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資料第2−4号

宇宙線被ばく線量の測定法


[1] 航空機高度における宇宙放射線環境

[2] 放射線(被ばく線量)測定法の原理と検出器

[3] 宇宙線の被ばく線量の測定法


日本原子力研究所

笹本 宣雄


[1] 航空機高度での宇宙放射線環境

  宇宙放射線の構成
宇宙放射線(銀河宇宙線が主)によるもので、陽子及びそれより重い粒子がほとんど
  大気成分との相互作用
大気成分窒素酸素等との相互作用の結果、二次中性子、二次陽子、中間子を生成
二次中性子、二次陽子と窒素酸素核との相互作用(ハドロンカスケードシャワー)、引続き起こる電磁カスケードシャワーにより、宇宙放射線の主成分(中性子、陽子、電子、素粒子)が生成
  飛行高度と各粒子成分による実効線量を右図に示す。
グラフはLUIN-98Fコードを用いた計算値
  線グラフ
  図1.飛行高度と各粒子成分による実効線量
  高度10〜20キロメートルでは中性子による寄与が全体の40〜65%を占める主成分。
残りが光子、電子、陽子であり、ミューオンとパイオンは全線量の最大数%
  高高度の中性子エネルギースペクトル
10000メートルを超える高度での宇宙線中性子は、概略、低エネルギー成分と高エネルギー成分で構成
低エネルギー成分
1メブ近傍のピークから熱中性子までの中性子。中性子束で全体の80%、実効線量換算で60%
高エネルギー成分
10メブから立上がり、100〜200メブにピークを持ち、1000メブまで分布。
  線グラフ
  図2.超高度での宇宙線中性子スペクトルの例


[2]放射線(被ばく線量)測定法の原理と検出器

放射線(被ばく線量)測定法の原理と検出器の概要図


  気体電離作用を利用する検出器
荷電放射線が検出器内の気体分子を電離した電子と陽イオンを電極に集めて測定する方法
  電離箱
電子の増幅作用なし
封入気体は空気、照射線量の定義に基づく検出器
用途:X線、γ線の照射線量、吸収線量等

  比例計数管
二次電子がさらに気体を電離⇒電子なだれ/一次イオン量に比例した出力パルスを発生
  電子の増幅〜10の4乗
気体はPRガス(アルゴン90%、メタン10%)
用途:α線、β線、中性子

  GM計数管
電子なだれが検出器の陽極全体に展開
  出力パルスは一次電離量とは無関係(放射線の種類、エネルギー情報なし)
気体はヘリウム(またはアルゴンプラス有機ガス(アルコール等)
用途:β線、ガンマ線用サーベイメータ

  発光(シンチレーション)を利用する検出器(1
励起作用(外からエネルギーを加えて、原子の基底状態にある電子を励起状態に持上げる現象)により、物質から蛍光や燐光を発光させ、この光を捉えて放射線を測定する方法
⇒極微弱な光を検出するため、光電子増倍管による増幅

NaI(Tl)
非常に高い検出効率のγ線検出が可能
NaIは潮解性があり、ガラス窓の付いたアルミニウムのケースに密封
  透明度悪く、薄い膜の使用のみ⇒α線、β線には不可
γ線サーベイメータに利用。高い計数効率とバックグラウンドのほとんどない高性能検出器が入手可能

発光(シンチレーション)を利用する検出器(2

有機液体シンチレータ
トルエンなどの溶媒中にPPOなどの用材を溶かしこんだもの
測定試料を直接シンチレータに溶かし込む方式
  幾何学的検出効率100%
  線源の自己吸収、後方散乱、検出器窓による吸収の問題点はすべて解消
トリチウム炭素14など低エネルギーβ線計測に最適
トリチウムの唯一の高感度測定手段)

プラスチックシンチレータ
水素と速中性子の散乱反応からの反跳陽子によるシンチレーションを検出
極めて短時間で発光
⇒高い計数率での計測が可能

半導体検出器⇒宇宙放射線場での使用は不可(宇宙線による放射線損傷など)
{割愛}

熱蛍光線量計(TLD)
原理:ある種の結晶に放射線を照射後、数100ドに加熱すると、吸収線量に比例した蛍光を発生。これを光電子増倍管で増幅の上測定。
用途:γ(X)線、β線による吸収線量及び熱中性子の測定
特徴:
    広い測定可能な線量範囲⇒10マイクロシーベルト〜数シーベルト
    アニーリング(加熱)により繰り返し使用可能
    フッ化リチウム酸化ベリリウム四ホウ酸リチウム ; 低実効原子番号
    硫酸カルシウム:ツリウムケイ酸マグネシウム:テルビウム他 ; 高実効原子番号

  その他の検出器

フィルム線量計(フィルムバッジ)
原理:放射線で写真用フィルムを照射
⇒フィルムが黒化。その黒化度から照射線量を評価
構造:フィルムバッジ⇒放射線用高感度フィルムをアルミ箔等の遮光用シートで密封しケースに収めたもの
特徴:
    β線、γ線を個別に測定。熱中性子、速中性子の測定が可能
    現像済フィルムは保存でき、記録として残すことが可能
    γ線の検出限界が100マイクロシーベルトと比較的高い(短所)

固体飛跡検出器
原理:1水素かっこn,nかっことじpによりコンバータで生成する反跳陽子がプラスチック表面に傷をつける。生じた傷を水酸化カリウム水酸化ナトリウム等を用いてエッチング処理し、エッチピットとして顕微鏡観察により測定
用途:速中性子による個人被ばく線量測定(50ケブ〜10メブの中性子に感度)
構造:ポリカーボネートやADC(Allyl Diglycol Carbonate,通称名CR39)プラスチック表面に含水素系ポリエチレン等のコンバータを密着したもの

  中性子測定法(1

反跳陽子法
速中性子と水素原子との弾性散乱による反跳陽子を検出:水素(n,n)p
水素ガス比例計数管⇒速中性子
液体シンチレータ、プラスチックシンチレータ⇒速中性子

荷電粒子検出法
低速中性子と物質との相互作用により放出される荷電粒子を検出
核反応の種類と検出器
  ボロン10かっこn,αかっことじリチウム7   三フッ素ホウ素比例計数管 ⇒熱中性子
  ヘリウム3かっこn,pかっことじトリチウム   ヘリウム3比例計数管 ⇒熱中性子
  リチウム6かっこn,αかっことじトリチウム   リチウム6シンチレータ ⇒熱中性子

  中性子測定法(2

放射化法
中性子による物質の放射化量を測定⇒中性子束の測定
  金197(n,γ) 金198⇒熱中性子
  しきい放射化検出器〔硫黄32かっこn,pかっことじリン32アルミニウム27かっこn,かっことじナトリウム24等〕⇒速中性子
    複数種類の検出器の測定値から、アンフォルディング法により速中性子スペクトル評価

その他の方法
レムカウンター:熱中性子検出器部を厚さ10センチメートル程度の球形ポリエチレン減速材で覆ったもの。検出器のエネルギー特性を1センチメートル線量当量換算係数に合わせてあり、線量当量率の直読が可能。熱中性子検出器は、三フッ素ホウ素比例計数管、 ヘリウム3比例計数管、リチウム6シンチレータなど。
多減速材付検出器(ボナー球スペクトロメータ):厚さの異なる球形ポリエチレン減速材を用いて3ヘリウム比例計数管などにより測定したデータから、アンフォルディング法により中性子スペクトルを評価。


[3]宇宙線の被ばく線量の測定法

宇宙飛行士の被ばく線量測定
ジェミニ衛星: フィルムバッジ、TLD、ポケット線量計(電離箱)
アポロ宇宙船: TLD、プラスチック固体飛跡検出器
スカイラブ: フィルムバッジ、プラスチック固体飛跡検出器、TLD、電離箱

AIR(Atmospheric Ionizing Radiation)で使用の主な放射線検出器
多減速材付比例計数管
  放射線束、エネルギースペクトル、吸収線量、線量当量など
電離箱
  γ線、電子(プラスマナス)、ミュオン(プラスマナス)の吸収線量
TLD(酸化アルミニウム
  γ線、電子(プラスマナス)、ミュオン(プラスマナス)の吸収線量

参考文献
  1) 藤高和信:「宇宙線に起因する放射線被曝」保健物理、27、49(1992)

  2) Goldhagen P.:“Overview of Aircraft Radiation Exposure and Recent
ER-2 Measurements”,Health Physics,79,No.5(2000)



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