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資料6

過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会
ヒアリングにおける意見

2007年4月27日

社団法人 日本書籍出版協会

1  保護期間の在り方について

 出版社には権利者の立場と利用者の立場の両方があり、当協会としては、70年への延長、50年据え置き、どちらとも判断が困難な立場であります。
 出版界内での意見も様々であり、当協会加盟各社から保護期間の延長に対して肯定的な強い意見のない状況において、著作権の保護期間について現行の50年からの変更を要望する積極的な理由は見出せません。
 当協会は、1996年6月にも同様の意見を表明し、その理由として次のことを述べました。

  「著作物は、著作権者が権利を占有する私的財産であると同時に、人類全体の共通の知的財産であるといえます。そのため、各国の著作権制度では、一定の保護期間を定め、その期間が経過したのちは、万人が等しくその先人の遺産である著作物の利用を享受できることとしておりますが、実際に著作権の保護期間として何年が適当かは、その時代における著作物の利用状況、著作権継承者が受ける利益の妥当性、保護期間を経過した著作物の利用によって国民が受ける公的利益の期待等を勘案し、各国の国情に照らして判断すべき問題であります。
 ネットワーク化が進展し、国際的に著作物の相互利用が盛んとなっていく趨勢において、国際的なハーモナイゼーションが重要でありますが、現状では、条約が要求するよりはるかに長い保護を直ちに認める必要性は、少ないものと考えます。
 また、わが国は、世界でも少数の戦時加算の義務を負っており、通常の保護期間より長い期間の保護を必要とする海外の著作物も少なくありません。保護期間延長を行う場合には、少なくとも、戦時加算制度の廃止または戦時加算対象著作物の消滅後とすることが適当であると考えます。

 この意見表明から10年が経過した現在においても、ベルヌ条約が求める以上の保護を直ちに行わなければならないほどの国内事情の変化は見当たらないと考えます。
 ただ、欧米のほとんどの国が保護期間を70年に延長したこと、また、わが国が利用する海外の著作物の多くが欧米諸国のものであることを考えれば、70年への延長は、国際的な調和を図るためには、やむを得ないものであるといえます。
 しかしながら、わが国は第二次大戦の戦勝国に対して10年以上の戦時加算の義務を負っており、70年への延長によってそれらの国々の著作物を実質80年以上片務的に保護することとなり、著しくバランスを欠きます。
 もとより、戦時加算の廃止が望ましいですが、このアンバランスな状態を補整するために、わが国としては、戦時加算対象の著作物が消滅するまでの当面の間、死後60年間の保護とすることも考えられるのではないでしょうか。
 また、70年に延長するとしても、著作権者不明の場合の裁定制度の改善(後述)や、権利者情報データベースの構築等、利用の円滑化のための方策が十分に措置されることを強く望みます。

2  過去の著作物等の利用の円滑化方策について

 権利者不明等の場合の著作物の利用については、文化庁長官の裁定を受ける制度があります。導入時に比べると同制度は簡素化されてきていますが、依然として大変な時間と手間、コストがかかるものとなっています。
 裁定を受けるためには著作権者を探す相当な努力を行った後であることが前提となっており、独自の調査に加え、自社ホームページへの著作権者を探している旨の広告掲載および著作権情報センターでの自社ページへのリンク(料金21,000円たす2,100円)、または同センターホームページ上での広告掲載(料金21,000円たす10,500円〜)が必要とされています。さらに、文化庁への裁定申請の際、14,000円の手数料がかかり、利用が認められた場合には当然これとは別に補償金を供託します。
 しかしながら、出版社が自社で算出した著作権者への著作権使用料額が数千円程度であることも多く、出版物の性質上どうしても掲載しなければならないにもかかわらず、利用を躊躇せざるを得ない著作物も少なくありません。
 一方で、出版物の発売日までに裁定が下りず、やむを得ず未裁定・未許諾の状態で出版物を発売したところ、裁定申請が取り消されるという事態も起きています。
 つきましては、上記料金・手数料についての減額や国による補助、および裁定に特化した審議会・小委員会を定期的に開催するなどして裁定の迅速化を図ることをお願いしたいと存じます。
 また、著作権や著作権者等の情報についてのデータベースを、官民あげて構築することを切に希望します。
 これらのことは、保護期間の在り方と密接に結びついていることであり、70年に延長するためには必ずクリアしなければならない問題です。
 なお、国際出版連合(IPA)著作権委員会は、「著作権所有者の合理的かつ入念な調査」、「明白かつ十分な著作権者の表示」、「著作権所有者への十分な報酬または適切な返還」等を条件として権利者所在不明の著作物を利用できるようにするルール・慣行を築くため、2006年に『権利者所在不明の著作物の使用に関するIPAの立場』を作成しています。

3  アーカイブへの著作物等の収集・保存と利用の円滑化方策について

 絶版等の理由で入手困難な出版物について、図書館や博物館や放送事業者のアーカイブにデジタル化して収集・保存・提供することを、著作権者の許諾を得ることなく行えるように著作権法を改めることには反対します。
 絶版の定義や絶版であるかどうかの確認は困難であり、それが可能であった場合でも、一度図書館等のアーカイブに収録され提供されてしまえば、出版物として再び世に出る機会は少なくなると考えられ、ひいては出版文化の衰退につながります。
 アーカイブに収める出版物は、現在のところ、著作権の保護期間が経過したものに限られるべきです。

4  意思表示システムについて

 クリエイティブコモンズや自由利用マーク等の仕組みの利用促進を図るために方策を講じることについては賛成です。
 なお、利用が促進されるためには、それらの表示が、虚偽であったり、あるいは意思表示を行う正当な権限のない者によって行われた場合等において、表示を信じて利用した者に対する免責、および表示を偽った者に対する罰則を設ける等の措置を行い、仕組みの信頼性をあげる努力も必要と考えます。
以上


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