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資料2

診療参加型臨床実習の在り方について

1  診療参加型臨床実習の充実
 
a)  診療参加型臨床実習は、学生が診療チームに参加し、その一員として診療業務を分担しながら、医師としての職業的な知識・思考法・技能・態度の基本的な内容を学ぶことを目的としている。
 医師養成の基本となる学部教育においては、医学生が大学における教育のみならず地域社会や患者の協力を得て、患者等から学ぶ姿勢を養うことが必要である。特に実際の診療の現場や患者との関わりを通じて基本的診療技能等を学ぶ診療参加型臨床実習においては、医学教育に携わる者はもとより地域社会や患者との協調という観点が重要である。このため、大学関係者及び学生には地域社会や患者の十分な理解を得られるよう不断の努力が求められると同時に、その理解に基づく社会一般、地域社会や患者からの温かい支援が不可欠である。
b)  学生に対し、専門的な知識にとどまらず、患者や家族と良好で信頼されるコミュニケーションができる能力や態度を育成し、医療チームの構成員との協調や、患者や家族の要望を理解しそれにできるだけ応えていくために必要な実践的な診療技能を習得させるためには、実際の医療の現場における診療参加型臨床実習の充実を図ることが必要である。このため、各大学においては、学生が診療チームの一員として診療業務を分担しながら実践的に学ぶ機会を充実するため、診療参加型臨床実習のカリキュラムの工夫・改善や教育体制の整備・充実に努めることが必要である。
c)  診療参加型臨床実習のカリキュラムの工夫・改善にあたっては、講座や診療科が個々の実習を独立して行うのではなく、当該機関全体として体系的に実施し、系統的な実習内容を学生に提供することが必要である。このため、個別の学生の技能、知識等の習得状況を把握した上での到達目標の設定や、それを踏まえた実習内容の検討を十分に行うことが求められる。そのためには、診療科単位を超えた教育指導体制の整備、統括責任者等の臨床実習の責任体制の確立、臨床実習委員会等の実習内容を企画・調整する組織の設置など、全学的な実施体制を構築することが重要である。
d)  その際、医学教育モデル・コア・カリキュラムで示されている実習の内容は、全ての診療科で同一同等の取扱いを求めるものではなく、様々な診療科を通じて体系的に行うものであることに留意することが必要である。このため、全学的な実施体制を構築した上で、学生の実習内容を記録し、実習の場となる診療科が変わった場合にも、新たな実習先がそれまでの実習内容を把握し、実習の成果を段階的・体系的に蓄積していく体制を構築することも必要である。このような各診療科の実習内容の記録を診療参加型臨床実習終了時や卒業時の学生に対する評価や指導に活用し、必要に応じて実習内容の改善を行うことも考えられる。さらに、指導教員による指導体制に加えて、いわゆる屋根瓦方式など、研修医が学生を指導したり、学生間でも先輩が後輩を指導する体制を構築するなど、実習効果を高めるための工夫・改善も求められる。
e)  また、前述した診療参加型臨床実習における患者との協調という観点も踏まえつつ、学生が診療チームの一員として、実際の患者を相手にした実践的な学習の充実を図ることが必要である。このため、シミュレーターやスキルスラボの活用、模擬患者の協力による訓練等患者に接するための診療技能の向上の取組の充実を図った上で、「教育病院」の役割の理解も含め、学生が診療に携わることについて患者の理解と同意を得るための取組の充実が求められる。
f)  さらに、学外の地域の医療機関での実習は、大学病院では経験しにくい症例や地域における医療の実態の学習等、実習内容の充実を図る上で有益であると考えられることから、臨床教授の活用も含め、学外の医療機関との連携協力体制の構築を図った上で推進することが求められる。その際、当該実習は、大学の診療参加型臨床実習の一環として行われることを十分に踏まえ、カリキュラムへの位置づけとともに、実習プログラムの責任者の設置等大学による指導体制の整備、実習内容に関する受入機関との事前協議、学生の評価の在り方も含めた実習中の連携体制の構築、学生に対する事前・事後の指導や評価等の充実に取り組むことも必要である。
g)  医療現場においては、医師に加え、看護師、薬剤師等のコメディカルをはじめとした医療関係者が参画、協働して患者に質の高い医療を提供することが求められている。このため、診療参加型臨床実習の実施にあたっては、将来医師として多様な医療関係者と連携できるよう、学生に対し、コメディカルをはじめとした医療チームの構成員との円滑なコミュニケーションや協調等に関する能力や態度を習得させるための機会を充実させることも必要である。このようなことも踏まえ、各大学においては、その基盤として、コメディカルも含めた、医療チームの連携協力体制の構築を図ることが必要である。
h)  また、共用試験等による診療参加型臨床実習前の学生に対する評価や指導のみならず、終了時や卒業時の学生に対する評価や指導の充実を図ることも必要である。このため、各大学においては、診療参加型臨床実習終了時の到達目標と評価基準の明確化を図った上で、advanced OSCE(診療参加型臨床実習終了時または卒業時に実施するOSCE)の実施等により、学生に対する評価や指導の充実を図ることが求められる。その際、各大学の取組を推進するために、共用試験実施評価機構が現在OSCEに関して示している診療参加型臨床実習開始前の学生の学習評価項目に加え、診療参加型臨床実習終了時または卒業時の全国的な学習評価項目を提示することも考えられる。さらに、新医師臨床研修の内容も勘案し、卒前教育・卒後教育を通じて優れた医師を養成するための一貫した教育内容のグランドデザインを示すことも必要と考えられる。
i)  なお、診療参加型臨床実習の指導医等は、卒後の臨床研修医の指導等も担当している場合が多く、診療参加型臨床実習の充実や、卒前教育・卒後教育を通じた一貫した医師養成を行うために、指導医等に対する各大学のサポート体制の充実等について、国の支援方策の充実が求められる。

2  モデル・コア・カリキュラムにおける、「地域医療臨床実習」の記載
 
a)  現在、へき地を含む地域での医師の確保は、医療の確保という観点から大きな課題となっており、学部教育の改善等により地域医療を担う医師養成の充実を図ることが課題となっている。
b)  このような中、医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議第一次報告(以下「第一次報告」という。)においては、医学教育モデル・コア・カリキュラムにおける地域保健・医療についての記載の充実、具体的には、「項目(F)医学・医療と社会」の中に新たな項を設けることなどが提言されたところである。
c)  各大学における地域医療を担う人材の育成の取組を推進し、学生に地域医療の全体像を把握することのできる学習機会を提供するためには、上記の第一次報告に基づく地域医療の全体像を把握することのできる学習内容の新設に加え、診療参加型臨床実習においても、「地域医療臨床実習」に関する学習内容を新設し、学生が地域医療を実際に体験する機会の充実を図ることが必要である。
 その際、低学年で実施する早期体験学習をはじめとして、地域の実情を肌で感じる経験の一環として、「地域医療臨床実習」が有効な機会となるような実施方法や内容を工夫することも必要である。その際、学生が地域住民の生活意識と医療ニーズを理解するために、公衆衛生分野の専門家の協力による地域保健機関等との連携なども考えられる。
d)  上記を踏まえ、モデル・コア・カリキュラムの改訂を行うことが適当である。

3  侵襲的医行為及び羞恥的医行為の在り方
 
a)  社会的要請である質の高い医療の提供を実現するためには、新たな診断・治療方法の確立等と並んで、患者側の視点に立った安全性の高い医療の提供が重要である。
b)  このため、第一次報告においては、モデル・コア・カリキュラムにおける医療における安全性の配慮と救急・救命に関する記載の充実などが提言されたところである。
c)  医療安全に関する国民の要望が高まる中で、患者の理解と同意を得て、前述した診療参加型臨床実習における実際の患者を相手にした実践的な学習の充実を図るためには、侵襲的医行為(侵襲性を伴うと考えられる医行為)及び羞恥的医行為(患者に羞恥心を惹起させるような医行為)(以下「侵襲的医行為等」という。)の取扱いの改善が求められる。
d)  まず、侵襲的医行為等を実施する前提として、患者に接するための診療技能の向上の取組の充実が求められ、シミュレーターやスキルスラボの活用等により当該医行為に関する学生の診療技能の確保の徹底を図ることが必要である。
e)  その上で、医行為全般はもちろんのこと、特に、患者に対して侵襲的医行為等を行う場合には、学生の態度・技能・知識の評価、指導医による指導・監督、患者に対する医学生である旨の明確な紹介を徹底し、患者の理解と同意を得ることが必要である。
f)  上記のようなプロセスを徹底した上で、安全性や患者の理解が確保できると考えられる場合に、侵襲的医行為等を実施することが適当である。その際、学生の技能等の到達評価の程度によって個々の学生の状況に応じた学習機会を提供することが必要なことに留意することが求められる。
g)  なお、具体の行為の侵襲性等の程度については、大学の診療体制、学生の知識・技能の習得状況、患者の状況等によっても異なり、基本的には医学教育の現場において個別に判断すべきものであるが、各大学における取り扱いの一定程度の認識の均衡を確保する観点から、侵襲的医行為等に該当する可能性が高い行為を例示すること等についても検討することが望まれる。

4  診療情報の取り扱い等
 
a)  近年、個人情報の慎重な取り扱いが社会全般において求められる規範になっている中で、様々な分野における個人情報の流出が社会問題となっており、第一次報告においては、モデル・コア・カリキュラムにおいて、患者のプライバシーへの配慮等の個人情報の取り扱いに関する学習内容を新たに盛り込むことなどが提言されたところである。診療参加型臨床実習においても、このモデル・コア・カリキュラムの改訂を踏まえ、各大学の個人情報の取り扱いに関する学習の充実を図ることが必要である。
b)  特に、実際の診療の現場において患者との関わりを持つ診療参加型臨床実習においては、患者等の個人情報に触れる機会も多いことから、診療参加型臨床実習の実施にあたっては、事前に個人情報の取り扱いに関する学習や指導を徹底することが必要である。その際、実習開始前に、患者優先の原則に基づく安全確保に努めること、診療情報を適切に取り扱うこと、指導医の指示に従うこと、診療技能や態度の向上に努めること、病院の諸規定とともに医学生に求められる倫理的なモラルや規範を遵守することを学生に誓約させ、病院の諸規定等に違反した場合には大学による所要の措置が行われることを理解させることも必要である。さらに、電子カルテが導入されている場合等においては、学生が閲覧できる範囲を臨床実習上必要な患者等に限定することや、学生による入力が行われる場合、指導医等が確認・修正・加筆を行うことなど、診療情報の電子化等を踏まえた取り扱いを検討することも必要である。
c)  また、診療参加型臨床実習については、平成13年協力者会議により「診療参加型臨床実習の実施のためのガイドライン」が示されているが、今回の診療参加型臨床実習に関する提言やモデル・コア・カリキュラムの改訂等を踏まえ、その改訂について検討することも必要である。その際、各大学の実態を把握した上で、診療情報の電子化等を踏まえた統一的な取り扱いについても検討することが望まれる。


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