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資料10

過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会における意見発表 資料

2007年4月27日

クリエイティブ・コモンズ・ジャパン 専務理事
国立情報学研究所 客員准教授
森・濱田松本法律事務所 弁護士
野口 祐子

1.  クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの登場した背景

 現行著作権法は、アナログ技術を前提とした枠組みを基本として成り立っているため、特にインターネットを活用する創作活動や流通から見て、権利処理を難しくしている点が幾つか発生している。
 一つ目の問題点は、ほとんどの場面で利用禁止が原則であることである。明確に許諾を取らない限り、殆どの行為が著作権法上違法となる。加えて、インターネット時代に入って、ウェブ上の「立ち見」や「視聴」など、アナログでの同様の行為であれば著作権法の枠外であったものが、技術的な違いから、複製や公衆送信を含むこととなり、一部で著作権法が及ぶようになりつつある。
 二つ目の問題点は、合法な利用のためには権利者の全員から許諾を取る必要がある点である。従来から、権利者が複数存在する著作物については、全員から同意を得られない限り利用ができず、著作物の適正な利用を妨げているとの指摘がなされてきた。これに加えて、昨今では、著作物が利用者によって順次改変されていく可能性もあり、インターネット上で共同で創作されるものもある。このように、全体として共同著作物、二次的著作物の数は増加する傾向にあり、それだけ著作権の権利処理は複雑化してきている。
 三つ目の問題点は、権利者から許諾を取ろうと思っても、権利者の連絡先を調べる手段が乏しいことが挙げられる。ベルヌ条約の非方式主義に由来して、権利者情報を把握することに対して近年まで非常に慎重な姿勢が一般であったため、ごく一部の分野を除き、権利者・作品に関する情報は一元的に把握されておらず、権利者を探すことは非常に困難であるも多い。そのため、許諾を取ろうにも権利者を見つけることができず、新しい創作活動やビジネスを諦めた例も多い。

2.  クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは

 上記のような問題点を、一部でも改善しようとするライセンスの試みとして、2002年に米国で始まったのがクリエイティブ・コモンズである。クリエイティブ・コモンズは、既存の著作権制度を変えようというものではなく、既存の制度の上に立って、権利者が了解した場合にのみ、著作権の柔軟な選択肢を権利者に与えるものである。ライセンスが付与されたコンテンツが増えることによって、利用者にも多様な選択肢を与えることができる。
 クリエイティブ・コモンズの特徴を現在の著作権法と照らして挙げると、次の3つになる。
 第一に、デフォルト(原則)が禁止ではなく、自由であること。下記に説明する4つの条件の組み合わせにより自由にできる行為には多少の幅があるが、その範囲内なら著作権を気にせず作品を利用できる。しかも、許諾の範囲内の権利をすべてパッケージ化して許諾しているので、著作権法の原則のように、放送なのか、複製なのか、インターネット上の利用なのか、という利用形態ごとに許諾を取り直す必要もない。
 次に、権利者を探す必要がないということ。CCライセンスは作品と一緒に流通する仕組みになっているため、その範囲内なら権利者と交渉する必要がない。当然、権利者の連絡先も知る必要がない。
 最後の特徴は、メタデータがついていること。簡単に言えば、コンピュータにもライセンス条件が理解できるような仕組みを備えている、ということだ。そのため、検索エンジンでもCCライセンスの条件を指定したコンテンツ検索ができるし、この仕組みは一般に公開されているのでライセンスをつけるツールを自分のソフトウェアに組み込むこともできる。

 クリエイティブ・コモンズのライセンスは、1機械が判別できるRDF構文のメタデータ、2一般の方にも分かりやすいコモンズ証、3法律家がドラフトしたライセンス条項の三層構造になっている(添付資料1(PDF:137KB)参照)。ライセンスを得る手続きを行う際、クリエイティブ・コモンズのウェブサイトに用意されている質問に答えることでライセンスの種類が決まるが、それと同時にメタデータが添付されるようになっている。

 ライセンスは、基本的に4つの条件を組み合わせた6種類のライセンスがある。


1【表示】著作物を自由に使う代わりに、著作権者の名前と著作物のタイトル等を表示することを義務付ける条件である。現在、全てのライセンスにこの条件がついている。


2【非営利】非営利の目的であれば利用して構わないという条件である。例えば個人のブログや会社でのプレゼン、サークル、学園祭などで利用する場合には、対価を徴収しない限り許諾は必要ない。裏を返せば、営利目的で利用する場合は、別途許諾を得る必要がある。将来的な方向性としては、許諾を得る方法が非常に複雑な場合、そこで利用が途切れてしまう可能性が高いため、権利処理にうまくつなげていく仕組みの構築を権利者と相談しながら進めていきたいと考えている。


3【改変禁止】同じ形態で利用する、改変禁止のライセンスである。改変をする場合は、別途許諾を得る必要がある。


4【承継】同じライセンスを継承するものである。改変の禁止と継承のマークは、どちらかを選ぶか、どちらも選ばないかの選択肢がある。継承のライセンスを選択した場合、改変は許諾されるが、改変した結果として出来上がった著作物は、クリエイティブ・コモンズの同じ種類の継承ライセンスを付ける必要がある。しかし、継承のライセンスが付いていない場合は、クリエイティブ・コモンズのもとで自由に利用して良い作品を見つけて、自分の作品に利用したとしても、新しくできた作品には必ずしもクリエイティブ・コモンズを付けて再発表する必要はない。

 現在、クリエイティブ・コモンズは、各国の法律専門家でネットワークを構成し、各国の著作権法に即した各国法準拠版を40以上発表している。ライセンス数としては、世界中で2006年6月時点で1億4千万ライセンス、現在ではほぼ2億以上のライセンスが利用されていると推定されている(添付資料2(PDF:111KB)参照)。
 日本では、現在、中山信弘東京大学教授を理事長として活動しており、NPO法人の申請中である(近日中に法人化の予定である。)。

3.  著作物の流通に関する意思表示システムについての意見

 著作物の流通に関する意思表示システムに関連しては、以下の点を意見として申し述べる。

 意思表示システムが可能にする著作物の利用の効果としては、改変その他の利用を低コストでインターネット上で複数の人が協力して行えることによって、ほかの媒体では不可能な規模で多数の人が協力し、その知恵を結集したウィキペディアのような著作物の創作を可能にすることがまず挙げられる(ウィキペディアはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを利用している例ではないが、GNU Free Documentation Licenseという他のライセンスを利用している)。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの利用例でも、クリエーターが作品をオンラインで公表し、他の人によるリミックスを積極的に促して、その結果を自分の作品に取り込んで公表するアーティストなどが出てきており(注1)、新たな形での創作を実際にサポートしていることが実証されている。
 また、添付資料2に見られるとおり、ライセンスの採用数は二次曲線を描いて増加の一途を辿っており、一定の範囲では著作物を自由に利用して欲しいと考えている権利者が沢山存在している事実を表している。著作物を、一定の条件の下でむしろ積極的に公表し露出させることで、著作物の価値を高めようとする動きは、広告モデルやオンライン上の電子商取引等と結びついて商業分野でも本格化しつつあり(注2)、著作物の利用の形態や、著作物を創作し利用させる権利者の側のインセンティブも、従来に比べて多様化しつつあることが垣間見られる。

 このように、意思表示システムによって、多様な創作や利用形態を法的にサポートすることができるが、かかる意思表示システムをより安定的なものとするために、法的な観点からは以下の問題点をあげることができる。
 一つ目は、クリエイティブ・コモンズに限らず、いわゆる「自由利用」を認めるライセンスの種類は、できるだけ少なくし、できれば標準化したほうがよい、ということである。著作物Aと著作物Bとが、仮に両方とも改変を認めていたとしても、もしも、その利用条件が異なることとなってしまえば、著作物Aと著作物Bは一緒に利用することができるのかどうか、仮にできたとしても、その結果として生じた著作物Cは、どのような利用条件に基づいて利用できるのかが明確ではなく、混乱を招く結果となってしまう。この点は、既にオープン・ソース・ソフトウェアの世界で、「ライセンス同士の相互互換性の欠如」という論点として深刻な問題として議論されており、なんらかの対策が必要となる(ただし、政府による解決が望ましいのか、市場による解決にゆだねるべきなのかは、別途、検討する必要がある。)
 二つ目は、このような自由利用のライセンスは、全権利者の同意がなければそもそも付すことができず、その意味で、通常の権利処理の問題点を完全には回避できていない、ということである。すなわち、一度、全権利者の同意がとれてライセンスが付された後は、利用者の権利処理の負担は低くなるが、ライセンスをつけるに当たって要求される権利処理は通常と異ならない、ということである。したがって、このような意思表示システムは、権利者不明の著作物、複数権利者の著作物における一部の権利者の不同意など、過去の著作物に共通して見られる問題については、なんら解決を提供せず、むしろ、同じ問題に直面しているということができる。
 三つ目は、せっかくCCライセンスによる合法な流通の結果、よい作品が人の目に留まったとしても、そのライセンスに非営利のマークがついていた場合には、営利目的で利用したい利用者は、再度、許諾を取り直さなければならないことになり、最終的には商業的な権利処理体制が整っていなければ、著作物の商業的な利用はそこで躓いてしまうことになる、という問題点がある。したがって、理想的には、商業的利用に関する権利処理体制が整備され、そことの有機的な連携が図れるようになれば、よりスムーズな著作物の利用が実現できることとなる。もちろん、CCが独自の商業的権利処理体制を整えても良いであろうが、既存の権利処理体制が既に存在している部分については、少なくとも、その体制と上手に連携をとることができれば、よりスムーズな権利処理を行うことができるのではないかと考える。
 四つ目として、CCライセンスの法的拘束力の点が問題とされることがあるが、この点は、ライセンスの表示の仕方が、相手方の承諾を確実に取るような形になっているのであれば、契約として成立していると考えることもできる。また、仮にそうでないとしても、ライセンスは、著作権の効力を背景としているため、実際にライセンス条件を違反したものに対しては、契約に基づくのではなく、著作権に基づいた権利行使を行うことが可能である。実際に、オランダでは、著作権に基づいてCCライセンス違反の利用に対して権利者が訴訟を提起して勝訴した例が認められる。したがって、この点はあまり難しい問題ではない。

(注1) 例えば、米国CCがホストする”CC Mixter”という音楽リミックス・サイト(http://ccmixter.org/(※CC Mixterホームページへリンク))では、プロとアマチュアの音楽家が共同で作品を創作する例も多数見られ、中にはその結果を商業CDとして出版・販売した例も存在している。
(注2) 例えば、投稿した動画に広告をつけて配付し、自由に複製・視聴させて広告料を稼ぐビジネスモデルのReveerhttp://reveer.com/(※Reveerホームページへリンク))というサービスにおいて、人気を博した動画を作成したアマチュア作家が約200万円を稼いだ、という例も報告されている。また、南アフリカのHuman Science Research Councilは、過去に作成した研究レポートを全文PDFにしてクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で公表したところ、これらの研究レポートのオン・ディマンド出版部門の売上が300パーセント増加した、との結果を公表している(http://www.evegray.co.za/downloads/digitalpublishing.pdf(PDFファイル)(※Eve Grayホームページへリンク))。

4.  過去の著作物等の利用の円滑化方策についての意見

 上記に述べたとおり、現在、共同著作物・二次的著作物・他人の著作物をその一部に含む著作物などが急増しているが、これらの著作物にCCライセンスを適用しようとした場合には、その適用する権利者は、自己の権利にかかる部分以外の部分について、CCライセンスを適用することについて同意を得なければ、そもそも作品全体にCCライセンスを適用することができない。そのため、まず、CCライセンスなどの意思表示システムが適用となる前提問題として、権利処理の問題は避けて通れない。特に、現状の法制度では、著作物における権利関係は複雑に入り組んでおり、弁護士であっても著作権法に詳しくない者は判断を間違えるほどの専門知識を要求される分野であって、一般のユーザーに権利処理の判断を全て委ねることには困難が伴うことも事実である。このような、権利処理にまつわる困難性やコストの高さが、CCライセンスの適用の阻害要因の一部となっており、そのために必要な啓蒙活動にも相当な努力が強いられることになる。
 したがって、過去の著作物の権利処理については、これを明確にし、かつ容易にする制度の導入を強く希望する。
 たとえば、現状の権利者不明等の場合の裁定制度の運用が非常に厳しく、大変高い調査コストを払わなければそもそも裁定制度の申請が行えない点や、たとえ同じ著作物について誰かが既に調査をしていたとしても、第三者が再度申請したい場合には重複して調査を行わなければならない点などについては、文化庁の運用を改め、たとえば、利用目的の公益性が高い場合や、利用態様が権利者を害するものでない場合には、より低い要件で裁定を認める等の手当てが行われることを希望する。あるいは、米国で提案されていたOrphan Worksの制度にみるように、一人が調査を行った場合には、その結果が対世的に及ぶような方策についても、検討されることを希望する。
 さらには、権利者不明以外の理由により著作物の利用が妨げられている場合についても、市場での解決が難しい場合には、何らかの手当てを行うことが望ましいと考える。たとえば、現状、共有にかかる著作物において、利用の同意を得られない場合には、利用を行いたい権利者は他の共有者に対して訴訟を提起することが求められているが(著作権法65条3項)、これはかなりの費用を要する行為であり、実際にはほとんど利用されていない。しかし、複数の権利者が一つの財に対して権利を有している場合には、アンチ・コモンズの悲劇と呼ばれるとおり、経済学的に市場における解決が困難であることが立証されており、なんらかの手当てを講じない限り、この問題が自然に解決することは期待できない。したがって、共有にかかる著作物、二次的著作物など、権利者複数の場合の著作物の利用に関しては、より簡便な裁定もしくは同意推定規定などの導入を強く希望する。
 また、著作権の権利者不明等の問題点が将来的に発生することを防止するという観点からは、権利者の協力を得ることで効率的に問題を解決できる場合には、著作権法における保護を享受する側面として、かかる協力を促進する手段についても検討することで、制度としてバランスの取れたものとすることを検討すべきであると考える。たとえば、米国のように、登録制度に一定の法的効果を持たせることはベルヌ条約違反とならないと考えられることにも鑑み、権利者が著作権法における保護を享受するのであれば、その反面として、権利の所在を明示する一定の仕組み(たとえば、権利者の氏名や連絡先、権利者の死亡年月日等について登録を行うなど)を制度として導入し、このような制度を利用した権利者には一定の効果を持たせる(たとえば、一定期間経過後は、権利者の所在等について登録しない権利者は報酬請求権とし、登録した権利者は許諾権とするという案、登録しない権利者は利用について同意したことを推定する案、など)を検討することは非常に価値のあることであると考える。

5.  保護期間のあり方についての意見

 なお、保護期間の延長に関しては、著作権期間が延びることにより、相続が発生して、権利者の所在の把握がますます困難になり、かつ権利処理も更に複雑化するなど、上記に記載した問題点をますます深刻化させることが容易に予想されること、それに伴って、将来の著作物の創作活動に悪影響を与え、文化の発展に寄与しないことが懸念される。そのため、著作権期間の延長には反対である。
 また、著作権期間の延長に関連しては、延長する対象の作品の範囲についても、今一度慎重な検討が必要である。もしも、期間の延長が著作物の創作意欲を高めるためであるのならば、著作権の期間延長によって創作意欲が高まるのは、延長後に創作される作品についてのみであり、既に過去に創作された作品については、いかなる面から検討したとしても創作意欲が高まることはないのであるから、延長する理由がない。したがって、延長を議論するとしても、その対象は、将来創作される作品に限定されるべきである。

以上


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