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第1章 法制問題小委員会

第3節 契約・利用ワーキングチーム

1  検討の概況

   契約・利用ワーキングチームでは「著作権法と契約法(いわゆる契約によるオーバーライド)」について、以下の観点から検討を行った。
 著作権法において、どのような場合にあってもそれをオーバーライドする契約が無効であると言えるような権利制限規定(いわゆる強行規定)が存在するか。
 権利制限規定も契約の無効を判断する要素の一つとしつつ、いくつかの要素から判断して「一般的に」無効となると考えるべき契約としてどのようなものがあるか、また、権利制限規定以外の判断要素としてはどのようなものが考えられるか。
 以上の諸要素を確定させた上で、契約の有効性に関する判断についての立法的対応が必要か。
   検討にあたっては、著作権法をオーバーライドしている例が実際にみられる契約をとりあげ、個々の条項について、著作権法との関係ではどのような観点から問題になりうるか、また、これら条項に係る契約の有効性を判断する要素としてどのようなものが考えられるかについて議論を行い、次に、これらの結果を踏まえ、一般論として、著作権法と契約の関係についてどのようなことが言えるかを検討するという手順を踏んだ。
 オーバーライドが見られる契約の事例としては、具体的には、ソフトウェア契約、音楽配信契約、データベース契約、楽譜レンタル契約の4つを取り上げ、検討を行った。また、オーバーライドを可能な限り広い意味で捉えることとし、第30条以下の権利制限規定をオーバーライドするものの他に、そもそも著作権により保護されないものの利用を契約により制限すること等も含め、検討を行った(検討内容の詳細は『文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 契約・利用ワーキングチーム検討結果報告』(平成18年7月 文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 契約・利用ワーキングチーム)参照)。

2  検討結果

 
(1) 著作権法と契約の関係

   今回の検討の対象としたソフトウェアや音楽配信、データベース、楽譜レンタルに関する契約にみられる条項について言えば、著作権法の権利制限規定に定められた行為であるという理由のみをもって、これらの行為を制限する契約は一切無効であると主張することはできず、いわゆる強行規定ではないと考えられる。これらをオーバーライドする契約については、契約自由の原則に基づき、原則としては有効であると考えられるものの、実際には、権利制限規定の趣旨、ビジネス上の合理性、ユーザーに与える不利益の程度、及び不正競争又は不当な競争制限を防止する観点等を総合的にみて個別に判断することが必要であると考えられる。
 また、今回は個別の権利制限規定について具体的な検討はしなかったものの、例えば、第32条の引用や第42条の裁判手続き等における複製の規定についても、これらをオーバーライドするあらゆる契約が一切無効であるとまでは言えず、この意味で強行規定ではないと考えられる。ただし、各権利制限規定が設けられている根拠には必要性や公益性という点で濃淡があり、これらは公益性の観点からの要請が大きいことから、オーバーライドする契約が有効と認められるケースは限定的であると考えられる。
 強行規定ではないと考えられる規定をオーバーライドする契約の有効性を判断するにあたっては、ビジネスの実態全体をみて、制限の程度・態様やその合理性、関連する法令の趣旨等を考慮する必要があるため、いくつかの要素を特定してある類型について「一般的に」その有効性を判断することは困難である。
 なお、実際に無効を主張する際には、前述したような様々な観点等などを総合的に勘案して行った価値判断に基づき、例えば、民法や消費者契約法の規定を根拠に対応することが考えられる。

(2) 立法の必要性

   著作権法をオーバーライドするような契約条項の有効性の判断に関し、今回検討したようなケースに関する権利制限規定は、強行規定ではないと考えられるが、これらの解釈については、一律の基準によるのではなく、個々の実態に即し柔軟に行うことが求められる。
 したがって、現行著作権法上において直ちに立法的対応を図る必要はないと考えられ、この契約による著作権法のオーバーライドの問題については、今後の議論の蓄積を待つことが適当であると考えられる。

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