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大学における学生生活の充実方策について (報告) -学生の立場に立った大学づくりを目指して-

平成12年6月
 

はじめに

  昭和33年の学徒厚生審議会答申において,大学では,「知的・専門技術的な教授研究を行う」正課教育と並ぶものとして,「学生生活の環境的条件を調整するとともに,学習体験の具体的な場面に即して,各学生の主体的条件に働きかける教育指導を行うことによって,その人格的形成を総合的に援助する」正課外教育の役割の重要性を強調している。
  この答申は,まさに大学の大衆化が始まろうとする時代において,既に,学生の質的変化を踏まえて,学生の人格形成に対する大学の責任を述べたものであるが,それから40年以上を経た現在に至るまで,この点に対する大学の取組が遅れてきたことは否めない。
  このことは,大学における主役は教授研究を行う教員であり,学習する側である学生が常に脇役であり続けたことと無縁ではない。
  本調査研究会は,近年の社会環境の変化や大学進学率の上昇などに伴い,多様な能力や適性を有する学生が大学に入学している状況に適切に対応していくことが必要であるとの認識に立ち,学生を中心に捉えて,大学における豊かな学生生活を実現するための方策について,昨年7月より10回にわたって討議を重ねてきた。今回,その検討結果をとりまとめて報告するものである。


1  大学を巡る状況及び今後の方向について

1  大学を巡る状況
  戦後,大学・短期大学進学率は概ね上昇を続け,今日では50%に迫るまでになっている。このような進学率の上昇により,現在,資質や能力,知識,興味・関心などの面で,極めて多様な学生がキャンパスを訪れる時代を迎えている。こうした状況は,21世紀を目前にひかえ,我が国の社会がさらに高度化・複雑化・専門化・国際化を進め,高等教育に対する期待が高まる中で,今後とも続いていくものと思われる。
  他方,我が国の18歳人口は,平成4年の205万人をピ−クとして,長期的な減少局面を迎え,将来的には,120万人程度で推移することが見込まれており,進学率が引き続き高い水準で維持されるとしても,現在の学生数の規模を維持することは困難と見込まれている。
  また,現代の学生は,情報化の進展に伴い,大学外にも学習する機会を無数に有しており,さらに,今後は,インターネットの活用も含め,高等教育がよりグローバル化する中で,学生の選択肢は,外国の大学にも広がっていくと考えられる。
  このようなことから,近い将来,大学はより厳しい競争的環境の中で生きていかなければならず,これからの大学は,互いに切磋琢磨しながら,個性が輝く大学づくりを目指して取り組むことが求められている。そして,その取組の一つとして,大学はより学生の視点に近い位置に立ち,学生に対する教育・指導の充実やサービス機能の向上に努めることが重要となっていくものと考えられる。

2  現代の学生の実態

  最近のキャンパスは,様々なタイプの学生であふれている。しかし,将来の職業や具体的な学修内容について,明確な自覚を持っている学生は,以前と比べると減っているように思われる。むしろ,そのような自覚を持たないまま,いわば「自分さがし」をするために大学に入学してくる学生が増えていると考えられる。
  このことは,一面では,豊かな時代の中で社会の価値観の多様化や就業構造の変化に応じて,学生が,自分の将来を固定的に捉えることなく,幅広く将来の選択肢を考える傾向にあると積極的に評価することもできるが,その反面,学生が心に悩みを持つ機会を増大させているという側面もある。
  最近では,インターネットや電子メールなどの情報手段が日常化し,質の高い情報にアクセスしやすくなったことにより,所属する大学や地域を越え,国内はもとより諸外国の学生と幅広く交流をしたり,相互のコミュニケーションを深めることも可能となっている。その一方で,学生が大学で直接,教員や他の学生とふれあう必要性が薄れてきている。
  また,核家族化や少子化の進展,さらに地域における子どもを育成する機能の弱体化などが進行する中で,幼少期から人との関わりや実体験を得る機会が乏しくなっていることや,親への依存が高まっていることも指摘されている。その結果として,「人とうまくつきあえない」,「人の噂が気になる」,「無気力」など,様々な心の問題を抱えている学生が増えている。さらに,そのために学生生活を能動的に送れず,自己の目的を達成できないまま学修を終えてしまったり,不登校や,不本意ながら休・退学をする学生が増えるという問題も生じている。
  このように,今日の学生は,自由で豊かな時代を生きながら,他者とのつながりを希薄化させ,心の悩みに遭遇するなど,新しい問題に直面しているといえる。

3  今後の大学のあり方−視点の転換

(1)「教員中心の大学」から「学生中心の大学」への視点の転換
  平成10年10月の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」(以下「大学審議会答申」という。)においては,大学は,社会に貢献する人材の養成に当たるという役割を担っており,学生に高い付加価値を身に付けさせた上で卒業生として送り出すことが大学の社会的責任であると述べられている。これからの大学は,学生が在学中にいかなる能力を身に付けたかや,いかに自立した人間として成長したかが,社会における大学の評価の際の基準の一つとなっていくものと考えられる。
これまで,大学の教員の関心は,主として自らの研究に向けられ,学生の教育に対する責任を十分に意識していないということがしばしば指摘されてきたが,今後は,総体として教員の研究に重点を置く「教員中心の大学」から,多様な学生に対するきめ細かな教育・指導に重点を置く「学生中心の大学」へと,視点の転換を図ることが重要である。
  近年,各大学で進められている組織改革やカリキュラム改革の取組は,大学における教育の改革を目指すものであるといえるが,それが真に実効あるものとなるためには,教育を提供する立場の論理だけではなく,学習する側である学生の立場に立ったものとして進められる必要がある。しかし,学生の立場に立つといっても,それが学生の短期的な満足のみに応えるような迎合的なものであってはならないことに,十分留意する必要がある。

(2)正課外教育の積極的な捉え直し
  大学に入学している学生が多様化し,心の問題を抱える学生が増えている中で,これからの大学では,学生に豊かな知識を教授するのみならず,教職員が学生との人間的なふれあいを通じ,切磋琢磨しながら,道徳観,責任感などの高い倫理性とともに,忍耐力,意思伝達力,折衝力,決断力,適応力,行動力,協調性など,複雑化し,価値観が多様化した社会の中で生き抜くための基本的な能力の涵養に努めていくことが求められる。
  そのためには,正課教育や正課外教育の中で,学生が社会との接点を持つ機会を多く与えたり,また,学生の自主的な活動を支援するなど,各大学がそれぞれの理念や教育目標を踏まえ,個性化や多様化を進める中で適切に取り組んでいくことが期待される。その際,従来,正課教育を補完するものとして考えられてきた正課外教育の意義を捉え直し,そのあり方について積極的に見直す必要がある。


2  各大学における改善方策−学生に対する指導体制の充実を目指して

1  人的資源の活用

(1)教職員の意識改革と活用
教員の意識改革
  大学教員の関心が研究面に向けられ,学生の教育に対する責任が十分に意識されてこなかったことの背景には,大学教育を受ける学生は一定の能力を有しており,教員は自らの研究成果を教授しさえすればよく,学ぶ学生自身が工夫して勉強するものという大学観が根強くあったことが考えられる。
  しかし,多様な学生が入学してくる現在の状況下において「学生中心の大学」づくりを進めるためには,教員自身がまず,正課教育はもちろんのこと,正課外教育も含めた大学生活全般の中で,学生の人間的な成長を図り,自立を促すため適切な指導を行っていくことが教員の基本的責任であることを明確に認識する必要がある。
  これまで,大学では,教員は研究者としての能力について評価され,その教育能力や教育実績は軽視される傾向が強かった。特に,正課外の教育活動への参加や学生の相談に対する対応を含めた学生に対する指導については,ほとんど評価されていないとの指摘もある。教員の意識改革を促進するためにも,今後は,各大学において,教育や学生の人間形成に関わる指導への取組を,採用・昇進や報酬に的確に反映させるなど,教員の評価に際しての重要な要素とし,教員のインセンティブを高める工夫が求められる。

教員に対する研修の実施
  大学教員は,初等中等教育段階の教員と異なり,学生に対して教育・指導をする訓練を受けていない。
  学生に対するきめ細かな教育・指導を充実させるためには,各大学において全学的・組織的に  ファカルティ・ディベロップメント(FD) を進める中で,積極的に教員に対する教育・指導についての研修を行うことが求められる。この際,正課教育における授業内容・方法のみに限定するのではなく,学生の人間的な成長を図る観点から必要な指導についても,その研修内容に加えることが適当である。
  また,大学の教員は教育及び研究を共に行うことが基本とされているが,大学が,総体として個々の学生に対する教育・指導を充実させるためには,研究を担当せず,教育・指導を専門的に担当する教員を配置することも検討していく必要があると考えられる。

事務職員の専門性の強化
  事務職員には,授業科目の登録や,証明書の発行の手続の際など,学生と接する機会が多くあり,その対応如何によって学生を励ますことにも,意欲を減退させることにもなることから,教員と同様に意識の改革が求められる。
  また,「学生中心の大学」の観点からは,学生担当部署に適切な人材を配置するなど,人事面での配慮をすることも必要である。
  さらに,これからの大学においては,学生に対する専門的な助言を行ったり,教員に対して学生指導のあり方などについて提言や発言を行うことのできる専門的な能力を有する事務職員を育てていくことが重要になっていくと考えられる。このような専門性を備えた事務職員については,資格や処遇などを明確に位置づけ,大学の中心スタッフとして運営していくことが求められる。

教員と事務職員の連携強化
  教員と事務職員は,それぞれ異なる立場や視点で,学生と接する機会を持っているが,学生のニーズを踏まえつつ,学生を適切に指導していくためには,教員と事務職員が学生についての諸課題を対等に協議する場を設けるなど,相互に連携・補完しあう体制を整え,学生に対応していくことが重要である。

(2)学生の活用
  学生に対する教育・指導に学生自身を活用することは,教育活動の活発化や充実に資するのみならず,教える側の学生が主体的に学ぶ姿勢や責任感を身に付けることができることにもなり,非常に意義深いものである。
  現在,各大学においては,優秀な大学院学生に,教育的配慮の下に,  ティーチング・アシスタント(TA) として学部学生などに対する教育の補助業務を担当させている例が見られる。これからは,学生の希望に応じ,大学院学生だけでなく学部の上級生についても,このような機会を積極的に与えていくことが望まれる。
  また,  ティーチング・アシスタント(TA) のように授業の補助を行うだけではなく,下級生の学生生活全般にわたる指導や相談に上級生を当たらせたり,学生を学内における様々な業務にたずさわらせるなど,各大学においてその範囲や方法を検討した上で,学生を有効に活用する工夫が期待される。
  その際,大学としては,学生が自立した人間として成長するための訓練として,学生に一定の責任を持たせることが重要である。それと同時に,学生に対し,必要に応じて研修やガイダンスを積極的に行い,自覚を促すとともに,学生に対する期待と信頼を寄せていく姿勢が求められる。

2  学生に対する指導体制の充実

(1)学生相談
1現状
〈学生相談機関の設置状況〉
  文部省で本調査研究会の議論の参考とするために平成11年に実施した調査(以下「学生調査」という。)によると,学生相談の機能を有する機関(以下「学生相談機関」という。)が,大学全体の92.3%で設置されている。学生相談機関の形態は,(a)保健管理センター,健康相談室など身体的な健康面も含めた組織で対応している場合,(b)学生相談室,学生相談センター,心理相談室,カウンセリングセンターなど心理面に特化した組織で対応している場合,(c)学生センター,学生生活センターなど学生生活全般に関する部門で対応している場合など多様である。また,学生の相談内容は,(a)休・退学,転学部・学科,単位取得,留学などに関する修学相談,(b)奨学金や学費などの経済的問題や住居に関する相談,(c)精神・心理的な悩みに関する相談,(d)身体的な健康に関する相談,(e)就職や進路に関する相談,(f)サークルやボランティアなどの正課外活動に関する相談,(g)セクシュアル・ハラスメントについての相談など,極めて多様であるが,修学相談,就職や進路に関する相談,セクシュアル・ハラスメントについての相談などについては,別に担当する機関が置かれている場合もあり,大学によりその対応は様々である。

〈学生相談の状況〉
  学生調査によれば,学生相談の件数が「近年増加している」とする大学が61.7%を占め,年々増加する傾向にあると考えられる。また,学生相談機関を設置している大学のうち,66.4%の大学でカウンセラーを置いているが,常勤のカウンセラーを置いている大学は21.3%にすぎない。
  学生への対応方法としては,個別面接のほか,合宿などを含めたグループカウンセリングや,メンタルヘルス関係の講演会などが開催されている。
  大学によっては,相談内容により様々な窓口で対応している場合もあるが,一般的には,学生相談機関において,修学相談から,精神・心理的な悩みや対人関係についての相談まで,幅広い内容の相談に対して一括して応じている現状にあり,人手が不足している。

2今後の改善方策
学生相談の捉え直し
  これまで,学生相談機関は,問題のある一部の特別な学生が行くところというイメージが根強くあったが,本来,学生相談は全ての学生を対象として,学生の様々な悩みに応えることにより,その人間的な成長を図るものであり,今後は,学生相談の機能を学生の人間形成を促すものとして捉え直し,大学教育の一環として位置づける必要がある。

カウンセラー等の充実
  学生相談の件数の増加に伴い,相談担当者は相当の過重負担になっていると指摘されている。このような状況の下で,学生の相談に適切に応えていくことができるカウンセリング機能の強化を図るためには,人的な充実が必要である。
  具体的には,学生の心の悩みに対して専門的な心理的面接技能を有するカウンセラーや,修学相談や進路相談などに専門的な助言ができるアドバイザーなどを,各大学において積極的に配置していく必要がある。
  また,同じ場所にいつも同じカウンセラー等がいることで,学生に安心感を与えることができるとともに,学内の教職員等との連携がとりやすいなどの利点があることから,可能な限り常勤(専任)カウンセラー等を配置していくことが望まれる。
  しかし,学生相談機関の人員や組織の充実を図ることは,学生からの相談の全てを学生相談機関に委ねることを意味するものではない。学生の相談に応じることは,学生の人格形成に関することがらであり,大学の全ての教職員それぞれが自らの基本的責務であるという認識を持つことが重要である。

学生相談機関と学内外の諸機関との連携強化
  学生相談の担当者からは,学内における学生相談機関の位置づけがあいまいであったり,また,その身分も教員や常勤の職員とは限らないため,学生相談の現場で得られた知見が,必ずしも大学の教職員や責任者に伝わらないという指摘がある。
  各大学においては,学生の現状をよく知る立場にある学生相談担当者の意見が,相談員の個人的な努力や人脈でのみフィードバックされるのではなく,システムとして適切に大学の教職員に伝わり,かつ,大学運営に反映される仕組みを整えることが求められる。
  また,地域や医療機関等との連携についても,柔軟かつ迅速な連携体制を整備していくことが重要である。

「何でも相談窓口」の設置
  前述のように,学生の相談する内容は極めて多様であることから,実際に相談に応じる者も相談内容によって異なるものと考えられる。さらに,その相談内容も相互に関連することがらが多い。このようなことから,学生がある悩みについて相談しようとしても,どこに相談をすればいいのかわからなかったり,窓口でたらい回しされてしまうことも起こっている。
  また,学生が自分の指導教員に個人的に相談する場合も多いが,指導教員が対応できる範囲を超えてしまう場合もある。
  このようなことに対処するため,学生のあらゆる相談に応じる全学的な「何でも相談窓口」を設け,そこで基本的な相談に応じつつ,相談内容に応じて適切な学内外の相談機関や教職員を紹介することが有効であると考えられる。「何でも相談窓口」の担当者としては,学生指導の経験が豊かな教職員が望ましいが,この窓口が担当すべき機能により,心理学の教員や,専任カウンセラー,さらにカウンセリングの研修を受けた学生担当部門の事務職員や,カウンセラーを目指す学生などを起用することも考えられる。いずれにせよ,各相談機関との効果的な連携を図る体制の整備が何よりも重要である。

不登校への対応
  最近,大学生についても初等中等教育段階の学校と同様に,不登校の問題が指摘されている。その実態を把握するのはなかなか困難であるが,ある国立大学の調査では,不登校学生は全学生の1〜2%存在すると推計されている。また,別の国立大学の研究グループの調査によれば,近年,アパシーや勉学意欲の減退などの理由で休学や退学をする学生が増えており,この中には不登校がかなり含まれるものと考えられている。
  大学生の不登校の原因としては,思春期を受験勉強に費やし,人との関わりを持たなかったことによる対人関係失調や,何事もきちんとしなければ気が済まないという強迫的性格,さらに青年期の長期化などが指摘されている。
  不登校については,これまで否定的に捉えられてきたが,学生が「自分をつくりかえるための時間」または「自分とつきあうための時間」として費やしていると考えることもできる。
  不登校学生のうち,学生相談機関に相談に来る学生は卒業にこぎつける割合が高いという報告もあり,各大学においては,学生のプライバシーに十分配慮しつつ,コンピュータ等を利用して,学生の単位の取得状況など修学状況をチェックすることにより不登校学生を把握した上で,不登校学生に対するきめ細かな相談・援助を行っていくことが求められる。
  また,各大学において,大学に出ていけないが勉強したいという不登校学生のために,放送大学や,英検等の技能審査やTOEFL等の学外での学修を活用した柔軟な単位認定の仕組みの導入のほか,弾力的な休学制度の運用や,復学の際の適切な援助の方法について検討することが望まれる。

(2)就職指導
1学生の状況
  学生にとっての最大の関心事は,卒業後の進路であるといっても過言ではなく,最近の厳しい経済状況の中で自己の進路に不安を抱いている学生が多い。
  近年,学生の卒業後の進路は,企業等への就職だけではなく,大学院進学や海外留学,さらに自ら起業したり,資格取得のために専門学校へ入学する者など,従来に増して多様化している。また,自分の希望する職業に就くために時間をかけたり,それを許容する社会状況があるなど,学生の就職に対する意識も変化してきている。しかし,大学・短期大学生の約7割が卒業後の進路として企業等への就職を希望し,卒業の時点で約6割の学生が就職している状況にある。
  企業への就職を巡る状況は,厳しい就職状況と就職協定廃止があいまって,就職活動の開始時期が年々早期化しており,大学4年次のみならず,3年次から就職活動のために授業がおろそかになり,卒業研究をはじめとする4年次における学習に力が入らないことが指摘されている。その結果,単位修得の前倒しをして,1年次から3年次までの間に過度の履修をすることになり,大学審議会答申で示された,履修科目登録の上限設定を行い,充実した授業展開を行うことが実質的に困難な状況となっている。
  また,具体的な就職活動に当たっては,インターネットの活用が急速に浸透しつつあり,学生は,大学を通じずに直接,企業から情報を入手し,就職活動を行うケースが増えてきていることから,大学側の体制整備や個人の対応状況により,就職採用活動における情報格差が起こっている。
  さらに,労働省の調査によれば,新規学卒者の就職後3年以内の離職率が3割を超えると推計されており,就職のミスマッチが生じている。その理由としては,入社した企業や就職に対する不満が挙げられるが,学生時代に個の確立ができず,しっかりした職業観が身についていないこともその要因として指摘されている。

2大学の取組
  大学教育の成果が,学生を通じて社会に還元されるという意味において,大学にとって就職は重要な意味を持っている。大学は従来,ともすれば就職について大学教育の問題として正面から考えてこなかった面があるが,進学率の上昇等に伴い,多様な学生が入学するとともに,昨今の厳しい雇用状況などを反映して,大学の就職に対する姿勢が変化してきている。
  各大学においては,国公私立を問わず,就職指導に力を注いでおり,学生に対するキャリアガイダンスや,各種の講座・企業セミナーなどが盛んに実施されている。
  また,学生が自己の分析をしたり,自分の能力,適性に合った進路選択をできるようにするための講座の開催や,進路選択を支援するためのセンターの設置,さらに正課のカリキュラムの中で学生の職業意識の涵養を図るための授業科目を開設する大学も増えてきている。

3今後の改善方策
早期化に対する認識
  就職採用活動の早期化は,大学にとって授業が成り立たず,学生に対する十分な教育・指導を行うことができない結果を招いている。しかし,大学としては,修業年限が4年であるにもかかわらず,企業が3年次の授業も終えていない段階で,学生を採用することの意味を重く受け止める必要がある。大学は,企業から十分な信頼を得ていないとも考えられる状況を十分に認識し,この事態の打開のため,大学教育を,学生にとっても,企業にとっても,意味あるものに改めていく必要がある。

キャリア教育の充実
  これから社会に出る学生にとっては,市場価値のある能力を磨き,変化する社会に対応できる可能性を追求することが求められると考えられ,キャリアの形成が重要となってくる。
  大学では学生に対して,望ましい職業観や,職業に関する知識・技能を涵養し,自己の個性を理解した上で,主体的に進路を選択できる能力・態度を育成するキャリア教育を,大学の教育課程全体の中で,明確に位置づけて実施していく必要がある。そのためには,「職業概論」,「キャリア形成論」など学生の職業意識の形成に資する授業科目の開設や,企業人など外部の講師による「産業論」,「企業論」など実践的な授業科目の導入など,教育内容をより実務的・実践的なものに再編することや,これからの社会の中でより一層求められる,論理性やものの見方,コミュニケーション能力,情報処理能力などを重視した教育課程を編成していくことが考えられる。しかし,キャリア教育の内容・方法について何が望ましいかということについての一般的な答えはなく,個々の大学が自らの状況に応じて,学生が身に付けるべき能力像を描き,その達成目標に向かっていくことが重要である。

就職指導部門の体制強化
  大学の就職指導部門においては,従来の企業情報の提供,学生に対するガイダンス等の実施,就職統計データの整備などの役割に加えて,学生の職業意識を高め,キャリア開発を支援する機能を充実させていく必要がある。また,企業側の秋期採用や通年採用の進展に伴い,通年で学生や卒業生の就職を支援する体制を整えるとともに,今後の大学院学生の増加に対応した支援方策を検討していく必要がある。
  そのためには,教員組織との連携はもとより,大学の教育課程や教育目標を十分理解した専門的能力を有するスタッフの養成を図っていく必要がある。また,企業での就労体験を持つキャリアアドバイザーを配置していくことも望まれる。

インターンシップの活性化
  インターンシップは,学生時代に社会との接点を持ち,職業観の育成や学習意欲の喚起などを図ることができるという意味において,非常に有効である。授業科目の中にインターンシップを位置づけ,実施する大学は年々増加しているが,実際に経験する学生の割合は少ない。インターンシップを授業科目の中に位置づけるに至っていない大学もあり,各大学において,積極的な対応が求められるとともに,インターンシップの拡大に伴い,受入企業の確保が重要な課題となっている。
  インターンシップを今後発展させていくためには,地域における複数の大学と企業が密接に連携を図ることや,企業側の十分な理解と協力を得ることが重要であり,受入企業に対するインセンティブをより高めていくための工夫が求められる。
  なお,インターンシップの経費については,基本的には,個別に大学と企業が協議して決定することが適切である。具体的には,インターンシップがあくまで教育の一環として行われる点に着目し,無報酬とすべきであるとの考え方もあるが,学生に責任感や意欲を持たせるなどの目的から,実費などを支給することも考えられる。また,インターンシップは教育の一環として行われることから,就職採用活動そのものに直接的に結びつけられることや,採用の早期化につながることは避けなければならないが,インターンシップを行った後に,学生が受入企業への就職を希望し,結果として採用につながることもありうると考えられる。
  今後,大学においては,インターンシップのほか,学生が社会との接点を持つ機会として,在学中の一定期間,社会での奉仕活動やボランティア活動などの体験学習を行うことなどについての積極的な検討を行い,大学と社会との隔たりを縮めていくことが求められる。

(3)修学指導
入学時のオリエンテーションにおける履修指導の改善
  大学教育においては,入学時から卒業までの学生生活を体系的に捉え,入学時には実体験に乏しく未熟な段階にある学生を,卒業時までにいかに人間的な成長を図るかという観点から,学生指導を行っていく必要がある。その際,学生のニーズが多様化している中で,各大学がそれぞれの特性を生かしながら,一人一人の学生の個性に応じたきめ細かな指導を行うことが求められる。
  特に,入学時のオリエンテーションにおいて,学生が希望する進路や興味・関心に応じつつ,適切な学修を行えるようにするため,履修すべき授業科目のモデルを示したり,専門的なアドバイザーが学生の履修メニューの作成の援助を行うなど,履修指導を行うことが重要である。履修案内や相談を受けられる学生の授業に対する満足度が高いという調査結果も報告されており,各大学において,重点的な改善を図ることが求められる。
  また,教員や学生同士の出会いの場として合宿を実施したり,様々な学部・学科の教員や学生とのふれあいの場を提供するなど様々な工夫を行うことにより,学生がスムーズに大学生活に踏み出せるための条件を整える必要がある。

学生の進路選択の幅の拡大
  大学入学後,自分の能力・適性や興味・関心とのギャップを感じて転学や転学部・学科を希望する学生が多いが,実際にはなかなか困難な状況にあり,それが学生の悩みにつながっている。学生が能動的に学生生活を送ることを容易にするため,各大学においてより柔軟な転学や転学部・学科を認めるなど,学生の流動性を高めるための取組が求められる。また,学生の募集単位を大括りにし,入学後一定期間を置いて学生の進路に対する考えがより明確となった段階で,分野に応じて専門に進むような取組もあわせて求められる。
  さらに,旅行やボランティア活動,長期のインターンシップなど,学生が学外における多様な体験を可能にするため,各大学においては,休学制度を弾力的に運用していくことを検討していく必要がある。

少人数教育の充実
  多人数教室での授業が多くなっている現状において,学生が自ら課題を設定し,調査・分析を行い,対話し,プレゼンテーションを行う場として,少人数による教育を行うことが重要である。
  少人数教育は,(a)学生が教員と人格的にふれあう機会となる,(b)学生と教員が双方向のコミュニケーションを図ることができる,(c)課題探求能力や論理的思考力の育成に資するなどのメリットを有するものであり,幅広い教養を養い人間的成長を促す観点からは,学生の希望に応じて,自分の専門分野に限らない少人数のゼミに入学時点から所属させる方法をとることなどが有効であると考えられる。

チュートリアル・システムの導入
  現在,大学によっては,クラス担任制度が設けられたり,また,学生生活の中で担当の教員が学生に指導・助言を行うアドバイザー制度などが実施されている。
  今後は,入学の時点から卒業まで教員と学生が人格的にふれあい,修学上の助言や学生の個人的な相談に乗ることなどを通じて,教員が学生をきめ細かく指導するチュートリアル・システムを積極的に導入することが重要である。その際,同一の教員が4年間一貫して学生を見守ることができる仕組みが有効であると考えられる。
  また,授業を受ける学生に対して教員が相談に応ずる専門の時間帯としてオフィス・アワーを設けていくことも重要である。

学習環境の整備
  教室内外における学習を充実させ,学生が主体的な学習に十分取り組むことができるようにするため,少人数教育のための教室や図書館,コンピュータ等の施設・設備など,学生が学習する場としての大学の学習環境の整備にもこれまで以上に留意する必要がある。

(4)学生の自主的活動及び学生関係施設
学生の自主的活動に対する支援
  最近,サークル活動など学生の自主的な活動は下火になる傾向にあることが指摘されている。学生調査では,学生の自主的なサークル活動の近年の動向について,「不活発になっている」との回答が,「活発になっている」との回答を上回っている。その要因としては,最近の学生の傾向として指摘される他者とのつながりの希薄化などが考えられるが,自主的な活動が在学中の成果として必ずしも評価されないため,学生に対するインセンティブが働きにくいとの声もある。
  各大学においては,学生の自主的活動を人間的成長を促すための活動として捉え,積極的に支援していくことが望まれる。その中で,経費の補助や,施設・設備の貸与などに加えて,例えば,その活動を大学として適切に評価し,優秀者に対する表彰制度や報奨制度を設けるなど,学生のインセンティブを高めるための取組も考えられる。

学生関係施設の整備
  従来,大学においては教育や研究の用に供される施設の充実が優先される傾向にあり,学生会館(大学会館)や課外活動施設などの学生関係施設の整備は,特に国立大学を中心に立ち遅れてきていることが指摘されている。
  今後は,学生の人間的成長を促すサークル活動の中心となる課外活動施設などの整備を一層進めていく必要がある。学寮についても,生活基盤を共にして集団生活を送ることにより,人間とのふれあいの中で学生が成長できる教育的効果が期待できるものであり,各大学においては,経済的観点のみならず,教育的観点も踏まえた上で,適切に整備をしていくことが望まれる。
  また,現在,大学の中で学生は自分の居場所の確保に苦労しているとの指摘もあり,学生が日常的に集まることができ,人間関係を緊密にすることができるような「たまり場」的な場所を学内に整備することも望まれる。

3  学生の希望・意見の反映

(1)希望・意見の反映方法
  「学生中心の大学」への転換を図るという観点から,大学教育においては,大学で教育を受ける学生の希望や意見を,適切に大学の運営に反映させることが重要である。また,学生が積極的に大学運営に関わることを通じて主体的に大学生活を送ることは,学生の社会的な成長を促すことを期待できるものである。
  学生の意見や希望を反映させる具体的な方法としては,(a)大学として学生からのアンケート調査を行ったり,学生の実態調査を行うことにより,その希望や意見を聴取する方法,(b)学生の代表と大学の運営責任者等との懇談会等を実施し,その希望や意見を聴取する方法,(c)学生の代表を大学の諸機関に参加させる方法などが考えられる。

(2)今後の改善方策
分野の拡大
  これまで大学において,学生の希望や意見を反映させる分野としては,正課外教育や福利厚生といった学生が中心となって活動する分野について考えられてきたが,今後は,正課教育の内容のあり方や授業方法,さらに教育条件の改善などの分野についても,学生の希望や意見を適切に取り入れる仕組みを整備していくことが重要である。

学生による授業評価
  近年,大学改革の取組の一環として,学生による授業評価を取り入れる大学が増えており,文部省の調査によると,学生による授業評価を実施する大学は,平成10年度において全国で334大学(約55%)・722学部(約47%)に達している。学生による授業評価については,「学生が真面目に答えるとは思えない」「教員が人気取りに走ってしまう」などの声や,学問領域によってはなかなか評価が難しいとの指摘もあるが,学生に対して,授業評価する意味やその重要性について,あらかじめ十分に教授し,評価の結果について毎年公表することなどにより,適切な実施が可能であると考えられる。授業評価は,学生の視点に立った授業内容の改善のための有効な手段であるとともに,学生の主体的な学習意欲を喚起することにもなることから,各大学においては,教員全体で実施方法や結果の活用方法などについて検討を行い,全学的かつ組織的な取組として実施すべきである。

学生代表との意見交換の場の活用
  欧米諸国においては,伝統的に,学生の代表が大学の管理運営組織の正式なメンバーとされ,広範に大学運営への学生参加が認められている。しかし,このような制度を現時点において,我が国の大学に取り入れることは,これまでの経緯や,現在の大学の意思決定システムとの整合性に配慮する必要があり,慎重に検討すべきものと考えられる。
  むしろ,大学の授業内容・方法や学生生活に関する事項など,学生の希望や意見を取り入れることが適切な事項について,大学の責任者が定期的に学生と意見交換する場を設け,その結果を,できるだけ大学運営に反映させるという方法が有効であると考えられる。


おわりに

  以上述べてきた改善方策を実行するに当たっては,近年,大学院学生や留学生が増加していることにも留意し,適切な配慮をする必要がある。
  また,短期大学や高等専門学校についても,修業年限やその主たる対象となる学生の年齢は異なるものの,各大学の改善方策として述べたことの多くはあてはまるものと考えられる。
  今後,各大学がそれぞれの理念や教育目標に基づき,幅広い知識と豊かな人間性を備え,自立した人間を育てるという社会的責務を果たしていくための諸方策を実施していく上で,本報告が参考とされることを期待したい。


用語解説
【ファカルティ・ディベロップメント(FD)】(  P5
  教員が授業方法・内容を改善し,向上させるための組織的な取組の総称。その意味するところは極めて広範にわたるが,具体的な例としては,教員相互の授業参観の実施,授業方法についての研究会の開催,新任教員のための研修会の開催などを挙げることができる。

【ティーチング・アシスタント(TA)】(  P6 , 
  優秀な大学院学生に対し,教育的配慮の下に,学部学生などに対するチュータリング(助言)や実験,実習,演習などの教育補助業務を行わせ,大学教育の充実と大学院学生への教育トレーニングの機会提供を図るとともに,これに対する手当の支給により,大学院学生の処遇の改善の一助とすることを目的とした制度。

-- 登録:平成21年以前 --