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第3節 アジア諸国等との連携の強化及び海賊版対策の在り方について

1 アジア諸国等との著作権分野における連携の状況

(1)アジア諸国等の著作権制度及び条約の批准状況
 アジア諸国等の著作権法規整備の状況を見ると,ラオス以外の国・地域においては一応の著作権法制の整備がなされており,ほとんどの国・地域では1994年以降WTO加盟の段階で何らかの改定がなされている。イラン,ミャンマー等でも「知的所有権の貿易的側面に関する協定(TRIPS協定)」の内容を担保する形での国内法改定が,現在進められているところである。
 ベルヌ条約には世界160カ国,万国著作権条約パリ改正条約には99カ国が批准しているが,インターネット時代に対応するWCTの当事国は56カ国にすぎず,アジア地域での当事国は,日本,インドネシア,フィリピン,モンゴル,韓国,シンガポールの6カ国にとどまっている。(2005年11月30日現在)
 また,ローマ条約の当事国は82カ国であるが,WPPTの当事国は55カ国であり,アジア地域の当事国はフィリピン,日本,モンゴル,インドネシア,シンガポールの5カ国のみである(2005年11月30日現在)(参考資料3-4参照)。

(2)著作権分野における我が国とアジア諸国等との関係

1APACEプログラム
 我が国は,アジア・太平洋地域における著作権制度の整備と執行を促進することを目的として,1993年度から毎年,世界知的所有権機関(WIPO)に信託基金を拠出し,WIPOの協力を得て,シンポジウム,セミナー,研修プログラム等を行う「アジア地域著作権制度普及促進事業(APACEプログラム)」を実施してきた(参考資料3-3参照)。
 具体的には,1著作権関係者を対象とした研修プログラム,2アジア諸国への専門家派遣プログラム,3アジア諸国を対象とした国際シンポジウムの開催等を通じて,著作権法制の整備や,権利侵害取締りの強化,著作権集中管理団体の育成等を行っている。

2自由貿易協定(FTA)・包括的経済連携協定(EPA)審議に向けた交渉
 自由貿易協定(以下「FTA」という。)及び包括的経済連携協定(以下「EPA」という。)締結については,これまでに2002年1月にシンガポールと,2004年9月にメキシコとの間でEPAを締結した。アジア諸国との協定交渉については,2003年12月の第1回日韓経済連携協議を皮切りに,タイ,マレーシア,フィリピンとも本格交渉に入っている。フィリピンとのEPAについては2004年11月に主要点が大筋合意され,さらに2005年5月には,マレーシアとの間で大筋合意に達した。また,ASEAN(アセアン)全体やインドネシアとの協定についても,交渉が開始されている(参考資料3-2参照)。
 これらの相手国は,我が国と知的財産分野において密接な関係を有していることから,これらの協定の交渉において,我が国からは,相手国による著作権関連条約の早期批准,インターネットに対応した著作権法制の整備,権利執行の確保等の著作権保護の強化を求めている。

3政府間協議(日中,日韓,日台)
 近年我が国は,著作権等の侵害事例が多く発生している中国等を対象として政府間協議を実施し,海賊版対策の強化を要請してきた(参考資料3-3参照)。
 中国との政府間協議では,2003年及び2004年に「日中著作権協議」を東京及び北京で開催しており,2005年10月には東京において,第3回協議を開催したところである。また,「日中経済パートナーシップ協議」などの場においても要請している。
 韓国との間では,2002年から「日韓文化交流局長級会議」において要請しており,また,台湾については,2002年から毎年「日台貿易経済会議」において,要請してきている。

2 アジア諸国等における海賊版対策の状況

(1)アジア諸国等における海賊版の状況
 最近,アジア諸国等において,日本のアニメや映画,音楽などのコンテンツが多くの国々で流通するようになっている。その一方で,アジア諸国等を中心に我が国の著作物などの海賊版が大量に出回っている。
 2004年の国際レコード産業連盟(IFPI)の調査によれば,レコード・CD等の権利侵害状況は,韓国において市場の16パーセント,台湾においては36パーセント,香港では19パーセント,中国では市場の85パーセントが海賊版によって占められているとされている(参考資料3-3参照)。また,特にブロードバンドの発達した地域においては,ディスク等の有体物にコンテンツが収録された形態の海賊版のみならず,インターネットを介したコンテンツの違法利用が急増していると言われている。
 このような権利侵害は,日本の著作権者等が当然得られるべき経済的利益の損失であり,著作者の創作意欲を減退させ,また文化交流促進の妨げとなるものである。
 そればかりではなく,アジア諸国等の当該国自身の文化・経済の発展を阻害する要因となると考えられる。

(2)我が国のこれまでの取組み
 アジア諸国等における海賊版の問題に関しては,2002年3月に政府内に設置された「知的財産戦略本部」において,「模倣品・海賊版対策の強化」が継続的に取り上げられている。2004年5月には,当該問題に対する国際社会における関心の高まりや,対策の強化を求める権利者や産業界等からの声を受け,「模倣品・海賊版対策加速化パッケージ」が取りまとめられた。
 2005年6月に策定された「知的財産推進計画2005」においては,模倣品・海賊版に対する外国市場対策として,侵害状況調査結果に基づき侵害発生国等に対し,二国間,多国間の枠組みや欧米等との連携のもとに,海賊版対策の強化を要請していくことが提言された。さらに,「模倣品・海賊版拡散防止条約」を国際社会に向けて提唱し,実現を目指すことも求められている。我が国は,2005年7月にグレンイーグルズで開催されたG8サミットにおいても,模倣品・海賊版対策について主張し,同サミットでは「効果的な権利執行による知的財産の海賊版・模倣品の削減」について特別声明が採択された。さらにAPEC(エイぺック)では,日米韓がアジア地域における知的財産権の保護に関する取組として共同提案した模倣品・海賊版対策イニシアティブに基づき,2005年11月にモデルガイドラインが合意された。
 また,模倣品・海賊版対策関係省庁連絡会議は,2005年6月に「知的財産保護協力・能力構築支援戦略」をとりまとめた。この戦略に基づき,関係省庁はアジア諸国等の著作権関係の政府機関や取締機関等の職員に対する能力構築支援をより戦略的に実施していくこととされている。
 なお,文化庁及び経済産業省が支援するコンテンツ海外流通促進機構(CODA)の構成メンバーが,海外の取締機関と連携し,中国等において,著作権に基づく権利執行を実施し,2005年の1月から4月の間に,日本のコンテンツに関する権利侵害として107件を摘発し,59名の逮捕及び海賊版DVD約70万枚の押収などの成果をあげている。

3 アジア諸国等との連携の強化及び海賊版対策への対応の方向性

(1)侵害国等に対する働きかけ
 我が国は,これまで,中国,韓国,台湾といった侵害発生国等に対して,二国間協議などの場を通じて,著作権法制の整備及び権利執行の強化を働きかけてきた(参考資料3-3参照)。今後,これらの活動をさらに実効あるものにするとともに,他のアジア諸国等に対しても,海賊版対策の強化を要請していくことが必要である。また,韓国,台湾との間でも,著作権に特化した二国(地域)間協議を開催し,情報を共有しながら,実効性のある海賊版対策を進めていくことが必要である。
 また,今後EPAやFTA策定への協議の場において,1WCT及びWPPT等の著作権関連条約の早期批准,2WCTやWPPT上の要請に基づき利用可能化権,技術的保護手段,権利管理情報等の規定を整備すること,3著作権管理団体への支援,適切な権利執行の確保などを引き続き要請していくことが必要である。

(2)アジア諸国等における著作権制度及び著作権思想の普及への支援
 当該地域における著作権制度の一層の普及を図ることを目的として,文化庁は,「ASEAN+3(アセアン プラス スリー)著作権セミナー(東京セミナー)」や「JICA(ジャイカ)著作権制度集団研修」を継続的に実施していくとともに,WIPOへの拠出金によるAPACEプログラムの実施にあたっては,各国等の状況に応じた事業を実施することが求められている(参考資料3-3参照)。
 また,海賊版の問題を根本的に解決するためには,アジア諸国等における一般の人々の著作権に関する意識を高めていくことが不可欠である。このため,我が国が主体となって,著作権の意義,保護の必要性などについて分かりやすく説明した著作権教材などを作成・配付するとともに,同教材を用いた著作権教育のセミナーを開催するなど,一般の人々の意識啓発事業に対する支援を行うことが重要である(参考資料3-3参照)。その際に,アジア諸国等で親しまれている我が国の漫画やアニメなどを活用するなどして,さらに幅広い人々への普及に努めることが望ましい。

(3)我が国の権利者による積極的な権利行使の支援について
 海外における著作権侵害については,基本的には,それぞれの権利者が主体的に侵害実態の把握や訴訟の提起などを行うことが必要であるが,政府としても,アジア諸国等における権利行使に関する情報を提供するマニュアルを作成するとともに,そのマニュアルを活用して,国内外で我が国の権利者を対象としたセミナーを開催するなど,権利者の権利執行を支援することが重要である(参考資料3-3参照)。

(4)官民の連携の一層の強化
 実効性ある海賊版対策を実施していくためには,官民の連携が不可欠である。今後文化庁は,国際知的財産保護フォーラム(IIPPF),コンテンツ海外流通促進機構(CODA),コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)などの民間団体,さらに日本貿易振興機構(JETRO)などと連携しながら,官民合同対中ミッションに参加したり(参考資料3-3参照),官民合同でのシンポジウムやセミナーを開催したりするなど,官民が一体となった取組みをさらに強めていくことが重要である。

(5)欧米などとの連携の強化
 アジア諸国等における海賊版問題に関心を持つ米国,EU及び国際的な権利者団体と海賊版対策に係る経験やノウハウを共有し連携して対策を講じることが必要である。
 現在,米国は官民の密接な連携の下,中国等の東アジア諸国等における海賊版対策を強化し,一定の効果を上げている。2003年には,日米規制改革イニシアティブにおいて日米が協力して,アジア地域における海賊版対策に取組むことが合意されており,また最近では政府横断的な組織で知的財産保護対策を推進するために開始された「STOP!イニシアティブ」においても日本の協力を求められるなど,世界各国とも連携した活動を目指している。米国が日韓とともに共同提案し,モデルガイドラインが合意されたAPEC(エイペック)の模倣品・海賊版対策イニシアティブについては,我が国としても,引き続き米国に協力を求めることとしている。
 EUとは,2004年の日EU定期首脳協議で日EU連携して,アジア諸国等の海賊版対策に取り組むことが合意されており,2004年10月に中国において,「中国における知的財産権保護に関する日・EU・中国共同セミナー」を開催したところであり,今後,EUとの間でアジア諸国等での海賊版対策に関する協議を行っていくことが必要である。
 その他,WIPO,ユネスコ等の国際機関における著作権関係の議論においても,我が国が積極的に関与していくことが望ましい。



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