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資料2

著作権保護技術と補償金制度について(案)

平成20年5月8日

1 権利者の被る経済的不利益と補償の必要性について

  •  著作権保護技術の施された著作物の私的録音録画に関する権利者が被る経済的不利益については、例えば権利者の要請による技術については、原則として補償の必要性がないことは、関係者に異論はないと考えられる(注1)。

    • (注1)例えば、次世代オーディオ(例えばDVD-Audio)については、権利者側の要請に基づき著作権保護技術が採用されているものであり一般に補償の必要性がないと考えられる。
  •  ただし、一方でデジタル録音録画については、高品質、品質の劣化がない等の特性を有していること、著作権保護技術の採用の経緯・その内容等は様々であることから、上記の場合以外の全ての利用形態について、一律に経済的不利益は解消され、権利制限規定の下において補償の必要性がなくなるとまでは言い切れないと考えられる。

(説明)

1 業界ルール策定の際の「権利者」の意味について

  •  (参考)(2)の業界ルールと個別のビジネスモデルの区分に従い、本項では業界ルールの策定を前提とする。この場合、権利者の要請といっても、業界ルールの策定にあっては、関与する権利者から個別に了解を取り付けていくことは実際上あり得ず、権利者側の意見はある程度誰かが意見を集約して要請する形態となる。映像コンテンツ(放送番組を含む)やレコードの利用に当たっては、いわゆる映画製作者(放送事業者を含む)、レコード製作者等のコンテンツホルダー(権利者)が、当該コンテンツの利活用を管理していると考えられることから、要請を行うのは、基本的にはコンテンツホルダーである権利者又はその団体と考えられる。ただし、コンテンツホルダーである権利者又はその団体は、当該コンテンツに利用されている関係権利者又はその団体の意見の集約に努めなければならないのは当然である。

2 「権利者の要請」について

  •  権利者が、私的録音録画に関する著作権保護技術のルール作りに参画できる場合は、権利者は権利制限により当該技術の範囲内での録音録画が自由に行われることはあらかじめ承知した上で、権利の保護と利用の円滑化のバランスを考えつつ、権利者の被る経済的不利益が最小限となるよう当該技術の内容を求めることができる。策定されたルールが権利者の意向を反映していればいるほど、権利者側の被る経済的不利益は少なくなり補償の必要性もなくなるはずである。補償金制度を前提として著作権保護技術を求めるという主張もありうるが、立場によって見解が異なる場合にはその主張に基づく制度設計は困難である。少なくとも今後のルール作りにおいては、事情の変化により関係者の合意が得られる場合を別として、補償の必要性はないことを前提として要請するべきである。
  •  なお、この場合、当該技術が新たに開発されるものか既存の技術であるかは問わないことはいうまでもない。また、あるプラットフォームが存在しており、その中からどのようなコントロール技術を選択するかについて要請が行われる場合も当然含まれる。
  •  また、業界ルールの円滑な策定のためには、技術的仕様を開発するメーカー等は権利者からのこうした要請について真摯に対応するよう努力することが重要である。

3 「要請」類似行為

  •  「権利者の要請による技術」とは、一般的に権利者側がある仕様を強く要求してできた技術のことをいうが、「要請」があった場合と同様に考えてよい他の類似の行為としては、例えば、コンテンツホルダーである権利者、著作物等提供者、機器等の製造業者等の関係者が共同で開発した技術や権利者自らが仕様を決定してできた技術である場合などに係る行為が該当する。要するに当該技術の導入前に、権利者がその意思に従って当該技術の開発や採用の決定に関与したかどうかが要素になる。

4 個別ビジネスモデルにおける技術について

  •  (参考)(2)のアで整理したように、特に業界ルールの策定については、権利者の要請に基づき著作権保護技術が策定される場合が多いと思われるが、個別ビジネスモデルにおける技術の採用においては、権利者の要請がない又は曖昧な場合も多いと考えられる。
  •  このような場合に、著作権等の保護を重視した著作権保護技術も見られるところであり、権利者の明確な要請がなかったからといって、直ちに補償の必要性があると判断することは問題があると考える。
  •  上記2及び3の要件は個別ビジネスモデルの場合においても該当することはいうまでもない。さらに、民間における個別ビジネスモデルのルールについては、技術導入後も権利者との協議により、ビジネスモデルを変更することが可能なこと、また、業界ルールと違い個々の権利者はどの事業者に著作物等を提供するかどうかの自由が確保されているところから、個別ビジネスモデルに利用されている技術に基づく録音録画については、少なくとも補償金制度による補償の必要性はないと考えてよい。
  •  なお、この点は5で整理する中間整理の文化庁試案ウとの関連もあり、いずれにしても、配信事業等については、補償金制度よりも契約による対応に委ねるべきである。

5 過去に策定された著作権保護技術の評価

  •  前述のように、今後は補償の必要性がないことを前提にして権利者が著作権保護技術を要請することとしても、過去に権利者の要請により策定された著作権保護技術については、現実に補償金制度が存在している以上、補償金制度を前提とした要請であったとの評価もあり得るところである。
  •  したがって、過去に策定された著作権保護技術が今後も実施される場合において、それをどのように評価するかの問題が残ることになるが、この評価の基準として、中間整理における文化庁試案を活用することが考えられる。
  •  中間整理では、著作権保護技術により補償の必要性がなくなる場合の試案として、
    • ア 録音録画が著作権保護技術によって厳しく制限される場合
    • イ 個々の権利者が著作物等を提供する際に、アの厳しい制限を含むいくつかの選択肢の中から自由に選択できる場合
    • ウ 著作権保護技術と契約の組み合わせにより、利用者の便を損なうことなく、個別徴収が可能な場合
    の3つの類型について整理している。
  •  このうち、イは権利者に選択権が認められていることから、権利者の要請がある場合として捉えることができる。また、ウについては、契約による解決を図る場合と位置づけられる。したがって、このような形態に関連する著作権保護技術については、その内容如何に関わらず、補償の必要性は生じないと考えられる。
  •  アについては、「厳しい制限」の曖昧さや拡大解釈の恐れ等の指摘があり、安易な適用は慎まなければならないが、既存の著作権保護技術について本小委員会の関係者の合意により評価する場合は、これを活用することは可能であると考えられる。

(参考)

(1)中間整理で整理された考え方

  •  著作権法上の技術的保護手段は、「権利者の意思」に基づき当該手段が用いられることが要件であるが(著作権法第2条第1項第20号)、この意思は「あくまで一定の著作物等の提供にあたり、利用者が利用可能な範囲を技術的に限定することを意図したものであるので、その範囲における録音録画について、無償利用を認める意思まで含まれているとはいえない」としている(中間整理P114)。
  •  また、同時に「補償金制度は、私的録音録画が一定の範囲内で自由にできることを前提に、その補償措置として存在しているから、著作権保護技術が私的録音録画を制限する程度によっては補償すべき不利益は生じないとする考え方が成り立つ」としたうえで、「イー1 著作権保護技術によって通常の利用者が必要とする第30条の範囲内の録音録画ができるのであれば、1の基準に戻って権利者の経済的不利益及び補償の必要は判断すべきであるという意見」と「イー2 権利者は提供された著作物等がどのような範囲で録音録画されるかを承知の上(著作権保護技術の内容により想定できる)で提供しているので、重大な経済的不利益はなく、補償の必要性はないとする意見」の2つの意見を記述し、「意見の相違が見られる」としている(中間整理P116)。
  •  更に、前者の見解に立ったとしても、著作権保護技術の「開発過程に権利者がどのように関与したか等の評価の問題はあるもの、著作権保護技術の内容や当該技術と契約の組み合わせ方法等のあり方次第では補償が不要になる場合があることに大きな反対はないところである」としている。

(2)著作権保護技術の採用の実態

  •  中間整理における著作権保護技術の評価の概要は以上のとおりであるが、その前提となる著作権保護技術の導入の原因や当該技術の採用方法をもう少し詳細に分析すると次のようなことがいえる。
    • ア 著作権保護技術は、録音録画技術がデジタルの時代になって飛躍的に改良され、高品質、何度複製しても品質が劣化しない等の特性のほか、録音源や録画源そのものの品質の向上(例えば、従来規格の放送番組とハイビジョン規格の放送番組との品質の差)が進んだことで、無制限かつ高品質の録音録画を放置すれば、著作物等の流通に支障が生じ、ひいては著作物等の創造のサイクルにも影響があることなどの理由から生まれてきたものである。したがって、著作権保護技術は権利者側からの要請によって生じてきたものであるということもいえ、現実に著作権保護技術の採用にあたり、権利者側も何らかの関与をしている場合も多い。また、何らかの関与をしていないとしても、著作権等の保護を重視した著作権保護技術(課金可能な技術、録音録画の厳しい制限等)も見られるところである。
    • イ 著作権保護技術の採用の経緯・その内容等は様々であるが、これを大別すれば、音楽CDや映画ソフト等の録音録画や放送からの録音録画のようにある業界全体のルールとして採用される場合と、音楽や映像の配信事業のように業界ルールというよりも個別のビジネスモデルの中で採用される場合とがあるが、特に前者については、一旦決めたルールはそう頻繁に改正されるわけではないので、著作権保護技術の策定に当たっては、権利者側の関与が大きい場合もある。

2 私的録音録画補償金制度による解決について

  •  補償金制度は、著作権保護技術がない時代に制度設計され導入されたものであるが、著作権保護技術により、録音録画について一定の規制が行われる場合、いままでのように事実上無制限の私的録音録画が行われる状況は解消されることになる。
  •  この著作権保護技術は、著作物等の提供者又は権利者の要請により機器メーカー等が開発している場合がほとんどであり、機器メーカー等は、権利者が望まない録音録画の抑制について、一定の役割を果たしていることは評価しなければならないと考える。
  •  補償金制度は、私的録音録画の拡大に伴い、権利保護と利用の円滑化に関し録音録画機器等のメーカーに補償金の支払いについて一定の協力を求めるという考えをもとに制度設計されているが、著作権保護技術が普及し、録音録画の制限に機器等のメーカーが一定の役割を果たしている現状から、著作権保護技術の開発・普及のみならず、補償の必要性がある分野であっても協力義務者か支払義務者かにかかわらず機器等のメーカーに一定の負担を強いるのは関係者の理解を得られなくなってきており、現行の補償金制度による解決は、今後縮小し、他の方法による解決に移行すべきであると考える(注2)。

    • (注2)著作権保護技術による録音録画の制限を緩和し、関係者の合意により補償金制度で対応するという選択肢を否定する必要はなく、将来そのような合意が成立すれば、補償金制度を存続させることは可能と考える。

3 補償金制度による対応を検討する分野

  •  2のとおり補償金制度による対応を縮小することとするが、当面補償金制度での対応を検討する必要がある分野としては次のとおりである。
    • ア 音楽CDからの録音
      •  音楽CDは基本的に録音自由のメディアであり、SCMS方式により第一世代の録音しかできないものもあるが、それ以外は機能していない。
    • イ 無料デジタル放送からの録画
      •  我が国の無料デジタル放送の新しい著作権保護ルールであるダビング10については、
        •  ダビング10の採用に関する一連の経緯等から、権利者の要請により策定されたものでないこと、
        •  無料放送は他の放送等に比べて公共性が高い放送であり、できるだけ多様な情報や娯楽を積極的に国民に提供するという使命を有していることから、例えばコピーワンスという技術的に採用可能な方法を選択権の一つとして確保することが事実上できないこと、
        などの特殊性があり、かつ、無料放送であることから権利者と利用者との契約により対応もできない。
      •  なお、ダビング10は暫定ルールであるが、例えば、権利者の要請などに基づく新たなルールが導入された場合は、補償金制度は必要ないものと考える。

(説明)

6 無料デジタル放送からの録画に関し、いわゆるダビング10は、「権利者の要請により策定されたものではないこと」の意味

  •  現行の無料デジタル放送の録画方式であるいわゆるコピーワンスは、同放送の運用開始にあたり、「デジタル入出力方式によって接続されたデジタル機器間でのコンテンツの転送等に係る保護技術であるDTCP等のルールを参考にして、技術を開発したメーカー各社及び方式を選択した放送事業者等の合意により策定・適用されているもの」(総務省情報通信審議会第4次中間答申(平成19年8月))である。
  •  その後、特に利用者側から、移動(ムーブ)を行うとオリジナルが消失してしまう、機器等の誤作動等により移動(ムーブ)が失敗するとオリジナルの番組とDVDに途中まで録画された番組の双方が使用不能になる等の理由から利便性に欠けるとの問題の指摘があり、大きな社会問題になったところである。
  •  放送における著作権保護技術は、本来は民間レベルでの問題であるが、無料デジタル放送については公共性が非常に高いところから、総務省の情報通信審議会の場で、著作権保護技術の運用改善について検討が続けられてきたところである。
  •  同審議会は、昨年8月に、コピーワンスの見直しについては、COG(Copy One Generation)プラス一定の制限という考えが適当とした。具体的なコピー回数については、最初に番組をハードディスクに録画したものに加えて、10回別の記録媒体等に録画できることが適当とした(最後の録画時にハードディスク内のオリジナルは消去される)。
  •  このダビング10の結論にいたる検討経緯は、同審議会の第4次中間答申に関係者の意見も含め詳しく記述されており、議事録も公開されているが、権利者側は、COGプラス一定の制限という考え方そのものについては支持しているものの、特に回数については、権利者の要請により策定されたものといえないことは明らかである。

7 無料デジタル放送のコピーワンスについて

  •  無料デジタル放送におけるコピーワンスは、現在既に実施されている技術であるが、5の整理を踏まえ、中間整理の文化庁試案のアを活用して補償の必要性を評価する必要がある。
  •  コピーワンスの評価については、現状では関係者間で見解の相違があるが、総務省の情報通信審議会において利用者の利便性確保の点から問題があるとしてその運用改善について取り上げられたことであり、また、この問題に関する国民の受けとめ方等を総合的に勘案すると、コピーワンスは厳しい制限の一つと位置づけることも可能であると考えられる。
  •  したがって、本小委員会において制度の見直しについて合意が得られた場合には、コピーワンスを文化庁試案のアにおける「厳しい制限」に該当すると合意すべきと考える。

8 有料放送からの録画について

  •  現在の有料放送については、一般にコピーワンスかコピーネバーのどちらかで運用されており、番組ごとにコピー制限を変えられるチャンネルもある。
  •  したがって、7の整理により、コピーワンスが厳しい制限と位置づけられた場合には、少なくとも現状の有料放送における録画については、今後同様に補償の必要性がないということになる。
  •  また、将来コピー制限について更に複数の選択肢が加わったとしても、中間整理の文化庁試案イ又は「権利者の要請」の要件により、補償の必要性はないと考えて差し支えないと考える。

4 権利者が被る経済的不利益の解消について

  •  著作権保護技術の採用されている分野の中で、3以外については現行の補償金制度による解決が不適当であるとしても、利用者の私的録音録画により権利者が経済的不利益を被り、また補償の必要性も否定されない利用形態が残ることになるが、権利者が被る経済的不利益を解消するためには、著作物等の提供者を介する場合も含め、権利者が契約により経済的利益を確保できる場合においては、契約モデルによる解決に委ねるべきと考える。
  •  この場合、問題になるのが契約環境の整備である。30条2項を改正し、私的録音録画について、無許諾、無償の録音録画を認めた上で、契約モデルに移行することも考えられるが、利用者の利便性の確保と利用者が大きな不利益を被らないことを前提として、例えば可能な分野(例えば配信事業)から30条の段階的縮小を行うことにより、権利者が契約によりその利益を確保しやすくすることを考慮していく必要がある。