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資料9

私的録音・録画補償金制度の創設経緯

1. 著作権法第30条制定に係る議論

(1) 旧著作権法
 旧著作権法(明治32年法律第39号)においては、既に発行した著作物を「発行スルノ意思ナク且器械的又ハ化学的方法ニ依ラスシテ」複製することは偽作(著作権侵害)とみなさないとし、その複製手段について「器械的又ハ化学的方法ニ依ラスシテ」ということを要件としていたため、私的使用のための複製は、手写等に限定されていた。

(2) 現行法制定時
 現行法の制定当時(昭和45年)において、複写機器・録音機器等が発達・普及しつつあったために、録音機器等を利用して、私的な使用のために著作物を複製することに著作権者等の許諾を要するものとすることは、実情に即しないものとなっているとの認識の下に、上記のような複製手段を限定する要件は廃止された。

 しかしながら、上記の複製手段限定の要件を廃止することと併せて、現行法制定のために設置された著作権制度審議会の報告書(昭和41年4月)において、「私的使用について複製手段を問わず自由利用を認めることは、今後における複製手段の発達、普及のいかんによっては、著作権者の利益を著しく害するにいたることも考えられるところであり、この点について、将来において再検討の要があろう。」と指摘された。


2. 第5小委員会(録音・録画関係)(昭和52〜56年)

(1) 背景
 昭和52年3月、社団法人日本音楽著作権協会、社団法人日本芸能実演家団体協議会及び社団法人日本レコード協会の3団体から連名で、文化庁長官に私的録音・録画の問題の解決策として、西ドイツ(当時)において採用されているのと同様の録音・録画の機器メーカー及び機材メーカーに対して補償金支払の義務を課する制度を導入する要望書が提出された。
 なお、参議院文教委員会において、「放送・レコード等から複製する録音・録画が盛んに行われている実態にかんがみ、現在行っている検討を急ぎ、適切な対策を速やかに樹立すること」との附帯決議がなされている(昭和53年4月18日(参議院文教委員会))。
  文化庁は、このような動きに対応して、著作権審議会に、第5小委員会を設置し、昭和52年10月から検討を開始した。

(2) 検討結果
 同小委員会では、西ドイツにおいて既に実施されていた補償金制度、WIPO(世界知的所有権機関)等の国際機関における検討の状況に留意しつつ、検討が進められた。
 検討結果として、昭和56年6月の報告書において、
ア. この問題についての国民の理解が十分でないこと
イ. 対応策についての国際的な動向を見極める必要があること
ウ. 権利者、録音・録画機器メーカー等の関係者の間でその対応策について合意の形成に至っていないこと
等の理由から、「現在直ちに特定の対応策を採用することは困難である」と結論し、「基本的な合意の形成に向けて今後関係者の間で話し合いが進められること」を提言するにとどまった。

3. 著作権問題に関する懇談会(昭和57〜62年)

(1) 背景
 第5小委員会の報告を受け、昭和57年2月、社団法人著作権資料協会(現社団法人著作権情報センター)に権利者団体関係者、録音・録画機器・機材のメーカー団体関係者、学識経験者等からなる「著作権問題に関する懇談会」が設置され、以来5年間にわたり検討を行った。

(2) 検討結果
 昭和62年4月、同懇談会の検討結果を以下のとおりまとめた。
 第5小委員会の指摘する問題点のうち著作権等の保護に対する国民の理解という点については、一定の前進が見られるものの、「この問題を解決するための具体的な方策について、同懇談会において関係当事者間の合意を形成するに至ることは困難である」として、「再度、著作権審議会において制度的対応策について検討すること」が要請された。


4. 著作権審議会第10小委員会(私的録音・録画関係)(昭和62〜平成3年)

(1) 背景
 第5小委員会や著作権問題に関する懇談会における検討と並行して、各権利者団体から、文化庁に対し、補償金制度導入に係る要望がなされた。また、昭和59年以後、著作権法の一部改正の法案審議に際し、衆議院及び参議院の文教委員会において、私的録音・録画問題に対する制度的対応の推進に関する附帯決議がなされ続けた(昭和59年4月27日(衆議院文教委員会)、5月7日(参議院文教委員会)、昭和60年5月22日(衆議院文教委員会)、6月6日(参議院文教委員会)、昭和61年4月23日(衆議院文教委員会)、5月15日(参議院文教委員会))。
  文化庁は、このような動きに対応して、著作権審議会に、第10小委員会を設置し、昭和62年8月から検討を開始した。

(2) 検討結果
 本委員会は、補償金制度の導入について関係者の合意が得られる見通しがついたことから、平成3年12月、報告書において、私的録音・録画問題の制度的な対応策を提言した。
 同提言において、私的録音録画が権利者の利益を害しているかについては、「これらの実態を踏まえれば、私的録音・録画は総体として、その量的な側面からも、質的な側面からも、立法当時予定したような実態を越えて著作者等の利益を害している状態に至っているということができ、さらに今後のデジタル化の進展によっては、著作物等の「通常の利用」にも影響を与えうるような状況も予想されうるところである。」
 また、国際的動向については、「国際的動向に照らしてみても、ドイツにおける制度的対応以降、最近のアメリカにおける立法化の動きまで含めて、先進諸国の大勢としては、私的録音・録画について何らかの補償措置を講ずることが大きな流れとなってきており、ベルヌ条約の関係想定に示された国際的基準との関係において何らかの対応策が必要であることを示している。」とし、制度的措置を講ずるべきとした。
 また、具体的な制度として以下を提言した。
ア. 一定の機器を用いた私的録音・録画について、従来どおり自由としつつも、これまでの無償という秩序を見直して著作権等の経済的利益を保護するため、著作権等に対する補償金制度を創設すること
イ. 著作権者等が、直接、私的録音・録画を行うユーザーから補償金(報酬)を徴収することが困難であることから、制度を実効あらしめるため、録音・録画機器及び機材(生テープ)のメーカーが、販売に際して、一定の補償金をユーザーから徴収し、著作権等に還元するシステムとすること
ウ. 対象となる録音・録画機器・機材については、この制度の円滑な導入のために、デジタル方式のものに限定することが望ましいこと
エ. 補償金の一部は権利者の共通目的のために支出すること
オ. 外国権利者にも権利を認めること
カ. 制度の具体化に向けて関係者間において更に詳細な検討を行うこと


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