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資料1

共有著作権に係る制度の整備について

平成18年7月31日
文化庁長官官房著作権課

1. 問題の所在

   著作権法には共同著作物に係る規定が置かれているが、現行法制定時(昭和45年)以来、改正されていない。近年、複数企業による著作物(共同著作物)の作成が増加するなど社会の実態に変化が見られることから、実務において現行法の規定が問題になっていないか、検討が必要となる。

 
(1) 現行著作権法における共有に係る規定

   共有著作物の創作意図及び共有著作物の著作権の一体的行使の観点、一般財産との対比における著作物利用の性質の特殊性等を考慮して、著作権法には、民法の共有に関する規定の特例規定が設けられている。

 
民法の規定との比較
 
  著作権法 民法
人格権の行使 全員の合意が必要(第64条)
※信義に反して、合意の成立を妨げることができない。
 
共有持分の割合の推定 (注) 各共有者の持分は相等しいものと推定(第250条)
持分の譲渡又は質権の設定 全員の同意が必要(第65条第1項)
※正当な理由がない限り、同意の成立を妨げることができない。
(持分の譲渡は自由とされている。)
持分の放棄及び共有者の死亡 (注) 当該持分は他の共有者に帰属(第255条)
権利の行使 全員の合意が必要(第65条第2項)
※正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができない。
【管理】持分の価格に従い、その過半数で決する。(第252条)
共有物の分割 (注…ただし、著作権の支分権ごとの分割の場合のみとされている。) 各共有者はいつでも請求できる。(第256条)
差止請求 単独請求可(第117条) 単独請求可。(第252条但書)
損害賠償 持分に応じて単独請求可(第117条) 持分に応じて単独請求可。(第427条)
(注) 加戸守行著「逐条講義(五訂新版)」(社団法人著作権情報センター,平成18年)では、原則どおり民法が準用されるとされている。

 
1 「共同著作物」の定義(第2条第1項第12号)
 
共同著作物…2人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。
 「共同著作」が成立するためには、2人以上の者が「共同して創作した」といえる必要があり、各人の寄与が創作性のあるものでなければならない。例えば、単なる著作者の手足として参画している補助者や、企画を立てただけで、実際の創作には何ら関与していないような者は共同著作者とはならない。

 
【参考】 共同創作の意思
   共同著作物の成立において、共同創作の意思が必要か否かについて以下のとおり見解が分かれている。
 
1  創作活動の過程において共同創作の意思や連携関係がなくても、当該著作物を客観的に評価した場合に共同創作活動として認められるのであれば、共同著作物として評価すべきとする考え方
2  共同著作物の成立の要件として、創作過程における共同意思を重視し、各人の連携関係が希薄である場合には、二次的著作物として取り扱うことが適当とする考え方(共同意思を緩やかに解して、共同創作活動についての事実上の連携はなくても、関与した複数人間の関係等から判断して、共同著作物とみなすという運用も許容されるとする見解もある。)

2 共同著作物の著作者人格権の行使(第64条)
 
権利行使⇒全員の合意が必要(*信義に反してその合意の成立を妨げることはできない。)
代表して著作者人格権を行使する者を定めることができる。代表者の権限について加えられている制限は、善意の第三者に対抗することができない。
 共同著作物における著作者の人格の一体性を考慮して、人格権の行使については、著作者全員の合意のよるものとし、各著作者の合意義務を定めるとともに、代表者による権利行使に関し実情に即した取扱いを規定している。なお、信義に反して合意成立を拒む者に対しては、訴訟を提起して、民事執行法第173条の規定による合意判決を得、それによって反対著作者の認諾があったものとみなすという取扱いで著作者人格権を行使することとなる。

3 共有著作権の行使(第65条)
 
持分の譲渡又は質権の設定⇒全員の同意が必要(*正当な理由がない限り、同意を拒むことはできない。)
権利行使⇒全員の合意が必要(*正当な理由がない限り、その合意の成立を妨げることはできない。)
代表して共有著作権を行使する者を定めることができる。代表者の権限について加えられている制限は、善意の第三者に対抗することができない。
 共有関係は共同著作物の作成によって生じる場合、または、著作権を数人の者が譲り受けた場合や著作権を数人の相続人が共同相続した場合等に生じる。
 本条は、共有著作権の処分・行使に関し、著作権共有者間の連帯性を確保する観点から、民法上の共有に関する規定の一部の適用を排除して、持分の譲渡等についての他の共有者の同意、著作権行使についての全員の合意、代表者による著作権行使などを定めたものである。すなわち、権利の行使については、民法第252条の共有物の管理に関する事項は共有者の持分の過半数によって決せられることになっているが、共有著作権の行使の場合には、持分の多少に関わらず、全員の同意によるという特例が規定されている。これは、多数決原則が妥当する通常の財産の利用とは異なり、一体的利用を確保すべき文化的所産の利用に関する事項であることによる。

4 共同著作物等の権利侵害(第117条)
 
第112条の差止請求⇒単独請求可
損害賠償請求又は不当利得返還請求⇒持分に応じて単独請求可
 共同著作物の著作者人格権の侵害については、各著作者が独立して個別に第112条の差止請求をすることができることとし、共有著作権又は共有著作隣接権の侵害については、各権利者が独立して個別に第112条の差止請求をすることができることとしたものである。一般に、共有財産権の侵害については、各共有者は単独で共有財産権全体に対する妨害の排除を請求することができるものとされており、共有著作権又は共有著作隣接権の侵害の場合における差止請求権についても、各持分権者による単独の行使が認められるところである。また、共同著作物の著作者人格権の侵害の場合にも、各権利者の人格的利益がその共同著作物という一つの著作物に混然融合しているものであることから、その侵害に対する差止請求権の行使については、共有財産権の場合と異なるところはないと考えられる。ただし、第64条、第65条において、共同著作物に係る権利の行使については全員の同意によるべきことを規定しているため、本条で確認的に規定したものである。

(2) 検討課題

  【共同著作物の著作者人格権について】
1 著作者人格権の侵害に対する損害賠償請求の扱い
   著作者人格権の侵害に対して、各著作者は慰謝料請求や名誉回復措置が単独でできるのか否かについて

  【共有著作権について】
2 共有者の1人[1社]が居所不明等により合意等が得られない場合の方策
   共有者の1人が居所不明等により合意等が得られない場合の方策について
3 共有著作権の行使に係る持分割合による多数決原理の導入
   民法と同様、持分割合による多数決原理を導入することについて
4 共有著作権の譲渡について、他の共有者が不同意の場合に譲渡人を保護する方策
   他の共有者の同意が得られなかった譲渡人の保護の方策について
5 共有者による共有著作物の「使用」
   共有者による、共有物であるソフトウェアを基礎とした新たな研究開発等の「使用」についての取扱いについて

2. 各検討課題の考え方等

  【検討課題1について】
   共同著作物に係る著作者人格権については、著作権法特有の問題であり、特にその人的関係に配慮して規定されている。
 現行法は、著作者人格が一つのものであることから全員の合意を得る必要があると考えられる一方、共同著作者の一人の氏名表示が削除された場合など必ずしも全員の合意が求める必要がないと考えられる場合があることから、明文で規定せず、個々の具体的事例に応じた裁判所の合理的判断に委ねることとしている。

 
 以上の立法趣旨にかんがみた場合、現時点において、裁判所の判断には委ねず、一律に規定する必要性が生じているのか。

  【検討課題25について】
   これらの論点は、現行法が当該行為(権利の行使等)について、権利者全員の合意又は同意を要求していることに基づく。現行法は、共同著作者の創作意図及び権利の目的物たる著作物の一体性の確保等から、民法上の共有理論をそのまま適用することは適当でないとして、その権利の行使等についても権利者全員の合意又は同意を必要としているところである。
 
 実務において、著作権法改正を必要とする問題は生じているのか。現行法(第65条第3項では、正当な理由がない限り、当該合意又は同意の成立を妨げることができないと規定がされている。また、民法の規定に基づき分割請求もできる。)や契約で対応することができるのではないか。
 また、それは共有に係る規定一般を見直す必要がある問題なのか。(立法趣旨が実態に適合していないことから生じる問題なのか。)



参考(関連規定)


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