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4. 「脳科学と教育」研究において取り組むべき研究領域

(1)

教育の役割に応えるための研究

   先に掲げた教育の役割に応えるため、「脳科学と教育」研究において重点的に取り組むべき研究領域としては、以下のものがあげられる。

1注意力、意欲の増進や動機づけ、創造性の涵養に関する融合的研究
   注意力、意欲、動機づけ、創造性の涵養に関する融合的研究では、以下の課題が取り組むべきものの例としてあげられる。

      1 乳幼児・学齢期児童の「注意」の発達に関連する脳活動の非侵襲計測
2 乳幼児・学齢期児童の「意志・行動決定」の発達に関連する脳活動の非侵襲計測
3 「直感」や「洞察」に関連する脳活動の特徴解明
4 「情動」の発達に関連する脳活動の特徴解明
5 「学習時・問題解決時の脳活動」の個人差の特徴解明
6 「脳内報償系」*の非侵襲計測による解明
7 「脳内報償系」の作動の仕組みやその発達にともなう変化などの実験動物などにおける解明
8 「模倣」の脳の内部における仕組みの解明
9 「心の理論」(theory of mind) に関する非侵襲計測による解明
10 科学・芸術・文化で独創的業績をあげた人の脳の非侵襲計測による特徴解明

   *( 注釈):脳内報償系
行動結果に対する報償 (reward) として快感を生じさせる脳の機能をいう。
ドーパミンなどの神経伝達物質が関与し、記憶などの効率が高められる仕組みが解明されつつある。動物では、餌や快感などの報償を求めて繰り返す行動が観察されているが、人では、褒められることや名誉なども報償の範疇に入る。

2教育課程・教育方法などの開発のための知識の集積に関する融合的研究
   学習に関わる脳機能発達の基本的な仕組み、感受性期(臨界期)の有無、時期及びその開始・終止の仕組みの解明とそれから示唆される効果的な教育課程の編成に関係する課題では以下の課題が取り組むべきものの例としてあげられる。さらに、これらの脳科学における研究成果を教育課程・教育方法などに応用する橋渡しとしての研究が必要であり、教育に応用した際の客観的評価を行う必要がある。この評価方法についての研究も欠かせない。このような応用・評価を含め、常に脳科学研究者と教育の場との双方向のやりとりが重要である。

      1  乳幼児・学齢期の人の一次的感覚機能(立体視、運動視、聴覚、体性感覚など)の発達と感受性期(臨界期)の解明
2 乳幼児・学齢期の人の高次脳機能(読み書き、計算、言語など)の発達と感受性期(臨界期)の解明
3 脳の「領域特異性」あるいは「全体的発達」の有無の解明
4 乳幼児・学齢期児童の「記憶」と「健忘」の特徴の解明
5 論理的推論の発達と脳内機構の特徴の解明
6 その他、情動、情緒などの脳機能の発達と感受性期(臨界期)の有無の解明
7 感受性期(臨界期)の基礎にあるシナプス過剰形成・刈り込みなどの仕組みの解明のための実験動物などを使った研究
8 感受性期(臨界期)が開始、終止する仕組みの解明のための実験動物などを使用した研究
9 人の大脳皮質各領野における髄鞘化の時期の非侵襲計測による解明
10 人の大脳皮質各領野における髄鞘化が、脳機能に及ぼす効果についての非侵襲計測による解明
  101 人の大脳皮質各領野における髄鞘化時期に関する遺伝因子と環境因子の関係の解明
102 学習の基礎となる人の記憶の仕組みの解明
103 様々な教育方法が脳機能に与える影響に関する非侵襲計測による解明
104 知識、概念形成、思考、創造力の学習過程に関する脳の仕組みの解明
105 教育効果の脳科学に基礎をおいた客観的把握方法の開発
106 学習意欲に関連する脳機能の解明
107 性差に基づく脳機能の差異の解明

3生涯学習の推進と高齢期における脳機能の低下への対応に関する研究
   生涯学習の推進や高齢期における生き生きとした生活を容易にするという課題に関しては以下の課題が取り組むべきものの例としてあげられる。

      1 学習時に成人脳に生じる変化の非侵襲計測による解明
2 成熟動物の脳機能の可塑性に関する実験動物などを使った研究。特に、可塑性を増大するような刺激あるいは脳内物質の解明
3 学習時に高齢者の脳に生ずる変化の非侵襲計測による解明
4 特に学習能力に優れた優秀高齢者脳の特徴の解明
5 学習に関係する記憶の仕組み(作業記憶を含む)の解明と機能維持に関する研究

4脳機能障害の解明と脳機能に障害のある人々の社会参加を目指す教育・療育の推進に関する研究
   脳機能に障害のある人々について、その障害についてより詳しく理解し適切な教育・療育を推進するための研究に関しては、以下の課題が取り組むべきものの例としてあげられる。

      1 障害のある子どもの機能獲得の仕組みに関する研究
2 視覚または聴覚に障害のある子どものコミュニケーション能力の発達に関する研究
3 すでに効果の認められている指導法などについて、脳科学の側面から効果発現の仕組みを解明する研究
4 発達障害のある児童生徒のコミュニケ−ション機能の発達、及び代替コミュニケ−ション使用時の脳機能に関する研究
5 注意機能とその障害、及びその発達促進や機能補填に関する脳機能の非侵襲計測による研究
6 人における機能訓練の誤用、廃用、過用についての研究
7 痴呆予防に効果のある刺激、運動など、効果的な痴呆予防法の開発
8 リハビリテーションが神経回路の再構築を起こす仕組みの解明とそのような刺激を使用した損傷中枢神経機能の回復促進方策の開発
9 中枢神経細胞、脳脊髄神経回路の再生の仕組みの実験動物などにおける解明
10 老齢動物のシナプスや脳機能の可塑性低下を阻止する条件、因子などを明らかにする実験動物などを使った研究
101 上記に関連する問題を解決するための工学的応用開発

 

(2)

教育を取り巻く環境の変化に対応するための研究

   教育は人を取り巻く様々な社会的環境に影響されており、現代の社会は、教育の目的の達成に向けて新しい課題を抱えている。こうしたことから、「脳科学と教育」研究においては、人を取り巻く環境が脳の発達・成長に及ぼす影響を解明することが重要な視点となる。新しい情報通信機器のような新たな環境因子や、さらには食生活の変化、自然・社会体験の減少、少子高齢化社会への移行などを含めた環境の変化と脳機能との関係についての研究を進め、教育が抱える課題の解決を進めていくことが重要である。こうしたことを踏まえつつ、環境の変化と教育の課題という視点から重点研究領域をあげると、次に示すとおりである。

1環境要因が脳機能に与える影響と教育への応用に関する基盤的な研究
   環境要因が脳機能に影響を与え、それが新しい教育の課題を生み出しているものとして、情報化や効率化・簡便化などが意欲や動機づけ、創造性の発達に与える影響などが考えられる。また情報化などによって教育方法や教育課程が影響を受けている。こうしたことを踏まえた環境要因と脳機能への影響に関する研究が重要である。その例として、次のものがあげられる。

      1 環境が脳内報償系の機能の発達と可塑性に与える影響の解明に関する研究
2 意識の発達と環境要因との関係の解明に関する研究
3 高次脳機能の発達と環境要因との関係の解明に関する研究
4 特定分野の学習能力の発達と均整のとれた全人的発達の関係に関する研究

2社会の情報化がもたらす脳機能への影響の解明と教育課題解決への応用
   情報化、コンピューターの発達による情報処理の量や速度の飛躍的な増大、テレビ・ビデオ・ゲームなどの余暇や遊びの変化などが脳に及ぼす影響について研究成果はまだ十分でない。そのため、脳に与える影響に関する学術的な研究と、社会統計的な技法を踏まえた教育の場への応用研究を進めることが重要である。その例として、次のものがあげられる。

      1 乳児におけるテレビ・ビデオ聴取の実態調査や親などの意識調査を含めたコーホート研究*(集団的前方視的研究)
2 ビデオ・テレビなどに早期からあるいは長期にわたってさらされることの脳機能への影響に関する研究
3 過剰刺激や偏った刺激が乳幼児脳に与える影響に関する研究
4 遠隔教育も含め、情報通信機器を用いた新しい教育手法による教育効果に関する研究
5 上記に関連する問題を解決するための工学的応用開発

   *( 注釈): コーホート研究 (cohort study)
統計因子を共有する集団(例えば、同時出産集団など)について観測する研究手
法を指す。集団的前方視的研究(prospective study)と呼ばれることもあり、経時的な定点観測を意味する縦断的研究(longitudinal study)や、追跡調査研究(follow-up study)などとともに使用されることが多い。


3効率化がもたらす脳機能への影響の解明と教育課題解決への応用
   生活習慣の変化や、社会・自然体験などの実体験の減少、仮想体験の増加などが脳機能に与える影響と、それらが教育にもたらす影響に関する研究を進め、教育現場に生かすことが求められる。その例として、次の研究があげられる。

      1 仮想体験の増加と、実体験の不足が脳機能に与える影響の研究
2 過度の利便性向上に伴う脳機能の廃用性退行に関する研究
3 睡眠の取り方や食生活の変化が脳に与える影響に関する研究
4 上記に関係する問題を解決するための工学的研究

4個人化・少子化がもたらす脳機能への影響の解明と教育課題解決への応用
   個人化や少子化によってもたらされるコミュニケーションの希薄化や、子どもに対する親の過剰保護・過干渉などが脳機能に与える影響と、それが教育にもたらす影響に関する研究を進め、教育現場に生かすことが求められる。その例として、次のものがあげられる。

      1 愛着行動の見られない子、言語遅滞のある子どもの高次脳機能計測による研究
2 人の言語獲得に関する発達的研究
3 顔認知など他者理解の発達に関する研究
4 他者認知と「心の理論」の発達に関する研究

5社会における過剰なストレスがもたらす脳機能への影響の解明と教育課題解決への応用
   社会生活、学校生活などにおける過剰なストレスが脳機能に与える影響を解明し、ストレス下で脳を健全に発達させる研究や、こころの問題に対する対応のあり方、生活習慣、仕事に対する取り組み方の脳への影響の研究など、現場への応用を進めるための研究が重要である。また、虐待やいじめ、不登校などについては妊娠時からの調査が必要であるといわれている。こうした研究の例として、次のものがあげられる。

      1 産後うつ病などの研究ともあわせた実態調査
2 ひきこもり・不登校児の脳機能の解明に関する研究
3 行為障害のある子どもの報償系の研究
4 脳のストレス耐性の仕組みの解明に関する研究(遺伝子発現の研究を含む)
5 虐待・暴力が子どもの脳に与える影響に関する研究
6 長時間の緊張によって成人脳に生ずる変化の非侵襲計測による研究

6高齢化社会がもたらす脳機能への影響の解明と教育課題解決への応用
   高齢者の場合を中心に加齢が脳機能に与える影響を解明し、脳機能の維持や回復、痴呆の予防と回復への応用、高齢者の学習を支援するための方法などに応用するための研究が求められる。その例として、次のものがあげられる。

      1 中枢神経回路の再生の仕組みの解明に関する研究
2 リハビリテーションが神経回路の再構築をおこす仕組みの解明に関する研究
3 視覚または聴覚に障害のある高齢者のコミュニケーション能力の回復に関する研究
4 上記の応用に関する工学的研究開発

7化学物質の脳機能への影響の解明と教育課題解決への応用
   化学物質による障害に対応するため、有害物質や内分泌撹乱作用を有すると疑われる化学物質などが脳機能に与える影響の解明と、障害の予防と教育・療育などに応用するための研究が重要である。その例として、次のものがあげられる。

      1 環境汚染、内分泌撹乱作用を有すると疑われる化学物質などの胎児・乳児脳への影響に関する研究
2 超音波断層撮像装置などを用いた胎児行動の観察及び脳機能障害の診断技術
3 母体及び胎児脳機能に影響を及ぼす薬剤・化学物質などの動物実験による解明
4 学習障害に関係のある遺伝子の解析、及び遺伝子の発現ならびに発現抑制の仕組みの解明

8コミュニケーション能力の育成に関する研究
   コミュニケーション能力の育成課題は多岐にわたるが、例えば顔や表情認知の発達と可塑性、母子相互作用、身体的コミュニケーション機能の発達、言語機能の発達などが対象としてあげられる。具体的課題の例としては次のものがあげられる。

      1 乳幼児における顔、表情認知の発達の発達心理学的手法及び非侵襲計測による解明
2 成人における顔、表情などの認知機構の非侵襲計測による解明
3 コミュニケーション能力の発達の基礎をなす異種感覚(視覚、聴覚、体性感覚など)の統合機能の発達の仕組みの解明
4 身体的接触、話しかけなどの母子相互作用がコミュニケーション能力の発達に及ぼす影響の解明
5 上記の人の研究で得られたデータの意味づけのため、あるいは人では倫理的問題などで実施不可能な研究のための実験動物による研究
6 乳幼児の言語獲得の過程と脳の形態的・機能的発達との関係の解明
7 外国語習得度と習得開始年齢との関係(第二言語獲得の臨界期)の明確化と脳の発達過程の解明
8 その他のコミュニケーション能力発達の発達心理学的あるいは非侵襲計測による解明

9顕在化する学習障害などに対する対応方策の研究
   学習障害への対応では、以下の課題が重要な研究の例としてあげられる。

      1 学習障害などが脳のどの部位のどのような機能障害と関連しているかの解明
2 学習障害などに関与する遺伝子の解明
3 学習障害などに関与する遺伝子がどのような仕組みで学習障害などを起こすかを解明するための実験動物などを使った研究

       (3)

「脳科学と教育」研究を支える研究方法論についての研究

   新たな研究分野である「脳科学と教育」研究を効果的に進めるためには、本研究に適した方法論に関する研究、例えば、社会学、心理学、統計学などを活用した調査手法、あるいは脳機能観察のための手法の開発などに早急に着手することが重要である。また、非侵襲脳機能計測技術の発展が、脳科学の急速な発展に大きく貢献している事実を踏まえ、脳機能計測技術開発の進展を図るとともに、実験心理学や行動科学などの手法も取り入れつつ、得られた情報を理解するための情報処理・解析の手法を開発することも重要な課題である。
   方法論の研究開発の振興は設備投資にも似て、想定される結果と必要性が明確な場合には、早い時機にまとまった投資をするほど高い投資効果が得られる。開発成果によって応用分野が広く進展し、また、より長期間にわたって投資成果を活用できるからである。また、同時に、世界に先駆けた応用研究で分野の先端を走ることができる。
   以上を踏まえつつ、研究方法論からみた重点研究領域をあげると、次に示すとおりである。

1胎児期の行動と脳の計測手法の開発
   人の生涯にわたる教育において、初期の段階での脳の発達の機構や環境が脳に及ぼす影響を調べることは不可欠である。近年、超音波断層法による胎児の行動観察手法が進歩しつつある。また、脳磁場計測や磁気共鳴描画などによる胎児の脳の非侵襲計測の試みも始まっている。このような計測手法の改良や新たな研究方法論の開発が課題である。

2乳幼児から高齢者までの脳の計測手法の開発・応用
   過去約10年間の脳科学研究においては、様々な非侵襲脳計測法が進歩し、成人の脳の活動については多くの知見がもたらされてきた。しかし、こうした計測手法を乳幼児や学童に適用した例はまだ少なく、脳の発達や学習における経時的な変化や環境による影響などを捉えるには至っていない。その原因としては、成人と同様な条件での実験が一般には困難であることによる。したがって、乳幼児や学童などの計測に特化した安全で拘束性の少ない非侵襲脳計測法の開発が必要である。具体的には、脳電位計測、脳磁場計測、磁気共鳴描画、近赤外分光描画などの改良と発展、新たな計測手法の開発があげられる。

3行動、認知、学習などの機能の行動学的・心理学的測定法の開発
   これまで主に心理学において、人の行動や心の働きを定量的に分析する研究が行われていた。近年、そうした研究の一部は脳科学と結びつき、大きな成果をあげつつある。例えば、成人において、統制された条件下で測定される知覚、運動、言語、思考、記憶、注意、意識、情動などの行動学的・心理学的指標と脳活動との関連が明らかにされつつある。成人と同様な手法を用いた研究は、最近、学齢期の児童や高齢者でも試みられつつあり、今後、多くの知見が得られる可能性がある。新生児・乳児については、実験の指示を与えることができないため、成人での実験手法とは異なる行動の計測や評価が行われてきたが、それらが脳の計測と結びついた研究は非常に限られている。したがって、乳幼児の行動の発達の評価法、学齢期児童の学習の評価法、高齢者の能力の評価法などの改良や開発が、重要な課題としてあげられる。

4脳の発達と学習に関する理論的研究の推進
   教育における学校制度や効果的な教育課程などは、人の発達の基本的な特性によって裏づけられることが望ましい。発達の基本的な機構に関しては、領域固有性(例えば、運動機能と言語機能は独立に発達する)と領域一般性(感覚運動のような基本的な機能から認知言語のような高次機能へと発達が全体として段階的に進む)という二つの説の間での論争がある。また、発達には個性があり、発達のしかたも個人によって多様であるという考え方もある。こうした問題を研究するには、脳活動の計測や行動学的・心理学的測定に加えて、脳の発達過程での変化や脳全体の統合的な働きなどを説明する理論やモデルの構築が必要である。例えば、動的システム論や神経回路網モデルの構築、発達の個性や多様性を説明する複雑系理論などがあげられる。

5脳関連遺伝子の解析とその発現に関する研究
   学習障害などの発達障害の原因を特定するには、遺伝的要因と環境的要因の双方の検討が必要である。したがって、発達障害に関係する遺伝子の解析とその発現の機構の解明が必要である。

6教育学・社会学・脳科学における統計手法の開発
   多くの要因が関連する実験や調査からある結論を導くには、統計的な処理が必要である。しかし、統計手法の適用方法、あるいは、統計手法自体について様々な問題点が指摘されている。特に、コーホート研究に必須なデータ処理と統計手法の開発などが重要である。また、単純な平均化によって多様性を排してしまわず、個性を抽出できるような手法の開発も重要である。

7脳の発達に影響を及ぼす環境要因の分析
   化学的環境、情報的・社会的環境、近未来の仮想環境などが脳の発達に及ぼす影響を知る上で、人間を取り巻く環境自体の分析が必要である。例えば、情報通信機器の開発に携わる産業界と連携した研究などがあげられる。

8「脳科学と教育」研究に関連すると考えられる動物実験の推進
   「脳科学と教育」研究には、直接人間で調べることは難しいが、動物を用いた実験によって本質的な理解が得られると期待される課題があると考えられる。例えば、特定の化学物質が神経回路網の構築に与える影響や、感覚剥奪などの対照実験による臨界期の機構の解明などがある。動物実験の実施にあたってはいうまでもなく、実験動物に対する倫理的問題などに対しても、十分に配慮されるべきである。


  (4) 「脳科学と教育」研究の戦略的取組

   以上に述べてきたように、教育における課題には、より本源的な「教育における役割」と「教育を取り巻く環境の変化」に由来するものがあり、それらは互いに関連し合っているが、それら教育の場からの課題の提示に対して、脳科学などが如何なる貢献ができるかとの観点からの検討を行うことにより、「脳科学と教育」研究の目標を定め、それらを受けてより具体的な研究領域を設定した。これらをまとめると表1のように、「脳科学と教育」研究について俯瞰することができる。
   また、これらの研究領域に関し、緊急性(社会的な意義、脳科学などの進捗状況などの視点)と重要性(教育の改善、福祉の向上及び経済的な効果の視点)について基礎的な検討を行い、この検討結果を踏まえ、戦略的に集中して取り組むべき時期を表2のとおり取りまとめた。今後、これに従って重点的な研究開発を推進することが重要である。また、「研究方法論」については、これらの研究領域を支える基盤となる研究であり、いずれも早期に着手すべき課題である。
   なお、集中して研究に取り組むべき時期については、今後の教育の場における課題の状況や、研究の進捗状況に応じて、適切な見直しを行うことが重要である。


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