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第2章 情報小委員会における審議の経過

 

1  審議の経過

情報小委員会は、次の事項を検討する小委員会として設置された。
(1) 情報通信技術の進展に対応した権利制限規定の在り方
(2) 情報通信技術の進展に対応した権利の在り方
(3) その他情報通信技術に関する著作権問題

   情報小委員会は、平成13年4月9日に第1回の会議を開催し、主として上記(1)の権利制限の在り方について、7回にわたり検討を行ってきた。情報小委員会本体においては、権利制限の見直し(縮小又は拡大)を検討する場合の具体的な視点に関する全体的な検討を行い、また、個別の課題については、次のようにワーキング・グループを設置して具体的な論点の整理等を行った。

著作物等の教育目的の利用に関する権利制限規定の在り方
(著作物等の教育目的の利用に関するワーキング・グループ)
図書館等における著作物等の利用に関する権利制限規定の在り方
(図書館等における著作物等の利用に関するワーキング・グループ)

さらに、上記(2)の権利の在り方に関する問題として、情報通信技術の進展を踏まえた「複製」の概念に係る考え方についても、「複製ワーキング・グループ」を設けて検討を行った。
2 権利制限の見直しを検討する場合の具体的な視点

   情報通信技術の変化・進展等を背景として、現行の権利制限を縮小又は拡大するような見直しを行うべきとする意見が各方面からよせられているが、そのような見直しを行う場合には、著作権法における関係規定間の整合性を損なったり、条約上の義務に反することのないよう、個別の課題について検討を行う際に共通する視点をまず整理しておく必要がある。
   このため情報小委員会では、ワーキング・グループにおける個別の課題に係る問題点の整理と並行して、このような基本的視点に関する検討を行い、次のような整理を行った。なお、当然のことながら、ここに示された具体的な視点は、状況の変化に対応して今後必要に応じて修正を加えていくべきものである。

許諾なしの利用を例外的に認める必要性の変化の検討

   権利制限は、本来著作権者の「許諾」を得て行うべき利用行為について、例外的に許諾を不要とするものであり、個別の事項についてその見直し(縮小・拡大)を検討する場合には、まず、許諾なしの利用を例外的に認めること自体について、その必要性の変化を検討することが必要である。
   現在の権利制限規定について見ると、これらは次のような観点から必要性を判断した上で設けられたものと考えられる。

(1) 著作物の性質

(利用されることが当然期待されている場合)
   [規定例] 国等が発行する広報資料を説明の材料として転載すること
(第32条第2項)
(2) 利用行為の性質

1私的領域等で行われるため権利者による介入が不適当である場合
   [規定例] 利用者が留守中に放送されるテレビ番組を見るためにビデオテープレコーダーで録画をすること。(第30条)

2著作物の創作に関連して必要不可欠である場合
   [規定例] 著作物を作成する際に他の著作物を公正な範囲で引用すること。(第32条第1項)

3公益の実現のために必要不可欠である場合
   [規定例]  裁判手続きの為に、証拠書類として著作物を複製すること。(第42条)

4事前に許諾を得ることが不適切である場合
   [規定例] 入学試験その他の試験の問題として著作物を複製すること。(第36条)

5他の利用行為に通常随伴する利用である場合
   [規定例] 放送の許諾を得た著作物等について、放送のための一時的な録音・録画を行うこと。(第44条)

5著作物の原作品・複製物の所有者が自ら利用する場合
   [規定例] 絵画の原作品を所有している美術館が館内にその作品を展示すること。(第45条)

   これらも踏まえ、社会、経済、技術等の変化によって、個別の各課題について許諾なしの利用を例外的に認める必要性がどのように変化しているかを検討する必要があるが、その場合には、具体的な変化を、例えば次のような視点から検討することが考えられる。

(1) 創作行為・著作物の変化
   例) ・デジタル技術の発達・普及による新しいタイプの著作物の出現
・デジタル技術を活用した新しい創作方式の出現
(2) 利用行為の変化
   例) ・インターネットによる著作物の利用など全く新しい利用形態の出現
・デジタル方式・媒体の普及による新しい複製方式・複製物の出現
(3) 情報の活用に関する社会的な要請の変化
   例) ・障害者・高齢者等のための情報アクセスの拡大への要請
・学習者自身の自発的活動(情報収集など)による学習活動の推進への要請
(4) 許諾を得ることの容易さの変化
   例) ・著作権等管理事業の発達・拡大による許諾契約の容易化 ・ネットワーク上の許諾・配信システム等の発達・普及による許諾契約の容易化
(5) 関連するビジネスとの関係の変化
   例) ・新たな著作物利用技術の普及に伴う商用利用と一般の利用との競合

条約上の条件との関係の確認

   許諾なしの利用を例外的に認める必要性の確認と並行して、条約に明記されている次に掲げる条件との関係についても確認することが必要である。

(1) 特別な場合
   許諾を要しないこととする利用行為が「特別な場合」に限られること。
(2) 通常の利用を妨げない場合
   許諾なしの利用が、出版物の印刷・公衆への販売のように著作権者が利益を得るために必要であり、かつ、一般的に行われている活動を妨げることにならないこと。
(3) 正当な利益を不当に侵害しない場合
   許諾なしの利用が著作権者の正当な利益を不当に侵害しないこと。具体的には、そのような利用により著作権者の利益が侵害されることはないか、そのような利益及び侵害がある場合、その利益は「正当な利益」と言えるか、その侵害は「不当な侵害」と言い得る態様又は程度であるかを検討する必要がある。

権利制限に伴う特別の規定の必要性の検討

   権利制限に伴う特別の規定としては、次のようなものが考えられ、これらの規定を置く必要性の有無等について検討する必要がある。

(1) 利用者の義務に関する規定

1補償金
       「特別な場合」及び「通常の利用を妨げない場合」の条件を満たした場合であっても、著作権者の正当な利益が不当に侵害されるおそれの有無との関係で、補償金の支払いを義務づける必要性について検討することが考えられる。
   また、この場合、実効的な補償金制度を構築することが可能かどうかについても検討する必要がある。

2著作者への通知
       利用の態様が、著作者人格権に関わるものとなる可能性がある場合(改変を伴う場合等)の有無との関係で、著作者への通知を義務づけること(著作者に著作者人格権を行使する機会を与えること)の必要性について検討することが考えられる。
(2) 著作権者の意思を尊重した適用除外に関する規定

1禁止する旨の表示
       禁止する旨の表示を付して「許諾しない」意思を伝達したときに、権利制限の適用を除外することの必要性について検討することが考えられる。

2技術的保護手段
       複製等の利用を防止する「技術的保護手段」の回避を伴う利用については、権利制限の適用を除外するなど技術的保護手段との関係に関する規定を入れる必要性について検討することが考えられる。

規定ぶりに関する検討

   権利制限の規定ぶりについては、個々のケースごとに、想定される諸状況に細かく対応した規定が望ましいか、大まかな規定が望ましいかということも検討する必要がある。両者の得失としては、例えば次に掲げるようなことが考えられる。なお、大まかな規定ぶりとする場合も、現行法と比較して権利制限の範囲が実質的に縮小・拡大されるのであれば、そのことの当否について個別に検討することが必要となる。

1 細かな規定ぶりの場合
・権利制限の対象となる具体的な場合が明確となる。
・条文が複雑になり、読みにくくなる。
2 大まかな規定ぶりの場合
・条文自体は簡潔になり、読みやすくなる。
・権利制限の対象となる範囲があいまいになるため、判例の蓄積や当事者同士が設定するガイドラインができるまでは、合法性について不安定な状況が生ずる。

その他

   「権利制限」は、著作権者に付与されている権利を例外的に制限するものであるが、「権利の及ぶ範囲の変更」は、条約の許容する範囲内で、権利の対象となる著作物の範囲、権利の対象となる行為の定義や範囲等を変えることによっても行い得る。
   これらは、ここで検討した「権利制限」とは異なる趣旨のものであるが、権利制限の見直しを検討する場合には、こうした点との整合性の確保等についても留意する必要がある。

権利制限の見直しに関する具体的な要望

   権利制限の見直しに関する主な具体の課題で、これまで著作権審議会において議論されたもの又は情報小委員会における検討の際に例として示されたものとしては、例えば、次のようなものがある。
(1) 権利制限の縮小
・デジタル方式での私的複製の権利制限の縮小(第30条)
・図書館等における複製を求めることができる場合を非営利目的の調査研究に限ること。(第31条第1号)
・図書館等における利用、教育目的の利用に関する補償金制度の導入(第31条、第35条)
・非営利無料の上映に関する権利制限の縮小(第38条第1項)
・非営利無料の貸与に関する権利制限の縮小(第38条第4項)

(2) 権利制限の拡大
・国等が発行する広報資料のインターネットによる利用
・公衆用機器によるホームページのプリントアウト
・インターネットによる送信の過程で起こる通信効率化のための複製
・パロディによる創作のための利用 ・録音図書の作成等障害者関係の権利制限の拡大
・学習者による教育目的の複製、遠隔教育に伴う公衆送信等教育関係の権利制限の拡大
・複製物提供のためのファクシミリ等による公衆送信等図書館関係の権利制限の拡大

(3) 暫定措置の解除
・書籍等の貸与を貸与権の対象とすること。(附則第4条の2)
・公衆の用に供するコピー機を利用した私的使用のための複製を権利制限の対象から除外すること。(附則第5条の2)

4   教育・図書館関係の権利制限の見直しに係る検討
−ワーキング・グループにおける検討の概要−

上記3 の具体的要望を踏まえ、平成13年においては、「著作物等の教育目的の利用」「図書館等における著作物等の利用」の2つの課題について、それぞれワーキング・グループを設け、権利者側・利用者側双方の委員から実態や提案等についての発表を行い、続いて具体的な課題に関する論点の整理を行った。両ワーキング・グループにおける検討・整理等の結果は、次のとおりである。

著作物等の教育目的の利用
(1)
権利制限の拡大に関する論点

1 授業の過程において例外的に許諾を得ずに複製ができる主体に「学習者」を加えること
   
     現行の著作権法第35条では、授業の過程での使用を目的として例外的に許諾を得ない複製を行うことができる者は、非営利目的の教育機関で「教育を担任する者」に限定されているが、その「教育を担任する者」の指導の下で行う場合に限り、当該非営利の教育機関で教育を受ける「学習者」についても、現行の著作権法第35条で認められている範囲の複製を許諾なくできるようにしてほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、ア)学校教育について、学習者が様々な情報機器等を活用して主体的に学習を行い、情報を適切に収集・判断・創造・発信していくことが推進されており、この趣旨は新学習指導要領にも記述されていること、イ)社会教育を含む生涯学習全般についても、学習者の自発性・主体性や情報リテラシーの育成が強調されていること等により、教育機関における学習活動の在り方自体が、個々の学習者が自ら情報の収集等を行う形態に大きく変容しつつあることから、教育機関で教育を受ける学習者自身が教育活動の一環として自ら複製を行うことが必要とされるようになっていることがあげられている。
   この事項について、権利者側からは、学習者が複製を行うことによる利用の総量の増加、「教育を担任する者」による指導の実効性、著作権に対する学習者の意識・認識への負の効果等への懸念などが表明された。

2 例外的に許諾を得ずに作製された複製物を同一教育機関内で共用にできるようにすること
   
     現行の著作権法第35条の規定により非営利目的の教育機関で「教育を担任する者」が許諾を得ずに作製した複製物は、同条の規定により「本人の授業の過程」においてのみ使用できることとされているが、その教育機関内に限り、その複製物を他の授業の過程における使用に供することも可能としてほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、様々な視聴覚教材等の活用が促進される中で、校内LANの普及が推進される一方、教師の組織的・協力的な指導も進められつつあるなど、同一教育機関内で指導上有効な教材等の共用・活用がますます必要になることが予想されることがあげられている。
   この事項について、権利者側からは、校内LANの場合「授業」以外の目的にも広く使われてしまうことが起こり得ること等、実際の運用について懸念する意見が出された。また、教材等に使用する著作物等の所在情報の共有で足りるのではないかとの意見もあった。

3 例外的に許諾を得ずに作製された複製物を教科研究会等でも使用できるようにすること
   
     現行の著作権法第35条の規定により非営利目的の教育機関で「教育を担任する者」が許諾を得ずに作製した複製物は、同条の規定により「本人の授業の過程」においてのみ使用できることとされているが、その授業に関する研究活動においても、その者がその複製物を使用に供してよいようにしてほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、様々なメディアを活用した教材の活用が活発化しつつあり、複数の教師による組織的・協力的な指導による教育活動が推進されていることから、多様な教材を活用した授業の方法について情報交換等を行う際に、授業で使用した教材を配布することが必要不可欠であることがあげられている。
   この事項について、権利者側からは、著作権法第32条の引用の範囲で複製すれば済むのではないか、個別の権利処理が十分可能ではないか、との反対意見や、事前許諾が困難である場合もあることから、報酬請求権の対象とする方向であれば検討の余地があるとの意見があった。

4 教育機関で学ぶ特定学習者に対して授業のための公衆送信を例外的に許諾を得ずにできるようにすること
   
     現行の著作権法第35条では、授業の過程での使用を目的として例外的に許諾を得ずに利用が行える場合の利用形態は、「複製」と「譲渡」に限定されているが、これらに加えてその教育機関で教育を受ける学習者への「公衆送信」及び「送信可能化」を加えてほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、様々な情報通信技術を活用した教育活動が種々の教育機関によって展開されつつあり、例えば大学・学校等の「遠隔授業」「合同授業」「公開講座」等において、離れた場所の学習者に対して(主会場での教材の複製・配布と同様に)衛星通信・インターネット等による教材の送信を行うことが必要となっていることがあげられている。
   この事項について、権利者側からは、送信された著作物の無断再利用等の危険性、学習者の増大による権利者の利益に対する影響について懸念する意見があったが、3 と同様、報酬請求権の対象とする方向であれば検討の余地があるとの意見もあった。

5 遠隔地にいる者を対象に試験を行うため例外的に許諾を得ずに公衆送信することができるようにすること
   
     現行の著作権法第36条では、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において当該試験又は検定の問題として著作物を例外的に許諾を得ないで利用できる場合の利用形態は、「複製」と「譲渡」に限定されているが、これらに加えて「公衆送信」及び「送信可能化」を加えてほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、遠隔教育等の場合において、インターネット等を利用して試験を行うことが可能となっており、この場合には公衆送信権等の対象となり得るが、試験の公正性の確保という観点からは、複製と同様に事前許諾を得ることが不適切と考えられることがあげられている。
   この事項について、権利者側からは、インターネットを介した試験の普及の状況や見通しについて若干の疑義が表明されたものの、強い反対意見はなかった。

6 インターネットによる教育成果の発信のための「複製」「公衆送信」「送信可能化」を例外的に許諾を得ずに利用できる対象とすること
   
     非営利の教育機関について、その教育の成果を広く周知することを目的として、必要と認められる限度において、公表された著作物等を許諾なく複製し、公衆送信・送信可能化することができるものとしてほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、教育活動の一環として、また、その教育成果を公開するために、教育機関がホームページ等を用いてインターネット上での情報発信を行うことが多くなっているが、このような活動についても権利を制限して自由に行えるようにすることが望ましいということがあげられている。
   この事項について、権利者側からは、学校内での教育活動に必要な場合と学校外へ送信する場合とでは全く異なること、「総合的な学習の時間」など近年の学校教育活動は多様であるため「教育成果の発信」と言っても事実上学校からの送信は無制限に自由ということになりかねないこと、受信者による無断再利用等の危険性が高いこと等、極めて強い反対意見が出された。

7 権利制限の拡大全般に関する権利者側の意見
   
     これらのほか、権利者側からは、教育の公益性は理解するがその公益実現のための費用は公的資金によって賄われるべきであって著作者個人に現在以上の負担を強いる根拠が見出せないこと、教育目的のために現行法以上の権利制限を認める特段の必要性があるとは思えない(契約によって可能である)こと、著作物利用のデジタル化、ネットワーク化に伴う複製の容易化や複製物の質の向上により権利制限の拡大が権利者の利益を不当に害する可能性が高くなっていること、ネットワーク利用に関する秩序が形成されていない現状における権利制限の拡大が権利者の利益を不当に害する可能性が高くなっていること、権利制限すると権利者側から利用に当たっての要望を利用者に伝える機会がなくなること、学習者の著作権保護意識の育成に逆効果となることなどを理由に、権利制限の拡大一般について否定的な意見が表明された。
   また、教育機関の種類、著作物や出版物の種類、利用態様によって著作権者への影響が異なる(例えば、小中学生の調べ学習と大学・大学院生の利用では大きく異なる)ので区分して検討すべきとの意見もあった。
(2)
権利制限の縮小に関する論点(補償金制度の拡大)
   
     権利制限の拡大の必要性については理解するものの、著作権法第35条(今後権利制限が拡大された場合にはその部分も含む。)に基づく例外的な許諾を得ない利用については、著作物の通常の利用を妨げる場合を除き、今後とも許諾なしの利用という例外措置を継続することとするが、原則として単一の窓口への補償金の支払いを要することとしてほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、複製物の質が向上していること、大量の複製が容易に行えるようになっていること等から、教育機関における許諾を得ない利用によって著作権者の利益が損なわれるようになっていることがあげられている。
   この事項について、利用者側からは、利益侵害となるような複製については現在でも著作権法第35条ただし書きで許諾なしにはできないこととされている等の意見が出され、また、権利者の中からも、許諾権が原則であり、安易に補償金制度を導入すべきではないとの意見が出された。さらに、双方から、教育機関で利用される著作物は広範多岐にわたるので実際に補償金制度を構築することが困難であること等の意見が出された。
(3)
その他の論点
   
     著作物等の教育目的の利用に関するワーキング・グループでは、権利制限の拡大・縮小に関する論点のほか、児童生徒を対象とする著作権教育の充実拡大や、教員研修の充実など、教育機関において著作権への認識を増進させる必要性についても、議論が行われた。特に権利者側からは、教育機関における著作物の管理・利用に関する懸念を背景として、日常の授業・活動の中で、すべての関係者を対象として著作権を認識する機会を設けていくことが必要であるとの意見が出された。
   また、権利者、利用者の双方から、著作権法第35条ただし書きでいう「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」についてのガイドラインを権利者・利用者間で作成することが必要であるとの意見が出された。
(4)
今後の検討について
   
     これまでの審議・検討は、著作物等の教育目的の利用に係る権利制限の見直しに関し、権利者・利用者双方の要望を確認するとともに、それらの要望について双方の考え方を整理する等の論点整理を行ったものである。
   このため、特定の要望事項について具体的に法改正の可否や具体的な対応策等を結論づけるには至っていないが、各論点について権利者・利用者双方の基本的な考え方を明らかにすることができた。
   今後はこの整理に基づき、各論点について、表明された懸念や問題を解決するための具体的な方策の検討なども含め、権利者・利用者の双方が受け入れられる解決策を目指し、当事者間での具体的な協議を促進していく必要がある。

図書館等における著作物等の利用
(1)
権利制限の拡大に関する論点

1 図書館等が例外的に許諾を得ずにファクシミリ等の公衆送信により複製物を提供できるようにすること
   
     現行の著作権法第31条により、図書館等が利用者の求めがあった場合等に図書館資料を許諾なく複製した場合、その複製物の提供手段は、手渡しや郵送による「譲渡」に限定されているが、ファクシミリ等を使用した「公衆送信」による複製物の提供についても許諾を得ずにできるようにしてほしいとの要望がある。
   要望の理由としては、学術研究等において速やかな情報収集が求められており、手渡し又は郵送による複製物の提供だけでは図書館等の公共的奉仕機能を十全に果たすことができなくなっていることがあげられている。
   この事項について、権利者の中には、(1)対象となる「複製物」は複写物に限ること、(2)対象となる「公衆送信」はファクシミリによる複写物のイメージの送信に限ること、(3)著作権法第31条第1号に定める範囲内のものであること、(4)非商業目的の調査研究のための依頼に限ることの4つの条件が満たされるならば、要望を容認するという意見がある。一方、権利者の中からは、許諾を得ずに行うことを認めた場合であっても、補償金を支払うこととすべきとの意見も出された。

2 入手困難な図書館資料に掲載された著作物の全部を例外的に許諾を得ずに複製できるようにすること
   
     現行の著作権法第31条第1号では、図書館等は利用者の求めに応じて発行後相当期間経過した定期刊行物に掲載された著作物の全部を許諾を得ずに複製することができるが、絶版その他の理由により一般に入手することが困難な図書館資料に掲載された著作物についても、その全部を利用者の求めに応じて許諾を得ずに複製できるようにしてほしいとの要望がある。
   要望の理由としては、定期刊行物以外の出版物に掲載された論文等であっても、公益の観点から、一般に入手不可能となった場合には、図書館等が十全にその提供を行えるようにすべきとの点があげられている。
   この事項について、権利者側からは、補償金の支払いを求める意見や、不定期かつ逐次的に発行されている論文誌に限っては、許諾なしに複製することを認めてもよいとする意見が出された。

3 再生手段の入手が困難である図書館資料を保存のために例外的に許諾を得ずに複製できるようにすること
   
     図書館資料の形式が、当該形式で保存された著作物を再生するために必要な機器を入手することが困難になった場合には、当該図書館資料を保存するため、許諾なくその他の形式に複製できるようにしてほしいとの要望がある。
   要望の理由としては、図書館資料の媒体の多様化により、媒体の内容を再生するために必要な機器が市場で入手困難となった場合においても、その図書館資料の内容を保存する必要があることがあげられている。
   この事項について、権利者側からは、元の媒体で想定されていなかった使用ができるようになることに対する不安や、既存の商品や将来販売を予定している商品との競合を懸念する意見が出された。

4 図書館等においても視覚障害者のために例外的に許諾を得ずに録音図書を作成できるようにすること
   
     現行の著作権法第37条第3項では、専ら視覚障害者向けの貸出の用に供するために、公表された著作物を許諾を得ずに録音することができる者は、点字図書館等の施設に限定されているが、公共図書館等においても許諾を得ずに録音できるようにしてほしいとの要望がある。
   要望の理由としては、公共図書館においても現在録音図書の作成を行っており、許諾なく録音できる主体を公共図書館に拡大することは、視覚障害者の福祉の増進という規定の趣旨にも適うことであることがあげられている。
   この事項について、権利者側からは、健常者の使用にも供されるのではないかという危惧、録音図書を業として出版する者への影響に対する懸念、音読や入力が不正確に行われかねないとの懸念等が表明された。

5 その他
     このほか、権利制限の拡大については、次のような論点が検討された。
   
  ア)図書館等に設置されたインターネット端末から利用者が著作物を例外的に許諾を得ずにプリントアウトできるようにすること
現行の著作権法第30条第1項第1号では、公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(コピー機を除く。)を用いた複製は、私的使用の目的であっても、許諾が必要とされているが、図書館等に設置されたコンピュータ及びプリンタを用いてインターネット上にあり誰でもアクセスできる著作物をプリントアウトすることについては、許諾を得ずにできるようにしてほしいとの要望がある。
   この事項については、公共施設等に設置されたインターネット端末からのプリントアウト全体に及ぶ問題であり、また、図書館資料を対象とするものでもないので、図書館等における著作物等の利用に限らず、より広い範囲で検討すべきであるとの意見が出された。

  イ)図書館内のみの送信を目的として図書館資料を例外的に許諾を得ずにデータベース化できるようにすること
   現行の著作権法第31条では、図書館等が許諾なく図書館資料を複製できる場合は、利用者の求めがあった場合、図書館資料の保存のため必要があった場合、他の図書館等の求めがあった場合に限られているが、図書館内のみの送信を目的として図書館資料をデジタル化(データベース化)する場合についても、許諾を得ずにできるようにしてほしいとの要望がある。
   この事項については、現在図書館資料をデータベース化し、又はする予定がある図書館等自体がごく少数にとどまることが、権利者側、図書館側双方から確認され、図書館側としても、権利者、出版社の側でのデータベース化をまず期待しており、それほど強く要望するものではないとの意見が出された。

(2) 権利制限の縮小に関する論点

  商業目的の「調査研究」を目的として利用者が複製を求めた場合について権利制限の対象から除外すること

       現行の著作権法第31条第1号では、図書館等の利用者が「調査研究」を目的として図書館資料の複製を求めた場合には、一定の条件の下で許諾なく複製を行うことができるとされているが、この「調査研究」から商業目的のものを外してほしいとの要望がある。
   要望の理由としては、許諾が必要な会社等での複製と不均衡を生じること、民間複写業者と競合していること、会社等の資料購入にも悪影響を与えること等があげられている。
   この事項について、図書館側の中からは、実効性を担保するための条件によっては、この要望を容認することができるとの意見と、商業目的と思われる調査研究のために複写を行っている図書館等もあり、その利用者に与える大きな影響を懸念する意見があった。また、この要望を容認するとしても「商業目的」の範囲については詳細に検討することが必要であるとの意見があった。

  図書館資料の貸出について補償金を課すこと

       現行の著作権法附則第4条の2では、書籍等の貸与については貸与権が及ばないこととされており、その他の著作物(映画の著作物を除く。)についても非営利無償の貸与については著作権法第38条第4項で許諾なく無償で行えることとされているが、図書館等が映画の著作物以外の図書館資料を貸与する場合にも、映画の著作物の貸与の場合(著作権法第38条第5項)のように、図書館等が補償金を支払うこととしてほしいとの要望がある。
   要望の理由としては、図書館の増加、図書館における貸出数の増加等により、本の購入が図書館からの貸出により代替される傾向が強まっており、著作権者の利益に対する損害が大きくなっていることがあげられている。
   この事項について、図書館側からは、図書館は幅広い読者層の形成に努め、書籍等の展示効果により購買意欲を促進し、専門的で少部数しか発行されない資料の購入を支える等の役割も果たしており、図書館資料の貸出が直ちに著作権者に不当な損害を与えているとは言えず、図書館からの貸出が利用者の本の購入を阻害しているということは、まだ立証されていないという意見等が出された。

  図書館等において利用者の求めに応じ行う複製について補償金を課すこと

       著作権法第31条第1号により、図書館等が利用者の求めに応じ許諾なく複製を行う場合には、補償金を支払うこととしてほしいとの要望がある。
   要望の理由としては、図書館の増加、複写機器の機能向上、普及等により、図書館等における複製が増大しており、著作権者の正当な利益が不当に損なわれていることがあげられている。
   この事項について、図書館側からは、絶版等一般に入手することが困難な図書や過去の定期刊行物等一般に販売されていない著作物の複製も多いため、図書館等における複製が直ちに著作権者の正当な利益を害しているとは言えないのではないかとの意見があった。また、現在規定されている条件に加えて補償金を課すことは、著作物の公正かつ円滑な利用を妨げかねないとの意見があった。一方、権利者側からも、補償金制度の実効的な運営や補償金の正確な分配は困難であり、特に必要性はないのではないかとの意見があった。

  その他
       このほか、権利制限の縮小については、次のような論点が検討された。

ア)公衆の用に供するコピー機を利用した私的使用のための複製を権利制限の対象から除外すること
   現行の著作権法第30条第1項第1号では、コピー機以外の公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いた複製は、私的使用の目的であっても、許諾が必要とされているが、公衆の使用に供するコピー機を用いた私的使用目的の複製は、附則第5条の2により暫定的に許諾が不要とされている。この暫定措置を解除してほしいとの要望がある。
   この要望については、公衆の用に供するコピー機による複製全体に及ぶ問題であり、より広い範囲で検討すべきであるとの意見が出された。

イ)図書館等においてビデオ等を上映することについて権利制限の対象から除外すること
   現行の著作権法第38条第1項では、著作物を非営利無償で上映することについては許諾が不要とされているが、映画の著作物の非営利無償の上映については権利制限の対象から外してほしいとの要望がある。
   この要望については、公共施設等で行われる非営利無償での上映全体に及ぶ問題であり、図書館等における著作物等の利用に限らず、より広い範囲で検討すべきであるとの意見が出された。また、上映権に関する権利制限を全廃する趣旨か、制限する趣旨か、内容を明確にすべきとの意見もあった。

(3) 今後の検討について

   これまでの審議・検討は、図書館等における著作物等の利用に係る権利制限の見直しに関し、権利者側・図書館側双方の要望を確認するとともに、それらの要望について双方の考え方を整理する等の論点整理を行ったものである。
   このため、特定の要望事項について具体的に法改正の可否や具体的な対応策等を結論づけるには至っていないが、各論点について権利者側・図書館側双方の基本的な考え方を明らかにすることができた。
   今後はこの整理に基づき、各論点について、表明された懸念や問題を解決するための具体的な方策の検討なども含め、権利者側・図書館側の双方が受け入れられる解決策を目指し、具体的な合意の形成を促進するため、当事者間の協議の場を設ける必要がある。

複製の範囲に関するワーキング・グループの検討の概要

   複製ワーキング・グループでは、いわゆる「一時的蓄積」に関する考え方について、具体的事例に即した検討を行った。複製ワーキング・グループにおける検討の結果は、次のとおりである。

   著作権審議会においては、これまでも著作権法上の複製権の対象となる「複製」の範囲について検討が行われており、例えば、昭和48年6月の同審議会第2小委員会(コンピューター関係)報告書では、「(コンピュータの)内部記憶装置における著作物の貯蔵は、瞬間的かつ過渡的で直ちに消え去るものであるため、著作物を内部記憶装置へたくわえる行為を著作物の『複製』に該当すると解することはできない。」としていた。
   これらを受けて、一般的には、例えばランダム・アクセス・メモリー(RAM)への蓄積(電源を切れば消去される蓄積)などのいわゆる「一時的蓄積」は、著作権法上の複製権の対象となる「複製」ではないと解されてきた。
   しかし、デジタル化・ネットワーク化の進展等に伴い改めてこの件を取り上げた平成12年11月の同審議会国際小委員会報告書では、「瞬間的かつ過渡的なものを含め、プログラムの著作物その他の著作物に関する電子データの『一時的蓄積』の扱いが重要課題となっている。」と指摘された。

   複製ワーキング・グループにおいては、このような指摘を受け、いわゆる「一時的蓄積」のうち複製権の対象となる「複製」と解されていないことにより重大な不都合が生じている事例について検討を行った。
   「複製」と解すべきとする立場からは、ネットワークを用いたビジネス(いわゆるアプリケーション・サービス・プロバイダー、オンライン・ゲーム、音楽配信等)において違法に送信された著作物が、受信者側のコンピュータのRAMに一時的に蓄積される事例、また、サーバーのように24時間運転を続けるコンピュータのRAMにプログラムが常時蓄積されている事例等があげられた。
   これらの事例に対しては、必ずしも実態を伴わないものもあること、これらの事例における一時的蓄積を「複製」と解さなくても、公衆送信権等既存の権利の行使や契約で対応が可能であること等の意見が出された。

   また、いわゆる「一時的蓄積」を複製権の対象となる「複製」と解しないと不都合を生じる類型を抽出するため、権利制限規定などによって複製権の適用を除外すべき事例についても検討を行った。
   「複製」と解すべきとする立場からは、権利制限の要件として、「適法に作成された著作物の複製物の所有者又は占有者が当該複製物を使用する場合に不可避的に生じる一時的蓄積」、「適法に送信された著作物を受信・使用する場合に不可避的に生じる一時的蓄積」、「善意無過失の者が著作物を受信・使用する場合に不可避的に生じる一時的蓄積」、「送信過程で不可避的に生じる一時的蓄積」があげられた。
   これに対して、複製権を及ぼすべきではない事例として、これらの他に、第三者がコンピュータの保守・点検等を行う際に生じる一時的蓄積が指摘されたほか、上記要件では必要な事例が網羅されているかどうか明らかでないことから、複製権の適用を除外すべき事項を明確に定めることは現時点では困難であるとの意見が出された。また、こうした権利制限を実態に合わせて拡充させていくと、結果的に行使可能な権利として残る部分はごくわずかではないかとの指摘もあった。

   これらの検討から、これまで「一時的蓄積」と呼ばれてきたものの中には、RAMへの常時蓄積など、複製権の対象とすることが適当な場合もあると思われた。しかしながら、個々の事例については、「実際に支障、損害が生じていないのではないか」、「公衆送信権等既存の権利で対応できるのではないか」、「著作権法第113条に規定する『みなし侵害』の拡大により対応すべきではないか」等の意見があり、「複製」の定義について現時点で法改正を行うべきとの結論には至らなかった。

   法改正の必要性については、実際に法制面での対応が必要な具体的な状況の有無、関連するビジネスの動き、国際的な場における検討の状況等を引き続き注視しつつ、必要に応じ、検討することとする。

今後の検討について

   情報小委員会においては、本年整理を行った「権利制限の見直しを検討する場合の具体的な視点」、ワーキング・グループにおける検討・整理の結果を踏まえつつ、権利制限の在り方を中心に、情報通信技術の進展に対応した課題について、今後とも引き続き検討を行うものとする。

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