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第1:文化多様性について

1. 文化多様性とグローバリゼーション(地球規模化)
(1) 文化多様性の意義
 文化多様性とは,各地域が,風土と歴史を背景とした様々な文化を有することによってもたらされるものである。なお,世界的な視野で文化多様性という言葉が使われる場合もあれば,国内での民族,地域,コミュニティについて文化多様性という言葉が使われることもある。
 異なる文化同士の出会いは,創造性をかきたて,革新を刺激し,21世紀の人間生活を豊かにする可能性を有する社会的及び経済的な活力の源泉である。文化の多様性を保護、促進することは、心豊かな社会を形成し、経済の活性化を促し、ひいては世界の平和に寄与することにつながると考える。

(2) グローバリゼーションと文化多様性の関係
 経済相互依存関係の深まりや国際的な交通・通信手段の飛躍的な発達により,国境を越える人,物,金,情報の移動が一層激しくなり,各国の人々が異なる文化に接する機会も著しく増加している。異なる文化間の接点の増加は,文化間の創造的な相互関係を促進する。
 例えば、文化財に関しては、世界遺産条約によって世界的な枠組みが作られたことが,文化によって価値観が異なることを人々が認識するよい契機となった。すなわち,石の文化の伝統を持つヨーロッパの文化財のみならず,京都,奈良の建造物群に代表される木造建造物も世界遺産に認定されるようになり,材料や保存技術の差異にかかわらず人類共通の価値があることを,広く世界が認知するようになった。このように,多元的な価値観を認める文化多様性の意識が国際社会で生まれている。
 戦間期,ロシア革命を逃れた芸術家たちが集まったベルリン,パリ等で文化が花開いたように,異なる文化が交流するところでは,創造的な文化が生まれる。ブロードバンド時代が到来し,国境を越えて文化的コンテンツが流通する中で,情報の共有化が進むことになり,過去のどの時代よりも一層,多様な文化の共存や新たな文化の創造の環境が作られることが期待される。
 このようにグローバリゼーションの進展により,文化多様性の認識が広がる一方で,言語の急速な消滅,及び製品,法規範,社会構造やライフスタイルの画一化により,文化的アイデンティティの危機を巡る緊張が高まり,文化多様性が脅かされているといった指摘もある。
 また,国民経済が世界市場の中に飲み込まれていく状況の中で,先進国の文化産業が途上国の市場に浸透し,それぞれの地域の歴史や文化の基盤の上に発展してきた固有の文化が損なわれ,地域文化の創造性やアイデンティティが失われてしまうといった声もある。
 グローバリゼーションと文化多様性の関係を考えるに当たっては,このようなグローバリゼーションの利点と問題点の双方を考慮しつつ,よく把握し,全ての人々が,他の人々の文化と価値観を自らの文化と価値観と同等に尊重しつつ,共存できるような魅力ある社会を構築することが重要である。
 また,文化の交流を通じて各国,各民族が互いの文化を理解し,尊重し,多様な文化を認め合うことにより,異文化間,異文明間の新たな対話のための条件が整い,それによって,国境や言語,民族を越えて人々の心が結ばれ、世界平和の礎が築かれることが期待される。

2. 文化と経済との関係
(1) 文化の持つ固有の価値
 文化と経済の関係は,近年益々密接になっており,経済力と文化力は,車の両輪として社会を発展させる原動力として考えられている。しかし, 文化の中には、一見すると経済の発展とは関係のないと思われる基礎的な学問研究や,当面は少数者にしか支えられないであろう先駆的な文化活動や文化遺産の保護などの重要な部分がある。これらの効率性や合理性だけでは測ることのできない文化の厚みが,長期的にみて,一国の存在意義を高め,世界の発展に貢献するものであることに留意するべきである。

(2) 自由貿易と文化多様性の関係
 WTO(世界貿易機関)協定の下では,自由無差別な貿易原則の例外として,GATT(関税及び貿易に関する一般協定)において露出済み映像フィルムに関する特別規定がおかれているほか,美術的,歴史的又は考古学的価値のある国宝の保護のために執られる措置が認められている。また,WTOのサービス貿易交渉では,ECやカナダが音響・映像サービスは固有の言語,民族の歴史又は文化的遺産の維持に重要な役割を果たすものであり,文化的価値の保護のための措置は一般的例外とすべきことを主張したが,米国等の反対により認められなかった。結局,EC諸国はWTOのサービス貿易交渉において音響・映像サービスの貿易自由化を約束しないことでいったん妥結した。
 文化的財,サービスの流通が進展することは,人々が,他文化に接する機会をより増やすという意味において,文化多様性を促進させる意義を有するが,逆に,文化的財,サービスをすべて自由無差別の原則に委ねた場合,競争原理の働きによって,多くの文化的財,サービスの市場からの退去を促し,結果的に人々が享受することができる他文化の範囲を狭め,文化多様性を損なう可能性がある。したがって,文化的財,サービスの流通の進展が,異なる文化的表現の共存を保障し,文化多様性との相互補完的な関係を構築できるように,経済,貿易の観点からのみでなく,文化そのものの観点から検討していくことが必要である。


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