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参考資料2

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会
審議の経過
【6.裁定制度の在り方について 抜粋】

平成17年8月25日

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会





6.裁定制度の在り方について
   
○契約・流通小委員会検討報告の概要
   
(1) 基本的な考え方(検討の進め方)

 

 我が国の「裁定制度」は特別の場合に権利者に代わって文化庁長官が利用の許諾を与えるという制度であり、これは国際著作権関係条約の「強制許諾(Compulsory License:特定の場合に、事前に権限ある機関又は著作者団体に申請し、当該機関・団体が許諾を与えることで、著作物等を利用することができる制度)」に位置付けられるものであることから、主に我が国著作権法上の強制許諾制度に限定して検討したものである。
  「裁定制度」については、次の5点について検討を行った

 

○著作権者不明等の場合の裁定制度(第67条)

○著作物を放送する場合の裁定制度(第68条)

○商業用レコードへの録音等に関する裁定制度(第69条)

○翻訳権の7年強制許諾(万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律第5条)

○新たな裁定制度の創設について(実演家の権利に関する裁定制度)

   
(2)

著作権者不明等の場合の裁定制度(第67条)

 
【現行制度】
  

 著作権者不明等の理由により、相当な努力を払っても、著作権者に連絡できないときに、文化庁長官の裁定により、補償金を供託し、著作物の適法な利用を可能とする制度である。
 補償金については、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額であり、額の決定については、文化審議会に諮問しなければならない(第71条)。
 なお、裁定を受けて作成した著作物の複製物には、裁定に基づく著作物である旨及び裁定のあった年月日を表示しなければならない(第67条第2項)。

【検討結果】
   当該制度については、貴重な著作物を死蔵化せず、世の中に提供し活用させるために有効なものであり、制度は存続すべきである。ただし、制度の存続に異論はないものの、制度を有効に活用するためには、制度面や手続面での改善を行う必要があるとの意見があった。

 
1 特定機関による裁定の実施
 

 裁定制度を簡便化するため、例えば、氏名表示が無い写真や著作物の複写等のように頻繁な利用ではあるが、小規模な利用分野において、特定の機関に裁定の権限を委ねるような仕組みを求める意見があった。
 これについては、例えば現行制度においても、著作権に関する登録業務を民間の指定登録機関に実施させる仕組みはあるものの(プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律第5条)、裁定のように他人の私権を制限し、他人に代って利用者に許諾を与えるような業務について民間の指定機関に運用を任せるというような制度設計は難しいところであり、慎重に検討すべき課題だと考える。

2 著作権の制限規定での対応
 

 一旦許諾を受けて利用したものの限定的な再利用(例えばデータベース化)等特別な場合については、裁定制度ではなく、著作権の制限規定で対応すべきという意見があった。
 これについては、現行の著作権制度においても、たとえ著作権者が不明等の著作物であっても、例えば私的使用(第30条)、教育目的の利用(第33条、第35条等)、図書館等における利用(第31条)、障害者の福祉の増進のための利用(第37条等)等の著作権の制限規定に該当する場合には、著作権者の許諾なしに利用できるのはいうまでもない。
 しかしながら、例えば、著作物の再利用に限定するとはいえ、商業目的の利用も認める著作権の制限規定を新たに創設することは、国際著作権関係条約や制限規定の趣旨に照らし問題が多いと思われるので、慎重な検討を行う必要がある。
 なお、現行制度の枠組では、このような結論はやむを得ないと考えられるが、インターネット時代における著作物の利用促進という面から、将来的には制限規定の導入を積極的に考えた方がよいという意見があった。

3 手続面の問題
 

 手続面の改善であるが、この裁定の手続については、厳格すぎて利用しづらいという意見があり、政府の「知的財産推進計画2004」においてもその見直し等が求められたところである。これについては、文化庁で見直しを行い、不明な著作権者を捜すための調査方法を整理した上で、従来新聞広告等を要求していた一般や関係者の協力要請については、インターネットのホームページへの広告掲載でも可とするとともに、併せて、(社)著作権情報センター(CRIC)では、不明な著作権者を捜す窓口ホームページを開設したところである。なお、裁定の手続については、「著作物利用の裁定申請の手引き」を作成し文化庁ホームページで公開している(www.bunka.go.jp/1tyosaku/c-1/index.html)。
 この裁定制度の手続の見直しにより、利用者に求められる調査の方法が明確になり、また従来に比べて調査にかかる事務的又は経済的負担も軽減されたと考える。
 なお、個人情報保護法に関連し、不明な著作権者を捜す作業の困難さを懸念する意見もあったが、このことを理由として、著作物を利用しようとする者が通常行うであろう調査方法に足りない方法でよいとすることはできず、例えばインターネット上の尋ね人欄に掲載しただけで調査を尽くしたとすることは難しいと考える。
 ただし、CRICの事例のような著作権者を捜すための手段を提供してくれる仕組みの創設、専門家や問い合わせ先の団体を紹介してくれる窓口等の充実、調査を代行してくれる団体等の設置等により利用者の事務的負担の軽減が図れると思われる。

4 その他(著作物を裁定で利用した旨の表示)
   第67条第2項では、裁定を受け作成した著作物の複製物に、裁定で作成した複製物である旨等の表示を義務付けている。最近では著作物のデータベース化にかかる裁定の申請が増えているが、送信された著作物が裁定で利用された旨を周知させるために、当該著作物の画面表示やプリンターで印刷した際にその旨の表示がされるよう、文化庁は制度の運用を考慮する必要がある。
   
(3) 著作物を放送する場合の裁定制度(第68条)
 
【現行制度】
  

 公表された著作物について、放送事業者が著作権者に協議を求めたが、その協議が成立しない又はその協議をすることができないときは、文化庁長官の裁定により、補償金を支払って(又は供託して)著作物の適法な放送を可能とする制度である。
 なお、著作権者がその著作物の放送の許諾を与えないことについてやむを得ない事情があるときには、裁定をしてはならないことになっている(第70条第4項第2号)。また、裁定に基づき放送される著作物について、有線放送、受信装置を用いた公の伝達が可能となる。ただし、この場合、有線放送又は伝達を行うものは、通常の使用料の額に相当する額の補償金を支払わなければならない(第68条2項)。補償金の額の算定については、著作権者不明等の場合の裁定の場合と同様である(第71条)。

【検討結果】
 

 この裁定制度は、旧著作権法の時代の昭和6年に創設され、現行法の制定の際にその存続について検討されたが、放送の公共性を考慮し、著作権者の権利濫用に対処するための制度として、制度が維持されたものである。
 この制度は、現行法の制定以来35年経ったが、裁定の実績はない。これは、著作物の放送上の利用について、一般に、著作権者や著作権等管理事業者との契約で対応できていること、また現行法の引用(第32条)、政治上の演説等の利用(第35条)、時事の事件の報道のための利用(第41条)等の著作権の制限規定の適用により利用できる場合も多いこと等から、著作権者との協議不成立等の場合に裁定制度を利用してまで放送しなければならない場合がなかったこと等が原因と考えられる。
 したがって、この制度については制度が利用されていないことを理由に廃止を考慮すべきであるとの考え方もあるが、公共性の強い放送において、著作物を公衆に伝える最後の手段として制度の存続を望む意見も強いことから、あえて制度を廃止する必要はないものと考えられる。
 なお、民間放送事業者が全国放送を行うためには、キー局と多数のネット局が同一の裁定の申請をしなければならないという指摘があったが、例えばキー局が全ネット局の代理人としてまとめて申請を行えば足りるので、特に問題はないと考えられる。

   
(4) 商業用レコードへの録音等に関する裁定制度(第69条)
 
【現行制度】
  

 商業用レコード(音楽CD等)が国内において発売され、かつその発売日から3年が経過した場合において、そこに録音された音楽の著作物を録音して、他の商業用レコードを作成することについて、その著作権者に協議を求めたが、その協議が成立しない又はその協議ができないときは、文化庁長官の裁定により、補償金を支払い(又は供託して)録音又は譲渡による公衆への提供を可能とする制度である。なお、補償金の額の算定については、著作権者不明等の利用の裁定の場合と同様である(第71条)。

【検討結果】
 

 この裁定制度については、現行法制定時に当該制度を設けたことにより、レコード会社と作詞家、作曲家の専属契約の慣行が見直され、著作物の利用が促進されることになった。
 また、この制度は対象が商業レコードに録音された著作物の録音等に限定されているが、当該制度の波及的効果と思われることとして、ビデオ等の映像ソフトに関しても専属契約等による弊害の事例が生じてないことから、この制度の制定は、著作物の円滑な利用に貢献しているものと考えられる。
 このようなことから、この制度の利用実績はないが、引き続き専属契約による弊害の改善を図り、現行法制定当時の状況に後戻りしないためにも、一定の利用秩序の形成に貢献しているこの制度をあえて廃止する必要はないものと考えられる。

   
(5) 翻訳権の7年強制許諾(万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律第5条)
 
【現行制度】
  

 我が国が、万国著作権条約に基づき、保護義務を負っている著作物の利用にのみ適用がある制度である。具体的には、文書が最初に発行された年の翌年から、7年の間に、権利者の許諾を得て、日本語による翻訳物が発行されていない場合又は発行されたが絶版になっている場合で、1翻訳権を有する者に対し、翻訳し、翻訳物を発行することの許諾を求めたが拒否されたとき、又は2相当な努力を支払ったが、翻訳権を有する者と連絡することができなかったときは、文化庁長官から許可を受けて、公正なかつ国際慣行に合致した額の補償金を払うこと(又は供託)を条件に、日本語により翻訳し発行できることになっている。
 なお、補償金額の算定については、著作権者不明等の利用の裁定の場合と同様である
 また、上記2の場合については、原著作物の発行者の氏名が掲げられているときはその発行者に対し、及び翻訳権を有する者の国籍が判明しているときはその翻訳権を有する者が国籍を有する国の外交代表又は領事代表又はその国の政府が指定する機関に対し、申請書の写を送付し、かつ、これを送付した旨を文化庁長官に届出なければならないことになっている。

【検討結果】
 

 万国著作権条約が適用される国は現在ではごくわずかであり、この制度が使われ る可能性はあまりないと考えられるものの、対象国がある限りにおいては適用される可能性は皆無ではないことから、直ちに廃止する理由はないと考えられる。

   
(6) 新たな裁定制度の創設について(実演家の権利に関する裁定制度)
 
【現行制度】
  

 放送事業者が制作する放送番組については、近年、二次利用の要望が強いものの、通常、番組を制作する際に俳優等の実演家から録音・録画の許諾を得ていないことから、当該番組を二次利用する際は改めて実演家の許諾が必要となる。
 この場合、古い番組については出演していた実演家を捜すことが非常に困難な場合があり、二次利用できないケースがあることから、権利者不明時等の裁定制度に準じた裁定制度の創設を求める意見がある。

【検討結果】
 

 我が国が加盟している実演家等保護条約では、強制許諾については、条約に根拠のあるごく限られた特別な場合には認められるが、それ以外は認められていないところである(実演家等保護条約第15条第2項ただし書)。また、実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約においても、実演等に関する制限及び例外について、著作権保護について国内法令に定めるものと同一の種類の制限又は例外を定めることができる規定になっているものの、実演家等保護条約の締約国については、同条約の義務を免れないこととされている(実演家等保護条約第16条、第1条(1))。
 このようなことから、裁定制度を、実演の利用について創設することは、国際条約との関係で整理すべき問題点が多いと考えられ、慎重に検討する必要があると考えられる。

   
   裁定制度の在り方については,契約・流通小委員会における検討の結果について,以上のように,法制問題小委員会へ報告が行われ,本小委員会の委員から次のような意見が出された。
   
○本小委員会での意見の概要
 

 情報化時代において、著作物は可能な限り利用される方向で見直すべきであり、特に著作者不明の場合の裁定制度は、より利用しやすいシステムを模索し、より一層具体化に努めるべきであるとの意見があった。
  「(3)著作物を放送する場合の裁定制度」について、現在全く使われていないため、議論の実益は少ないが、ブロードバンド時代、あるいは仮に将来的に、インターネット放送が著作権法上の放送となる時代がくると、果たして現在のように、公益上の理由から放送局にこのような特権を与えて良いかという議論が起きるであろうという意見があった。



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