資料6

裁定制度以外での対応策として出された提案について

1.これまでの主な意見の概要

 無料での利用や簡易・迅速な利用を意図している場合などについては、裁定制度では、費用等の問題があるため、いくら手続を簡略化しても利用が困難ではないか、一般人も容易に使えるような制度を考えなければならないといった意見がこれまで出されていた。
 具体的には、使用料を積み立てておくことによる対応、英米で提案されているような新たな権利者不明の場合の制度による対応について提案がなされている。また、一部の利用形態については、権利制限規定による対応も提案されている。

(使用料の積み立てによる対応)

  • ア 事後的に権利者が現れた場合に支払いができるように、関係者間でファンドを用意して対応すればいいのではないか。
  • イ 国の裁定制度でなく、権利者に代わって許諾を出せるような仕組みが必要である。例えば、権利者のデータを管理し、一定の場合には許諾を出すことができ、後で権利者が出てきたら差止めも報酬請求も、その管理センターに対して行える、そういった強制許諾ができるような機関をつくるのはどうか。
  • ウ それは政府が強制許諾をするのと同じではないか。政府の裁定制度と同じ問題が発生するし、民間の特定の主体にそのような権限を与えることは危険である。
  • エ 現在の音楽配信等の問題点として、1曲の中の2〜3割の部分について団体管理となっていない場合があり、配信事業者がリスクを負う形となっている。企業はこの分の使用料をプールしつつ権利者をさらに探すが、年度ごとの会計の関係で何期にもわたってはプールできない。このような問題を日常的に処理できるようなルールが必要。
  • オ 音楽の場合には、不在のリスクに対し、保険でカバーできないかということで、保険会社にお願いして作ってもらったことがあるが、保険だけでは無断利用という法的リスクをカバーできるかどうか分からないため、何らかのルールや根拠などを法制度的にも整備すべき。

(英米型の権利者不明制度による対応)

  • カ 英米で提案されているような、新たな権利者不明の場合の制度についても検討が必要ではないか。
  • キ 現行の裁定制度と英米で提案された制度とは、後から権利侵害を問われないという法的安定性の面と許諾手続の費用・時間の面で一長一短あるが、権利者を探す作業の負担はどちらも必要である。現行裁定制度の問題が、審議会を経る時間などの文化庁の事前手続によるものか、それとも、権利者を探す実際のインフラが不足しているということによるものなのか検証が必要

(権利制限規定での対応)

  • 必ずしも権利者不明の場合についての提案でないもあるが、便宜上記載している。
  • ク 国によって著作権の在り方にはかなり違いがあり、保護期間の問題について欧米並みということであれば、フェアユースの概念がある国もあるし、その部分についても同様に議論しなければならない。
  • ケ 特定少数の間で、コミュニケーション目的で行う複製については米国のフェアユース規定のような枠組みを作るべき。
  • コ 表現、公正利用に関して、今の著作権法による制約が過剰というのであれば、保護期間が50年でも30年でも同じ問題がある。保護期間について論じるより、存続期間中の自由を確保する方がメリットがある。二次創作やパロディーのための権利制限、フェアユース的な一般条項などがあり得るが、延長問題とセットにすれば、これらの規定を入れる千載一遇のチャンスではないか。
  • サ 権利を強くするのだからどこかを引っ込めるという議論ではなく、延ばすべきか延ばさないべきかで議論すべき。権利制限を併記していくべきではない。
  • シ 権利の強さは「権利の幅かける保護期間」で考えられ、長さを伸長するなら代わりに幅を縮めるという考え方は成り立ち得るが、権利制限となると全部の著作物に関わる話であり、当小委員会ではなく法制問題小委員会で検討すべきではないか。
  • ス 確かに著作権が強すぎる部分がないわけでもないが、データベースの整備や裁定制度の簡略化といった利用円滑化プランを提示しているのだから、その議論をしてからでないと話は先に進まない。
  • セ 没年確認が出来ない場合のために、生後又は作品公表後150年で保護期間が終了することを規定すべき。
  • ソ 公共的な利益があるときには、一方的に利用拒絶がされないよう、利用拒絶ができる場合を制限するようにすべき。

2.諸外国等の状況

3.議論のポイント

 英国、米国において新たに提案された制度や、現在、民間で検討されている提案も踏まえ、我が国が採用している現行裁定制度との違い、メリット・デメリットをどのように考えるか。(別紙参照)

 その上で、現行裁定制度の改善、著作隣接権についての裁定制度の創設についての議論との関係をどのように考えるか。例えば、その議論に反映をしていくべきか、それとも別途の仕組みとして捉えていくべきか。

【参考・諸外国の立法例】(資料4、5との重複を除く)

○イギリス著作権法(注5)

  • (注5)大山幸房訳『外国著作権法令集(34)-英国編-』(社団法人著作権情報センター、平成16年6月)

(著作物の著作者)

第9条
  • (1) この部において、著作物に関して、「著作者」とは、著作物を創作する者をいう。
  • (2)・(3) (略)
  • (4) この部の目的上、著作者の身元が知られていないとき、又は共同著作物の場合にはいずれの著作者の身元も知られていないときに、著作物は、「著作者が知られていない」ものである。
  • (5) この部の目的上、ある者が合理的な調査により著作者の身元を確認することができないときは、著作者の身元は、知られていないとみなされる。ただし、著作者の身元がいったん知られるときは、その後は知られていないとはみなされない。

(文芸、演劇、音楽又は美術の著作物の著作権の存続期間)

第12条
  • (1) 以下の規定は、文芸、演劇、音楽又は美術の著作物の著作権の存続期間について効力を有する。
  • (2) 著作権は、以下の規定に従うことを条件として、著作者が死亡する暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
  • (3) 著作者が知られていない著作物の場合には、著作権は、以下の規定に従うことを条件として、
    • (a) 著作物が作成された暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
    • (b) その期間中に著作物が公衆に提供されるときは、著作物が最初にそのように提供される暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
  • (4) 第3項(a)号又は(b)号に明示される期間の終了前に著作者の身元が知られることとなるときは、第2項の規定が適用される。
  • (5)〜(9) (略)

(映画の著作権の存続期間)

第13条のB
  • (1) 以下の規定は、映画の著作権の存続期間について効力を有する。
  • (2) 著作権は、以下の規定に従うことを条件として、次の者のうち最後に死亡する者が死亡する暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
    • (a) 主たる監督
    • (b) 映画台本の著作者
    • (c) 対話の著作者
    • (d) 映画のために特別に創作され、かつ、映画において使用される音楽の作曲者
  • (3) 第2項(a)号から(b)号までにおいて言及されている1人又は2人以上の者の身元が知られており、かつ、1人又は2人以上の他の者の身元が知られていない場合には、同項におけるそれらの者のうち最後に死亡する者の死亡への言及は、身元が知られている最後に死亡する者への言及として解釈される。
  • (4) 第2項(a)号から(b)号までにおいて言及されている者の身元が知られていない場合には、著作権は、
    • (a) 映画が作成された暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
    • (b) その期間中に映画が公衆に提供されるときは、それが最初にそのように提供される暦年の終わりから70年の期間の終わりに消滅する。
  • (5)〜(8) (略)
  • (9) いずれの場合にも、第2項(a)号から(d)号までに該当する者が存在しないときは、前記の規定は適用されず、著作権は、映画が作成された暦年の終わりから50年の期間の終わりに消滅する。