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第6節 裁定制度の在り方について
(著作権分科会 契約・流通小委員会)

1 はじめに

 平成17年1月に文化審議会著作権分科会が取りまとめた「著作権法に関する今後の検討課題」において,「裁定制度の在り方」については,「法制問題小委員会における検討に先立ち,契約・流通小委員会において,著作物の利用を促進する観点から,権利者の保護の観点にも留意しつつ検討を行うことが適当である」とされた。
 契約・流通小委員会は,この要請を受け裁定制度について検討を行ったので,以下のとおり報告することとする。
 なお,我が国の「裁定制度」は特別の場合に権利者に代わって文化庁長官が利用の許諾を与えるという制度であり,これは国際著作権関係条約の「強制許諾(Compulsory License:特定の場合に,事前に権限ある機関又は著作者団体に申請し,当該機関・団体が許諾を与えることで,著作物等を利用することができる制度)」に位置付けられるものであることから,契約・流通小委員会においては,主に我が国著作権法上の強制許諾制度に限定して検討したものである。

2 現行制度

(1) 著作権者不明等の場合の裁定(第67条)

  1制度の内容
 著作権者不明等の理由により,相当な努力を払っても,著作権者に連絡できないときに,文化庁長官の裁定により,補償金を供託し,著作物の適法な利用を可能とする制度である。
 補償金については,通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額であり,額の決定については,文化審議会に諮問しなければならない(第71条)。
 なお,裁定を受けて作成した著作物の複製物には,裁定に基づく著作物である旨及び裁定のあった年月日を表示しなければならない(第67条第2項)。

2制度の沿革
 この制度は,公衆の需要があるにも関わらず,著作物の適法な利用手段がないことは,社会公益の見地において適切でないことにより設けられたものである。  明治32年の旧著作権法制定時に,著作権者不明の未発行又は未興行の著作物を一定の手続を経て,発行又は興行することができる旨の規定が設けられた。その後,昭和9年の改正時に,著作権者の居所不明その他の理由により,著作権者と協議することができないときに,主務大臣に補償金を供託して,著作物を発行又は興行することを可能とする規定が設けられた(旧著作権法第27条)。
 昭和45年の現行法制定時に,この裁定制度の対象となる著作物の範囲が見直された。旧著作権法が公表,未公表の著作物を対象としていたのに対し,現行法では,公表された著作物(「相当期間にわたり公衆に提供され,若しくは掲示されている事実が明らかである著作物」を含む)のみを対象とした。これは,著作者は公表権を有していることから,未公表の著作物を裁定により利用することは,公表権の侵害となる可能性があるためである。

3制度の運用実績
 現行法の制定以来,現在まで30件の運用実績がある。もっとも多い利用方法は出版であり20件である。また制度発足後しばらくの間は,1件の申請につき,裁定を受ける著作物の数も限られていたが,最近は,国立国会図書館が明治期から昭和初期にかけての所蔵資料のデータベース化を積極的に行っており,多数の著作者の多数の作品のCD−R,DVDの作成やネット配信に係る申請が増えている(国立国会図書館関係5件)。なお,補償金の額については,利用する著作物が1つの場合は,おおむね数千円から数万円の間であるが,著作物が多数である場合は合わせて数十万円から数百万円になることがある。


(2) 著作物を放送する場合の裁定制度(第68条)

  1制度の内容
 公表された著作物について,放送事業者が著作権者に協議を求めたが,その協議が成立しない又はその協議をすることができないときは,文化庁長官の裁定により,補償金を支払って(又は供託して)著作物の適法な放送を可能とする制度である。
 なお,著作権者がその著作物の放送の許諾を与えないことについてやむを得ない事情があるときには,裁定をしてはならないことになっている(第70条第4項第2号)。
 また,裁定に基づき放送される著作物について,有線放送,受信装置を用いた公の伝達が可能となる。ただし,この場合,有線放送又は伝達を行うものは,通常の使用料の額に相当する額の補償金を支払わなければならない(第68条2項)。
 補償金の額の算定については,著作権者不明等の場合の裁定の場合と同様である(第71条)。

2制度の沿革
 この制度は,昭和6年の旧著作権法の改正時に,放送の公共性を考慮し,著作権者の許諾拒否に正当な理由がない場合に,放送事業者の著作物の放送利用を認めるために設けられた(旧著作権法第22条の5)。立法当時の背景としては,1放送事業者は日本放送協会のみでその公共性が強調されていたこと,2昭和6年改正の前提となったベルヌ条約ローマ会議で決定された規定(ローマ規定第11条の2)に同種の制度が織り込まれていたことがある。
 昭和45年の現行法制定時には,著作権行使の実態及び旧著作権法時代の制度の実績から,制度の維持について議論がなされたが,放送の公共性を考慮し,著作権者の権利濫用に対処するための制度として維持されることとなった。

3制度の運用実績
 現行法の制定から現在まで運用実績はない。



(3) 商業用レコードの録音等に関する裁定制度(第69条)
  1制度の内容
 商業用レコード(音楽CD等)が国内において発売され,かつその発売日から3年が経過した場合において,そこに録音された音楽の著作物を録音して,他の商業用レコードを作成することについて,その著作権者に協議を求めたが,その協議が成立しない又はその協議ができないときは,文化庁長官の裁定により,補償金を支払い(又は供託して)録音又は譲渡による公衆への提供を可能とする制度である。
  なお,補償金の額については,利用する著作物が1つの場合は,おおむね数千円から数万円の間であるが,著作物が多数である場合は合わせて数十万円から数百万円になることがある。

2制度の沿革
 この制度は,昭和45年の現行法制定時に新たに設けられた制度である。これは,特定のレコード会社が音楽の著作物の独占的録音権を取得することで(作家専属制),1レコード業界において特定のレコード会社が独占的な地位を形成することを防止すること,21の独占から派生する著作物の死蔵化や利用の大幅な制限を防止すること,3同制度が欧米諸国において採用されていること等にかんがみ,導入された。

3制度の運用実績
 現行法の制定から現在に至るまで運用実績はない。
 なお,日本音楽著作権協会(JASRAC(ジャスラック))の調べによると,第69条の適用を受ける商業用レコードに録音されている音楽の著作物は,これまで約7400曲があったが,同協会の信託契約約款によれば,3年経過毎にJASRAC(ジャスラック)管理として通常の許諾が行われることになっているので,現時点で対象曲は約70曲までに減っている。
 しかしながら,著作権法附則第11条では,現行法が制定された昭和45年以前に国内で販売された商業用レコードに録音された音楽の著作物には,この制度の適用がないことになっているので,同協会においても,旧著作権法時代の楽曲のうち,約14万曲が現在も専属扱いとされている。なお,補償金の額の算定については,著作権者不明等の利用の裁定の場合と同様である(第71条)。


(4) 翻訳権の7年強制許諾(万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律第5条)
  1制度の内容
 我が国が,万国著作権条約に基づき,保護義務を負っている著作物の利用にのみ適用がある制度である。
 具体的には,文書が最初に発行された年の翌年から,7年の間に,権利者の許諾を得て,日本語による翻訳物が発行されていない場合又は発行されたが絶版になっている場合で,1翻訳権を有する者に対し,翻訳し,翻訳物を発行することの許諾を求めたが拒否されたとき,又は2相当な努力を支払ったが,翻訳権を有する者と連絡することができなかったときは,文化庁長官から許可を受けて,公正なかつ国際慣行に合致した額の補償金を払うこと(又は供託)を条件に,日本語により翻訳し発行できることになっている。
 なお,補償金額の算定については,著作権者不明等の利用の裁定の場合と同様である。
 また,上記2の場合については,原著作物の発行者の氏名が掲げられているときはその発行者に対し,及び翻訳権を有する者の国籍が判明しているときはその翻訳権を有する者が国籍を有する国の外交代表又は領事代表又はその国の政府が指定する機関に対し,申請書の写を送付し,かつ,これを送付した旨を文化庁長官に届出なければならないことになっている。

2制度の沿革
 この制度は,万国著作権条約(1952年(昭和27年)成立,我が国は1956年(昭和31年)締結)第5条に基づき,翻訳権の保護の原則の例外的な措置として定められた。

3制度の運用実績
 特例法(万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律)が施行された昭和31年4月以降,現在に至るまでの運用実績は1件である。この1件は米国の論文の発行に係るもので,我が国と米国がまだ万国著作権条約による保護関係にあった昭和47年に裁定が行われたものである。


3 条約との関係

(1) 文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(ベルヌ条約)
  1複製権の制限
 複製権(録音,録画を含む)について,スリー・ステップ・テストと呼ばれる3要件(1特別の場合について,2著作物の通常の利用を妨げず,3その著作者の正当な利益を不当に害しないこと)を満たすとき,国内法令において制限・例外規定を定めることを認めている(第9条第2項)。

2放送権の制限
 放送権については,著作者の人格権及び協議不調のとき権限のある機関が定める公正な補償金を受ける著作者の権利を害さないことを条件に,国内法令において制限・例外規定を定めることを認めている(第11条の2(2))。

3録音権の制限
 録音権については,音楽及び歌詞の著作者と利用者との間に協議が成立しないとき,権限のある機関が定める公正な補償金を受ける著作者の権利を害しないことを条件に,国内法令によって,制限・例外規定を定めることを認めている(第13条)。

4その他
 1967年(昭和42年)のストックホルム会合での合意により,伝達系の権利(公の上演・演奏権,放送権,公の朗読権,音楽の録音権,映画化権等)についても,「小留保(minor rese私的使用,時事の事件の報道に伴う部分的使rvation)」に基づき,国内法令において,制限・例外規定を定めることを認めている。


(2) 実演家・レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約(実演家等保護条約:ローマ条約)
   用,放送機関が自己の手段により自己の放送のために行う一時的固定,教育目的又は学術的研究目的のためのみの使用の4つの行為について,国内法令により,条約が保障する保護の例外を定めることを認めている(第15条1項)。
 また,実演家等の保護の例外については,同条約第15条第1項のほか,著作権の保護に関して国内法令に定める制限と同一の種類の制限について,国内法令により定めることを認めている(第15条第2項)。ただし,強制許諾については,この条約に抵触しない限りにおいてのみ定めることができると規定し(第15条第2項),例えば,実演家の最低限の権利を定めた第7条第1項に抵触するような強制許諾制度は認められない(注126)。
(注126)
 第7条 〔実演家の権利〕
1 この条約によって実演家に与えられる保護は,次の行為を防止することができるものでなければならない。
 (a)略
 (b)略
 (c)次に掲げる場合に,実演家の承諾を得ないでその実演の固定物を複製すること。
 1最初の固定自体が実演家の承諾を得ないで行われたとき。
 2実演家が承諾した目的と異なる目的のために複製が行われるとき。
 3最初の固定が第十五条の規定に基づいて行われた場合において,同条に掲げる目的と異なる目的のために複製が行われるとき。



(3) 著作権に関する世界知的所有権機関条約(WCT)
   複製権及びその他の権利について,ベルヌ条約と同様,スリー・ステップ・テストの3要件を満たすとき,国内法令において制限・例外規定を定めることを認めている(第10条)。


(4) 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)
  1保護の例外
 著作隣接権の保護に関して国内法令で認める制限・例外規定と同一の制限を定めることを認めている(スリー・ステップ・テストの3要件を満たすことが条件)(第16条)。

2実演家等保護条約との関係
 WPPTに加盟していても,実演家等保護条約の加盟国は,同条約の義務を免除されないこととなっている(第1条(1))。



(5) 知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)
  1著作権
 スリー・ステップ・テストの3要件を満たすとき,制限・例外規定を定めることを認めている(第13条)。

2著作隣接権
 実演家等保護条約が認める範囲内でのみ,制限・例外規定を定めることを認めている(第14条第6項)。

4 検討結果

(1) 著作権者不明等の場合の裁定制度(第67条)
  1制度の評価
 この裁定制度については,貴重な著作物を死蔵化せず,世の中に提供し活用させるために有効なものであり,制度は存続すべきである。
 ただし,制度の存続に異論はないものの,制度を有効に活用するためには,制度面や手続面での改善を行う必要があるとの意見があった。

2制度面の問題
  ア 特定機関による裁定の実施
 裁定制度を簡便化するため,例えば,氏名表示が無い写真や著作物の複写等のように頻繁な利用ではあるが,小規模な利用分野において,特定の機関に裁定の権限を委ねるような仕組みを求める意見があった。
 これについては,例えば現行制度においても,著作権に関する登録業務を民間の指定登録機関に実施させる仕組みはあるものの(プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律第5条),裁定のように他人の私権を制限し,他人に代って利用者に許諾を与えるような業務について民間の指定機関に運用を任せるというような制度設計は難しいところであり,慎重に検討すべき課題だと考える。

イ 著作権の制限規定での対応
 一旦許諾を受けて利用したものの限定的な再利用(例えばデータベース化)等特別な場合については,裁定制度ではなく,著作権の制限規定で対応すべきという意見があった。
 これについては,現行の著作権制度においても,たとえ著作権者が不明等の著作物であっても,例えば,私的使用(第30条),教育目的の利用(第33条,第35条等),図書館等における利用(第31条),障害者の福祉の増進のための利用(第37条等)等の著作権の制限規定に該当する場合には,著作権者の許諾なしに利用できるのはいうまでもない。
 しかしながら,例えば,著作物の再利用に限定するとはいえ,商業目的の利用も認める著作権の制限規定を新たに創設することは,国際著作権関係条約や制限規定の趣旨に照らし問題が多いと思われるので,慎重な検討を行う必要がある。
 なお,現行制度の枠組では,このような結論はやむを得ないと考えられるが,インターネット時代における著作物の利用促進という面から,将来的には制限規定の導入を積極的に考えた方がよいという意見があった。

3手続面の問題
 次に手続面の改善であるが,この裁定の手続については,厳格すぎて利用しづらいという意見があり,政府の「知的財産推進計画2004」においてもその見直し等が求められたところである。これについては,文化庁で見直しを行い,不明な著作権者を捜すための調査方法を整理した上で,従来新聞広告等を要求していた一般や関係者の協力要請については,インターネットのホームページへの広告掲載でも可とするとともに,併せて,(社)著作権情報センター(CRIC)では,不明な著作権者を捜す窓口ホームページを開設したところである。なお,裁定の手続きについては,「著作物利用の裁定申請の手引き」を作成し文化庁ホームページで公開している(www.bunka.go.jp/1tyosaku/c-l/index.html)。
 この裁定制度の手続きの見直しにより,利用者に求められる調査の方法が明確になり,また従来に比べて調査にかかる事務的又は経済的負担も軽減されたと考えるが,今後の利用状況等を踏まえ,より良いシステムの確立に努めるべきである。
 当面はこの手続に従い,裁定事務を行うことで問題はないと考えるが,裁定事務の実施の過程で実務上の問題点が生じた場合,手続の見直しを行い,より利用しやすいシステムの構築を図っていく必要がある。
 なお,個人情報保護法に関連し,不明な著作権者を捜す作業の困難さを懸念する意見もあったが,このことを理由として,著作物を利用しようとする者が通常行うであろう調査方法に足りない方法でよいとすることはできず,例えばインターネット上の尋ね人欄に掲載しただけで調査を尽くしたとすることは難しいと考える。
 ただし,CRICの事例のような著作権者を捜すための手段を提供してくれる仕組みの創設,専門家や問い合わせ先の団体を紹介してくれる窓口等の充実,調査を代行してくれる団体等の設置等により利用者の事務的負担の軽減が図れると思われる。

4その他(著作物を裁定で利用した旨の表示)
 第67条第2項では,裁定を受け作成した著作物の複製物に,裁定で作成した複製物である旨等の表示を義務付けている。最近では著作物のデータベース化にかかる裁定の申請が増えているが,送信された著作物が裁定で利用された旨を周知させるために,当該著作物の画面表示やプリンターで印刷した際にその旨の表示がされるよう,文化庁は制度の運用を考慮する必要がある。


(2) 著作物を放送する場合の裁定制度(第68条)
  1制度の評価
 この裁定制度は,旧著作権法の時代の昭和6年に創設され,現行法の制定の際にその存続について検討されたが,放送の公共性を考慮し,著作権者の権利濫用に対処するための制度として,制度が維持されたものである。
 この制度は,現行法の制定以来35年経ったが,裁定の実績はない。これは,著作物の放送上の利用について,一般に,著作権者や著作権等管理事業者との契約で対応できていること,また現行法の引用(第32条),政治上の演説等の利用(第40条),時事の事件の報道のための利用(第41条)等の著作権の制限規定の適用により利用できる場合も多いこと等から,著作権者との協議不成立等の場合に裁定制度を利用してまで放送しなければならない場合がなかったこと等が原因と考えられる。
 したがって,この制度については制度が利用されていないことを理由に廃止を考慮すべきであるとの考え方もあるが,公共性の強い放送において,著作物を公衆に伝える最後の手段として制度の存続を望む意見も強いことから,あえて制度を廃止する必要はないものと考えられる。

2その他
 民間放送事業者の場合,全国放送を行うためには,キー局から配信を受けネット局が放送を行うことが通常であるが,この場合,キー局と多数のネット局が同一の申請をしなければならないという指摘があったが,例えばキー局が全ネット局の代理人としてまとめて申請を行えば足りるので,特に問題はないと考えられる。


(3) 商業用レコードへの録音等に関する裁定制度(第69条)
   この裁定制度については,現行法制定時に当該制度を設けたことにより,レコード会社と作詞家,作曲家の専属契約の慣行が見直され,著作物の利用が促進されることになった。
 また,この制度は対象が商業レコードに録音された著作物の録音等に限定されているが,当該制度の波及的効果と思われることとして,ビデオ等の映像ソフトに関しても専属契約等による弊害の事例が生じてないことから,この制度の制定は,著作物の円滑な利用に貢献しているものと考えられる。
 このようなことから,この制度の利用実績はないが,引き続き専属契約による弊害の改善を図り,現行法制定当時の状況に後戻りしないためにも,一定の利用秩序の形成に貢献しているこの制度をあえて廃止する必要はないものと考えられる。


(4) 翻訳権の7年強制許諾(万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律第5条)
   万国著作権条約が適用される国は現在ではごくわずかであり,この制度が使われる可能性はあまりないと考えられるものの,対象国がある限りにおいては適用される可能性は皆無ではないことから,直ちに廃止する理由はないと考えられる。


(5) 新たな裁定制度の創設について(実演家の権利に関する裁定制度)
   放送事業者が制作する放送番組については,近年,二次利用の要望が強いものの,通常,番組を制作する際に俳優等の実演家から録音・録画の許諾を得ていないことから,当該番組を二次利用する際は改めて実演家の許諾が必要となる。この場合,古い番組については出演していた実演家を捜すことが非常に困難な場合があり,二次利用できないケースがあることから,権利者不明時等の裁定制度に準じた裁定制度の創設を求める意見が出された。
 これについては,我が国が加盟している実演家等保護条約では,強制許諾については,条約に根拠のあるごく限られた特別な場合には認められるが,それ以外は認められていないところである(同条約第15条:170頁参照)。
 また,実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約では,実演等に関する制限及び例外について,著作権保護について国内法令に定めるものと同一の種類の制限又は例外を定めることができる規定になっているものの,実演家等保護条約の締約国については,同条約の義務を免れないこととされている(同条約第16条,第1条(1))。
 このようなことから,裁定制度を,実演の利用について創設することは,国際条約との関係で整理すべき問題点が多いと考えられ,慎重に検討する必要があると考えられる。


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