質研究所というのは、今お話がありましたX線、SPring-8が主流です。蛋白研での意見を聞いてみると、X線でできるというのが一般的な非常に大きな流れです。確かに私も今の島津製作所の前は武田薬品で創薬の現場におりましたので、川上委員のおっしゃっておられることも良く分かりますし、X線だけでは限界があるということも体験しています。J-PARCができて、X線とは違うことができるのだからやってみたら良いのではないかというのが、私自身の考え方ですすし、J-PARCの新しい風が入ってくれば非常にありがたいし、何かこういったものに使えるというのを産業界としてはすごく期待しているところです。結構産業界というのは何かほかの企業で良い成果が出たら使おうかというのが正直なところなのです。それがやはりファインディングとディスカバリーのところとディベロプメントをメーンに行こうとする産業界の特質だと思うのですが、そこらを加味すると、やはり私はやったら良いのではないかと思います。

【福山主査】

 今のお話は中性子バーサス放射光X線で、X線はもちろんすばらしい、100年歴史があっていろいろ分かる、それは事実です。中性子はそういう意味で歴史的に新しい。だからそういう意味では使い方に関してもそれほどディベロップされていない。しかし、中性子でしかできないことが確かにある。それは本日非常に明快に主張されたところだと思います。中性子でしかできないことを活かして、創薬の現場で何か一つでいいからサクセスストーリー、新しい創薬のブレークスルーが一つできれば、きっとそれで十分です。

【西村委員】

 以前に中性子によるリゾチームの構造解析の話を伺いましたが、リゾチームのように比較的構造が単純なものではなく、もう少し複雑な構造が中性子線で、X線では観測できないものが何か出たら、もうこれで産業界はJ-PARCは使える施設だと考えます。

【福山主査】

 見方が変わりますね。

【川上委員】

 やはり中性子でやっている構造生物学分野の研究者が圧倒的に少ないです。先ほど藤井部門長もおっしゃっていましたけどもJRR-3では、年間二、三個きちんとしたデータが出ればいいというところです。ただ、感心したのは、原子力機構の黒木先生のお話を伺ったのですが、うまくいったものが論文になるのです。それだけの非常にすばらしい中身の実験ができるわけですから、それがJ-PARCが使えるようになればもっとすごいだろうと思いますので、J-PARCを使うようになる前にいろいろ協力体制を構築し、X線屋を取り込むような形が大事だと思います。X線屋が中性子は使える、という認識を持てば、状況は随分変わると思います。

【福山主査】

 X線屋が何か重要な問題で困って、ブレークスルーができずもう一歩というようなテーマをピックアップし、中性子を使うことにより解決して新しい道が開ける。そのためにも、X線屋と協力して、彼らのやっている成果を認めて、彼らが足りないところに中性子がプラスアルファ、さらにはアルファが大きいような仕組みが一つでもあれば、すばらしいことだと思います。おそらくこの問題は、J-PARCがサイエンティフィックな施設として本当に成功して世界から尊敬されるようになれるかどうかにかかる重要なテーマの一つだと思います。
 先ほど中性子科学会の山田委員のほうからお話があったビームタイムをどのようにして使うかという中で、ボトムアップ的にいろいろな課題をオープンにして利用するのと同時に、戦略的に重点テーマを皆で議論して決めて、これだというのを選んで、そこに投資する。山田委員のほうからそういう使い方に関して2段構えのお話が先ほどありましたが、こういう大きな施設では、戦略的な使い方を工夫しなければならないと思います。これまで4人の先生方のいろいろな観点からの御意見を伺いました。J-PARCの置かれている状況、本当に1,000億以上かけて成功する施設、計画になれるかどうかの重要な問題が最後に言及されたと理解いたします。
 しばらく自由に御議論いただければと思います。全体4つを通していかがでしょうか。どんなテーマでも結構です。

【田中委員】

 先ほどから議論がありますように、世の中のニーズの広がりにつながるような課題設定を通して成功事例を出すという一つの方向性の問題と、もう一つはこれをいかにPRして、この分野に入ってきていただくか。今のようなタンパクの構造解析を含め、中性子はいろいろな分野に応用ができるツールとなり得るわけですから、もう一度精査しながらいかにPRしていくか。アカデミアの中で今境界領域がものすごく広がっていますので、化学あるいは生物学の世界の人たちも、どのようにして招き入れるか。多分生物学をやっているアカデミアの先生は、そんな面倒なところは行きたくないという話になるかも分かりませんがけれども、問題を解決するためのツールですので、理解をされれば入ってこられる。そういう努力をどこかの学会等で行えないものでしょうか。

【福山主査】

 おっしゃったことは非常に重要で、日本の科学技術を推進する際の方策、枠組みをどうするかということに関して非常に重要な御提言だと思うのですが、要するに従来、物理、化学、生物学だと分かれていたのを、こういうツールを使うというようになれば、そのようなことは言っていられない。その境目こそがおもしろいのであり、異分野間で意見交換ができて、その中でいいテーマをピックアップするような場が欲しいですね。そういう場ができて、そこでの活動が実際のビーム運用および施設運営に反映されるという仕組みができれば、かなり期待することができます。こうした場をどのようにしてつくっていくか。それはこういうところでの議論が非常に大事だと思います。

【大野委員】

 今までお話を聞かせていただきまして、実は私ども放射光が15年あるいは20年前に同じ道をたどりながらここまでやってきたのはまさしく同じだろうと思っております。ここにおられる川上委員、長我部委員、西村委員は放射光と中性子の両方をお使いいただいているわけでございまして、そういう意味では一つだけしか使わないというコミュニティーは問題だと思います。特徴がお互いに違っておりますので、是非使っていただきたいと思っています。それから特に私どもが去年10周年記念をいたしましたときに、産業利用を重点的に宣伝しましたが、キーとなったのは、先ほどからお話に出ておりますように、何か一つでもいいから成功例をつくる、それとやはり宣伝していくということが非常に重要かと思います。中性子ではパルスと定常炉があるわけですから、それらを使って、あるいはX線と3つ合わせてでもいいのですが、何か成功例を一つずつつくっていくということが、地道ですが産業利用を活性化していく一番早い道ではないかと私自身は考えております。

【福山主査】

 サクセスストーリーをピックアップするようなスキームがあるといいですね。

【西村委員】

 国民の血税1,000億円を投資してつくった巨大な設備ですので、巨額なお金を投資したことについて、国民に対する説明責任があるとは思います。しかし、私は慌てたらいけないと思うのです。先ほどSPring-8では15年かかったとおっしゃっていました。新しいテクノロジーなので、必ず私は道が開けてくると思いますし、施策の設定のサイドも、この施設を今メーンに使うサイドも、もう少し地道に道を踏み固めながら進めるべきだと思います。成功事例が一つ中性子の分野でも出れば産業界は関心をもつと思います。

【福山主査】

 どうもありがとうございました。

とく永局長】

 ライフサイエンス分野の人たちに熱心に使ってもらう方策というのを学術的に考えれば、まだ専用ビームラインを整備する余地があるわけですから、ライフサイエンス研究者が属する大学もしくは研究所のために、全国共同利用という形で専用ビームラインをつくるということが一番早いと言えます。ただ、それなりのビームラインを敷くためには10億円や20億円というお金がかかりますので、専用ビームラインの仕様を厳密にある程度予測して概算要求するという作業が必要になります。このような具体的な作業をどこかでやっていかないとなかなか進まないのではないかと思っています。
 あともう一つは、J-PARCをつくって運転しますが、一方でX線自由電子レーザーもこれかららつくっていくわけなので、それぞれの特性を両方とも生かすような報告にしてもらう必要があると思っています。少し専門的に、両方とも必要なのだということを、中性子線だけにかからないで両方の特性をきちんと説明するようなレポートをまとめていただければと思っています。

【川上委員】

 今ビームラインの話が出ましたが、原子力機構もそのような構造生物学用の実験装置を提案されているところですし、茨城県の2つの専用ビームラインの一つは生物用にも使いますし、そのような装置をアカデミアにまず開放しても良いのではないかと思います。その結果を見て、本当に我々は使えるのかと考える。最初に我々に何か期待されるよりは、そちらのほうが良いのではないかと思います。

【大竹課長】

 おっしゃることはよくわかりました。SPring-8も15年かかったのですが、SPring-8はX線ですから、SPring-8の前には実験室レベルのX線装置が多数あり、皆使い慣れていたわけです。一方、中性子は実験室レベルでの小さい装置がないため、事情が異なるだろうと我々も理解しています。ただ、1,500億円もかけてつくった施設ですから、やはり実社会のニーズがあるかどうかというのは今後もチェックされます。材料など物質科学の分野では、かなり使えるものと思いますので、先行していただくのが良いと思います。一方、ライフサイエンスの分野ではトライアル的な利用が必要だろうと思います。材料分野などではきちんと産業利用を進めながら、もう一つライフサイエンス分野のすそ野を広げていく、といった御議論を進めていただければ、多分そのような政策をとることはできるだろうと思います。物質科学とライフサイエンスでは、少しフェーズが違うということを認識すれば良いと思うのです。

【福山主査】

 どうもありがとうございました。これからの懇談会ではこういうことに関して、より深い議論をしていただくということになるかと思います。
 本日はこれで終了とさせていただきますが、今回で御議論いただいた中ではっきりしていることは、中性子利用への期待がいろいろな観点から非常に高まっている。もちろん基礎科学ではそうですが、産業界も含めて幅広い共用が求められていることは確かだと思います。それからJ-PARCの運転の本格化に向けて、幅広い共用を確保するための運用の体制。これはやはりお金がかかり人も要ることでございます。そういうことに関して、いろいろ検討する必要がある。それは浮かび上がってきた問題だろうと思います。
 これに関しては、そういう共通認識のもとに、次回からは運用体制等についてもいろいろ意見交換していただければと思っております。
 本日は長時間、どうもありがとうございました。

―了―

(研究振興局基礎基盤研究課量子放射線研究推進室)