これまで第1章~第3章で述べてきたように、グローバルトレンドや研究開発を取り巻く国内外の状況は大きく動いているところであり、このような状況の中、今後の政策の方向性について、以下の1.~5.のような点を踏まえて検討することが重要と考える。
※ 科学技術を基盤としてイノベーションを創出しようとする総合的な政策のこと。
グローバル化や多極化等が進展している中、イノベーションを例にとると、プロセス・イノベーションや垂直統合型だけでなく、プロダクト・イノベーションや水平分業型などの多様なイノベーションモデルが偏在するなど、競争力モデルが変化している。また、イノベーションにおいて、技術開発のみにとどまらず社会における普及を伴うことが強く求められている。
このような中、社会や経済にインパクトを与える日本発のイノベーションを実現するためには、それぞれの分野において多様なイノベーションモデルの中から最適なモデルを選択し、必要に応じて見直す柔軟性を持つことが不可欠である。
今後、科学技術・イノベーション政策を展開するにあたっては、これらの状況等を踏まえ、
「競争力モデルが変化し続けている中で、我が国が「科学技術創造立国」を実現するには、どのような方向付けと仕組みの構築を行っていく必要があるのか?」
という命題に取り組むことが必要不可欠である。
以下に、そのために乗り越えていくべき課題を示す。
日本が競合優位に立つ分野や今後優位に立てる可能性のある分野を活かして、オープンとクローズドを使い分けて、グローバルレベルでのイノベーションをどう実現するかという課題がある。
その実現のためには、
などを図る必要がある。しかも、我が国のこれまでの産業構造等を踏まえると、アウトソーシング型だけではなく「共同・連携型」でのオープン・イノベーションの導入を目指すのが適切である。
また、将来ビジョン等については、現在、官民の各機関が個別にベンチマークやロードマップを策定しているが、今後、産学官で共通のビジョンを共有化し、役割分担の再構築、連携の強化を図ることが必要である。
さらに、大きく変動する国際情勢や研究の進捗等に対応できるように、基礎研究から実用化、製品化につなげる過程(特に長期的なもの)において、適切な技術の選択や新しい技術の導入等を柔軟に行えるような形にすることも重要である。
※ 将来どういう社会・産業になっていたいかの目標や予測される状況等を示すビジョン
例えば、基礎的なサイエンス(科学)を学・官でどのように役割分担して推進するのか、また、いわゆる「死の谷」を越えるための、産・ベンチャー・学・官の個々の役割と連携をどうするのかという課題がある。
その実現のためには、
などを図る必要がある。
また、サイエンスを実用化につなげてイノベーションを起こしていくためには、研究者をはじめとする関係者のモチベーションを高めることと、そのためのインセンティブを与えることの両方が大切であることに留意する必要がある。
サイエンスを含む研究開発の成果をイノベーションにつなげるためには、産学官で「出口」を共有して取り組むことが必要である。その際には、「出口」をどのようにイメージするかということが大きな課題となる。
その上で、イノベーションを創出するために、「出口」を含む将来ビジョン(※)の実現に向けたハイリスク・ハイリターン研究をはじめとする基礎研究等を強化していくことが必要不可欠である。(研究開発を進めるに当たっては、プロセスを硬直的なものにせず、イメージする「出口」を目指すことが重要。)
また、新たなイノベーションを生み出し、状況変化に対応できるようにするためには、目的や実施期間を明確にした研究開発だけでなく、基礎研究の多様性を担保することが不可欠であり、研究者自らが目標を設定して行う基礎研究(サイエンス等)を確保することも重要になると考えられる。また、このようなサイエンス等の基礎研究に関しても国際競争力が求められるとともに、当該研究に携わる研究者には、当該研究の将来の可能性(社会的・科学的意義)などについて説明することや、自らの専門以外の事柄への関心や知見を持つことが求められる。
イノベーションを創出する人材が不足しており、どのように育成するかが課題である。また、その際には、国際社会で伍していける人材を育成することが重要である。
例えば、
などの課題がある。
特に、研究開発成果をイノベーションにつなげたり、融合領域の新しい発想の創出を誘発したりするためには、グローバルなネットワークを形成する必要があり、イノベーションを創出する人材には、世界における研究分野やビジネスの場において伍していく交渉力やコミュニケーション能力、標準語である英語力を身に付けることが不可欠である。また、若手研究者中心に、我が国の相当数の研究者が海外経験できる機会を拡大するとともに、日本に帰って活躍できる仕組みづくりや、優れた海外研究者が日本で活躍できる仕組みづくりが必要である。
新興国等に比べ限られた人的資源や、厳しい財政状況の中での投資を行うにあたっては、低炭素革命などの本当に目指すべき将来ビジョンを選択し、対応すべき領域を見極めて、集中投資することが重要である。
また、集中投資する領域の見極めにあたっては、将来ビジョンを明確にするとともに、その実現に向けてシステムづくりや人材育成、研究開発費、ハード整備などの対応すべき取組も含めて選択・集中することが重要である。また、今後は、競争力モデルが大きく変化する中、これらに柔軟に対応するためのシステムづくりや人材育成への投資をどのように行うかということが、将来のイノベーションにつなげるために重要となる。
科学技術・学術政策局